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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


 交渉







 ――IO2東京本部。
 一般人の立ち入り出来ないその場所に、翼は鬼鮫と萌に連れられて訪れる形となった。武彦はあれから何も口にしようとはせず、ただ鬼鮫に連れられて歩いている。
「お、おい…。あれって…」
「…ディテクター…?」
「鬼鮫さんと“ヴィルトカッツェ”とディテクター…? IO2の大物が並んで歩いてるなんて…」
 行き交う人々が声を漏らす。
「随分と注目を浴びている様だね」翼が武彦に声をかける。「武彦。いや、ディテクターと呼ぶべきかな?」
「皮肉混じりだな」武彦が乾いた笑いを浮かべて答える。「その名で呼ばれるつもりはない。もうとっくに、俺はここを抜けた」
「フフ、冗談が通じないなぁ」翼が静かに答える。
「入れ」
 一室の前で立ち止まった所で、鬼鮫と萌が二人を見つめて立ち止まった。溜息混じりに中へと進む武彦の背を追う様に翼も中へ入り込む。薄暗い黒をベースにした室内に、数メートルはあるだろう楕円形に伸びた机には小さなモニターが幾つも取り付けられ、それぞれの前に椅子が並んでいる。
 鬼鮫と萌が奥へと進み、椅子に腰を降ろした。翼と武彦もまた向かい合う様に腰を降ろす。広々とした数十人は入れる空間に四人だけというのもなかなか寂しいものだ。そんな事を考えながら翼は周囲を見回した後で、鬼鮫に視線を移した。
「…さて、そろそろ話してくれても良いんじゃないかな?」翼の表情が真剣味を帯びる。
「茂枝。上を呼んで来い」
「その必要はない様です」鬼鮫の言葉に萌がそう答えた瞬間、入り口の扉が静かに開かれた。
 中へ入ってきた男は二十代の若い男だった。スラっと伸びた身長に、茶色い髪。眼鏡をかけてスーツを着こなした姿は、いかにもインテリ系の雰囲気を漂わせている。
「鬼鮫さん、茂枝さん。任務ご苦労様でした」物腰柔らかな口調で男が二人に声をかけ、ニッコリと微笑む。「それに、ディテクターに蒼王 翼さん。この度はわざわざご足労頂く形となってしまい、申し訳ありません」
「キミは?」
「これは失礼を。私はIO2元老会の連絡係り、“コールマン”と御呼び下さい」ニッコリと微笑んで会釈をする。「ディテクター、私の事は憶えて下さってますか?」
「あぁ。相変わらずの笑顔と口調だな」
「お褒めの言葉として受け取っておきましょうか」コールマンが向かい合う四人の間、楕円の丸みを帯びた部分である大型スクリーンの前に座った。「さて、あまり悠長にお喋りをしている場合ではありませんね。早速ですが、本題に入りましょう」
 コールマンがそう告げると、テーブルにあったボタンを押して室内のカーテンを閉めた。室内が暗くなり、それぞれの目の前にあったモニターが起動する。
「既にご存知かとは思われますが、現在我々は最近頻発している連続妖魔召喚事件を追っています。“虚無の境界”が引き起こしているという事は、そこの鬼鮫さんと茂枝さんの活躍のおかげで掴めました」モニターに映し出されたのは虚無の境界の主要メンバーの顔写真だった。「ですが、我々IO2もそこにいるディテクターが抜けてしまい、今戦力の要となるのはこのお二人。点在している召喚事件が三箇所、或いはそれ以上の場所で同時に起こされてしまった時、対処出来ない可能性があるのです」
「そこで、俺達の力を借りたいと?」武彦が尋ねる。
「話しが早くて助かります」コールマンがニッコリと微笑む。「恐らく昨今の召喚も大規模な計画の前触れ。“虚無の境界”が絡んでいる以上、我々としても最大の配慮と準備を整えておきたいのです」
「チッ、こんな奴らの手を――」
「――借りなくても俺が全部片付けてやる、ですか?」コールマンが鬼鮫の言葉を遮る。「勿論鬼鮫さんの実力は私も元老会も頼りにしています。ですが、負担が大きくなってしまう事は極力避けなければなりませんからね」
「チッ…」
「ディテクターが戻って来て頂けるのなら、これ以上に心強い事はありません」萌が俯きながらギュっと手を握り締めながら口を開いた。「私もまだまだだと、痛感しました…。今のままでは、“虚無の境界”を止める事も難しいかもしれません」
「ディテクター、蒼王 翼さん」コールマンが翼と武彦へと視線を向ける。「我々は何も、貴方達にIO2の指揮下について欲しいと言っている訳ではありません。あくまでも、これは協力体制を敷く為の会合だと思って頂きたいのです」
「…それらしい言葉を並べているとは思うね」翼がクスっと笑いながら答える。「でも、僕らには何のメリットも感じないな。今聞いた説明は、キミ達の都合のみだろう?」
