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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.20 ■ 対峙する盟主







 誰もいない建設中のビル。骨組みだけが組み立てられ、その建物は静かに佇んでいた。武彦と百合はそんなビルの中に入り込み、中を調べていた。
「…ここに来たのね、百合」
 百合と武彦の元へと歩み寄りながら、金髪の少女が口を開いた。
「やれやれ、何でよりによって…」百合が溜息を漏らしながら声の主を睨み付ける。「エヴァ、また会ったわね」
「エヴァ・ペルマネント。虚無の境界の最新型の霊鬼兵がこんな所にいるとはな」武彦がエヴァを見つめて口を開く。「さすがに見逃してはくれなさそうだな」
「巡り合せに感謝する事ね。今頃、誰が盟主と対峙しているのか楽しみだわ」
「盟主…!? まさか、“巫浄 霧絵”が何処かに参加してるってのか!?」
「エヴァ、盟主は何処にいるの?」
「教えてあげる必要はないでしょ?」嘲笑を浮かべる様にエヴァが百合を見つめる。「でも、ちょうど良かったわ。ユーはこの手で処分する」
「…今回は前回と違って、それなりに本気みたいね、エヴァ…」百合がエヴァを見つめて小さく笑う。
「それにしてもダミーの情報に引っかかるなんて、らしくないわね」
「ダミー…?」
「今回ユーが搾取した情報。つまり、ここへの誘導は完全な私達のトラップなのよ」
「…チッ、やられたって訳ね…」
「数ヶ月、泳がせた“成果”を見せてもらうわよ」エヴァが大鎌を具現化する。
「成程。ここ最近、動きを見せねぇと思ったら、泳がされてたって訳か…」武彦が溜息混じりに呟く。「ま、何となくそんな気はしていたけどな」
「そうね。じゃなければ、翔馬の存在を知られているのに調べに来ない筈もないもの」百合がクスっと笑う。「エヴァ。あんた達がどういう意図で泳がせたつもりなのかは知った事じゃないけど、後悔させてあげるわ」









――

―――







 一方、その頃翔馬とスノーは廃校となったばかりの小学校を訪れていた。
「小学校が廃校、か…」翔馬が呟く。
「少子化が進んでいる事、平均的な晩婚化…。潰れても仕方ない…」スノーが小さく呟く。
 二人は廃校の中、体育館へと足を踏み入れた。まだ廃校となったばかりの小学校なだけだが、無人の体育館というのもなかなか不気味な雰囲気を漂わせている事に間違いはなかった。
「この前の借りを返す良い機会だな。大鎌使いの女…」
 野太い声が響き渡る。広々とした体育館に、足音を鳴り響かせながら、一人の男が姿を現した。
「…虚無の境界、ファング…」
『なんや、またアイツかいな…』
「おいおい、無視されてるよ、俺」翔馬がスノーの隣りで自嘲的な笑みを浮かべながら呟いた。「男子三日会わざるば利目して見よ、だっけか?」
『うむ。そう言ってやると良いでござるよ、翔馬殿』
「フン、そこまで言うなら見せてみろ…」ファングの口元が小さく歪む。「退屈させてくれるなよ…!」

 










