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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.18 ■ 空白の時間、新たな予兆








――村雲家、東京分家空き家内、道場。




「…はぁ、疲れた…」
『うむ、流石に拙者も限界でござるよ…』
「…情けないですね」
『って言うても、ワシらもクタクタやけどなぁ…』
 二人と二体、とも言うべきだろうか。翔馬とスサノオ、スノーとヘゲルが息を切らせながらその場に座り込む。ジリジリと照り付ける太陽と、蝉の鳴き声が夏を感じさせる。
「もう八月だもんな…」翔馬が道場の隅に飾られたカレンダーに目を配る。
『うむ。ガルムとの激しい戦から、それらしい動きもないでござるな…』
『せやけど、妖魔共の動きもおかしいからな』ヘゲルが口を開く。
「…そうですね。人を襲う様な騒動も起きず、気配すら感じません。何かを企んでいるとしか思えませんね…」
「…気分転換に、百合っぺと草間っちの訓練でも覗きに行ってみるか」




――同敷地内、庭。




「…早い…!」百合が銃を構えながら能力を駆使して姿を隠し、生い茂る樹の上から様子を覗う。
「油断するなよ」武彦が突如百合のいる方へと振り向き、銃を撃つ。が、百合もまたその動きを予測していたかの様に、空間を接続し、武彦の放った銃弾を武彦の背後へと転移させる。「…っと!」
 武彦がそれすらも反応して飛んで避けてみせる。互いの身体には独特な蛍光塗料が付着している。
「ペイント弾じゃなかったら、お互い死んでるわね」
「全くだ」
 百合が樹から飛び降りて武彦の近くへと歩み寄る。
「正直に言って。私の実力は、どの程度?」百合が武彦の眼を真っ直ぐ見つめながら尋ねる。
「…ガルムと戦い合った頃に比べれば、数段腕は上がってる。能力の駆使速度、反応、動きの無駄のなさ。全てにおいてな」武彦がそう言って溜息を吐いた。「が、まだ正面から虚無の幹部連中とはぶつかれないな」
「…お世辞を言わないのね」クスっと小さく笑いながら百合が答えた。
「正直な所、スノーってヤツの実力ぐらいじゃないか? まともにファング達と向き合えるのは」
「…悔しいけど、私と翔馬はまだまだかかるでしょうね…」百合が溜息を吐きながら振り返る。「だと言うのに、またサボってる訳?」
「あっちゃー、バレてたか」翔馬が茂みから顔を出す。
『見事な戦いでござった。いや、実に心強い』
 ぞろぞろとスサノオやスノー、そして担がれたヘゲルが顔を出す。
「あんた達ねぇ…」百合が顔に手を当てて眉間に皺を寄せる。「今は虚無もIO2も動きを活発化させてない。それぞれにパートナーと修行して、腕を磨くしかないって時に…」
「…美香さんがいませんね」スノーがキョロキョロと見回す。
「…はぁ…。美香なら今頃、ガルムと戦ったあの平原よ」百合が諦めたかの様に答えた。
「偵察か?」翔馬が尋ねる。
「…良いわ。もうすぐご飯だし、迎えに行くからついて来なさい」







――。






 ―変わらない平原地帯。ただ何もなく、風が流れる音だけが耳に聞こえる。四人はそこに出るなり、周囲を見回した。
「あれ、いないぞ?」
「しっかり見なさいよ。来るわよ」
 百合の言葉と同時に、強烈な爆発音の様な激しい音が全員の耳を劈いた。
「な、なんだ!?」
「…追いきれなくなりそうです…」スノーが目を凝らしながら見つめる。
『…なんちゅー速さで戦っとんねん…』
「戦ってる…?」翔馬も思わず目を凝らす。「…っ、あれか!」
 全員が視線を凝らす先、時折発生する見覚えのある雲が浮かび上がる。
「…ソニックブーム…」武彦が呟く。
「それも、二箇所で発生するって事は…」翔馬が唖然として見つめる。
「…美香…」百合の身体がゾクっと震える。

