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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


 青い宝石の指輪-T







 ――東京。
 雑居ビルの一階にある鍼灸院。そこは専ら、“腕の立つ若い外人の女先生”という触れ回りもあり、そこそこ繁盛している様子だった。
「ほな、今日はここまでにしときましょかー」
「有難う御座います」
 “セレシュ・ウィーラー”は訪れていた中年の男にそう告げ、お会計を済ませる。
「また調子悪くなったら言うて下さい」
「解りました」
「毎度ー♪」
 院内に独特のベル音が鳴り響き、ドアが閉まる。窓の外を見ると、既に雑踏はスーツ姿の人々の往来が目に付き、空も街も夕陽で紅く染められている。室内に飾られた質素な壁掛けの時計を見つめ、時間を確認する。
「今日はこんなモンやな…」
 時刻は十八時。この後の時間帯に特別予約が入っている訳ではない為、セレシュは少々早いが看板の電気を切り、ドアに掛けられた『OPEN』と書かれた札を裏に向け、『CLOSE』を外へと向け、ドアにカーテンをかけた。
 住居を兼ねている鍼灸院だが、自室には奇妙な道具が点在している。一般的な住居とは決定的に見た目も違い、まるで昔の工房すら彷彿とさせる風景が広がっている。そんな中に置いてあった、携帯電話のLEDランプが点滅している事に気付いたセレシュは、携帯電話を手に取り、送られていたメールを目にした。

『件名:面白そうな依頼

 本文:あんたが好きそうな依頼がきた。
    細かい話しは後ほど』

「…姐さん、相変わらずつまらんメールやなぁ…」セレシュがそう漏らしながら、携帯電話をポケットに突っ込む。
 自室の奥にある、小さめの扉。しかし、その扉はただの自立式の玩具の様な風貌をしている。扉の後ろを覗けば、何もない事ぐらい誰でも見て取れる。だが、セレシュが扉に触れると同時に、扉の枠に何やら不思議な文字が光りと共に描かれた。セレシュがドアノブを回し、高さ1メートル程度の扉の中に身体を曲げて窮屈そうに入り込む。


―――

――




「おや、思ったより早く来たじゃないか」
 突如店の扉が開いて入って来たセレシュに向かってチャイナドレスを身に纏い、妖艶な雰囲気を放つ女が声をかけた。
「よいしょっと…」セレシュが立ち上がり、服をパンパンと払う。「便利な導具があるんですわ。マーキングしてある場所の文字を魔法を施して彫ってあるから、自由にひとっ飛び」
「どこでもド―」
「―あかん! その名前言うたら大変な事になります!」
「フフフ、冗談だよ」
 ここはアンティークショップ・レン。様々ないわく付きの物品を、セレシュと話しをしていた女、“碧摩 蓮”が買い寄せて来る不思議な店だ。趣味半分と謳ってはいるが、蓮に至っては百パーセント趣味にしか見えない。が、セレシュの研究対象にはピッタリなこのお店は、セレシュもまめに出入りしている。神具・魔具の解析・作成・修復を総じて“幻装学”と呼ばれるが、セレシュはそれの研究を行っていた。
「それで姐さん、面白そうな物って言っとったけど…?」
「あぁ、あんたなら解るだろうと思ってねぇ」思い出したかの様に蓮が呪文の彫られた桐の箱を手に取る。「こいつさ」
「んー…?」桐の箱の中に入っていたのは、青い宝石のついたリングだった。「なんや、随分変わったデザインしとりますねぇ…」
「こいつをつけた人間は数日で人形の様になっちまうらしいんだ」
「人形?」セレシュが蓮を見る。
「抜け殻の様になるらしいんだよ」蓮がそう言って溜息を吐く。「とある富豪が、このリングを調べる為に、ある探偵に調査を依頼したのさ」
「で、姐さんの所に流れて来たっちゅー訳です?」
「そうなんだけど、どうにも厄介な代物でね。箱から出して調べようとすると、その瞬間に妙な連中を引き寄せるんだよ」
「…邪封の配列。悪魔やら怨霊やら、やな」セレシュが桐の箱に彫られた文字列を見て呟く。
「そういう事さ。あんたならどうにか出来るんじゃないかい?」
「…確かに面白そうですわ…」
「細かい話は、もうすぐ来る探偵から聞くと良いさ…っと、良いタイミングで来たね」
 蓮の言葉にセレシュもまた扉を見つめる。すると、ドアが開き、そこに入って来たのは眼鏡をかけたパッとしない一人の探偵だった。
「すまない、遅れた…って…」男がそう告げると同時に、セレシュを見つめて動きを止める。
「なんや、草間さんやない」ヒラヒラと手を振りながらセレシュが声をかける。
「お前は…、確か…」
「せや」
「なんだ、知り合いだったのかい?」蓮が少しばかり驚いた様に呟く。「紹介する手間が省けて助かるね」
「いや、ちょっと待ってくれ」武彦が蓮へと歩み寄る。「おい、確かここは一般人がおいそれと見つけられない店だったんじゃ…」
「フフフ、一般人は確かに見つけられないねぇ」クスクスと蓮が答える。「彼女はセレシュ・ウィーラー。幻装学の専門家で、あらゆる呪具や魔導具の研究をしている娘だよ」
「えぇぇえ?」武彦が思わず声を漏らす。「幻装学の専門家? こいつが?」
「む、失礼な奴っちゃなぁ」
「見た目は小娘だけどね。実力はその辺の専門家もどきとは比較にならないさ」蓮がそう告げると、一つの手鏡を見せる。「あたしの送ったギフトを、更に呪具として送り返す様な、ね」
「あっ、あれは姐さんが悪いんやで! あないなモン使うたら悶絶するっちゅーねん!」セレシュが思わず声を上げる。
「…はぁ。まぁ蓮がそう言うなら、信用出来るな」ポリポリと頭を掻きながら武彦が答える。「セレシュ。専門家としてどう見る?」
「…せやなぁ」セレシュが顎に手を当てる。「桐の箱は誰がこさえたん?」
「それは解らないらしい」武彦が答える。「見つかった時には既にその状態だったそうだ」
「情報不足やなぁ…」セレシュが呟く。「桐の箱に彫られた文字は、恐らく西洋の呪術に長けた人間による封印や。日本の様式とは根本的にちゃう」
「…そこまで解るのか…」武彦が思わず驚いて呟く。そんな姿を見て、蓮は小さく笑っていた。
「こんなモン誰にでも解る。せやけど、怨霊や悪魔を喚び寄せる理由は、恐らく防衛本能やな。この指輪自体が生きとる可能性がある」
「指輪が生きてる…?」
「…草間さん、依頼主はこの指輪をどうしてくれって言うてるんです?」セレシュが不意に武彦へと振り返る。
「鑑定して欲しいとは言われている」
「…せやったら、解呪は頼まれてないっちゅーこっちゃな?」
「あぁ…」
「随分ときな臭い話だねぇ」蓮が口を開いた。「人が抜け殻の様になるってのに、鑑定だけ頼むのかい?」
「コレクターの可能性も否めないからな。そもそも、お前がそれを言うか?」武彦が蓮へとツッコミを入れる。
「フフフ、まぁあたしは特殊だからね…。ただ、普通の人間でそれはきな臭いだろう?」
「まぁ、言われてみればその通りかもしれないな…」武彦が呟く。「まぁ探偵って職業柄、俺も頼まれた依頼を選べる立場じゃないからな」
「難儀やなぁ」セレシュが桐の箱を持ち上げて呟く。「ま、個人的に興味はあるから、引き受けるで」





