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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


sinfonia.4 ■ 不確定事項






「俺にも解らないよ…」勇太は動揺を隠せず、頭を掻き毟る。「何でIO2の動向を探る必要があるんだろう…」
「IO2の動向…」
「凛、IO2にいるんだろ? 何か知ってるんじゃないのか!?」
「残念ながら、私は何も…。ただ、勇太の知り合いだという事を鬼鮫さんに知られているので、今回の警護には私を推薦して頂いただけですので…」
「…そっか、鬼鮫は俺と凛が出会った凰翼島にいた。それを知っている…。だとすれば、IO2は別に何もしていない…?」
「可能性の話しなので、憶測を脱しきれませんが…」凛が口を開く。「もしもIO2が何かを企てているのなら、勇太をIO2からも隔離出来る環境に置く為に、私と共にいさせる様に鬼鮫さんが取り計らった可能性もありますね」
「鬼鮫が…?」
「えぇ。あの方に世話になっていた頃、何度も勇太の事を気にかけていました。あの方が敵になる様な事態があるとは思えません…」
「…もしくは、草間さんが柴村に騙されているって可能性もあるのか…」
 二人が溜息を吐く。今こうしてここで話していても埒が明かないのは解っているが、ヘタに動けない様にこの場所へ連れて来られたのも事実だ。手が塞がった状態だ。
「…勇太、私を疑ってますか?」ジっと見つめながら凛が不意に尋ねる。
「…ううん、凛は俺を騙す様な事はしないだろ?」勇太の言葉に凛の顔がパアっと明るくなる。
「はいっ」
「でも、IO2の動向を探るって、一体何をどうすりゃ良いんだろう…」勇太が再び考え込む様に呟く。
「今は従いながら探る事しか出来ませんね…。エスト様に知恵をお借り出来れば良いのですけど…」凛が呟く。
「…それだ…! 天使様に状況を説明してみよう! でも、ここに来る事を今IO2に知られるのもマズいよな…。草間さんの話だと、今は信用しきっちゃう訳にもいかなそうだし…」
「テレパシー等で話せれば一番良いのですが…」
「いや、それはちょっと難しいかな…。俺のテレパシーは距離とかが解らないと無駄に思念ばっかり拾っちゃって…」
「…だったら、妙案があります」凛が不意に目を輝かせる。
「…名案、じゃなくて妙案って…?」





