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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.22 ■ 死闘、思いがけない仲間







□□Cポイント・遊戯場、屋外駐車場□□




 独特な白い柄から刀を抜いた男、鬼鮫が美香を睨み付ける。
「IO2、鬼鮫…」美香が呟く。「ガルムの召喚の時、百合ちゃんや草間さんの前に現われたという、IO2の実力者…」
「ほう、俺を知るか小娘」
「美香、気を付けて。あの男からも人外の気配がする」ユリカが鬼鮫を睨みながら声をかける。
「…まさか、IO2である貴方まで魔神を…?」
「勘違いするな」鬼鮫が美香の言葉を一蹴する。「俺は少々特殊な身体をしているんでな。魔神だの何だのを操っているお前らとは違う」
「確かに、魔人とは質が違うみたいね」ユリカが答える。
「でも、一体どういう事ですか?」美香が口を開く。「虚無の境界と繋がっているのはIO2上層部だけだって聞いてます。いくら実力者であっても…―」
「―ごちゃごちゃと御託は結構だ。俺は指示された通りに仕事をするだけだ」刀を構え、腰を落として鬼鮫が殺気を放つ。「引け、巫浄。ここは俺が貰い受ける」
「…フフ、そうさせてもらうわ」霧絵の足元に真っ黒な闇で出来た空間が広がる。
「逃がさない…―!」
「―ダメよ、美香」ユリカが動き出そうとする美香を制止する。「今下手に動けば、あの男の間合いに入る。その瞬間、斬られるわ」
「…ほう、冷静な判断だ」
「深沢 美香…。百合と一緒にせいぜい抗ってみなさい…フフ…」
 霧絵が不気味に笑みを浮かべる。闇の中へ飲み込まれる様に霧絵がその場所から姿を消した。









■□Aポイント・建設中のビル□■






「…対抗出来る? 随分と冗談がうまくなったのね、百合」エヴァが百合に向かって口を開いた。「あの方の力を知らないユーではないでしょう?」
「知っているからこそ、よ」百合が銃を構えたままエヴァに告げる。「エヴァが思っている以上に、あの子は強くなっている。前にアナタと組み手をさせた頃のあの子とは比べ物にならないわ」
「…下らない戯言に付き合う気はないわ」エヴァが大鎌を振り回す。「ユー達はここで死んでもらうわ」
 一閃、エヴァが鎌を振り回したその遠心力を利用して百合と武彦の間を斜めに切り裂く。地面が砕け、鎌の先端がコンクリートに覆われた地面を砕く。武彦と百合がエヴァに銃を向けるが、二人の目の前に再び怨霊が姿を現し、エヴァへの攻撃を防ぐ。
「チッ」武彦が怨霊を銃で撃ち抜き、エヴァのいた場所を再び見るが、既に鎌もエヴァの姿もそこにはない「―ッ! しまっ…――」
 武彦の真横から横腹に強烈なエヴァの蹴りが入る。武彦はそのまま数メートル先まで蹴り飛ばされ、倒れこむ。細い少女の身体の線からは想像も出来ない程の威力。武彦はあばら骨に鈍い感触を感じながら振り返ると、エヴァが既に大鎌を持って武彦へと向かって飛び掛っていた。
「―甘いわよ」百合の声と同時に武彦が空間転移によって百合の後ろまで落ちる様に運ばれる。
「それも予測済みよ」エヴァが大鎌を投げ飛ばす。百合と武彦目掛けて大鎌がすさまじいスピードで回転しながら襲い掛かる。
 百合が空間の扉を開き、エヴァの鎌をエヴァの真後ろへと大鎌を転移させる。勢いをそのままにエヴァの身体に死角から大鎌が襲い掛かるが、エヴァに当たる寸前で突如鎌が霧散する。どうやらエヴァが鎌の具現化を解いた様だ。
「…やるわね、エヴァ」
「ユーの考えそうな攻撃よ、読めて当然だわ」
「…それもそうね」百合が小さく笑う。「ディテクター、怪我はどう?」
「ぐっ、二、三本いっちまってるだろうが、大丈夫だ」武彦が立ち上がる。「あの身体に似合わない重い蹴りだな…。さすがは最新型霊鬼兵って所、か…」
「エヴァは元々頭も回るタイプよ。攻撃方法の多彩さや計算された攻撃。ファングみたいにパワー一直線な相手じゃないわ」
「やれやれ…」武彦がポケットから煙草を取り出し、口に咥えて火を点けた。「面倒な相手、だな」
「あら、それはこっちのセリフよ。蹴りのタイミングに合わせて飛んで衝撃を弱めるなんて、出来るとも思ってなかったわ」エヴァが再び大鎌を具現化する。「さすがはIO2最強のエージェント、ね」
「褒められてる気がしないな」武彦が煙草を咥えたまま銃を持った手を力無く下へと下げ、目を閉じる。「あまり長引かれると困るんでな。本気でいかせてもらうぞ」
「どうぞご自由に」百合が答える。「サポートに回るわ」