「成程。なかなか鋭いお方ですね」コールマンが答える。「勿論、貴方達の望む報酬は手配させて頂きます。ですが、これは世界を賭けた戦いです。成功しなければ、世界は“虚無”に堕ちるでしょう」
「脅しのつもり、かい?」
「いえ、事実です」コールマンの表情から笑顔が消える。「IO2は今、形振り構っている場合ではありません。今回の“虚無の境界”の動きは明らかに今までとは違い、大掛かりです」
「ケリをつけるつもりか?」武彦が口を開く。
「はい。元老会は、今回のこの戦いで“虚無の境界”を徹底的に根絶させるつもりです」コールマンの瞳が鋭く光る。
「…それが、IO2の総意か?」
「そういう事になりますね」コールマンが立ち上がる。「我々は、これまでずっと“虚無の境界”を追ってきました。そうして漸く、今回尻尾を出しています。この機会を逃す訳にはいきません」
「確かにIO2としては逃す訳にはいかないだろうな…」武彦が椅子の背もたれにグっと身体を押し付ける。「…翼、お前はどう思う?」
「確かに、今回の事件は味方が多い方が有利だろうね。情報の共有程度なら良いとは思うけどね」翼もまた背もたれへと身体を預け、溜息を吐いた。「それが解ったら、さっさとこの失礼な視線を解いてくれないかな?」
「…茂枝さん」
「はい」萌が手を軽く挙げる。「すみません。IO2から“部外者のまま”外には出せませんので」
「断れば、僕を取り押さえるつもりだったのかな?」
「必要があれば、ですが」
「すいません。私が手配させました」コールマンがそう告げて頭を下げる。
「油断出来ないね」翼が小さく笑いながら呟く。
「IO2の決まりに特例は認められないもので」そう言いながら、コールマンが再び椅子に腰を降ろした。「では早速、我々が今得ている情報を開示しておきましょう。モニターをご覧下さい」
 コールマンがそう告げると、街の上空から映した地図が映り出す。
「今回の召喚が行われている場所をマーキングしました」
「…俺達が知っているのはあのビルでの一件と、あとは廃工場での一件か」
「それ以外の場所は我々IO2が抑えた場所です」
「…それにしても随分多いな…」
「ただ多いだけではありません。これをご覧下さい」コールマンがそう告げると、モニターに写っていたマーキングされた点から線が描かれる。
「…っ、これは…!」
「召喚の魔法陣、だね」翼が口を開く。「それぞれの場所で妖魔を召喚する事で、妖気の流れを循環させているね」
「さすがですね。我々も同じ見解で動いています」コールマンが小さく笑って続ける。「そしてその可能性がもしも現実だとすれば、次に狙われるのは、この空白の場所です」
「…住宅街、か…」
「えぇ。今までは人のいない所を利用して秘密裏に事を進めてきた“虚無の境界”ですが、IO2と直接ぶつかり合った今回の件で、彼らも隠れる必要を失いました。実力行使を起こしてくる事でしょう」
「一般人が巻き込まれる可能性が高い状況であるって事か」
「はい。話しが戻る様ですが、その為にも貴方達の協力が必要なんです」コールマンが再び翼と武彦へと視線を向ける。
「IO2は今回の事でこの住宅地域に警戒体制を既に敷いている」鬼鮫が口を開く。
「はい。私も暫くはこの付近に潜伏するつもりです」萌が鬼鮫に続いて厳しい目付きのまま告げる。
「ディテクター達には、もしも我々の裏をかいて“虚無の境界”が動き出した時に動いてもらいたいというのが、我々としての要望です。やってくれますね?」
「良いだろう」
「キミ達とモメてもしょうがないからね」翼が立ち上がる。「交渉は成立だね」
「えぇ」コールマンが立ち上がる。「早速今夜からディテクターに状況報告させる様に手配します」






――。






「…すまないな」
 帰路についている最中、武彦が不意に口を開いた。
「何の事だい?」
「俺のしがらみにお前を巻き込む形になってしまったからな」
「…彼らと争う事より、情報を共有する事の方がメリットを感じた。ただそれだけの事だよ」
「…あぁ、ありがとう」
 こうして、二人とIO2の奇妙な連携が組まれる事になった。







                                      to be countinued...





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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

IO2とのやり取りを中心にしたお話という事で、
今回は会話が主体のお話となってしまいました。

IO2の裏でのやり取りや、今後のお話の展開も含め、
これからどう“虚無の境界”が動くのか、
今後の展開でまた考えさせて頂ければと思います。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司