「迷ったら叩き落すわよ! 私の速度を見極めて、相殺しなさい!」
「うん!」
 ユリカの放った衝撃波を、その一瞬の隙に美香が速度を判断し、同じ威力の衝撃波を発生させて相殺させる。
「まだ遅い!」第二波が美香に放たれる。が、美香はそれを再び相殺する。
「…っ、ユリカ」美香が声をかけ、動きを止めるとユリカもその動きを止めた。
「ふぅ、頃合いね」ユリカが美香の隣りへ歩み寄る。「迎えも来てるみたいだし、ね」
「うん」
 美香が変わらない笑顔で皆へと手を振る。

「…美香のヤツ…」思わず武彦が呟く。
「…スサノオ、スノー。帰ったらもう一回だからな!」
「…いえ、帰ったらご飯です」
『感化されんのは構へんけど、せいぜいバテんなや、翔馬』
「うっせー!」





―――。





「さて、今日で八月に入ったわね」
 食事を済ませた所で、百合が円に広がる様に座っていた全員へと声をかけた。
「あぁ。ガルムとの戦いは春だったが、気が付けばもう四ヵ月経つのか…」
「その間、スノーにも無理を言って翔馬のパートナーとして残ってもらって、それぞれの特訓が出来てる。私達は確実にあの時よりも戦える筈よ」
「しっかし、あそこまで強くなってるとはな…」武彦の視線が美香へと移る。「それぞれの特訓でも、美香達だけはいつもこの屋敷から出ていたからな」
「私はまだまだですよ。ユリカに引っ張ってもらえてるから…」
『人間とは思えない程度の戦闘能力にはなってきたわね』
「えっ、それなんか褒められてる気がしないよ!?」
『バカね。私だってほぼフルパワーを出して動いてるのよ? そんな私に引っ張られるぐらいでついて来れる訳ないのよ』
「言いすぎだよ、それは〜…」
「それぞれの特性を生かしたペア分けで、能力の強化。そして、それぞれの成長具合を見ずに個々の能力を伸ばす。下手な刺激を受けずに訓練をする為に、この四ヵ月過ごしてきたわ。…まぁ、翔馬は暇だからって私達を覗いていたけどね」百合がジトっと翔馬を睨む。
「あ、はは…ワリィ…」
「それで、今日から八月。それぞれのこの四ヵ月足らずの訓練の成果を見せてもらおうと思うわ。虚無とIO2が動き出した時の為に、ね」
「何をするんだ?」
「それぞれ、本気で組み手を見せてもらうわ」
 百合の言葉に全員が息を呑む。
『面白そうじゃない』ユリカが姿を見せる。『そういう事なら、美香。私達で最初に戦おうじゃない』
「うん、良いよ」
「ちょ…一番混乱するタイプだった美香が…」思わず翔馬が混乱する。
『じゃあ二番手は拙者達でやらせてもらうでござるよ』
「構いませんよ」
『翔馬、間違うて首刎ねてもうても怨まんといてくれよ?』
「え…ちょ…」
「じゃあ私達は最期ね」
「あぁ、そうなるな」
「あぁぁぁ! もう! やりゃ良いんだろ!」
 翔馬の行動を見て、皆が小さく笑っていた。
「昼休憩をしたら、始めるわよ」