――

―――






 ――翌日、セレシュは持ち帰った桐の箱に入ったリングを手に草間興信所を訪れていた。
「“魂喰い”?」
 ソファに対面する様に座ったセレシュに、武彦が素っ頓狂な声をあげて尋ねる。
「せや。昨夜この箱に彫られた術について調べてみたんやけど、この文字列にメッセージがあるんよ」セレシュは箱を持ち上げて武彦に見せた。「直訳すると、『“魂喰い”の指輪、人に触れさせる事を禁ず』って書いてあるんです」
「…それで人間が人形の様に抜け殻になるって事か。まぁ納得いく話しだな」
「その話は依頼主から聞いたんですか?」セレシュが箱をその場に置いて尋ねる。
「あぁ、そうだ」
「…知っていた可能性が高いっちゅー事ですね」
「どういう事だ?」
「この指輪の正体を知っていて、それでも確信が欲しくて依頼したか、或いは草間さんの力量を調べる為に依頼した可能性もあるって事です」
「…どっちにしても、胡散臭い結果しか得られないって訳か」
「呪具自体は蓮の姐さんが言っていた通り、個として生きとります。それはホンマですけど、生かしておかなあかん理由のない呪具や」セレシュが一枚のメモを武彦の前に差し出す。「このメモには指輪の破壊方法を書いてます」
「いやいや、俺が頼まれたのは―」
「―草間さん」セレシュが武彦の言葉を遮る。「呪具は全て危険やと思います?」
「何だ、急に?」
「呪具は触れたり扱わんかったら害はない。人の意思を宿すものもあれば、強力な妖気を抑える為のアイテムにもなるんや」セレシュが眼鏡をクイっと持ち上げて位置を正す。「その呪具は、明らかに人を殺す為にしか使えへん道具や」
「人を殺す為にしか…か」
「どないするかは任せます」そう言ってセレシュが立ち上がる。「また面白そうな道具があったら、姐さんに言うて下さい」
「…あぁ、ありがとうな」



 ――呪具の使い方は、人を幸にも不幸にもする。それは、セレシュが身を持って学んだ、一つの答えだったのかもしれない。思わずふと笑いながら、セレシュは草間興信所を後にした…――。




                                               FIN



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ご依頼有難う御座いました、白神 怜司です。

今回のお話しは初の異界からの参加と、
武彦とのやり取り等も含めて、
プレイングの中に色々設定を頂いていたので、
短編で書かせて頂きました。

残念ながらアトリエシリーズは私も知らず、
ちょっと調べてみるつもりですw

楽しんで頂ければ幸いです。

それでは、今後とも機会がありましたら、
是非宜しくお願い致します。

白神 怜司