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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


現われる“虚無”







 深夜、IO2からの報告を受け、早速翼は武彦と共に人気のない深夜の住宅街へと顔を出していた。閑静な深夜の住宅街には、静けさだけが不気味に漂っている。
「虚無の境界がこの辺りを狙っているのだとすれば、今夜あたりから仕掛けて来ると踏んで間違いはないだろうがな」武彦が周囲を見回しながら小さく呟く。
「こんな場所が戦場になってしまったら、恐らく一般人の被害をゼロには出来ないだろうね。戦いにくい場所を残してくる辺りは流石と言った所だね」
「狡猾な手段だが、効果的である事に違いはないな」武彦が溜息を漏らす。「IO2で見せられた、召喚ポイントを繋げて描く魔法陣。この場所で召喚を許してしまえば、何かが起こると考えるべきだ」







――。





 翼と武彦が見回っている住宅街を見下ろせる高台。湿り気を帯びた風が吹く中、百合がただ一人で眠りついている街を見つめる。
「遅かったわね、エヴァ」
 背後に現われたエヴァへと振り返ろうともせずに百合が声をかける。エヴァは何も返事を返す事もなく、百合の傍へと歩み寄り、肩を並べた。
「…あの時の二人組みが街を見回っているわ」
「そう…。無駄な事だとも知らずに、ご苦労ね」百合が憐れむかの様な表情で呟く。「…この機に私達は私達の目的を果たせる」百合が小さく微笑む。





――。





 不意に武彦の携帯電話が鳴り響く。
「もしもし?」
『コールマンだ。君達と同じ住宅街のガードエリアに、虚無の境界の幹部連中が現われたと情報が入った』
「場所は!?」
『GPS情報を送る。急行してくれ』
「了解」武彦は通話を切り、翼をへと振り返った。「動き出したぞ。場所は今送られてくる」
「待つ必要はなさそうだよ」翼が住宅街に突如鳴り響いた轟音と、巻き上がる砂塵を見つめて口を開いた。
「チッ、一般人なんてお構いなしかよ…! 行くぞ!」
 武彦と共に翼も走り出す。
「御心配には及びません」スッと二人の横の塀の上から萌が並走する様に姿を現す。「既にこの付近の一般住民は退避させてあります。一般市民への被害は出すまいとしている我々の不得手な環境を逆手に取ろうと、卑怯なやり方をしてくるだろうとのコールマンの判断です」
「さすがだね」翼がそう言った所で曲がり角を曲がると、目の前には一人の男が立っていた。
 銀色の髪に赤い瞳、迷彩服を身に纏った大男が翼達を見つめる。
「ファング…!」
「ヴィルトカッツェに、ディテクター。随分手応えのない連中ばかりだと思えば、大物もいたか…」
 ファングの言葉を聞いた萌が、ファングの更に奥に倒れるIO2エージェント達の姿を見つける。ギリっと歯を食い縛り、萌がファングを睨み付ける。
「よくも…!」
「向かって来たのは奴らだ。何も俺から襲い掛かった訳ではない」ファングが淡々と萌へとそう告げ、視線を翼へ移す。「…最近は随分奇妙な奴と会う縁がある様だ」
「何の事を言っているのか解らないな」翼が神剣へと手をかけ、腰を落とす。
「悪いが、そいつは俺がもらうぞ」不意に背後からバスターズを引き連れた鬼鮫が現われる。「一度手合わせ願いたい相手だったんでな」
「IO2のジーンキャリア、鬼鮫…。確かに、俺も貴様の名は耳にしている」ファングの顔が歪に喜びを表す。「俺も貴様とは一度会ってみたかった」
「フン、後悔させてやる…。ディテクター、茂枝。この先で虚無の境界とIO2が交戦してる。さっさと行け」
「…翼、行くぞ。ここは鬼鮫に任せるんだ」武彦が翼の肩を軽く叩き、走り出す。翼もまた、無言のまま小さく頷いて走り出す。
「鬼鮫さん、任せます」萌もまた、鬼鮫へと声をかけて走り出す。
「さっさと行け」鬼鮫が鞘から刀を抜き出し、鞘を投げ捨てる。ファングもまたサバイバルナイフを手に構え、腰を落とす。
「良かったのか? 最期に交わす言葉にしては少ない様だが」
「ぬかせ」




――。



 ―まるで戦場だ。翼と武彦、そして萌が訪れた先ではIO2のバスターズと真っ黒な容姿をした妖魔の大群が戦闘を繰り広げていた。
「本格的に攻め込み出したみたいだな」武彦が戦況を見つめて呟く。
「IO2の読み通りだったと言う訳だね。だったら、尚更ここでの魔法陣の生成を許す訳にはいかない」翼が周囲を見つめる。「この近くでそれを行っているのか、それともここは目を向けさせる為の囮か…」
「し、茂枝さん!」一人のIO2のバスターズの男が萌へと駆け寄り、敬礼をする。「戦況は苛烈。たった一人の少女が一瞬でこれだけの妖魔を召喚し、交戦が開始しました!」
「たった一人の少女?」萌が尋ねる。
「恐らく、“阿部 ヒミコ”かと思われます」
「ファングに続いて、阿部 ヒミコまで来るとはな…。やっぱり本気らしいな、連中は」武彦が呟く。
「ですが、盟主はまだ見ていません!」
「盟主…。それに、この前の二人も見てないな」翼が呟く。「全勢力が集結している訳じゃない…?」
「解りました。ディテクター、私は阿部 ヒミコを討ちます。ここは任せて、召喚ポイントがないかを探ってもらえますか?」萌が武彦に声をかける。
「あぁ、解った。無理はするな」
「はい。彼女の能力は解っています。能力者では分が悪すぎますから」
 萌がそう告げると同時に、シュッと風を切る様な音を立てて激しい戦闘の繰り広げられている中を駆け抜ける。
「そうは言っても、何処にポイントを仕掛けてやがるんだ…!?」武彦が苛立ちを隠せないかの様にそう言って舌打ちをする。
「――ッ! あれは…!」不意に聴こえた鳴き声に、翼が空を見上げる。「オフィーリア…!」
「どうした?」
「武彦、こっちだ!」翼が空を見つめながら武彦に声をかけ、走り出す。
「あ、あぁ」
 翼に言われるがまま、追う様に走り出す武彦。そんな武彦に目もくれず、翼は空を見上げながら漆黒の鳥を追いかける様に走り続けた。やがてその鳥は高度を下げ、小さな公園の中へ降りて行く。



