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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.21 ■ 魔神、戻れない選択







■■Bポイント・廃校体育館■■






「スサノオ、行くぞ!」
『御意!』
 スサノオの身体が翔馬と重なり、霊気を具現化した鎧と刀を纏う。
『あのアホンダラ、最初っから飛ばすつもりかい』
「敵の強さは本物…。ヘゲル、私達も本気にならなきゃ…」
『…せやな。パワータイプの相手や。一発でももらったらヘタ打って致命傷や』
 ヘゲルから放たれる冷たい冷気が周囲を覆う。
「それなりに俺も本気を出せそうだ…」ファングが身体に力を込めると、徐々にその姿が変わっていく。
「…何だ、ありゃ…」
『獅子でござるな…。やはりあの者、以前は本気ですらなかったという事でござるな』
 スサノオの声が指す通り、ファングの身体は獰猛な獣の様に姿を変えた。仁王立ちする獅子。銀色の毛が光り、その姿はまるで造り物の彫像の様だ。
『ハデなやっちゃな』
「魔獣…」
「油断出来る立場か、小僧共」
 ファングが腕を振ると、独特な甲高い音が放たれる。
『あかん、真空波や!』
 ヘゲルの声を聞いたスノーが高く舞い上がり、寸での所で横へと避ける。翔馬もまた、なんとか飛び越え、事無きを得るが、体育館の壁には横に伸びた穴が空く。
「ほう、良い読みだな」
「前会った時はアイツが本気でもなかったのに、俺達はやられた。今回は本気か」翔馬が刀をファングへと向ける。「こっちも前とは違うんでな。簡単に勝てると思うなよ!」
 翔馬がファング目掛けて突き進む。
「フォローするよ、ヘゲル」
『ったく、手間のかかるガキやな!』
 ファングが右腕を掲げた所に、スノーが間合いを詰め右腕を斬り崩そうとヘゲルを振る。が、甲高い金属のぶつかる様な音を立ててヘゲルが腕に傷一つ与えられずに動きを止める。
「非力だな」ファングがお構いなしに腕を振る。ヘゲルもろともスノーが投げ飛ばされ、更に真空波が翔馬へと襲い掛かる。
「おっらぁ!」翔馬が具現化された刀を振り上げ、ファングの放った真空波を真っ二つに斬り裂き、ファングの目の前で飛び上がる。「うおおぉぉ!」
「―ッ! チッ」
 寸前、ファングがその巨大な身体に似つかわしくない素早い動きで翔馬の太刀筋から身体を逃がす。ファングの予測が当たったかの様に、その太刀筋の先にあった地面が衝撃によって崩れる。
「良い読みだな、アンタも」翔馬がファングを睨み付ける。
「…確かに、それなりに変わった様だな」ファングの口角がニヤリと上がる。「スピードを操るあの小娘と、パワータイプである貴様。成る程、互いの短所を補うか。良いチームだ」
『おう、オッサン。誰がチームやねん。翔馬のアホンダラは下僕や』
「…硬い皮膚。更にその皮膚を覆う金属の様な毛。シンプルな斬撃は通用しそうにないですね…」
 スノーがヘゲルを構え、目を閉じる。ヘゲルから青白い光りが放たれ、一斉に周囲の地面を凍らせ始める。
「楽しめそうだ…」










■□Aポイント・建設中のビル□■







 骨組みだけの不恰好なビルの中から、銃声が響き渡る。
「クソ、キリがねぇ!」武彦が思わず声をあげる。
 対峙しているエヴァがその場に喚び出した怨霊達。真っ黒な身体をした気味の悪い怨霊を次々撃ち抜きながら武彦が周囲を見渡す。数十体はいるだろう怨霊達を消しては、すぐにエヴァが召喚を繰り返す。
「高みの見物って訳ね。こっちを見てるだけなんて、良い度胸してるわ」武彦の隣りへと百合が飛び、エヴァを睨んで呟く。「目にもの見せてやるわ。ディテクター!」
 百合が掛け声と共に空間に扉を作り、武彦がそこへ飛び込む。更に百合がもう一箇所の空間を開き、そのまま武彦が入り込んだ最初の扉へと飛び込む。
「―ッ!」
 百合が飛び込んだ瞬間、開かれたもう一方の扉から大量の水が濁流となって現われ、怨霊を飲み込みながらエヴァへと襲い掛かる。一瞬で逃げ場を失くす程の大量の水が骨組みだけのビルから外へと流れ出す。
「なるほど、考えたな」先程までいた階より更に下の階で流れていく水を見つめながら武彦が呟く。
「海に直結してやったのよ」百合がパチンと指を鳴らすと、暫くして水が止まる。「雑魚を一蹴するぐらいにはなるでしょ」
「―相変わらず悪知恵だけは達者ね、百合」風を切る音と共に、エヴァが現われて百合の首元を大鎌で斬りかかる。が、エヴァの鎌は何の抵抗もなく百合の首を通り抜け、鎌はそのまま地面を薙ぎ払う。百合は避ける事もせずにそのままエヴァに銃口を向けて至近距離から銃を放つが、エヴァは鎌を振り回した反動を利用して身体を逸らせ、百合から距離を取る。
「…確かに捉えた筈だった、とでも言いたそうね」百合がエヴァに再び銃口を向ける。
「…今の一瞬で身体に密着した空間を繋ぎ変えた…?」エヴァが呟く。
「ご明察。泳がせた成果を見せろと言ったわね。お望み通り、見せてあげるわ。ここでエヴァ、アナタを破壊する事で、ね」
「…フフ、盟主様の言った通りの結果になりそうね」エヴァが小さく笑う。「この数ヶ月、泳がせた事によってユー達は実力をつける。私達を止める為に、分散された勢力でも対抗出来る様に。でも、その為には百合。ユーのその能力が鍵となる」
「…確かに、空間転移はアナタ達との圧倒的な兵力差を補う為に必要よ。でも、もう私は鍵でも何でもないわ」百合が自嘲する様に笑う。「私はどちらかと言えばただの補佐役。発端は私かもしれないけど、“鍵”は本人以外、暗黙の了解で皆承知しているのよ」
「あぁ、そうだな」武彦が小さく笑う。「当の本人は解ってないんだか謙遜してるつもりなんだか…」
「…まさか、あの子だとでも言うつもり?」
「そのまさか、よ」百合が笑って答える。「盟主が出て来てると言ったわね。だとしたら、是非あの子とぶつかって欲しいわね」
「鍵だと言うのに、盟主様と?」
「あの子だけだからよ。今、盟主と戦って対抗出来得るのがね」
 







