コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


セレシュお姉ちゃん奮闘記-T






『件名:引き取れ


 本文:あんたの送り返してきた手鏡がちょっとおかしな事になってる。』



「手鏡言うたら、あれの事?」
 営業を終えたセレシュが携帯電話に送られてきたメールを見つめて呟く。差出人は相変わらずの文を送る、蓮から届いたものだった。
 兎にも角にも、行ってみなくてはままならない。セレシュは営業を終えた店内の片付けを済ませると、さっさと携帯電話をポケットに突っ込んで店を後にした。メールが届いたばかりだと言う事もあり、急ぎでもないのでセレシュは歩いてアンティークショップ・レンへと向かう。

『なるべく急ぎじゃなければ一般人と同じ行動方法で移動する事!』

 セレシュがこの人間達の暮らす社会で生き延びる方針となっている。前回は急ぎで向かうからこその呪具を使用したが、あれはたまに行う程度で普段は極力使わない方針の下で生活をしている。同水準の能力や技術を持つ者に見つかっても面倒しか起きない。それを嫌っているだけとも思えるが…。





 アンティークショップ・レン。相変わらずの胡散臭さを漂わせる店内へとセレシュが訪れる。店のドアを開けると、不機嫌そうに蓮がいつものキセルを手に、机の上に手鏡を置いてセレシュを睨み付ける。
「どうなってんだい、これ?」
「何や、姐さん。随分不機嫌そうやないですかー」セレシュがお構いなしに店内に目新しい物はないか見回りながら答えた。
「不機嫌にもなるさね。こいつの周りでおかしな事ばっかり起きて、隔離してるトコだよ」
「おかしな事?」セレシュが漸く蓮の前に歩み寄る。「何が起きてるんです?」
「周りの呪具やらと呼応して暴走させるのさ。おかげで幾つかの商売道具もダメになった。あんた、責任持って引き取りな」
「元々姐さんのモンですやん」
「それに付喪神宿して送り返す様な真似をしたのはあんただろう?」
「それはそうですけど…」セレシュが手鏡を手に取る。「付喪神化が進行してるだけですし、似た様なもんはぎょうさんありますやん、ここ〜」
「面倒臭そうに解り易いぐらい渋ってくれるじゃないか…」
「せやかて、姐さんが最初にうちに送って来たんやし、姐さんにも責任あるやんかー」口を尖らせながらセレシュが文句を言う。
「引き取るのが嫌なら処分しとくれ。このままウチに置いてても迷惑だよ」
「うわっ、そないな事言うたら可哀想や」
「何? 文句ある訳?」蓮の眉間に皺が寄る。
「あ…はは、姐さん皺増えますよ〜?」セレシュの言葉に更に蓮の目付きが険しくなる。「怒らんといてよー。ほな持って帰るから、な?」
「フン、最初から素直にそうすれば良いんだよ」蓮が迷惑そうに呟く。「ほらほら、帰った帰った」









――

―――






「――って言われても、何が起きてるんか解らへんしなぁ…」
 蓮の凄みに負け、セレシュは結局手鏡を持ち帰る事にしたのだった。だが、付喪神化のここまでの進行は珍しいには珍しい。興味がなかった訳ではなかった為、結局処分もせず、セレシュの自宅にある地下の工房に置き、様子を見る事にした。
「一体何が起きてるんやろ、これ…」
 付喪神化が進行しているとは言え、この状態では何とも判断しようがない。セレシュはとりあえず手鏡の様子を見るべく、その日一晩は工房に置いたまま、様子を窺う事にした。蓮の言う通りに不思議な現象が起こるとすれば、人が寝静まる深夜。そこから変化が起きるのであれば、それを待つしかないだろう。


