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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


 三つ巴 







 ―東京都内、某所。
 有名なオフィス街の一角にある商業ビル。先日の巨大な蜘蛛の召還地点として利用されたビルの前に、翼は武彦と共に立っていた。
「…人払いしてやがるな」武彦が煙草を口に銜えて呟いた。
「あそこにいる暴力団の様な男達が?」
「…ま、黒いスーツにサングラスじゃそうも見えるわな」武彦が頭をポリポリと掻きながら再び呟いた。「アイツらはIO2のエージェントだ。恐らくIO2が現場保存する為にビルそのものを押さえたんだろうな」
「随分と太っ腹だね、IO2は」翼が呆れた様に笑う。
「実質的な権力は国家レベルだからな。ビルの一つや二つを押さえる事なんて造作もないんだよ」
「あまり良くない聞こえだね。まぁいずれにせよ、僕らも人払いされる側になってしまいそうだけど?」
「違いないな。忍び込むか」
「…やれやれ、犯罪者も顔負けだね」

 ビルの内部に入り込んだ二人は言葉を交わす事もなく歩き続けていた。そんな中、武彦が不意に口を開いた。
「…翼、お前はどう思っているんだ?」
「話が見えない質問だね」クスりと小さく笑って翼が武彦へと言葉を続けた。「キミについての僕の想いの内でも聞きたいのかい?」
「そうじゃない。“虚無の境界”の思惑だ」呆れた様に武彦が言葉を吐き出す。
「だろうとは思っていたけどね」
「解っててからかうな」
「…そうだね。“柴村 百合”と名乗った彼女が、そもそも本名なのかどうか。それに、わざわざ僕に接触してヒントを与えている理由が解らない以上、罠である可能性も否めないね」
「あぁ。俺もそれが気になっていたんだがな」
「僕らがここへ再び調べに戻る事も、彼女にとっては計算通りかもしれない。とは言っても、僕らも悠長に待っていられる状況ではないからね。罠だと言うなら、何もしないよりは飛び込んで動きを調べた方が有意義だからね」
「多少のリスクは理解してるって訳か」武彦が呟きながら周囲を見つめて歩き続ける。「だが、俺達がここに再び来る事は…―」
「―明白だろうね」翼が武彦の言葉を遮って楽観的な言葉を遮った。「僕が“柴村 百合”と会ったのは狼の出現地域だ。次にここに来る事は安易に想像出来ると思うけどね」
「…確かにな。だが、ここはもうIO2の監視下に入っている。敵さんと遭遇する確率は低いとは思うが…」
 広いロビーに出た所で武彦と翼が不意に足を止めた。
「…あぁ、どうやら“敵”と出会ってしまったらしいね」
「…また会っちまったな…」武彦が静かに呟いた。
「そいつはこっちのセリフだな」ツカツカと踵を踏み鳴らす一人の男。鬼鮫が苦々しげに武彦へと言葉を続けた。「やっぱりおまえだったか、ディテクター」
「鬼鮫…。俺に気付いていたのか」
「どういう了見だ? ここはIO2の監視下に置いた。今じゃ部外者であるおまえとここで会うという事は、即ち侵入者となる訳だが」
「IO2の機密保持条項の適用、か…?」武彦が身構えると同時に、鬼鮫が独特な鞘に納められた刀の柄に手をかけた。
「それより、気配を消して警戒するのをやめてくれないか、そこのキミ」翼が見つめた先にある大きな柱。その横から萌が姿を現した。
「…まさか気付かれるとは思ってませんでした」
「感覚は比較的に鋭い方なのでね。居心地の悪い違和感程度だったけど、ね」
「フン、ディテクターと組むだけの実力はあるみたいだな」鬼鮫が呟く。
「ディテクター…」萌が鬼鮫の言葉を繰り返し、武彦を見つめた。「噂は聞いています。上層部と、“ある事件”をきっかけに決別し、IO2を離れた元最強のエージェント…」
「…昔話に興味はない」武彦の声の調子が明らかに不機嫌さを醸し出す。壮絶なまでの負の感情に満ちた言葉。萌と翼でさえ、思わず武彦の表情を見つめて言葉を失った。
 翼が感じた率直な感想。それは、今まで翼が見てきた“草間 武彦”という一人の人間が自分には見せた事のない表情に対する驚きだった。知らぬ間に、気付かぬ間に“草間 武彦”という人間に近寄ってしまっていた。翼はその事実に気付き、ふと思い出した。


