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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


 唐突な依頼







「―…ここか」
 “夜神 潤”が廃工場を見上げて呟く。整った顔立ちに、細い身体。明らかに異質な程の魅力を放っている。その上、乗り付けてきた車は黒のメルセデス・ベンツSLRマクラーレンロードスター。あまりにも風景に似つかわしくない光景は奇異にすら感じる。
 昨今、表舞台には出て来ていない怪奇事件の連続発生。そして、街に流れている乱れた妖気。潤にとっても気にはなっている動きだったが、今回は単独で動いている訳ではない。
「…それにしても、翼から頼まれる事になるとは、な」



――。






「夜神さん、お疲れ様でしたー」
 雑誌のモデルとしての撮影を終え、スタッフから挨拶をされる。潤はいつも通りの涼しげな表情を浮かべたまま、撮影スタジオを歩いていた。
「お疲れ様です」マネージャーが潤へと駆け寄る。「明日からは映画撮影に入る予定ですけど、体調はいかがです?」
「いえ、心配ないですよ」
「ははは、さすがですね。僕が貴方のマネージャーとして働いて数年、一度たりとも体調を崩した事はありませんしね」マネージャーが小さく笑ってそう告げた。
「体調管理は気をつけているつもりですから」とは言ってみるものの、潤が風邪を引く事など有り得ない。その事を誤魔化す為のいつもの口上だ。
「さすがです」ニッコリと笑うマネージャー。彼はいつでも潤の機嫌を取ろうと必死に振舞う。マネージャーとしては一流なのだろう。


 今をときめく人気アイドル。それが、潤の世間に対する表の顔だった。彼が出た番組や映画、雑誌に楽曲。その全ての売上げが約束されるとすら言われている、絶大な人気と魅惑。その為、出演してもらう為にあらゆる手を打って潤に積極的にアプローチを続ける会社も少なくはない。そんな彼にあてがわれたマネージャーも、芸能界では随一と言われるマネージャー。仕事を卒なくこなし、いつでも潤の事を気にかけているかの様な言動や行動には、潤も“人として”見習いたい部分であった。

「では、明日からの撮影スケジュールは予定通り行います」
「はい、解りました」
 自宅マンションの自室前でマネージャーがそう言って一礼をする。いつもの光景、いつもの仕事が今日も終わろうとしていた。


 シャワーを済ませ、ソファーに座り込んだ所で唐突に潤の携帯電話が鳴り出す。いつも通り、マネージャーからだろうと思いながら見つめた携帯電話に表示された名前に、潤は珍しく少々驚いた。
「もしもし」
『久しぶり』
 潤の元へとかかってきた唐突な一本の電話。仕事以外で鳴らない携帯電話が表示した名前、運んだ声は異母兄妹である“蒼王 翼”からの電話だった。
「珍しい事があるものだ」クスっと小さく笑いながら潤は口を開いた。
『わざわざ電話が来た心当たりぐらい、気付いている、でしょ?』聞き流す様に翼が尋ねる。
「…街の妖気の異変について、かい?」翼の表情が少し真剣味を帯びる。
『そう。僕は今、その犯人達をある男と追っているんだ』受話器越しに聞こえる翼の声は、少しばかり楽しげな雰囲気を醸し出している。
「…それで、わざわざ俺に電話をかけて報告するだけ、という事ではないんだろう?」潤は少し安心した様に小さく笑って言葉を続けた。
『まぁ、そう思うよね。頼み事をしたくて、ね』
「頼み事?」少し潤は驚いていた。翼がわざわざそう言って来る事など、滅多にない事だ。
『うん。兄さんの能力なら、色々な事が解りそうだからね。それに…』
「それに?」
『連中の目は僕達に向いている。兄さんに迷惑はかけないよ』
「…そんな事は気にしなくても構わない。それより、翼こそ危険なんじゃないのか? 相手は相当危ない連中かもしれない」
『それは心配ないよ』クスっと翼が笑う。『兄さんも僕も、“普通”じゃないんだから、無用な心配だよ』
「それはそうかもしれないが…」しつこく翼に言おうとした所で潤は言葉を呑んだ。「…これ以上はやめておこう。で、何をすれば良い?」
『協力してくれるの?』
「頼ってくれる妹を、無下には出来ないからね」
『…いつまで経っても、変わらないね』翼が小さく呟いた。『僕達が初めて一連の事件に遭遇したのは、とある廃工場だったんだ。そこに手がかりが残っているかもしれない。場所は…―』
「―…解った」潤が翼に聞いた場所をメモ書きして見つめる。「リーディングで調べてみよう」
『有難う。僕らは次の場所を調べに行く』
「解った。気を付けろよ、翼」
『…うん。それじゃ…』
 電話を切った後、潤は携帯電話を操作して別の番号へと電話をかけた。
「すいません、マネージャー。明日からの撮影ですが、延期かキャンセルでお願い出来ますか?」
『…フフ、珍しい事がありますね』電話越しのマネージャーは少し驚いた様に笑いながら呟いた。『貴方から電話がかかってくる上に、仕事のキャンセルとは…』
「すみません。どうしても片付けなくてはならない用事が出来てしまって…―」
『―あぁ、いえいえ。責めている訳ではありませんよ』電話越しのマネージャーの声はいつも通りの穏やかさで答える。『そうですね、体調を崩してしまったと先方には伝えておきましょう』
「ご迷惑をおかけします」
『いえ、貴方に限ってはちょっとした体調不良でも、世間を賑わせられる。たまにはそういったスパイスも必要です』
「ありがとう。また落ち着いたら連絡するよ」
『えぇ、お待ちしています』





