コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.19 ■ 激突、美香の成長







「―行くよ、ユリカ」
 美香の口角が小さく釣りあがる。
「消えた!」
「ユリカも動いた!」
 翔馬と百合が思わず口を開く。物音も立てずに一瞬で動き出す二人の速さについて行けず、全員が周囲を見回す。
「…上です」スノーが呟くと同時に、上空へと全員の視線が向けられる。
 ユリカが繰り出す素早く激しい連撃を美香が避けている。
「あんなの避けれねぇだろ…、普通…」翔馬が口を開けたまま呟く。
「反応速度と判断速度をあげている。ユリカは勿論の事だけど、美香がそんな事まで出来る様になっているとは思わなかったわ」
 百合の言葉と同時に、美香がユリカの連撃から逃れる様に地面へ降り立つ。と同時に、それを追うユリカが独特な衝撃音を奏でながら美香へと襲い掛かる。
「ソニックブームが来るぞ!」武彦が声をあげる。が、既にその場所には美香の姿はない。
 美香の立っていた位置に衝撃波が襲い掛かり、地面を抉る。そこに降り立つユリカに向かって、今度は横から独特な衝撃音が生まれる。ユリカが腕を十字に構えて防御しながら後方へとジャンプすると、ユリカの身体に襲い掛かった衝撃波がユリカの身体をそのまま吹き飛ばした。
「いった〜…」ユリカが着地しながら口を開く。「ったく、やってくれるじゃない!」
「…後ろに飛んで衝撃を吸収したのね」美香がユリカに向かって声をかける。「直撃したのに無傷なんて…」
「衝撃波は相手を地面や壁に叩き付けて初めて有効な攻撃になる。そう教えた筈よ。横からの攻撃としては勢いを吸収されてしまうわ」
「うん、解ってるよ」美香がそう告げると同時に地面に手を当てる。
「…っ! そっちが狙いね!」
 ユリカが思わず声をあげる。先程ユリカが受け流した衝撃波は地面にも触れていた。その証拠に、美香が“遅く”していた石や砂の礫が、美香が更に“加速”を加えると同時に一斉にユリカ目掛けて飛んでいく。ユリカがそれに気付き、上空へと飛んで退避するが、そこには既に美香が攻撃を仕掛けに向かっていた。
「はああぁぁ!」
「しまっ…――」
 美香の蹴りを直接受けたユリカの身体が地面へと叩き付けられる。舞い上がる砂塵を見つめながら、美香が再び地面へと降り立ち、砂塵の中を見つめる。

「…マジか…」翔馬の頬を一筋の汗が垂れ落ちる。
『凄まじい戦いでござるな…』
「そういえば百合っぺ。美香のヤツ、武器つけてねぇんだけど…」翔馬が声をかける。
「あのガントレットなら、壊れたわ」百合が答える。
「壊れた? まだそんなに使ってないだろ?」
「美香がユリカによって引き上げられた戦闘能力は見ての通り、通常の武器でまかなえる範囲をとっくに超えてるわ。いくら虚無が仕立てた武器でも、あれだけのスピードで振り回せば耐えられないわ」

「…速度調整に攻撃パターンの多彩さ、判断力は見事ね」砂塵の中からユリカの声が響き渡り、歩いて姿を現す。「人間がここまで能力を自分の物に出来る様になるなんて、思ってもいなかったわ」
「無傷なユリカに褒められても実感沸かないな…」乾いた笑いを浮かべながら美香が答える。
「お世辞で褒めたりはしないわ」ユリカもクスっと小さく笑う。「ここから先は、私の十八番で攻めるわよ」
「…ッ!」
 美香の反応が遅れ、ユリカが美香の身体を捕らえた拳を突き出す。直撃を免れようとユリカの腕を弾いた瞬間、美香は身体の違和感に気付いた。
「はぁっ!」ユリカの連撃を身体中に浴びせられ、ユリカが動きを止める。
 次の瞬間、速度を遅らされた身体が通常に戻り、更に追いかける様にユリカの蓮撃が衝撃が美香の身体を襲い、身体を吹き飛ばす。
「が…はっ…!」
「“速度の二重付与”。遅れたダメージが一斉に身体を襲うわ」ユリカが口を開く。「手加減はしてあげたけど、相当なダメージよ。諦めなさい」
「う…うぅ〜、いたた…」美香が立ち上がる。
「そこまで」百合が歩み寄り、声をかける。「驚いたわ。まさか美香がここまで戦える様になってるなんてね」
「ユリカのおかげ。だけど、全然敵わないなぁ…」
「日に日にアンタは強くなってるわ」ユリカが美香の頭をポンと叩く。「焦らなくて良いのよ」
「まだまだやれるんだからー」
『はいはい』ユリカの身体から美香へと白い光りが戻っていく。『また次回ね』