■■Bポイント・廃校体育館■■






 不思議な光景だ。翔馬はそんな事を思いながらスノーとヘゲルの作り上げた氷に包まれた館内を見つめていた。夏とは思えない程の寒さが体育館の中を包んでいく。そんな中、スノーがヘゲルを振り上げ、クルっと回転させる。青白い光りの残影を残しながらヘゲルと通った道筋が輝く。
「エッジ…」スノーがヘゲルを地面へと突き立てる。
 氷の刃が地面が隆起し、そのままファングへと向かっていく。ファングが横へ飛び、それを避けると、スノーが既にそこへと間合いを詰め、ヘゲルを振り翳す。鋼鉄の毛に鎌が止められた瞬間、スノーが「プリズン」と呟く。すると、ヘゲルのぶつかっている位置から一斉に氷がファングの身体を侵食する様に凍らせていく。
「チッ!」ファングが腕を振り上げ、スノーを薙ぎ払おうとするが、スノーはヒラリとそれを飛んで避ける。「…触れている箇所から凍らせる、か…。なかなか厄介な力の持ち主だ」
『翔馬のアホンダラ、凍った箇所を狙うんやで』
「解ってら!」スノーと入れ違う様に翔馬がファングに向かって駆け込む。
 が、ファングが腕を振り上げ、真空波を放つ。先程壁を一直線に切り裂いた真空波の威力を知るスノーがかき消そうと再び地面に鎌を突き立て、巨大な氷の柱を翔馬の前に立てるが、あっさりとそれを切り裂き、そのまま真空波が翔馬へと襲い掛かる。
「スサノオ!」
『応!』
 スサノオの返事と共に、翔馬の纏っていた霊気の鎧である甲冑が膨れ上がる様に大きくなる。そのまま真空波とぶつかり合うが、甲冑がそれを打ち消し、今度は翔馬の握っていた刀が大剣の様に大きく膨れ上がる。
「おらあ!」翔馬が大剣を振り下ろす。横へ避けようとしたファングが、スノーによって足を地面の氷によって凍りつけられていた為に一瞬動きが遅れる。ズドン、と重く鈍いを音を立てながらファングの右肩を翔馬の大剣が打ち下ろす。
「ぐ…っ!」斬撃にはならなかったものの、ファングの肩を砕く様な一撃はファングにダメージを与えたらしい。翔馬はそのまま再び剣を元のサイズに戻し、後ろへと退いた。
「くそ、あれでも斬り落とせないのか…!」翔馬が思わず声を漏らす。
「ですが、ダメージを与える事は出来た様ですね…」スノーがファングを見つめて呟く。
「クッ…クックックッ…」ファングが突如として笑い出す。「面白いぞ、貴様ら…。本気で楽しませてもらえそうだ…!」








□□Cポイント・遊戯場、屋外駐車場□□






「―去ったか…」鬼鮫が刀を鞘へと収める。
「どういう事? アンタの相手は私達の筈でしょ?」ユリカが尋ねる。
「…悪いが、おまえらと遊んでいる場合ではない事がよく解った。やはり情報通り、IO2の上層部は虚無と手を組んだか」
「…どういう事ですか?」美香が尋ねる。
「先の戦いの後、ある男からリークがあってな。上層部に掛け合った所で情報を得られないと思った俺は、こうしてこの場でカマをかけさせてもらった。案の定、巫浄 霧絵は俺を味方だと判断した。これで確信を得られた」
「それじゃ、貴方は…」
「俺は奴らと組む気はない。まさか、逸早くおまえ達がそれを察知しているとは知らなかったが、な」鬼鮫が歩き出す。
「ちょっと待ちなさいよ」ユリカが鬼鮫に声をかける。「アンタはこれからどうするつもり?」
「もし、この動きを止めるなら、私達と…――」
「―俺は俺だ。おまえらと敵対関係ではないとは解ったが、誰とも手を組む気はない」
「強情な男ね…」ユリカが呆れた様に笑う。「だったら、同盟ってのはどう?」
「同盟?」鬼鮫が振り返る。
「お互いに阻止する立場なら、情報は必要でしょ。私達を囮に使うか、私達がアンタを囮に使う。それだけでも、戦況はだいぶ変わると思うけど?」
「…良いだろう」鬼鮫がポケットからメモ用紙を一枚取り出し、携帯電話の番号を書いてユリカに渡す。「俺の番号だ」
「…美香、よろしく」
「えっ、あ、そっか。ユリカ、携帯電話とか解らないもんね…」美香がユリカから紙を受け取る。
「ディテクターに伝えとけ。この件と決着は別だ、とな」
 鬼鮫がそう言ってその場から歩き出す。
「…結局、逃げられちゃったね…」
「そうね…。でも、今回の百合が掴んだ情報はただのトラップ。今後の情報収集方法も少し変えていかなきゃいけないかもしれないわ」ユリカがそう言って小さく溜息を漏らす。「どっちにしても、他の組も戦闘になっている可能性が高いわ。援護しに行く?」
「うん、そうだね―」
「―ダメよ」不意に気配もなかった少女が口を開く。美香とユリカが驚き振り返ると、そこには真っ白な服を着てぬいぐるみを抱きかかえた少女が立っていた。「行かせない…」
 歪な笑みを浮かべた少女が手を翳すと、周囲の景色が一瞬にして赤黒く変色する。何が起こったのか理解出来なかった二人が身構える。一瞬にして空が夜になってしまったかの様に黒く塗り潰されている。
「…ようこそ、誰もいない街へ…」






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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

さてさて、鬼鮫の立場と行動が明らかになり、
手を組んだ所で現われた新たな敵です。

プレ内の様に、IO2の上層部のみで起きた密約なので、
秘密裏に動いている状態だった鬼鮫さんでした。

お楽しみ頂ければ幸いです。

虚無の境界編も佳境へと進む形になりますが、
今後とも、是非宜しくお願い致します。

白神 怜司