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<東京怪談ノベル(シングル)>


ブルセラの父危篤だ玲奈

1.
 前回のあらすじ
『フォッフォッフォッフォッフォ』
 平穏なネットカフェでなぜか天丼の海老天が巨大化し、伊勢海老怪人となってネットカフェに光臨した!
 鋏をジョキジョキと打ち震わせて、東京を恐怖のどん底へと突き落とした!
 そこに現れた正義の巨人・三島玲奈(みしま・れいな)…もとい受話器を頭に乗せたウラトレマソである。
 現在、絶賛交戦中!
 頑張れ! ウラトレマソ!
 負けるな! ウラトレマソ!
 君の背中に希望が光っている!!

「えぇい! 実況うるさいよ!」
 ウラトレマソ玲奈があらすじを誰にともなく語った瀬名雫(せな・しずく)を一喝した。
『ジュワッキ!!』
 玲奈の飛び蹴りが炸裂するが、伊勢海老怪人は分身の術で応戦する。
 スカッとスカされて、玲奈はこけた。
 そこにすかさず伊勢海老怪人が鋏を突き立てようと迫り来る。
 それを間一髪でよけ、玲奈は伊勢海老怪人の隙を待っている。
 起死回生の一撃を入れる隙を…!
「玲奈ちゃん! ブルマ見えてるよ!」
「今そんなこと気にしてる場合!?」
「女の子なんだから気にしなきゃだめよ!」
 雫とののほほんとした会話。乙女だものしょうがないのです。
 しかし、伊勢海老怪人にそんなことは関係ない。
 再び鋏を突き立てようと伊勢海老怪人はウラトレマソ玲奈に迫る。
 今だ!

「ジュワッキ!」

 必殺のスペシャル光線が…空に散った。
 あたしは…相当疲れている…負・け・た…。
「玲奈ちゃ…玲…奈…!!」
 雫の声が遠くに聞こえる。ごめん。守れなかった。ごめん。
 小さくなった玲奈は病院に緊急搬送された。
 その夜玲奈の病室の枕元に上司が立った。

「玲奈よ、おまえの父が危篤である」
「…ウラトレマソの父が!?」

2.
 はるか遠く、それは何光年も離れた遠い星。
 KDN48青雲。
 微かに吐く息はすでに虫の息。
 憐れなり、ブルセラ族の父が今まさに天に召されようとしている。
 その周りには明らかにカツラだとわかる長髪の女性…にみえる老若男女が集まっている。
 …もしかしたら1人か2人くらいは本物の女が混じっているのかもしれない。
 いや、希望的観測として。
「玲奈に…玲奈に伝えてほしい…竪琴を…竪琴を…」
 か細く切れ切れにうなされる様に呟く父。
「父さん、携帯繋がってますから伝言とかいってないで自分で伝えてください」
 息子の1人が携帯を差し出すと、父は驚いたように飛び起きた。
「…え? 繋がってるの? それ早く言ってよ、もう!」
 携帯をふんだくって、父は玲奈に伝えた。
「玲奈よ…よく聞くのだ。竪琴の盗難が元凶だ。国を…世界を守ってくれ…」

 父の言う竪琴と言うのはブルセラの国の中心街のシンボルである。
 その名も『万能のブルマの竪琴』と呼ばれている。
 そびえ立つブルセラタワーの頂上に、何者にも触れられぬように保管してあったはずだ。

 それが盗まれていた…!?
「よいか…くれぐれも…竪琴を…ぐっ!!」
 父の声が途切れ、周りから誰のものとも知れぬ騒然とした声がスピーカーから聞こえる。
「父さん…はい。わかりました。あたしがきっと…!!」
 ブツッと切ってにぎりしめた携帯だったが、通話先の父は実はその時かき氷頭痛に悩まされていただけだった。
 そして、入れ替わりに着信が入る。
「…雫から? もしもし?」
「あ、玲奈ちゃん…たすけ…あやかし荘…くぁwせdrftgyふじこ…!!」
「雫!? 雫!?」
 携帯の向こう側からは何も聞こえない。雫の声も。
「雫が…雫が危ない!!」
 疲労と激痛と戦いながら、玲奈は病院を抜け出した。
 親友を…雫を助けなければ…!!