――。





 爽やかな夜風、とまではいかないが、昼の肌を突き刺す様な陽射しも夕闇に包まれ、涼しい風が吹き抜ける。これで湿度ももう少し低ければ心地良いだろうにと、惜しげに溜息を吐いた美香は庭に出ていた。
「…それぞれの実力は上がってる…。だけど、ううん…。だからかな、ちょっと怖い…」胸の前で手をキュっと握り締めた美香が呟いた。
『…何が怖いの?』ユリカが姿を現す。
「…“虚無の境界”の盟主。あの人は、こうなる事を予期していたんじゃないかなって」
『…全ては予想通りに進んでいる、ね…。だとしたら、どんだけ頭が回るんだか』ユリカがクスっと笑う。
「―…美香とユリカ。これ程までに相性の良い組み合わせはそうは出来ない筈。でも、もしもこうなる事すら予測した上で“巫浄 霧絵”が美香達を融合させたのだとしたら…」百合が歩み寄りながら口を開く。
「百合ちゃん…。聞こえてたんだ」
「えぇ。私もその考えが幾度となく頭の中を過ったわ。…更に数多くの魔神と人の融合体が生まれている可能性もある…ってね」
『ふーん。で、百合。アンタはどう思ってるの?』ユリカが尋ねる。
「私?」百合がきょとんとした顔を浮かべて尋ねる。
『そ。アンタ個人の意見としてはどうなの?』
「そうね…。美香達は特殊な例だと思うわ。いくら相性が良くても、ここまでお互いを補える関係になれる可能性はほぼ皆無に等しいわ。…けど」
「けど?」
「恐らく私達の裏切り行為には当初から気付いていた筈よ。何かしらの狙いで泳がされている可能性は否定出来ないわ」
『退屈だけど、慎重な答えね』ユリカが答える。『なら、アンタと美香に問題。もしも狙い通りだとしたら、どうすれば良いと思う?』
「情報が少ないわ」百合が答える。「情報を整えて、その裏をかくしかないわ」
『うん、百合らしい答えね。美香、アンタはどう?』
「狙い以上に強くなれば良いんじゃないかな?」
「え…?」百合が思わず口を開く。その横でユリカが小さく笑う。
「迷う事も立ち止まる事も、今は出来ないと思う。だったら、手に余るぐらいになっちゃえば大丈夫だと思う」
「…フ…」
『アッハッハッハ!』
「えっ!? 何で笑うのかな!?」突如笑い出した二人に、思わず美香が声をあげる。「変な事言ってる!? ねぇ! ちょっとー!」
 美香の問いかけに、二人は答えようとはしなかった。だが、二人が笑った理由は同じだった。美香の答えにおかしな所はないが、“美香”が言ったという事に、二人は笑っていた。最初に会った頃とはあまりに違う、美香のその心の強さに。












――

―――









 ―翌朝。朝食を食べ終えた六人は顔をつき合せる様に円となって座っていた。
「この数ヶ月、お互いのパートナーとの特訓でそれぞれの能力が上がった事は、昨日の組み手でよく解ったわ。なんとかギリギリで間に合った、といった所ね」百合が口を開く。
「間に合った?」翔馬が尋ねる。「一体何の話だ?」
「ディテクター、説明して」
「あぁ。IO2にいた頃の情報のやり取りをする方法があってな。そこから昨夜、色々と情報を盗んでいたんだが、どうやら再び連中が動き出すつもりらしい」武彦が地図を取り出す。「そこで、格パートナーと協力して、東京都庁を中心にしたこの三つのポイントで待機してもらう」
「何が起こるんです?」美香が尋ねる。
「この三つのポイントは、今回行われる召喚で利用するポイントの座標だそうだ。つまり、ガルムの時よりも大掛かりな召喚が行われる可能性があると考えてくれ」
「…一般人を巻き込む可能性もあると言う事、ですね…」スノーが口を開く。
『悪趣味な連中やな』
「Aポイントに俺と百合。Bポイントに翔馬とスノー。Cポイントに美香。このメンツで動く事になる」武彦が口を開く。「それぞれに何をどうするのか、細かい情報はピックアップ出来ていないが、恐らくは苛烈な戦場となるだろう。美香には悪いが、今回はユリカと二人で事に当たってくれ」
「解りました」
『ま、戦力的にしょうがないわね。即興で作ったペアより、この数ヶ月一緒に訓練したパートナーの方が良いって事ね』ユリカが口を開く。
「早速だが、時間がない。今夜からそれぞれの配置に百合に送ってもらう形になる。近くの道や建物だけ頭に入れておいてくれ」
「はい!」









―――

――








 薄暗い何処か洋風の館の様な室内で、一人の白衣を着た男が玉座の様に仰々しい造りをした椅子に座る女へと膝をついて頭を下げている。
「盟主様、どうやらネズミがダミーにかかった様です」
「そう…」“巫浄 霧絵”がクスっと口を歪ませて立ち上がる。「楽しくなるわね。何処に誰が来るのかしらね…。エヴァ、ファング」
「はい」エヴァが返事をする。その横でファングも静かに霧絵を見つめる。
「今回のゲーム、私も参加するわ」
「なっ、盟主様自ら…!?」不意に膝をついていた科学者が声をあげる。
「フフフ、誰が私とダンスしてくれるのかしらね…」





           ――不気味な笑みを浮かべて、三人が動き出そうとしていた。






                                              to be countinued...



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


いつも有難う御座います、白神 怜司です。

都合により、美香さん以外の組み手はカットです←
という事で、今回はこんな急展開を織り込んだストーリーでしたが、
お楽しみ頂ければ幸いです。

誰が誰とぶつかるのか…。
これは少々悩み所ですが、ある意味既に構成はあったり…w
もし希望がありましたらぶつけて下さいねw


それでは、今後とも宜しくお願い致します〜。

白神 怜司