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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.16 ■ ユリカ生誕 





 均衡状態。美香と武彦はガルムを目の前にしながらお互いを信頼してそれぞれの役割へと動き出す。ユリカとの疎通がうまく行かない状態である事が唯一の気がかりだが、心配ばかりはしていられない。美香はガルムの攻撃を避けながら反撃に移るべく思考をひたすらに巡らせていた。
「百合ちゃん達もきっと向こうで頑張ってる…。草間さんも、今必死に“音”を探してる…」ガルムの攻撃が美香へと真っ直ぐに向かう。「私は、あなたを止める!」
 美香が突然速度を上げる。ガルムの攻撃を姿を消す様なスピードで横に避けた美香は、そのままガルムの懐へ入る。ガントレットの出力を最大に切り替え、美香が最も毛の薄いガルムの腹部目掛けて思い切り打ち込むと、強烈な青い閃光と共に衝撃が走り出す。ガルムが怯む。どうやら最大出力ならガルムにダメージを与える事は出来るらしい。美香はすぐにガルムの腹部から外へと移動する。しかし致命傷には程遠い様だ。ガルムの目付きは依然として鋭い眼光をしたまま、美香へと唸りを上げている。
「…ユリカ、大丈夫?」
『……えぇ…。まだ何とか…ね…』消え入りそうな声でユリカが返事をする。
「もうちょっとだから、待ってて…!」美香が再びガントレットに電撃を溜める。
 霊力を扱う武器として作られたガントレットとしてはこの場は電池切れを起こす心配はない。美香は再び最大出力のガントレットを構え、青い閃光の尾を引きながら速度を上げて突っ込む。
『…(美香に、こいつを殺す事は出来ない…)』ユリカが朦朧とした意識の中でそう思いながら戦況を見つめた。『…(…この音さえなければ…)』






――。





 ――ファングが百合に襲い掛かり、ナイフを振り下ろそうとした瞬間。巨大で歪な鎌がファングの目の前に飛んで来て地面へと突き刺さった。ファングがギリギリの所でそれを避け、態勢を立て直す。
『なんや、図体デカいクセに素早いやっちゃなぁ…』
「…っ!? この鎌が喋った…!?」百合が眼前にある鎌に向かって声をかける。
『おう、無事やったんか。感謝せぇよ、ワシらに』
「あの鎌、“ヘゲル”…! って事は、スノーか!?」翔馬が急いでヘゲルと呼ばれた鎌へと向かって走り出す。
『いやいや、間一髪で助かったでござるよ、ヘゲル殿』
『スノー、こないな奴ら助けに来たんか?』
「…そうよ…」
 不意に透き通る様な声が鳴り響く。肌や髪は白く、緑の瞳をした少女が近付いてくる。
「スノー、来てくれたのか!」
『こらぁ、翔馬のあほんだら! スノーに気安く声かけんなや、ボケ!』
「色白の少女と、関西弁の大鎌…。ダークハンターの“スノー”…?」百合が思い出す様に口を開いた。
「あぁ。気のない返事だったから期待はしてなかったんだけどな」翔馬が声をかける。「百合っぺ、こいつは強いぜ」
『自分が弱いだけやろ』
「うっせ!」
「…来る…」スノーがヘゲルを軽々と抜き、クルっと鎌を回す様に振り翳す。
「チッ!」ファングがナイフでヘゲルを受け止める。
『図体デカいクセに獲物はちっさいなぁ、おっさん!』ヘゲルがそう言ってファングを嘲笑う様に叫ぶ。
 スノーの一撃はファングの身体をあっさりと吹き飛ばした。フェンスに吹き飛ばされる。
「…強い…」百合が思わず声を漏らす。
『うむ。スノー殿とヘゲル殿は敵にしたくないでござるよ』スサノオが呟く。
『何油断しとんねん、自分ら』ヘゲルが口を開く。『びくともしてへんで、あのおっさん』
 ファングが首をコキっと鳴らして百合達を睨み付ける。
「…分が悪いか…。ここは引かせてもらうぞ、柴村」
「本気を出しもしないのに、らしくないわね」
「いつか来る虚無の成就までに、ケリをつけさせてもらうぞ」ファングはそう言うと、フェンスの裏から飛び降りた。
「…退いた、のか…?」翔馬が思わず呟く。
「そんな事言ってる場合じゃないわ」百合がすぐに空間接続を開始する。「美香達と合流するわよ」
「あぁ、解った。スノーも来いよ」
『アホか』ヘゲルが翔馬の言葉をあっさりと一蹴する。『妖魔狩りしに来たんやぞ、ワシらは』
「…わたし達は、妖魔を討ちます」
「あぁ、解った。俺の分家を使ってるから、落ち着いたら一回訪ねて来い。場所は解るだろ?」
『行かんわ、ボケ!』
「…解りました」
『スノー! 何言うとんねん、あのガキは…――』
 ヘゲルの叫びも虚しく、スノーはさっさとヘゲルを担いでフェンスから飛び降りる。
「…やれやれ、変な奴には変な知り合いばっかり集まるのね」百合が溜息を吐きながら呟く。
「百合っぺも変な奴って訳だな」
「…いくわよ…」
「あぁ!」





