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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


 崩れる均衡








 相変わらずの膠着状態だ。萌とエヴァ、鬼鮫と武彦。そして、百合と翼がそれぞれを標的にしたと言わんばかりに対峙する。
「ディテクター、お前は一度ぶった斬ってみたかった相手だ…。遠慮はしねぇぞ!」
「チッ、願い下げだっつの!」武彦が背後へとステップをしながら鬼鮫に銃口を向ける。が、鬼鮫の詰め寄るスピードは尋常ではない。一歩早く鬼鮫の刀が武彦へと振り下ろされるが、武彦が銃を横に放ち、その反動で素早く身体を回転させて事なきを得た。
「…加勢しなくていいの?」
「生憎、ボクはそういう事を好きでするタイプじゃないからね」
 百合の問いかけに翼が小さく笑って答える。
「そう、つまらないわね」百合が横に向かって銃口を向ける。「これならどうかしら?」
 引鉄を弾くと同時に、翼が違和感に気付き飛び上がる。すると、翼のいた場へと横から銃弾が襲いかかった。
「…成る程」空中で翼が百合を睨む。「“転移能力”と言った所かな?」
「ご明察。今の一撃を飛んで避けるのは良い判断だけど、隙が出来るわよ」百合がそう言って銃口をわざわざ翼に向ける事もなく数発の弾丸を一斉に撃つ。「四方八方からなら、どうかしら?」
「他愛ないね」翼の周りに襲いかかった弾丸が一瞬でピタッと空中で時を止める。「さっきわざわざ回避したのは能力を見てみたかっただけだよ」
「…まぁそれぐらいはしてもらわないと、つまらないわよね」百合が一瞬で翼の背後に移動し、翼の身体を蹴落とす。「やっぱり、円状に広げた魔法ね。中はガラガラ」
「…やれやれ、手荒な真似はしたくないんだけどね」翼が着地して百合を見つめる。
「あら、ジェントルマンね。女の子なのに、そういうの似合わなくってよ」
「厳しい言葉だね」
「お遊びはここまでにしておこうかしら」百合が姿を消す。
「転移能力…。殺気も一時的に消えるのは面倒だ…」翼が目を閉じて意識を集中する。「そこか…!」
 翼が手を翳して振り向くが、そこに百合の姿はない。
「フェイクよ」百合の声が背後に響き渡る。翼はその声を聞いてすぐに距離を取る様に飛び退く。「…冷静な判断ね」
「わざわざ振り向いて隙を見せる訳にはいかないからね」
「正解よ」百合の言う通り、本来死角となるであろう後方頭上から銃弾が地面に撃ち込まれた形跡が見える。
「…油断出来ない相手だ…」
 そうは言いながら、翼は違和感を感じざるを得ない。それを確かめる様に百合の攻撃を避けながら翼は様子を探っていた。