「不老不死なんて、呪いみたいなものだ…。大事な人にも、時の流れにも、置き去りにされる呪い…」


 不意に翼は自分の胸の前で手をギュっと握り締めた。

「変わらねぇな、ディテクター」その雰囲気を一蹴したのは鬼鮫の一言だった。鬼鮫は刀から手を離し、武彦を睨み付けた。
「…見逃してくれそうだな」
「そこの野郎にはこの前の借りがあるからな」鬼鮫が翼を顎で指して呟いた。「これで貸し借りは無しだ。おかしな真似をしやがったら叩き斬る」
「律儀だね」翼が我に返り、クスっと笑う。

「―役者は揃っているみたいね」

 虚空から声が突如響き渡る。突然柱の背後から二人の女が姿を現した。
「“柴村 百合”…。やっぱりキミがここに来たのか」
「えぇ、そうよ」百合が静かに答えた。
「…やれやれ、何の為の見張りだ。おい、茂枝」
「解ってます」ヒュっと風を切る様に萌が一瞬で百合へと迫る。「…っ!?」
 突如現れた大きな鎌が萌の進行方向へと振り下ろされ、地面を砕き突き刺さる。萌は後ろへとクルっと回りながら下がり、刀を取り出した。百合と共に姿を現した金髪の紅い瞳をした少女がその身体に似合わない真っ黒な大鎌を軽々と振り上げ、萌を睨み付けながら口を開いた。
「百合、油断し過ぎよ」
「あら、アナタの実力ならあんな攻撃簡単に止めれる事ぐらい解っていたわ、エヴァ」
「…エヴァ・ペルマネント。最新型霊鬼兵として、虚無の境界によって造り上げられた兵器」萌が鬼鮫の横へと横歩きしながら口を開く。
「IO2の鬼鮫と茂枝 萌。名の知れたエージェントが二人で共に行動するなんて、IO2もそろそろ本腰を入れて動き出したって事かしら?」百合はそう言って翼を見つめた。「AMARA…いえ、翼。さっきぶりね」
「あぁ。嬉しいよ、こんなに早く会えるなんてね。色々聞きたい事があったからね」
「“虚無の境界”が動いているのは間違いないみたいだな」鬼鮫が刀を構える。「茂枝、虚無を止めろ」
「…で、何でお前は刀を抜きながらこっちに向き直るんだ?」武彦が思わず鬼鮫へと尋ねる。
「お前達が虚無と通じている可能性がある以上、俺にとっては有害なんでな。前言撤回だ。お前らもここで始末する」
「…はぁ、安直な殺意だな…」武彦がズボンの後ろに挟んでいた銃を取り出す。「翼、鬼鮫は俺が止める。あっちの戦争は頼むぞ」
「三つ巴、だね。解った。僕は彼女に色々と聞きたい事があるしね」翼が百合を見つめる。
「百合、私はあのニンジャを潰すわよ」
「えぇ、好きにして良いわ」百合の言葉と同時にエヴァが萌へと襲い掛かる。
 開戦の合図となった。エヴァは萌へと一直線に飛びかかり、大鎌を振り下ろす。か細い腕からは想像もつかない速さで振り下ろされる鎌に、萌は正面衝突を避けて横へ飛ぶ。鎌が地面へと突き刺さった反動を利用したエヴァが身体をクルっと回しながら萌へと回し蹴りを見舞う。萌が咄嗟に腕を交差して防御するが、その勢いで身体を吹き飛ばされる。
 鬼鮫が刀を振りながら静かに武彦を睨み付ける。鬼鮫が突然速度を上げて間合いを詰めようとした瞬間、武彦の銃が火を噴き、三連発の銃弾が鬼鮫の足元を撃ち抜く。
「威嚇だけか?」鬼鮫は怯まずに武彦へと再び走り出す。
「行け!」
「解ってるよ…!」翼が百合に向かって走り出す。「…っ!?」
「こっちよ」突如翼の横に現れた百合が声をかける。手には銃が握られている。翼は身体を銃口の向いた軌道上から逸らした瞬間、銃声が響き渡る。翼は瞬時に百合から距離をあけた。
「フフフ、よく避けれたわね」
「…おかしな話だ」翼が百合を見つめながら呟いた。「一瞬で居場所が変わるなんてね」
「便利な能力でしょ?」百合が余裕に満ちた表情で翼へと嘲笑を浮かべる。
「…やっぱり常人ではないらしいね…」翼の瞳に鋭い眼光が宿る。
「褒められても何も出ないわよ」百合が銃口を翼に向ける。


 三つ巴。状況は均衡したままそれぞれがお互いを推し量る様にぶつかり合う。








                                         to be coutinued



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ご依頼参加有難う御座いました、白神 怜司です。

三つ巴状態の戦闘が開始し、
これから先の展開が激化するのか、或いは…。
私もこれからの展開がどうなっていくのかが
気になります。

今後とも、宜しくお願い致します。