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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


 振られる賽 





 ――翌朝。IO2、東京本部。
 カツカツと足を踏み鳴らしながら歩くサングラスをかけた険しい表情の男、鬼鮫。不機嫌そうな表情はいつもの事だが、殊更今日は機嫌が悪いらしい。行き交う職員達が鬼鮫の姿を見る度に壁際へと退避する。
「―随分、機嫌が悪そうですね」歩き去る鬼鮫へと声をかける少女。
「…『ヴィルトカッツェ』の小娘か…」鬼鮫が立ち止まる。
 ぴっちりと身体に張り付いた光学迷彩機能を装備した潜入用パワードプロテクター、通称“NINJA”を装備した少女が腕を組み、壁にもたれかかっていた。振り返った鬼鮫に向かって無表情のまま振り向きもせず、“茂枝 萌(しげえだ もえ)”が口を開いた。
「私とあなたが本部に召集されるなんて、珍しい話ですね」萌が鬼鮫の隣を歩き出す。鬼鮫も「フン」と鼻を鳴らし、萌の隣を歩いて行く。「最近街中で頻繁に起こっている連続妖魔召還事件の話でしょうか?」
「おまえも追っているのか?」
「私とあなただけじゃありません。今やIO2の主力勢はほぼその案件に出払っています」萌が淡々と喋る。「上層部は“何か”を嗅ぎ付けている様ですね」
「…この事件を追っているのはウチだけじゃないがな…」鬼鮫が口を開くと、萌は鬼鮫を横目で見た。
「…と言うと?」萌が初めて興味を示す様に鬼鮫へと目を向けた。
「…フン、おまえもその内会うだろう」
「率直に物を言う鬼鮫さんらしくない言い回しですね」
「硝煙の臭いをかき消す様に煙草ばかりふかしてやがる気障な野郎がいやがった」
「それって…」萌が何かに気付いた様に驚く。
「まだ確定はしちゃいないがな」鬼鮫は相変わらず不機嫌そうに歩く。
「…そうですね。私達は与えられた任務をこなす為の存在ですから」
「チッ、相変わらずつまらねぇ野郎だ」
「野郎じゃありません」
「…チッ」
 二人は大きな扉を開き、中へと入って行った。








 ――同時刻、草間興信所。
「珈琲が入りましたよ」
 乱雑に散らかされたデスクの上、僅かな隙間へと武彦の妹である、“草間 零”が珈琲の注がれたコップを置いた。
「あぁ、サンキュ」眉間に皺を寄せながら、先日の召還に使用されていた魔法陣を調べていた武彦がそう言って珈琲を口に運ぶ。「あっつっ…」
「何をずっと調べていたんです?」零が机の上に並べられている書類に目を向ける。
「最近の妖魔召還事件の魔法陣だ」珈琲に息を吹きかけ、冷ましながら武彦が口に運び直した。「魔法陣ってのは解るだろ?」
「はい、特殊な儀式に使う物ですよね」
「そうだ。こっちのファイルが狼事件で、こっちが昨夜の事件」
「同じ法則で描かれていますね…」零が比べる様にファイルを見つめる。
「あぁ。魔法陣ってのは宗派や術式が違えば異なる意味を持ち、効果も異なる。どう考えても狼と昨日の事件は同じ宗派で同じ術式を用いているんだがな…」武彦が煙草を咥え、火を点ける。「どれだけ調べても文献すら出て来ない。禁術を用いている可能性もあるが、そうだとしたら…」
「かなり危険な組織が絡んでいる、という事ですね…」零の言葉に武彦が静かに頷く。
「どちらにしても、普通の神経をしている連中ではないのは間違いない、な」武彦がそう呟くと同時に、携帯電話がけたたましく鳴り響き、振動した。
「翼か、どうした? …っ!」武彦の表情が強張る。「…解った」
「どうしたんです?」武彦の表情の変化に気付いた零が武彦に尋ねる。
「…いや…」武彦が考え込む様に顎に手を当てた。「…これから翼が来るそうだ」