――

―――








「Cポイントって…こんなトコだったんだ…」
『肝試しでもする?』笑いながらユリカが口を挟む。
 随分と前に封鎖されたボウリング場とパチンコ屋の併設した建物。そこに、美香とユリカは百合に送られて訪れていた。薄暗く、心霊スポットとして有名になりかねない廃墟。既に雑草が手入れもなく育ち、建物にも巻きついている。
『悪趣味な連中は、悪趣味な場所を好む傾向でもあるのかしらねぇ』
「あはは…、ユリカ言い過ぎだよ?」
『いかにもって感じじゃないの』ユリカが周囲を見回す。『でもそうなると、他の連中はどんな所にいるのか気になるわよね』
「どういう事?」
『私達だけ貧乏クジでこんな辛気臭い場所だったりするかもよ?』
「そ、それは解らないけど…」
『このムシ暑いのにクーラーも風通しも悪い劣悪環境よ? 勘弁して欲しいぐらいだけどね…』
「クーラーぐらいついて欲しい気持ちは解るかもなぁ…」美香が額に触れる。「汗ばむよ〜…」
『美香、私こんな所で具現化しないからね』
「酷っ!? っていうか具現化しなければ暑さとか感じないんじゃ…?」
『そうよ。だから今日は私お休みー』
「ずるいー!」
 緊張感のかけらもない二人の会話を遮る様に、コツコツと踵を踏み鳴らす音が聞こえてくる。どうやら何者かが歩み寄ってきている様だ。
『…誰か来るわね』
「隠れなくちゃ…」
「その必要はないわ」クスクスと笑いながら美香の目の前に姿を現した一人の女性。その瞬間、美香の背筋にゾクっと冷たい悪寒が駆け抜ける。
「…あなたは…」
「久しぶり、とでも言うべきかしら? 深沢 美香さん」
 緑色の髪に赤い瞳。そして、独特な雰囲気を放った女性。周囲を取り巻く空気が怨念に満ちている。
「…“虚無の境界”の盟主、“巫浄 霧絵”さん…でしたね」静かに美香が呟く。
「…少し会わない間に随分と強い心を持った様ね。まるで別人…」霧絵が美香を見つめる。
「…私は、あなたに感謝しています。ユリカと出逢えたおかげで、私は戦える様になった。こうして、あなたと対峙しても、負ける気がしない」
 険しい表情で霧絵を見つめる美香と、余裕を浮かべた霧絵が対峙する。
「…そう…。“魔神”との融合を果たし、力を手に入れて共存出来る存在。器として、適合者としてそこまでの成果を出せる存在はそうはいないわ…。既に何人もの人間が、“当初の予定通り”の姿になっているもの」
『当初の予定通り…?』
「えぇ。魔神に魂を喰われ、肉体のみを提供する。言うなれば、器としての役割しか果たさない存在。それは即ち、この世界へ魔神を召喚した事と同じ」
「…器になった人はどうなるんです?」
「どうって、魂を失ったらもう還って来れないわ」
『気に喰わないやり方ね』ユリカが美香の隣りに姿を具現化する。「でも、私達はアンタの思惑から外れて、こうしてお互いの姿と魂を守って具現化出来た。アンタが用意した、人間の肉体を容器にした魔神達とは違う」
「それがどうしたのかしら?」霧絵がクスっと笑いながらユリカを見つめる。
「人間の身体を器にしたって、私達の力に耐えられる訳ない。つまり、中途半端な能力しか引き出せないって事よ」
「フフフ、愚かね」
「…どういう意味?」ユリカが真っ直ぐ霧絵を睨み付ける。
「確かに人間の器が、魔神の本当の力に耐え切れる筈がない。魔神達は力を半分以下までしか発揮出来ない“器”に不満を漏らすわ。そこで、その器をベースに、肉体を霊鬼兵として作り変える」
「…肉体を作り変える…!?」
「そうよ。その能力に応じた肉体を与え、本来の力を使役出来る状態を作り上げる。人間の肉体がベースとなる霊鬼兵は、核となる者の精神や能力をそのままに、完全な肉体を手に入れるわ」
「…つまり、定着した“器”すらも作り変える事で更に完全な形の魔神を作り上げている…」美香が呟く。「でも、そんな事をすれば…」
「美香の言う通りね。そんな事をすれば、アンタの言う事を聞く必要はなくなる筈よ。飼い犬に手を噛まれたいの?」
「その心配はないわ…。彼らは私の与える“薬”を服用しないと、肉体を失う事になる。つまり彼らは私の言う事を聞いているからこそ、自由な身体を手にしていられるのよ」
「…まるで、神にでもなったつもりね」ユリカが腰を落とす。「やっぱりいけ好かないわ、アンタ。この場で二度と悪さ出来なくしてあげる」
「待って、ユリカ」ユリカの前に手を伸ばし、美香が霧絵を見つめる。「どうしてあなたは、そんな事をわざわざ私に教えるんですか?」
「…ゲームを盛り上げるには、多少のリスクという名のスパイスも必要なのよ」霧絵が背を向ける。「百合の裏切りも、貴方の力の成長も、私にとっては楽しむ材料の一つ。この場で刈り取る事は容易いけど、それじゃゲームが成り立たないわ」
「刈り取る? やれるモンならやってみなさいよ!」ユリカが霧絵に襲いかかろうと接近する。
 その瞬間、霧絵の隣りに真っ黒な扉が開かれ、中には闇が溢れている。その中からユリカの殴りかかった手を掴んだ誰かの手。そして闇の中から、ユリカの手を掴んだ男が這い出る様に姿を現した。
「…ッ!」
「チッ…!」ユリカが腕を振りほどいて美香の隣りへと飛び退く。「美香、ここでアイツを叩くわよ」
「残念だけど、私もゆっくりとは遊べないのよ」霧絵が地面へと手を翳すと、足元に真っ黒な闇に染まった空間が生まれ、霧絵の身体が沈んでいく。「さぁ、ゲーム開始よ」





 それぞれの場所で、再び新たな死闘が繰り広げられようとしていた…。


 
                                               to be countinued...




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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

さてさて、ついに新しいストーリーの発端が
巻き起ころうとしている訳です…!

当初の予定通り、美香さんと霧絵の正面衝突です…!
ここに来て漸く真正面に互いを見据える事になりました…。


楽しんで頂ければ幸いです。


夏バテになりそうで、まだまだ残暑も厳しいですが、
体調・お体にはお気をつけください。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司