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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


sinfonia.2 ■ 再会-U







 逸る気持ちを抑える様に、勇太は百合に手渡されたメモを手にスマートフォンを取り出す。手馴れた手付きで操作をして百合の番号を登録する。
「…こんな所に草間さんが本当にいるのか…?」そんな事を呟きながらも、元々直感行動型の勇太に思慮深い行動はあまり得意ではない。「まっ、行けば解るよな!」







――

―――





「何処に行っていたの?」
 カツカツと足を踏み鳴らしながら歩いていた百合に、一人の少女が声をかける。金色の髪を頭の後ろで一本に束ねた赤眼の少女。外国人特有の独特な顔立ちをした少女は壁に背を預けながら腕を組んで立っていた。
「…アナタには関係ないでしょ」百合が不機嫌そうに答える。「“エヴァ”、アナタがやるべき仕事は私とは関係のない事。介入される筋合いはないわ」
「フフフ、いつもより随分饒舌ね…?」
「なっ…!」百合が振り返る。「そんな事ないわ!」
「らしくないわね、ユリ」エヴァと呼ばれた少女が静かに続ける。「こんな簡単な鎌にかかるなんて、ね」
「…バカにしないで」百合の目付きが鋭く光る。
「…ヒステリックは身を滅ぼすわよ、ユリ」エヴァが百合に歩み寄る。「それと、今回のA001の奪還は、私も参加する事になったわ」
「…どういう事? アイツは私の獲物よ!」
「盟主様の命令よ」
「…ッ、アンタに聞いても話にならないわ…」百合がそう言い捨てて歩き出す。
「盟主様に聞いても、結果は変わらないわよ」
「…何が言いたいの?」エヴァの言葉に振り向かずに百合が尋ねた。
「A001は私の霊子変換の技術の基となったオリジナル。私が興味を持ったから志願したのよ」
「…なんですって…? その能力なら、私にも―」
「―ユーの能力は所詮は模造品。オリジナルと違って、その能力が進化する事もないわ」エヴァが更に言葉を続ける。「それだけじゃない。一定の時間での薬の投与。ユーはあまりにも不完全よ」
「…ッ!」百合が何も言えず、ただギリっと歯を食い縛る。「随分バカにしてくれるわね、エヴァ…!」
「…悪いけど、それは盟主様の言葉よ」
「…ッ! 嘘よ…! あの方が私を…そんな…」百合の瞳孔が開き、言葉を漏らす。不意に襲った胸に走る激痛で、百合はその場で崩れる様に座り込みながらポケットに入った小さなケースから薬を取り出して急いで口の中へと放り込む。
 そんな百合を尻目に、エヴァが歩いて去っていく。
「…(…私…は…盟主様の為に…!)」





―――

――






「ドロップキーック!」
「ぐほぉ!」
 駆け寄った勇太が背後から武彦の背に綺麗にドロップキックをお見舞いする。前のめりに林の中をダイブする武彦に、思わず勇太は自分の勢いでの行動を後悔する。
「あ…はは…、やだなぁ…避けてよ…」
「…死にたいらしいな、勇太ぁ…」武彦が銃を取り出しながら口を開く。
「や、すんません! 冗談! 悪気はありましたけどありませんでした!」
「この野郎…」武彦が銃をしまいながら溜息を漏らす。「…ったく。で、何でこんなトコにいるんだ?」
「あ! そうだよ! 何で俺に内緒で一人で動いてるんですか!」
「あのなぁ、いきなりドロップキック入れてきたと思ったら、今度は唐突に膨れっ面でつっかかるな…」武彦が溜息混じりに呟く。「で、何の事だ?」
「あの凶暴なヤツがいきなり来て襲い掛かってきて、あの柴村ってアホ毛が綺麗になってて…! あ、でも胸はペッタンコのままだったけど!」
「意味がさっぱり解らん」