 ――時間は少し遡る。

「…やはり、か…」
 廃墟の工場跡に訪れた翼は魔法陣に手を翳しながら呟いた。確信めいた何かを感じ取った翼は小さく呆れた様に笑う。
「…妖魔を召還する為だけに描かれた訳ではなさそうだ…。やはり、別の意図を隠している」翼はそう言って不意に動きを止めた。
「―鋭いのね」
 翼の背後に気配もなく現れた一人の少女が声をかける。
「…驚いたな…、気配もなく背後に現れるとはね…」翼はそう言って少女へと向かって振り返った。
 翼の目の前に現れた少女。
 少女とは言っても、髪の毛は少しウェーブがかかった茶髪を肩の下あたりまで伸ばした、端正な顔立ちをした十八前後の少女。余裕がかった挑発的な笑みで翼を見つめている。
「あら、お世辞のつもりなら笑えないわね。気付いていたでしょ?」
「…多少の違和感を感じた程度だよ。まさかキミみたいな可愛らしい女性が現れるとは思わなかったというのは本音さ」翼が両手を軽く挙げて呟く。「…と、いつもなら言えるんだけどね。キミにはそういう言葉は似合わないらしい」
「…どうして?」
「キミの放つ異様な威圧感…。普通の少女と同じ様には扱えないだろう?」翼の眼から笑みが消え、眼光が鋭くなる。「何の用かな?」
「フフフ…」少女が不気味に笑いながら睨み付ける翼を横目に歩き出す。「そうね、今回の首謀者、かしら?」
「笑えない冗談だ」翼の声が若干威圧的に響く。
「冗談、じゃないわよ」ピタっと足を止め、少女が言葉を続ける。「私の名前は“芝村 百合”(しばむら ゆり)よ。初めまして、蒼王 翼。いえ、AMARAと呼ぶ方が正しいかしら?」
「…何処まで知っている?」翼の表情に緊張が走る。
「さて、何処までかしら…」百合と名乗る少女は相変わらず挑発的にクスクスと小さく笑っている。「闇の皇女が一介の探偵と行動を共にしながら、この小さな島国に居続けて怪異を追っている所まで、かしら」
「成程…。どうやら、僕の追っている“怪異”とキミは無関係ではなさそうだ…」翼が神剣を抜く。「何が目的で事件を起こしているのか聞かせてもらおうか?」
「教えた所で、アナタ達には何も出来ないわ」百合が小さく呟く。
「それはどうかな? キミ達が召喚した妖魔達なら早々に御退場して貰ったけど?」
「知っているわ。アナタ達がIO2の代わりに率先して動いていてくれているおかげで、私達は順調に事を進めていられるもの」
「…何が言いたい?」
「元々、消される為だけに召喚した妖魔。それがIO2でも、アナタ達でも、私達にとってはどうでも良い事なのよ」
「…消される事も、元々計算していたと言う事か」
「えぇ。妖魔が消されて、初めて私達の目的は達せられるのよ」百合が静かに翼を見つめる。
「…キミ達は一体何者なんだ…? 何を目的に動いている?」
「…私達は“虚無の境界”」
「…“虚無の境界”…」
「そうよ。いずれ会う事になるでしょうし、その時まで忘れないでね」クスクスと笑って百合が姿を消す。
「待て! キミ達の目的は…―」
「―あの探偵ごっこをしている男に聞いてみると良いわ」虚空から声が響き渡る。「彼は――」
「――っ!」









――。









――草間興信所。





 翼から話を聞いた武彦は難しい顔をして、顎に手を当てながら考え込んでいた。
「“虚無の境界”、か、また随分と厄介なヤツらが介入してやがるな」
「意外だな。知った連中なのか?」翼が紫煙混じりに呟いた武彦の顔を見ながら尋ねた。
「世界を虚無へ。それがあの狂った連中の狙いでな。俺も昔、何度か名は聞いた事がある様な連中だ。数年前の大きな戦いから表立って行動に移す様な事はなくなっていたが、いよいよ動き出したって事らしいな」
「…動き出した、と言うと?」翼が尋ねる。
「言葉通りの意味だ。ヤツらは世界をどうにかしようって魂胆だろうな」呆れた様に武彦が言葉を吐き捨てる。
「…どうやら、昼行灯をし続ける事を辞めるみたいだね、武彦」翼がクスっと笑いながら小さく武彦へと告げた。「さすがは、と言うべきか」
「…別に騙すつもりだった訳じゃねぇが、何か察していたのか…」
「あぁ、僕にとっては長い期間を費やす釣りの様な物だったけどね。君が正体を隠すつもりなら、それでも構わなかったというのが本心だ」
「…やれやれ、何処まで知られているのやら…―」
「―先日会ったサングラスをつけた男の名は鬼鮫。そして、キミは彼を避ける様に姿を現さなかった。だとすれば、キミが彼と知り合いである可能性は高い。そして、さっき会った“柴村 百合”と名乗る女の言葉…」翼は静かに笑った。「調べるまでもない。僕も風の噂程度には聞いた事があるからね」
「……」押し黙ったまま武彦が言葉を聞く。
「数年前、ある日唐突に姿を消したIO2最強のエージェント。特別な能力を持つジーンキャリア達よりも実戦に長け、その消息を突如晦ませたと聞いている」
「噂には尾ひれがついてまわるもんだ」武彦が呆れる。
「僕も一度会ってみたかったよ」翼が静かに武彦を見つめる。「草間 武彦。いや、ディテクターと呼んだ方が良いのかな?」
「…昔の呼び名だ」
「…まぁ良い」翼がそう言って再び小さく笑う。「それで、キミはどう見ているんだ?」
「もしもお前が聞いた話が陽動でも何でもないなら、あいつらは確実に世界を虚無にする為の“仕掛け”を施している筈だ」
「“仕掛け”か。狼のいたあの場所を見てきたけど、奇妙な違和感を感じたのは確かだね」
「…もう一度、蜘蛛の出たビルへ調べに行くか」武彦が立ち上がる。翼は武彦に向かって小さく頷いた。








――。






 IO2東京本部。
「では、鬼鮫と茂枝 萌。“儀式”に使われた場所を調べ、今後の動向を探って来るのだ」
「ハッ!」
 萌が返事をする傍から、鬼鮫は返事もしないまま振り返って歩き出す。








 東京某所、廃ビル跡。
「そう、動き出したのね」
 妖艶な空気を醸し出した女が百合に向かってそう言った。
「はい。どうしますか?」
「…そうね。恐らくはIO2も彼らも、先日の召還地域を調べに行くでしょうね」女はクスクスと笑って百合を見つめた。「百合、エヴァと一緒に先日の蜘蛛のいたビルに行って、挨拶してきなさいな」
「挨拶、だけですか?」
「そうね、邪魔になりそうなら殺しても構わないわ」
「はい」






       それぞれの勢力が、今再び先日のビルへと向かって動き出した…―。





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ご参加有難う御座います、白神 怜司です。

草間 武彦=ディテクターという設定で物語が動き、
虚無の境界が姿を現しました。
次回は戦闘になるか三竦みとなるか、
個人的にも楽しみにしております(笑)


気に入って頂ければ幸いです。


それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司