3.
 玲奈が父と話していた時間。
 ところは変わりあやかし荘の一室。
『@:¥&#$"'&?』
 珍妙な…これはまさしく異星人といえる物体が卓袱台にどっかりと座ってなにやら訳のわからない言葉を話している。
 それに対面しているのは…雫である。
「だからぁ! それはむーりー!」
 話できるんですか?
 …これでは話が進みませんので、以下異星人の言葉を翻訳して書いていきます。
『神聖都JKの制服全部よこせや、コラ』
「無理だーーーーって言ってるじゃん? 大体釣り合わないでしょ? それとこれとの交換じゃ」
 雫が指差す先には異星人が大事そうに抱えている竪琴がある。
 …てか、それが今まさに裏で玲奈が話を聞いている『万能のブルマの竪琴』なのである!
 この異星人がKDN48星雲からブルマの竪琴を盗んできた張本人なのだ。
『おまえがめついな。地球人の中でも一番がめついんじゃないか? 半分にまけてやるからJKの制服を…』
「あなたさぁ、そのカッコーでJKの制服とかどうするつもりなのよ? …いいんだよー? ネットにあることないこと書き込んであなたの信用、地の底に落としたって。JKの制服好きの異星人の話とあたしの話とどっち信じるかなぁ?」
『………』
 雫、完全に異星人を黙らせました。
 怖い! 雫ちゃん怖い子!!

4.
『天・丼〜〜…ピポポポポッ♪』
 夜空を見上げると遠くからでも伊勢海老怪人が暴れているのがはっきりとわかった。
 昼間見たときよりも大きく凶悪にバージョンアップしてる。
 しかし、伊勢海老怪人はネットカフェ(もう踏み潰されてぐちゃぐちゃなので跡地といったほうがいいかもしれない)に留まっている。
 一体何があったというの!?
『ウラトレマソに告ぐ! こいつの口から一億万度の炎を吐けば、あやかし荘の窓も割れるぞ』
 突然の警告。なんてこと!
「玲奈ちゃん…来てくれたんだね」
 雫が玲奈の後ろから現れて、ぎゅっと抱きしめた。
「雫! 無事だったんだね!」
 玲奈の思いを知ってか知らずか、声はまた繰り返す。
『ウラトレマソに告ぐ! こいつの口から一億万度の炎を吐かせて、あやかし荘の窓も割るぞ? 割っちゃうぞ!?』
「あの声…あやかし荘に来た異星人だわ。あたし…脅されて…玲奈ちゃんに電話を…」
 俯いて雫は声を絞り出す。
 そんな雫に玲奈は決意をした。そしてそれを雫に伝えようとした。
「あのね雫、実は私ウラトレマソなの! 明朝西の空に…」
 そこまで言って「うん、知ってる」とにこやかに雫が顔を上げた。
「はいはい。生暖かく弔うから安心して逝っちゃって?」
 雫はどこからともなくブルマの竪琴を取り出した。
「あ!?」という暇もなく、雫が竪琴を掻き鳴らす。
 するとどこからともなく『ぐわあああああ!!!』と異星人の断末魔が聞こえた。ついでに伊勢海老怪人も倒れた。
「えっ? まさかの竪琴欲しさの自作自演?」
 呆然とする玲奈に眩しいほどの雫の笑顔が突き刺さる。
「もう地球は地元民で守るから♪」

「ウ…ウワァアアァァァアァァァァァァン!!!!」

 海は静かに夜明けを待っている。
 雫は西の空に光る明星を見送りながら、走っている。
「ひとつ、自分の身は自分で守ること」
 走りながら呟くのは『ブルセラよいこの誓い』である。
「ふたつ、友達は選ぶこと」
 誰もいない砂浜で、雫はなお走り続ける。
「みっつ、ハゲとデブには気をつける」
 暗い虚空に光る玲奈の禿頭がきらりと光った。
「よっつ、みだりに人を信用しないこと」
 そうして、雫はにっこりと笑った。

「いつつ、私のものは私のもの。他人のものも私のもの」