――。





「―…確かに、ここには誰もいないらしい」潤が廃工場の中を歩きながら呟いた。
 潤が壁に触れて目を閉じる。リーディングによって流れてきた記憶の断片が流れ込む。まだ廃工場となってしまう前から、あの日翼と武彦が侵入した日。そして、柴村 百合が接触した瞬間。
「…“虚無の境界”…か」潤が目を開けて呟く。
 聞き覚えがある。“虚無の境界”という名のタチの悪いテロ集団。これまでに潤が直接関わった事がある訳ではないが、良い噂は聞かない。
「…成る程、翼も随分と厄介な連中を相手にしている…」
 潤が再び廃工場の奥へと足を進める。時折壁に触れ、記憶を読み取る。どうやらこの工場は一般的な工場で、“虚無の境界”との関わりを直接持っていた訳ではないらしい。
 今回の一連の騒動が気になっていた潤ではあるが、正直な所、調べようとまでは思っていなかった。妖気の動きが尋常ではない事は肌で感じていた。そんな折に頼まれたとは言え、不本意でもある。
「これじゃまるで、俺が翼達を囮に使った様な気分だな…」自嘲する様に潤が呟く。
 そんな事を言いながらも、潤は工場の奥へと進む。今でも微量の妖気が残っている様だが、危惧する程ではない。

「…ここか…」
 工場の最深部についた潤は、一際大きな魔法陣を見つけて呟いた。魔法陣に使用されている言語を見つめ、顎に手を当てる。
「…禁忌に触れる闇魔術の一種…。だけど、ここまでの魔法陣を発動するには相応の魔力を必要とする…」
 潤は神聖魔法以外の全ての魔法を自由に扱える。殊更、闇魔法に属する召還魔法の解読は容易い。だが、潤の疑問は先にも呟いた通り、“何者”ならこの魔法陣を使役する事が出来るか、という点だった。
「…これだけの魔法陣を使役するには、常人では不可能な魔力を必要とする事は間違いない。だけど、ここに描かれた魔法陣に、複数の魔力を注ぎ込めば魔力の暴走が始まる…」
 召還に注がれた魔力は一種類。それはこの魔法陣の特性からも、潤が感じる余波からも解る。だが、それを行う事が出来るのは潤や翼の様な強大な力の持ち主という事になる。
「百聞は一見にしかず、か」


「さて、見せてもらおうか…」




 潤が魔法陣へと手を触れて、“リーディング”を開始した。




                                         FIN



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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

今回は翼達と直接的な絡みは出さなくて良いとの事でしたが、
一応物語りの絡みとして、連絡している様子は描写させて
頂きました。

兄妹間のやり取りは勝手に作らせて頂いちゃいましたが(笑)


お楽しみ頂ければ幸いです。


プレイングがここまででしたので、
どう繋げていくのか気になっています(笑)

それでは、今後とも、宜しくお願い致します。


白神 怜司