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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.17 ■ 長い一日、新しい力へ








 銀にも近い薄い灰色の髪を肩まで伸ばし、小さな顔にくっきりとした目鼻。端整な顔立ち。年齢はさして美香と変わらないぐらいなのだろうか。容姿は若いが、美香はハッキリと感じ取っていた。目の前にいるこの女性こそが、ユリカだと。独特なピッチリとしたバイクスーツの様な服に、肩や胸、脚の至る所にプロテクターをつけているユリカの姿を、美香はもう一度まじまじと見つめる。
「…不思議な気分。目の前にユリカがいるなんてね」
「いつもアンタの中にいるからね」クスっと小さく笑う。「って悠長に話している場合じゃないわよね。犬とじゃれるなんて乙女らしい事が待ってるんだし」
「聞こえだけは乙女…かな…」呆れた様に笑う美香。が、すぐに身体をフラつかせ、再びユリカに支えられる。
「私が外に出るリスクを、アンタにも後で話さなきゃいけない…」ユリカが美香をその場に座らせる。「落ち着いたら少し離れてて」
「うん…」
 美香の返事に小さく笑ったユリカがガルムに向かって歩み寄る。咆哮をあげるガルムの姿はやはり殺気立っている。
「さて、と。随分荒々しい妖気を放ってるわね」ユリカが腰を落とす。「私もアンタも、“過去の遺物”。現代に長々と定着するものじゃないわ」
 瞬間、ユリカが速度をあげる。美香は思わず目を疑った。一挙動の仕草すら残さず、消える様に移動したユリカの動きは、明らかに美香とは違う。咄嗟に自分の感覚を加速させ、ユリカの姿を捉える。
「…えっ…」
 美香の目に映ったのは、加速状態から更にもう一段階加速したユリカの姿。強烈な衝撃がガルムの巨大な身体を吹き飛ばす。その瞬間、何かがぶつかった様な不規則な轟音が連続して鳴り響く。
「…速さ、ってのはこういう事も出来るのよ」余裕の笑みを浮かべたユリカが呟く。
「…ソニックブーム…?」耳を抑えながら美香が呟く。「超音速の速度で衝撃を発生するなんて事も出来るんだ…」
「美香! 離れてなさい!」ユリカが美香に向かって声をかける。
 ガルムがよろめきながら立ち上がる。ユリカの放った衝撃波はガルムの身体に大きなダメージを与えたらしい事は、見て解る。
「美香、無事!?」
 美香が立ち上がろうとした瞬間、目の前に大きな空間の扉が開かれ、百合と翔馬が姿を現し、百合が美香に駆け寄った。
「百合ちゃん…、うん。私は大丈夫」
「ガルムは?」翔馬が尋ねる。
「あそこで戦ってるよ」美香の視線を追う様に二人の視線がガルムへ向かう。
「…あれは…?」百合が口を開く。
『ユリカ殿でござるな』スサノオが翔馬の背後から姿を現す。
「ユリカって、美香の中にいるって言ってた…?」
「うん、さっき出て来てくれたの」
「…出て来た…?」
 戦況を見つめる三人の姿に構わず、ガルムが低く唸り出す。
「スサノオ、援護するぞ!」
『応!』
「ダメよ」百合が走り出そうとする翔馬の前に手を出して制止する。
「…っ!? 何でだよ!?」
「…良いから見てなさい…」
 百合の言葉を裏づけする様に、ユリカが再び姿を消して先程のソニックブームを連発させ、ガルムの身体を四方八方から痛めつける。その姿は明らかな程のユリカの優勢を示している。
「凄い音がすると思えば…」武彦が美香達の元へ歩み寄る。「原因はアレか…」
「ユリカ、凄い…」
 能力を操る事に慣れて来た。美香はその僅かな自信すら、ユリカの攻撃を見ていて打ち砕かれてしまいそうな気分だった。同じ能力をユリカに授けられているのに、ガントレットまで用意されているのに倒せなかったガルムを、ユリカは武器も持たずに圧倒している。
「…美香、アンタはこの能力をまだまだ使いこなせてない…」ユリカが立ち止まり、呟いた。「しっかり見ておきなさいよ…!」
 ユリカが再びソニックブームを巻き起こしながら飛び上がる。衝撃力を推進力に切り替え、空高くへ。
「悪いけど、暫く眠ってもらうわよ!」
 ユリカが空から降りる速度を加速させ、更に二段階の加速をさせる。加速をする度に空気が弾け、円状に広がる。そして、直進していた落下から身体を逸らして横へと避ける。ガルムの身体に衝撃が衝突し、地面へと叩き付けられる。さらにもう一段の衝撃が追いかける様にガルムの身体へと襲い掛かる。
「ぐっ…!」
 美香達四人は思わず衝撃の余波で身体を吹き飛ばされそうになりながら耐えた。
「…強過ぎるだろ…」思わず翔馬が呟く。
 ユリカが遅れて遠くへ着地し、ガルムを見つめる。大地を抉り、その場で気絶したガルムと、衝撃によって生まれた大規模なクレーターの様な跡が、ユリカの攻撃の威力を物語る。
「…ま、こんなモンね」ユリカが何食わぬ顔をして美香へと歩み寄る。
「ユリカ、凄い…っ! あんな攻撃があるなんて!」思わず美香が興奮して駆け寄ろうとするが、体力の疲弊が激しく、倒れこみそうになった所をユリカに抱き止められる。
「…でも、今日はこれで限界みたいね」美香の顔を見つめながらユリカが呟く。「アンタの中に帰るわ」
「え…?」美香が呆然としながらユリカを見つめる。すると、ユリカの身体が白い光りで包まれ、美香の中へと入り込んでいく。
『後で話すわよ』小さく笑う様にユリカがそう呟いた。
「…とりあえず、今回の戦いはこれで終わりか」
 武彦が小さく呟き、煙草に火を点けた。