□□Cポイント・遊戯場、元パチンコ店ホール□□







「あっつー」
 ユリカがボヤく様に呟いた。無理もない。劣悪な環境もさる事ながら、霧絵によって出された魔神が、よりにもよって炎の魔神。館内はまるでサウナの様な暑さだ。炎が立ち込める中、男はその姿を何処かに潜めている。
「見つけた」美香が姿を消す様に炎の魔神に魂を喰われた男の背後へと移動し、男の身体を衝撃波を利用して吹き飛ばす。「ユリカ、酸素がなくなる前に外に出るよ!」
「はいはい」
 吹き飛ばされた魔神がガラスを突き破って外へと投げ出される。傷だらけの身体だと言うのに、それでも気味の悪い笑みを浮かべて追ってくるユリカと美香を見つめている。身体から再び炎を生み出し、その手を二人に向かって翳す。地面を薙ぎ払いながら炎が二人に向かって襲い掛かる。が、二人がその程度の速度に対応出来ない訳がなかった。ユリカが先手を取り、男の目の前に姿を現す。
「同士として、責任持って送り返してあげるわ」男の身体に触れ、速度を遅くした後で放つ連撃を与え、上空へと投げ飛ばす。「美香」
 上空に投げ飛ばされた男に向かって美香が更に上空から落下を加速し、ソニックウェーブを放つ。ユリカがスッと横へ移動すると同時に美香が強烈な衝撃波もろもと地面に男を叩き付ける。激しい音を立てて男とその周囲の地面が陥没する。
「一丁あがり。魔神に魂を喰わせた割に、大した事ないわね」ユリカが男を見つめて呟く。
「…見ているだけ、ですか?」美香が着地をした後で、振り返りながら口を開いた。振り返った先には霧絵が立っていた。
「失敗作じゃ、相手にならないみたいね…」霧絵がクスクスと笑う。「使い捨ての駒としては、合格だけどね…」
「…悲しい人」美香が静かに口を開く。「世界を“虚無”にする。人を駒として、玩具の様に扱う。あなたは、一体何を恐れてるの?」
「…私に説教でもするつもり?」
「それであなたが止まってくれるなら、私はそうする」
「美香…」
「笑わせないで」霧絵の笑みが消える。「恐れ? そんなもの、私にはないわ。必要もない」
「違う。あなたは本当は恐れてる。だから、何も恐れていないと振舞うの」
「…くどい子ね」霧絵が手を翳すと、美香に向かって怨霊が一直線の刃となって襲い掛かる。が、美香の目の前でそれをユリカが右腕一本で弾き飛ばす。
「口で負けそうになって、手を上げる。典型的な負けず嫌いな性格してるわね、アンタ」ユリカが睨み付ける。「魔神同士の交流なんてない。けどね、弄ばれる為にこの世界に具現化された同士として、アンタのやり方は気に喰わない。ぶっ潰すわ」
「…ッ」
 霧絵の様子が変わる。明らかに何かを押し殺す様に、ギリっと歯を食い縛っている。
「やれやれ、何を手こずっている」
「―ッ!」
 不意にサングラスをかけた男が横から声をかけてくる。今の今まで気配もなかったその男は、白い独特な形をした鞘に手をかけ、そこから刀を抜く。
「…手を貸してくれるのかしら?」霧絵が声をかける。「IO2の鬼鮫」
「フン、今おまえに死なれては困るだけだ」鬼鮫がユリカと美香を睨み付ける。「そういう訳でな。相手になる」








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いつもご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

激闘のEp21でしたが、お楽しみ頂ければ幸いです。

そうそう、狼編での“魔族”ですが、これは今後の物語に
なかなか深く関わってくるのですが、まさか見つけるとは…w
いつかストーリーを全て先に読まれてしまうんじゃないだろうか、と
思わず息を呑みました←

御心配有難う御座いました。
なんとか夏バテも解消しまして、バッチリ生きてます(笑)

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司