――。




「……っ」
 心臓が強く脈打つ。人生で初めての体験に、思わず勇太の心臓が高鳴る。
「…ん…」
「――ッ!」
 振り向いてしまえば、すぐ目の前に凛の顔がある。凛の“妙案”とは、確かに妙だったと言わざるを得ない。今、ベッドで横になっている。振り返ると目の前には凛の整った顔がすぐ傍にさえなければ、これほどの至福の時はないのだが、今の勇太は既に生命の危機を感じさせる程の心臓の高鳴りが脈打っている。
「…た、確かに…急いで連絡取りたいけど…。う、腕枕とか…俺が眠れないんですけど…」
 そんな勇太を他所に、凛はすっかりと眠りこけている。
「よ、よし…、今の内に…―」勇太がそーっと凛を起こさない様に腕を引き抜く。
「―ん…勇太…」勇太の服をギュっと掴む凛。だが、どうやらまだ寝ているらしい。
「な…なんだ、寝てるのか…」
 凛の手をそっと握り、手を離させてベッドから立ち上がる。どうにかベッドから抜け出した勇太は物音を立てない様にそっとテレポートで隣りの部屋へと移動した。
「…うはぁ…、助かった…。心臓に悪いよ、ったく…」
「あら、起きたのですね」
「いや、むしろ寝れないでしょ…。凛の隣りで…って――」
「せっかく二人の初夜を邪魔すまいと静かに入っていたのですが…」
「て、天使様!?」
「お久しぶりですね、勇太さん」にっこりと微笑みながらエストがお茶を口にする。
「…って事は…失敗…?」
「凛から聞きましたよ。IO2の動向を探る様に、草間さんから言われたので何処かで合流するべき、と」
「なのに、何でここにいるんですか…?」
「凛が私の元へ来たのはつい先程ですので。随分嬉しそうだったので訳を聞いたら、勇太さんの腕の中で眠っていると…――」
「―もう良いから! …はぁ…」勇太が思わず溜息を吐く。「って事は、凛のヤツ、暫く起きてたんだ…」
「ですが、事態は一刻を争いますね…」不意にエストの表情が険しくなる。
「な、何か知ってるんです――」
「―勇太さん、早く凛の元へ行って初夜を…」
「…は?」
「年頃の若い男女が同じベッドにいながら過ちがないなんてそんな事…」呆れた様にエストが溜息を漏らす。「さぁ、私は気にせず、契りを…」
「…失礼ですけど、馬鹿ですか?」
「オホホ、冗談です」そう言ってエストが深呼吸する。「心配しないで下さい。私達が合流した所で、IO2が危惧する可能性があるなら草間さんもそう考える筈です」
「あ…、そっか…」
「それに、私もIO2には少々用事があります」
「で、でも、草間さんは探れって…」
「えぇ。ですから、懐に飛び込む必要があるのです。IO2が情報を漏らしてくれるのを待っていては、何も始まりませんよ」
「懐に飛び込む…?」
「そうです。明日、恐らく鬼鮫さんに連れられ、貴方達はIO2東京本部へと行く形になる筈。そこに私も同席します」
「IO2東京本部へ…? で、でも、何で天使様がそんな事…」
「エスト、と呼んで下さい」
「え、あ、エスト様が何でそんな事を知ってるんですか?」
「鬼鮫さんとはメル友です」エストが携帯電話を取り出して勇太に見せる。
「…は…?」
「と言うのは冗談ですが、あの二年前の事件をきっかけに“凰翼島”の妖魔の管理を任された私と凛の祖父は、鬼鮫さんと連絡をしていましたので。魑魅魍魎や妖魔の動きが活発化しだした事から鬼鮫さんに相談をした所、今回凛の元に貴方が来る事等も聞いていました。“虚無の境界”という連中との衝突等も含めて、です」
「…鬼鮫、やっぱり味方してくれてるんだ…」勇太が不意に小さく笑う。
「鬼鮫さんが言うには、IO2の中から情報が漏れている可能性…。つまり、内通者がいる可能性があるとの事です。それに、これは貴方にとっては酷な話しなので、言うべきかは迷うのですが…」
「…?」
「…“虚無の境界”が造り上げた“霊鬼兵”に似た兵器を造りたがっている研究者が、貴方のデータを欲しがっているとの噂を聞いた、と。“虚無の境界”に対抗する兵器を作る為か、あるいはただの研究材料としては定かではないそうですが…」
「―…ッ!」勇太の脳裏に昔の苦い記憶が蘇る。
「いずれにせよ、まだまだ情報が不確定過ぎて信憑性に欠けているのは事実です。だからこそ、私達は協力して動かなくてはなりません。合流してしまえば、対抗する手段は増える。それが、草間さんの狙いなのかもしれません」
「…胸糞悪い事考えるな、IO2も…」勇太が呆れた様に溜息を漏らしながら身体を投げ出す。「ま、昔っから草間さん以外のIO2は好きになれなかったけどさ。とりあえず、エスト様の言う通り、明日IO2に行くよ…」
「そうですね…。では、初夜の続きを――」
「――まだ言う!?」







―――

――








「一体どういうつもりだ、柴村 百合。何を企んでいる?」
「言った筈よ、ディテクター。私は私の目的の為に、アナタと動く。情報を提供する代わりに、私に協力してもらうわ」
 誰もいない深夜の研究所。百合に連れられた武彦はその中を歩いていた。大型のカプセルにはまるで胎児の様な姿をした赤子が浮かんでいる。
「…SF映画さながらの光景だな」
「気付いているんでしょう? ここにいる赤子は、普通の人間ではないわ」
「まぁ、そりゃそうだろうな…」武彦が苦々しげに呟く。「…クローン人間の研究機関…とも言えないな。これだけの性能を持つ機器を、こんな無名な地にある研究施設なんかに置く訳がない」
 武彦の言う通りだった。ここは日本の本当から沖に数百キロも離れた所にある小さな無人島。私有地となっている場所だ。
「ここにいるクローン。この子達は、A001の遺伝子情報を基に構築・改良された人間兵器として、“虚無の境界”が作り出しているクローン兵隊よ」
「クローン兵隊…だと…!? それに、A001って、まさか…」
「そう、工藤 勇太。彼の遺伝子情報を構築させる為に、ある人間が“虚無の境界”に助力を行ってくれていてね。そのおかげで、エヴァ・ペルマネントという完成された霊鬼兵が造り上げられた」
「“虚無の境界”に助力をしている人間、だと…?」
「私も素性は知らないわ。“宗”としか名乗ってない男で、顔も見た事ないもの」
「…厄介な奴が背後にいるって訳か…」武彦が呟く。「それで、俺をこんな所に連れてきた理由は?」
「“彼女”がアナタを連れて来れば、協力してくれると言うからよ」
「“彼女”?」
「この部屋にいるわ」百合がそう告げてノックをすると、中から女性の声で返事が返って来る。
「…何で…お前が…」武彦が思わず口を開き、目を見開く。






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