                       ―説明中―




「…“虚無の境界”が動き出したって事か…」
 結局武彦に全ての順を追って説明を迫られた勇太はあった事を全て一から説明させられ、武彦は煙草の紫煙を吐きながらそう呟いた。
「そうみたい…。草間さんは最近何してたんです?」
「あぁ、最近妖魔に関わる案件がやたらと多くてな」
「妖魔?」
「あぁ。あの狼の一件から、やたらと妖魔に関わる事件の依頼が立て続いていてな。気になる事があって、“凰翼島”にも顔を出してたんだが、案の定だった」
「あそこにも行ってたんだ…。でも、案の定って?」
「あぁ。エストが姿を消した」
「エスト…って、天使様!?」勇太が詰め寄る。
「そうだ。向こうでも魑魅魍魎や妖魔が出て来る事件が多発しているらしくてな」
「え、一体何が起きてるんですか?」
「…あの狼の事件は、“虚無の境界”が関わっていた可能性が高いっていうある噂があってな。裏付けは取れてないがな」
「“虚無の境界”が動いているなら、俺も一緒に動くよ!」勇太が口を開いた。
「悪いが、それは出来ない」
「え…?」
「勇太、俺から鬼鮫に連絡を取る。一度IO2と合流して、俺が戻るまで待機してるんだ」武彦がそう言って勇太を見つめた。「お前を狙ってくるのは五年前の虚無の境界の行動を見ていれば一目瞭然だ。俺が監視をしていても、IO2を離れた俺の言う事を鵜呑みにはしてくれないだろう」
「で、でも…! 草間さんと一緒なら、IO2だって無理には…――」
「――勇太、今回の事件。虚無の境界はまだその片鱗しか見せてないんだ。下手にIO2ともめる様な状態が続けば、かえって動きにくくなる」
「〜〜ッ!」
 勇太は思わず言葉を飲み込んだ。武彦の言う事はもっともだ。だが、それを頭で解っていても、納得はしたくない。勇太は武彦の顔から視線を逸らし、俯いた。不意に武彦がそんな勇太の頭をガシっと鷲掴みにしてグシャグシャと撫で回す。
「心配すんな、一時的に協力を乞うだけだ。俺もある程度調べ終わったらお前と合流する」
「な、何言ってんのさ! 解ってるよ、そんな事!」顔を赤くしながら勇太が声をあげて反論すると、武彦が笑ってみせた。
「なるべく自由に動ける様に取り計らってもらうつもりだが、どの程度までIO2がお前の自由を許すつもりなのか解らない。一度興信所に戻ってろ。“零”がいる筈だ」
「解った。草間さん、気を付けて!」
「お前に心配される程、なまっちゃいねぇよ」
 勇太がその場からテレポートで消える。それと同時に、武彦が深呼吸をして振り返る。
「…そろそろ出て来たらどうだ?」
「…気付いていたのね」太い樹の影から女が姿を現す。
「…成程、勇太も驚いた訳だ。随分と大人っぽくなったな、“柴村 百合”…」武彦が腰を落とし、構える。「一体何を考えてる? 勇太とコンタクトを取ってわざわざ俺の居場所を教えた理由は何だ?」
「ただの気まぐれよ」百合がクスっと小さく笑う。
「“巫浄 霧絵”の妄信者だったお前が、わざわざ俺達にメリットを与えるとは思えないんでな」
「…そうでしょうね…」寂しげな表情を浮かべながら百合が小さく呟く。「信じるか信じないかはアナタ次第だけど、情報をあげるわ。既に工藤 勇太を狙って、虚無の幹部が動き出してるわよ」
「…ッ」武彦が小さく舌打ちをする。「どういうつもりかは解らないが、どうやら嘘って訳でもなさそうだ。だが、どうしてお前が俺にそんな情報を与える?」
「私は…――」







――。






「工藤 勇太」
 草間興信所のあるいつもの雑居ビルへ進もうとした勇太に、突然一人の女性が声をかける。
「…外人…? 何で俺の名前を?」勇太が少女へと振り返る。
「…血縁者、叔父の“工藤 弦也”の元に引き取られ、その能力を隠しながら日々の生活を過ごす超能力者」
「…あんた、何者だ?」勇太の顔が険しくなる。
「五年前、“虚無の境界”に拉致された際、当時のディテクター“草間 武彦”に救出され、一度は穏やかな生活にその身を委ねていた」夕陽に染められた金色の髪を揺らしながら、少女が空に手を掲げる。「そして今、再びその能力を巡った運命に翻弄される」
「なっ…!」
 少女が掲げた手に真っ黒な影が集まり、巨大な鎌が具現化される。
「私の名は“エヴァ・ペルマネント”。“虚無の境界”によって生み出された、霊鬼兵。そして…」エヴァが鎌を持って構える。「ユーの能力を更に改良して造られた唯一の成功例よ」
「…俺の…って…!」
 瞬間、エヴァの振り下ろした鎌が地面を砕く。勇太は既に後ろへ飛び退いて避けていた。
「い、いきなり何すんだ! それに、アイツだって俺の能力を…!」
「アイツ? ユリの事かしら」エヴァが再び鎌を振り回しながら構える。「あの子は失敗作よ。副作用で薬を飲まなきゃ自分を保てすらしない」
「…ッ! そんな事に…!」
「ユリがいなければ、私は完成しなかった。そういう点では感謝してるけど、ね」
「…けんな」勇太の肩が震える。「フザけんな!」
 勇太の咆哮と共に、周囲に衝撃波が走る。
「…なんでユーが怒ってるの?」
「人の事犠牲にして、失敗作だと…?」勇太が真っ直ぐエヴァを見つめる。「アイツは…、確かにアホ毛で胸も小さいままで、性格も悪いけど…、失敗作なんかじゃねぇ!」
「お涙頂戴のセリフも、私には興味ないわ」エヴァの口元がニヤリと歪む。「A001、ユーの力を見せてもらうわよ―」
「―勇太、変わってない様で安心しました」
 ふわりと響いた声と共に、一筋の光り輝く札がエヴァ目掛けて飛んで行く。エヴァが鎌でそれを弾こうと触れた瞬間、鎌の具現化が解け、札の放った光りの中へと霧散していく。
「…神道…。悪霊を祓ったのね」エヴァが声の主を睨む。
「私の大事な方を利用しようとなどさせませんわ」声の主の女性が姿を現す。「久しぶりですね、勇太」
「…お前…!」




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