「…兄さん…!」翼が公園の中へ駆けて行き、黒い服に身を纏った男へと声をかけた。
「…翼、やはりここにいたんだな。オフィーリアが連れて来てくれたのか」独特な音で喉を鳴らしながら、潤の腕にとまったオフィーリアが鳴く。「状況はあまり良くないらしいな」
「うん…、そうなんだ。恐らくこの近辺で再び召喚の魔法陣を作るとは思うんだけど、場所が特定出来ていない…」
「その様子だと、俺が送ったメールにも目を通していない様だな、翼」潤が小さく笑いながら呟いた。
「メール?」
「いや、こうして会えたなら構わない」潤がそう告げた所で、武彦が遅れて公園の中へと入ってくる。「草間さん、お久しぶりです」
「夜神…! どうしてこんなトコに?」
「可愛い妹に調べ物を頼まれていたので」
「妹…?」
「翼、虚無の境界と柴村 百合達はどうやら別々の目的で今回の事件を引き起こしているらしい」置いてけぼりな武彦を放って潤が翼へと告げる。
「別々の目的?」
「結果的には協力している様に見えるが、それぞれの目的はどうやら違うらしい。この戦闘で、柴村 百合達は見かけたか?」
「いや、見てない…」翼が小さく首を横に振って答えた。
「色々と理解出来ない事が多いが、夜神。何か掴んでいるのか?」武彦が口を挟む。
「調べてみた結果、ですけどね。柴村 百合達はあらゆる物を囮にして自分達の目的を裏で果たそうとしているみたいです」
「囮…?」潤の言葉に、武彦が考え込む。
「召喚した妖魔を贄として“虚無”を具現化しようとしている虚無の境界。そして、それを囮にして秘密裏に動いている柴村 百合達。彼女らが何を欲しがっているのかは解りませんが、目的はどうやら違う様です」
「目的が違う…。だとすれば、アイツらは本隊とは別に動いてるって事か…」武彦がそう呟き、何かに気付いた様な表情を浮かべる。
「武彦?」翼が武彦に声をかける。
「…クソ、何て事だ!」武彦が声をあげる。「別々に動いているって事は、既にここにも魔法陣は生成されてる可能性が高い…!」
「でも、もしそうだとしたら、わざわざ場所を特定させる様な真似は一体…?」翼が武彦に再び尋ねる様に声をかける。
「誘導する為だ。柴村達は俺や翼、それにIO2に巨大な魔法陣の存在を知らせる為だけにわざわざ目立つ様な真似をした」
「…と言う事は、既にここは…」
「あぁ。何かしらの方法で街全体を覆う術式の発動をさせていないだけ…。つまり、もう奴らの準備は整っているって事だ…!」
「でも、何の為にボクらやIO2を一箇所に集める真似を?」
「決まってる…。“虚無”の召喚と同時に邪魔になり得る者を一掃する為だ」武彦が頭を掻き毟る。「“虚無”は一瞬にしてあらゆる生命を吸い込んで糧にする、あまりに危険な化け物だって話しだ。だが、エヴァは完成した霊鬼兵。奴らの身体は“虚無”に生命を吸われずに済む。つまり、“虚無”が召喚されたとしても生き残れるって事だ」
「でも、柴村 百合は…」
「恐らく、何かしらの方法で生き延びる術を身に付けている可能性が高い。もしくは、奴もまた霊鬼兵か、だ」
「…ある物を欲しいと言っていましたけど、それはまさか“世界”、ですか」潤が呆れた様に呟く。
 その瞬間、大地が轟き、真っ赤な光りの柱が夜の空へと真っ直ぐに伸びる。
「…“虚無”の…召喚が始まった…」武彦が膝をつく。
「…オフィーリア、翼。切り離すぞ」
「解ってる…!」
 翼と潤が空へと飛び上がり、巨大な光りの柱を三角形に囲む様に宙を飛ぶ。それぞれが巨大な魔力を集め、巨大な術式を作り上げる。空に浮かんだ魔法陣が円筒上に広がる赤い光を大きな円で更に包み込む。次の瞬間、その場所から赤い光りもろとも、空に広がっていた魔法陣の中の空間が切り抜かれた様に消え去った。翼と潤もその円と共に消え去ってしまった。
「…い、一体何がどうなってるんだ…」
 膝をついたままの武彦が、口を開けたまま唖然としてその場に座り込んでいた。






                                           Fin



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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

今回のお話で、漸く合流という事で、
物語も佳境へと入っていく形となりました。

ちなみに、夜神さんの方の納品も、ほぼ同時になると
思いますので、宜しくお願いします。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。


白神 怜司