「素早いだけ、ね」萌に向かってエヴァが大鎌を振り回しながら口を開く。
「…強い…」萌の目付きが鋭く光る。
 萌の言葉を無視する様に再びエヴァが襲い掛かる。萌は再び大鎌を避けるが、それを誘導していたかの様に間髪を入れずにエヴァからの体術が萌へと襲い掛かる。
「ぐっ…」萌が何とかエヴァからの攻撃を防ぐが、その身体とは似つかわしくない重い打撃は萌の防御すらものともせずに身体を吹き飛ばす。
「貧弱な見た目通りの軽さ…。不便なものね」エヴァが髪をかき上げて小さく呟く。
「最新型霊鬼兵、エヴァ・ペルマネント。噂に違わぬ実力を持っていますね…」萌が体勢を整えてエヴァを睨む。
「…ヴィルトカッツェの二つ名を持つエージェント。私の体術を受け流す事が出来るだけでも、その実力は解るわ…」エヴァが鎌の柄を肩にかける。
「…どういう意味です?」
「強い、とさっき言ったわね?」エヴァがクスっと小さく笑う。「こんな茶番に付き合わされて褒められても嬉しくないわ」
「…っ」萌に緊張が走る。「…小細工は通用しない、という事ですね」
「IO2の有名なエージェントがこの風情なら、何も警戒する必要はないわ」エヴァが大鎌を萌へと突き出す。「…笑わせないで。私の耳に届いているユーの実力は、そんなものじゃない」
「…挑発しているつもりですか?」萌の表情は相変わらず無表情のまま、淡々と告げる。
「いいえ、挑発じゃなくて警告よ」エヴァの目付きが変わる。「フザけていると、殺すわよ」
「…本気を出させたがるなんて、珍しいですね」萌の目付きが鋭くなる。「なら、少しぐらい見せてあげます…―」
「―茂枝!」武彦と対峙していた鬼鮫が声をあげる。「…馬鹿野郎が、安い挑発に乗るな」
「…はい…」
「…つまらないわね…」エヴァが大鎌を再びクルクルと回しながら萌へと襲い掛かる。
「…どういう事だ?」武彦が鬼鮫へと声をかける。「お前がそんな探りを入れるとは思わなかったが…」
「探る必要がない相手に、手加減するつもりはないがな…」武彦を睨みながら鬼鮫が口を開く。
「…いや、俺は本気出して欲しいなんてこれっぽっちも思っちゃいないんだがな…」困った様に小さく笑いながら武彦が呟く。
「チッ、フザけた態度をいつまでも続けやがって…!」
 鬼鮫が武彦に飛び掛り、刀を振り下ろすが、武彦が銃身でそれを横へと弾き、鬼鮫の身体へと銃口を向けて引鉄を弾く。が、鬼鮫はその攻撃を身体を逸らしてかわし、距離を取る武彦を睨み付けた。
「…相変わらずの腕前だな。どんな攻撃にも臨機応変に対応出来るだけの戦闘能力。そして、甘さ…」
「…甘さ?」武彦が鬼鮫を見つめて尋ねる。
「あぁ、甘いな」鬼鮫が殺気を放ちながら武彦を睨む。「今の一撃、確実に当てるだけのチャンスを敢えて潰した。そういう気障な甘さが命取りだと、身を以って教えてやるぞ…」





 ―激しくぶつかり合う戦いだが、どうにも本気で戦おうという人間は鬼鮫以外には誰一人いないらしい。翼はぶつかり合う戦いの気配を感じながらそんな事を感じていた。
「…どういうつもりだい?」翼が動きを止めて溜息混じりに百合を見つめた。「僕らもIO2も、処分しておきたい相手の筈だが?」
「…どういう意味かしら?」
「キミからは殺意を感じない。そんな相手と戦うのは僕も正直言って気が引ける」翼が手にしていた神剣を鞘に入れたまま百合に見せる。「この剣を抜く気にもならない」
「…そうね」スっと手をあげた百合の元にエヴァが近寄る。「挨拶はこれぐらいにさせてもらうわ」
「逃げるのかい?」
「そうね。ここは退かせてもらうわ。まだまだ私達の目的は果たせていないわ…。あれぐらいじゃ、足りないのよ」
「百合、喋り過ぎよ」エヴァが隣りで百合にそう告げるが、百合は小さく笑うだけだった。
「今日は挨拶をさせてもらっただけ」百合が手を翳した先に、空間が切り開かれる。「また会いましょう」
「このままみすみす逃がすとでも?」翼が百合に声をかける。
「焦らなくても、今回の事件を追っていれば会えるわよ」
 百合が不可解な言葉を残してエヴァと共に姿を消した。
「武彦、追うぞ―」
「―そうはいかねぇな」
 翼の前に鬼鮫と萌が立ちはだかる。
「鬼鮫、どういう事だ…」武彦が尋ねる。「虚無の境界と俺達は無関係だって事は解っただろ?」
「ディテクター。あなた達には一度、IO2に来てもらいます」
「…IO2に…?」翼が尋ねる。
「拒否する権利がない事は、貴様が一番解っているな」
 鬼鮫が武彦を睨みながら静かに告げる。武彦は何も言わず、静かに頷いた。



 こうして、三つ巴となった戦いは思わぬ方向へと収束していった…―。





                                              to be countinued....




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ご依頼参加有難う御座います、白神 怜司です。

今回でとりあえずの三つ巴の状況が終了し、
事態が思わぬ方向に進む兆しを見せる形にさせて頂きました。

勿論、これを拒否してIO2と対立するのも、
IO2と協力体制を取るのもご自由に選んで頂いて構いません。

今後の展開がどうなっていくのか、
そして、裏で動いているストーリーがどうなるのか、
色々な動きを楽しんで頂ければと思っております。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司