――。







 村雲家、東京分家空き家。
 戦闘に疲弊した四人は漸く帰って来た古い家屋に懐かしさすら感じていた。
「よく無事に帰って来れた、と言った所かしら」
 四人が座り込んだ所で百合が口を開く。
「でも、結局は虚無とIO2の計画通りに事が運ばれた…」翔馬が苦々しげに呟く。
「仕方ないだろうな」武彦が溜め息混じりに呟いた。「勢力の違いが大き過ぎだ。ガルムを討伐出来ただけでも良い出来だ」
「それはそうだけど、これからが本番。私達の戦闘能力で、何処まで太刀打ち出来るのかしらね…」百合が自嘲気味に呟く。「スノーがいなければ、私も翔馬もファング一人にあっさり倒されていた」
「スノー…?」美香が尋ねる。
『有名人やな、スノー』
 突如背後から独特な関西弁のリズムで“ヘゲル”が口を開いた。武彦と美香は思わず“ヘゲル”と、その横に立つスノーを見て唖然とする。
「…初めまして、スノーです」
「あ、深沢 美香です」
「え、あぁ、草間 武彦だ」
『お見合いちゃうんやぞ、自分ら』ヘゲルの一言が突き刺さる。
「来てくれたんだな」翔馬が声をかける。
『ドアホ。自分で呼んどったクセに何を言うとんねん』
「それより、スノーと言ったわね」百合が口を挟む。「街の状況はどうだったの?」
「…貴方達と別れて数十分後、自然と妖魔は消えました。目的を達した様だったので、深追いをしませんでしたけど…」スノーがヘゲルをクルっとまわして突如美香を睨む。「どうやらここにもいる様ですね」
「え…っ!?」
「スノー、説明するから待って」百合が美香とスノーの間に入る。「美香、貴方にも伝えておかなきゃね」
「…? どういう事だ?」翔馬が口を開く。
「…さっき皆も見た、ユリカ。彼女は魔神。妖魔の中でも上流階級として、その魂を封じられていた種族の一人よ」百合が重々しく口を開く。
『…そない危険なもんを人に棲まわせるんかい』ヘゲルの口調がいつにも増して真剣味を帯びる。
「…魔神、か」武彦が口を開く。「俺がIO2にいた頃も、一時期その名が出ていたな。虚無の境界が魔神に手を出そうとしている、と」
「でも! ユリカはそんな…―」
『―美香、それは事実よ』ユリカがスサノオの様に姿を現すと、周囲の目が一斉にユリカへと向いた。
「ユリカ…?」
『否定する必要もないわ。百合の言う通り、私は魔神の一人だもの』
「なら、ここで貴方を討つ…」スノーがヘゲルを構える。
『それは出来ないし、させないわ』ユリカがスノーを見つめて答える。『私を討つと言うなら、美香を殺すという事。そんな事はさせる訳にはいかない』
「…美香を…? どういう事だよ、百合っぺ。何か知ってるんだろ?」翔馬が百合を見つめる。
「…魔人の憑依は、媒体となる人間の生命力を喰らう事によって可能となる」百合が静かに口を開く。「だからこそ、媒体となる為の“適合条件”が必要となる。その適合率次第で、媒体である人間の生命力の減少率が変わるのよ」