――。




「これが“音”の原因か…」武彦は眼前にある巨大な魔法陣を見つめて呟いた。「…っ! 結界か…」
 足で踏み消そうとした武彦の足がバチっと音を立てて弾かれる。どうやら魔法陣の周りには結界が施されている様だ。
「…面倒くせぇ真似してくれるな…」武彦が煙草に火を点け、吐き出した紫煙を見つめながらゆっくりと歩く。すると、ある場所で空気の流れが変わっている事を紫煙の動きが伝える。「そこか!」
 呪物の銃が火を噴き、結界の一点に三発の銃弾を撃ち込む。軽快にガラスが砕ける様な音を立て、風の流れが元に戻る。武彦は魔法陣を消し去り、煙草を消して走り出した。
「これで、ガルムも正常に戻る筈だ…! 美香のヤツ、何とか持ち堪えてんだろうな…!」




――。






「…美香、起きなさい」
 真っ暗な暗闇の中、女性の声が響き渡る。
「…ユリカ…?」
 美香が目を開ける。そこには、初めて見る女性が立っていた。銀にも近い薄い灰色の髪を肩まで伸ばし、小さな顔にくっきりとした目鼻。端整な顔立ち。
「…音が止んだわ」
「…“音”…」美香が思い出したかの様に目を見開く。
「アンタ、能力の使い過ぎで意識を失くしかけているのよ」
「意識を…?」
「そう。“音”は止んだけど、ガルムは私なんかとは違って耳が良い。既にまともな判断を下せず、衝動のままにアンタを殺そうとしている」


「…っ!」美香がスピードを上げ、横へと回避する。
 ガルムの目は、ユリカの言葉通りに殺意に満ちている。
『美香。このままじゃ、私達がガルムに殺されるのも時間の問題よ』
「…はぁ…はぁ…。うん…」ユリカの言う通り、美香の身体は既に疲労の色を隠せず、力が入らない。「…ユリカ、可愛いんだね」
『はぁっ!? 何よ、いきなり!?』
「ううん…、さっきユリカを見た気がしたから」美香が乾いた笑いを浮かべる。「銀色の髪に、整った綺麗な顔してた…」
『何言ってんのよ!』ユリカが不機嫌そうにそう言う。『…ちょっと待って。アンタ、本当に見たの?』
「うん…」
『…“侵食”している…』
「…え?」
『美香。ガルムから離れて!』
「う、うん…」美香が唐突に速度を上げ、ガルムの視界から離れる。
『今さっき見た、私の姿を強く思い浮かべなさい』
「どうしたの―」
『―早く!』
「うん…」美香が目を閉じ、ユリカの姿を思い浮かべる。
『…やっぱり…』
 美香の身体から銀色の光りがゆらゆらと舞い上がり、ユリカの姿が具現化されていく。
「…くっ…」美香の表情が歪む。「力が抜ける…」
『もう少し! もう少しだけ耐えて!』
「う…ん…」美香が唇をキュっと結び、ユリカの姿を強く思い描く。
 すると、美香の身体から出たユリカの身体の残影がみるみる色濃くなり、強烈な光りを放つと共にその姿が目の前に現われた。
『…目を開けなさい、美香』
「……っ! ユリ…カ…!?」そう言った瞬間、不意に倒れ込んでしまいそうになる美香をユリカが抱き止めた。「触れれるの…っ?」
『細かい事は、終わったら話してあげるから、今はちょっと休んでなさい』ユリカが小さく微笑み、美香を座らせる。『さて、何百年ぶりの外だし、準備運動にワンコとじゃれてあげるわよ』





 激動は終盤へと更に加速する…。





                                      Episode.16 FIN



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いつも有難う御座います、白神 怜司です。

さて、遂に出しちゃいました、ユリカ!←

今後の展開も含め、激動の一日目が次話で終わり、
次なる舞台へと歩みだそうとしています。

私自身も期待に胸を膨らませております(笑)


白神 怜司