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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 底なし沼のように、ゆっくりと‥‥ ――

「‥‥ネットでの評判は良い。だけど確実に闇は広がっているんですね‥‥」
 松本・太一はパソコンの画面に表示されているLOSTについての書き込みを見ながらため息交じりに呟いた。
 そこにはLOSTをプレイしている人間が不審な死を遂げた事、そして現在も行方不明になっている人間のリストが出されていた。
(これは、誰がリストアップしているんでしょうか?)
 ネット上で使うHNと実際の名前、その両方を知っている人間はあまりいないはずだ。
 このリストにピックアップされている名前は10や20ではない。
(この全員とフレンド関係にあった人間がしている? それにしては数が多すぎです)
 ここ最近、松本は考えていた事がある。
(もし、私の『魔女』の力を使ってLOSTに干渉したらどうなるんでしょう?)
 自分の中には女悪魔が存在している。
 その女悪魔の力をも凌ぐ何かをLOSTは持っているだろうか?
 いくら問題が多いとはいえ、LOSTは人間が作ったもの。
 人間が作ったものに悪魔という存在が負けるとは思えない。
(それに私はまだメインクエストを進めていない)
 不審な死、行方不明になっている人はログイン・キーのメインクエストを進めている人たちなのだろう。
 それに気づいた時から、松本はメインクエストを進める事をせず、サブクエストやレベルアップに主体を置いてゲームをしていた。
 だからゲームそのものから受ける影響はまだ他の人間よりも低いはず――、松本はそう考えていた。
(もしこれで干渉出来るとすれば、この先のクエストも随分楽になるはず)
 松本は小さく息を吐いて、パソコンの画面に触れながら目を閉じた。
 そして夜宵の魔女を発動させようとした時、バチンと強烈な痛みが手に走り、パソコンの画面から弾かれてしまう。
「――――え?」
『不正ナあくせすヲ確認シマシタ』
 画面が真っ暗になったかと思うと、白い文字でカタカタとキーボード音を鳴らしながら表示されていた。
(現実からの干渉を否定、しかも人間の力ではなく悪魔の力までも否定するなんて……!)
『不正あくせすハ禁止サレテイマス。ぺなるてぃトシテ――……』
 画面にはそれだけが表示され、それっきり何も起こらなかった。

「あ、松本さん! そんな重い荷物持たなくてもいいですよ」
 翌日、会社に向かうと男性からの態度が更に酷くなっている事に気づいた。
 いや、正確に言えば昨夜から気づいていた。
 なぜなら――。
(もう、私は女性にしか見えないような姿になっているのだから)
 昨夜、あれからパソコンを切り、洗面所にある鏡を見て愕然とした。
 艶やかに伸びた黒い髪、ぷるんとした唇、20代前半のような姿にされていたのだ。
 もちろん周囲からは『女性』として扱われていて、普段なら厳しい上司すらもでれでれとして話しかけてくるほど。
(社会的な支障はないんですけど、精神的、肉体的に色々とキツいです‥‥)
 松本は心の中で呟くと、がっくりと肩を落とした。
(でも、昨日の『干渉』は自分の力量や能力が足りずに失敗したのでしょうか?)
 結局、自分の力量不足で失敗したのかはわからなかったけど、松本は直感的に『違う』と感じていた。
(きっとどれだけの力があっても、現実から直接干渉する事は出来ないようにされている)
 どんな人間が、どんな意図で作りだしたのかわからない。
(だけど未だに『異変』が収まっていない所を考えれば、作り手の目的は達成されていないという事になる)
 松本はゾクリと何かが背筋を駆け上がるような感じがした。
(作り手の目的を達成するまで、きっとこの異変は続くんだ……たとえ、どれだけの犠牲者を出す事になっても)
 そう考えれば、あれだけの不審な死、行方不明者が出ている事も納得できる気がする。
(私は、もう抜け出せない所まで足を突っ込んでいるのかもしれない)
 もしかしたら急速な変化だけでペナルティが終わったのは、自分がログイン・キーを持つ者だからじゃないのか?
 そんな事さえ考えてしまう。
(だけど、1番怖いのは――)
 自分自身が女性になっていく事を拒否する事が出来ないという事だった。
 今朝だって着る物や化粧など、自分は男だと言い聞かせても止める事が出来なかった。
(もう私の身体自身は『女性』である事を受け入れている、ただ精神だけが拒否しているだけ――‥‥)
 自分の意思に反して、自分の事なのに、自分の行動をとめられない。
(私は、本当にこれからも『松本・太一』という自分でいられるのだろうか‥‥?)
 恐怖に耐えながら、松本は自分自身の身体を抱きしめる。
 彼の苦しみを理解できる人間は、誰もいなかった。



―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――
松本・太一様>

こんにちは、いつもご発注下さりありがとうございます!
今回は現実編の話がメインでしたが、いかがだったでしょうか?
ご意向に沿うような話になっていれば良いのですが‥‥!

それでは、今回も書かせて頂きありがとうございました!

2012/9/14