『そういう事よ』
「…っ! どういうつもりだ、百合…!」武彦の表情が強張る。
『あら、急ぎ過ぎた判断ね』ユリカが武彦に向かって口を開く。『美香と私の適合率はほぼ百パーセント。美香の生命力を食い潰す様な事はないわ』
「そうよ。その結果には正直、私も驚いているわ」百合が呟く。「でも、もうユリカと美香は一蓮托生。今からユリカの魂を美香から剥がそうとすれば、美香の命は途絶えるわ」
「だからって、それは後付けの正当化出来る理由だ」武彦の言葉が突き刺さる。
「ちょっと待って下さい、草間さんも皆も…!」美香が立ち上がる。「私、ユリカと会えて良かったと思ってます。それに、悪い影響はないんだよね?」
『えぇ。強いてあげるなら、私を実体化した時の体力の消耗が激しいぐらいよ』
「だったら、スノーさん…。私も、ユリカを消させたりはさせません」美香の目がスノーを見つめる。「百合ちゃん達を助けてくれたあなたでも、私は抵抗します…!」
『…やめや、スノー。こんなお涙頂戴の友情ごっこ、妖魔狩りには必要あらへん』
「…そうね…。無害な妖魔なら、私の手にもいるしね…」
『こーらこらこら、誰が妖魔やねんな!』





 ――夜が更ける。美香は一人、また庭へと出て一人で胸元で手をキュっと握り締めた。
「…出て来て、ユリカ…」
 白い輝きが美香の身体から生まれ、目の前にユリカが姿を現す。
「…激しい戦闘の後なのに、身体を酷使するなんて…」ユリカが美香へと振り返る。
 月明かりに照らされたユリカの髪が銀色に煌く。
「ユリカ、お願い」美香が身体を構える。「私を、鍛えて」
「…ダメよ。今日のアンタは生命力を使い過ぎてる。私を相手に動けたりは…―」
 ユリカの言葉を遮る様に、美香が加速を開始し、一瞬で姿を消す。その姿は、ガルムと対峙した時のユリカと同じ、一瞬の速さ。
「―はぁっ!」美香の攻撃をユリカが受け止める。
「…やれやれ、ね」ユリカが小さく笑う。「良いわ、少しだけ付き合ってあげる」
「ありがと、ユリカ」





                                          Episode.17 FIN



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いつも有難う御座います、白神 怜司です。

今回で第一日目の戦闘が終了し、次回へと進む序章になります…!
書いてる私が楽しんでどうするんだ、と
ツッコまれてしまいそうですが、どんと来いですよ←

今後の展開のご希望等もありましたら、
是非是非聞かせて頂ければ、と思っております。

それでは、今回も有難う御座いました。

今後とも、宜しくお願い致します。


白神 怜司