―――

――








「魔神について詳しく知りたい?」
 ガルムとの戦いがあったあの日、食事を済ました美香は百合に詰め寄った。
「ユリカが狸寝入りしちゃって、細かい事を話してくれなくて…」美香が自分の胸に手を当ててそう呟く。「百合ちゃんは何か知らない?」
「…ユリカ、そういう役回りを私にさせようっての?」
『……』
「やれやれ、魔神もそういう所はちゃっかりしてるのね…」百合が呆れた様に溜息を混じらせながら呟く。「そうね…。美香、魔神と聞いて何を思い浮かべる?」
「えっと…、ファンタジー系の小説やマンガとか…?」
「それらとユリカは全く違うわ。定義が違うのよ」
「定義?」
「そう。ユリカは魔神であると同時に、上級妖魔と呼ばれる存在よ」百合が真っ直ぐ美香の眼を見つめて答える。
「上級妖魔…」
「妖魔の中にも幾つもの分類があるわ。日本の妖怪、西洋の悪魔。そして、知識も持たない欲望と怨念によって作り上げられた、本能だけで生きる妖魔。でも、ユリカ達。つまり、魔神と呼ばれる類はそれらとは全く違う」
「どういう事?」
『…もう良いわ、百合』ユリカが姿を現し、口を開いた。
「ユリカ…?」
「あら、自分でちゃんと説明するの?」
『…出来るなら触れて欲しくない部分よ』ユリカの言葉がどこか投げやりな口調になる。『でも、私の宿主が美香なら、隠し通そうとしても仕方ないわね。何でも知りたがるんだから』
「言いたくないなら、無理には…――」呆れた様に微笑むユリカに、美香が声をかける。
「―美香、ユリカと共に生きるつもりなら聞いておきなさい」百合が口を挟む。
『…美香。私達魔神と呼ばれる存在は、そもそもこの世界に降り立つべきではない者の呼称なのよ』
「え…?」
『それを昔、ある魔術師が強制的にこの世界に喚び出した。魔法を利用して、生贄を用意してね』
「その魔術師は禁忌とされていた異世界への扉の魔法に研究を加え、ユリカ達をこの世界に召喚したのよ」百合が言葉を続ける。「でも、肉体の召喚は失敗に終わった。魂だけが喚び出された魔神達は、ある洞窟の中で眠っていた」
『そんな私達の前に、虚無の境界が現われたのよ』
「そう。更なる力を得る為、虚無の境界は魔神に着目していた。その眠る場所を探し出し、盟主の特殊な魔法によって人へと“融合”し、その能力を発揮する事が出来る様にすれば、結果的にそれは虚無の境界の力となる」
 百合の言葉の後で、少しの間沈黙が流れる。
「でも、ユリカはどうして言いたくなかったの?」美香が不意に尋ねる。
『聞いたでしょ? 私はアンタと違って、生贄…。つまり、人の命を喰らってこの世界に来た様なものよ。何百年も前の話だけど、ね』
「でもそれは、ユリカが望んだ事じゃないんだよね」
『そりゃそうだけど――っ!』
「――私は、今ユリカと会って、こうして戦う力を手に入れた事を嬉しく思う」美香がユリカの言葉を遮って答える。
『…美香…』
「ま、諦める事ね」百合がユリカに声をかけた。「美香はユリカが思ってる以上に頑固よ」
「えっ。それどういう意味、百合ちゃん?」
「あら、素直だとでも思ってるの?」
「少なくとも、百合ちゃんより素直ですーっ」
「言ってくれるわね…! 私だって…――」
 二人のやり取りを見つめて、ユリカは小さく笑ってしまった。頬に一筋の涙を伝わせながら…。







――

―――




「あの時のユリカの真実を聞いたから、私は強くなるって決めた。ユリカの罪悪感なんて忘れるぐらい、大勢の人を守れる様に…!」
 昼食を済ませ、再び平原に立った美香がユリカを具現化して身体を構える。
「…そんな発想に付き合う私も、アンタと似てきたかもね」ユリカが微笑んでから身体を構える。「今回は助言しないわ。本気で来なさい」
「うん…!」



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ご依頼参加有難う御座います、白神 怜司です。

ガルムとの戦いは春だったので、リアルタイムに追い付くまでの期間、
新章は夏にスタートさせる為に特訓してました〜。


ちなみに、次話でガントレットの話しにも触れる予定ですw


なんだかんだで始まった組み手から、新章スタートにかけて、
盛り上がっていこうと思っておりますw


では、今後とも宜しくお願い致します〜。


白神 怜司