 ―深夜になり、セレシュは周囲の妖気が乱れ始めている事に気が付き、目を醒ました。眼鏡をかけ、電気をつけて階段を降りる。やはり工房で何かが起きているらしい。中からはガサガサと音が聞こえてくる。セレシュは恐れる事もなくさっさと扉を開けた。
「…子供?」
 思わずセレシュが目を疑う。目の前には小学校一年生前後程度の男の子が立ってビクっと身体を震わせていた。が、その子供は明らかに人間ではない。付喪神化が進み、人化する能力を得た様だ。妖気に満ちた雰囲気がセレシュの推論を裏づけする。
「人の記憶を覗き、人の心を見てきた道具。まぁ人間の思念は強くなるんは解るんやけど、まさか人化するとは思わんかったわ…」セレシュはまじまじと見つめながら少年を見つめた。「しっかし面白いなぁ。日本人らしい顔しとんのに、目は赤みがかっとる…」
「…ッ…!?」ビクビクとしながらセレシュを見つめる。
「なんや、自分言葉解らんの?」
「……」フルフルと首を横に振りながら少年が答える。
「解るんやったら喋りや」
「…ぼくは…誰…?」
「何言うとんねん、自分」セレシュが手鏡を手に取る。「これが自分の大元や」
「…おお…もと…?」
「せやで。自分は、この手鏡についとる付喪神の一人や。人間の姿や思念の影響を受けて、そないな姿になったんやろうけどな。手鏡っちゅーのは人の顔を映すモンやからな」
「……?」
「どっちにしても、人間やない。何で人の形になったんかは解らんけど、姐さんの言う通り、周囲の妖気を乱すだけの資質はあるみたいやなぁ」セレシュが周囲の呪具を見つめると、明らかにいつもとは違った小さな能力の暴走を起こしている。
「…セレシュ…。ゴルゴーン…」
「そないな事も解るんか?」
「…その眼鏡が、教えてくれた…」
「はー、便利な能力やなぁ。物についた小さな霊の声やら付喪神の言葉も聞けるんかぁ…」
「……?」
「まぁその話しはえぇわ」セレシュが少年の姿をした付喪神を見つめる。「自分、これからどないするつもりや? 人として生きたいんか、それとも物として生きたいんか。決めるのは自分やで」
「…ぼく…は…、人が好き…」付喪神の顔が少し優しく微笑む。「温かい…」
「せやったら人として生きたいっちゅー訳やな?」
 セレシュの問いに、付喪神がコクリと頷く。それを見たセレシュが近くにあったテーブルからゴソゴソと何かを取り出す。小さなペンダントだ。
「……?」
「自分の力をコントロール出来ひん内は、人化してる間はこれをつけとき。妖気を身につけてる物の外に出さん為のペンダントや」
「ぺんだんと…?」
「オシャレの一つやとでも思っとけばえぇやろ。とにかく、人として生きるなら色々覚えなあかん。うちが色々教えたる」セレシュが胸をポンと叩いてそう告げると。少年の顔が笑顔になる。
「ありがとう、セレシュ…」
「セレシュ“お姉ちゃん”や」
「セレシュお姉ちゃん…」
「そや。今日からうちの弟や」
「おとうと…」
「にしたって、自分名前もないんか…」セレシュが付喪神を見つめて呟く。「目の色が日本人とはちゃうし、迷うなぁ…」
「なまえ…?」
「ま、気長に考えよか」セレシュはペンダントを付喪神の首にかけ、小さく笑って頭を撫でた。付喪神の顔が笑顔になる。「それで、いつから人化出来る様になったん?」
「…三回目」と言いながら付喪神の指は二本しか立っていない。
「どっちやねん」
「…三回?」
「いや、減ってどうすんねん。三はこうや」
「うん、三回…」
「基本的な事から教えなあかんかもなぁ…」思わずセレシュが小さく溜息をつく。「どれぐらいの時間、人化してられるん?」
「…よく、解らない」
「んー…、進行具合からして、姐さんのトコにおった昨日よりも今日の方が長くなってる可能性もあるって事やな…。いつかは意図してずっと人化も出来る様になるんやけど、まだまだ人間との交流は避けるべきやなぁ…」
「…? セレシュおねちゃん?」
「お姉ちゃん、や。ま、えぇわ。暫くは夜中は一緒に色々勉強や。それまで、うち以外とは会わん事。うちがオーケー出すまで、それは守るんやで」
「うん…」
「それと、人間に付喪神や妖魔なんて事言うのもあかん。うちが教えて良いって言わん限りは絶対教えちゃあかんよ」
「うん」
「えぇ子や」再びセレシュが付喪神の頭を撫でる。「今日は挨拶だけや。その辺に置いてあるもん勝手に見るんは構わんけど、ちゃんと見たら元の場所になおしといてな」
「なおす?」
「片付けるっちゅー事。うちは寝るから、明日また色々教えたる。勝手にこの部屋から出たらあかんよ」
「うん」





 こうして、セレシュと付喪神の奇妙な生活は始まろうとしていた…――。




                                          to be countinued....



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。


さてさて、今回は一応何部かに分かれてお話しを書かせて頂こうと思い、
こうして第一部という形にさせて頂きました。

楽しんで頂けたら幸いです。

今後の展開と、付喪神の少年の呼び名の提案も頂ければと思い、
今回は名前の確定はしませんでした。

と、言う事で次回を私自身も楽しみにさせて頂いております。

今後とも、宜しくお願い致します。

白神 怜司