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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


覚醒する力






「兄さん…!」

 翼が無力にも投げ出された潤の身体に魔力を流し込みながら、力のない悲痛な叫びを漏らした。即死に至らずに済んだのは不幸中の幸いか、それでも潤の身体からは大量の血が流れ続けている。
 翼が魔力を流し込んだ甲斐もあり、潤の身体が徐々に治癒を開始し始める。ここまで大きい傷を与えられた事がない翼にとっては漸く少しばかりの安堵が生まれる。

「哀しむ事はない。すぐに消してくれる」再び虚無の身体に強大な魔力が宿り出す。

 歯を食い縛りながら翼が虚無へと振り返り、飛び出した。左手に籠められた魔力がバリバリと猛ましい音を立てながら電撃を帯び、虚無へと向かって放たれた。
 電撃を片手であっさりと受け止め、激しい音と共に爆発する。砂塵に包まれながらも虚無の身体にはまったくダメージが通っていない。それすらも解っていたかの様に砂塵を切り裂きながら翼が虚無へと神剣を鋭く振る。
 が、その攻撃すらも虚無の身体を捉えてはいるが傷一つついていない。

「この程度か」虚無が魔力を振り払い、その場から翼の身体を吹き飛ばした。

「ぐっ…!」

 吹き飛ばされた翼目掛けて覚醒前と同じ様なレーザーが放たれる。間一髪で風を使役してその直撃を免れて避けてみせるが、爆風によって身体がバランスを失い、着地と同時に二撃目が放たれ、翼の身体が更に吹き飛ばされる。

「それなりの実力はある様だが、楽しませてもらえる程ではないな」虚無が両手を突き出し、魔力の塊を具現化させる。
 黒く強烈な力を宿したその力は、危険な威力を物語っている。先程までの攻撃も、魔力で身体を覆っているにも関わらず翼の身体に徐々にダメージを蓄積させ、翼を追い込んでいたのは事実だが、それとは比較にならない程の威力が見て取れる。
「消え去れ」

 一閃。放たれた魔力の球が翼目掛けて放たれる全てを薙ぎ払う様なそれは翼へと真っ直ぐに突き進むが、翼が風魔法を使役し、その軌道から身体を逸らした。
 間一髪の所でそれを避けた翼が、再びゆらゆらと身体を揺らしながら虚無を睨み付けた。その瞳は兄を殺されかけた虚無に対する憎しみに燃えているのかと思えば、それ以上にどこか虚ろな眼差しをしていた。

「死に損ないがいつまでもよく足掻く。消え去れ」

 威力は劣るが、攻撃速度が速いレーザー状の攻撃が翼に襲い掛かる。翼はそれをあっさりと避け、再び虚無を睨み付けながら歩み寄る。虚無が何発もその攻撃を放つが、それすらもあっさりと避ける。

 ――しかし、虚無は気付いていた。先程から放つとほぼ同時に身体を動かしている翼の反射速度が徐々に上がっている。

 虚ろな目をした目の前の相手がここまでの力を発揮している事態に、虚無はそこまで危惧していなかった。死に損ないの悪足掻きに付き合っている程度だ、とすら考えながら虚無はその姿を見つめていた。
 魔力の差が歴然。そのおかげで翼の攻撃は虚無の身体にかすり傷一つつける事の出来ない威力だ。
 油断していた虚無の身体に悪寒が走り、次の瞬間には翼の腕によって身体を殴られ、その勢いのまま身体が地面を抉りながら吹き飛ばされていた。

「な…ッ!」虚無がその事実に思わず声を漏らし、翼を見つめる。

 ―恐怖にも似た悪寒が虚無の身体に駆け抜ける。
 正面に立っている翼の眼が鋭く、禍々しい魔力の奔流が身体から溢れ出している。尋常ならざる力を持つ、神祖の力。暴走した魔力が翼の身体から溢れ、その翼の眼は先程の虚ろなものから冷たく鋭い眼へと変化している。
 翼が不意に、潤と自分の血で染まった腕を舐めた。ドクンッと一際大きな衝動が身体を襲い、身体が熱くなる。自分で自分の身体を強く抱き締める様にそれぞれの手を左右の腕へと食い込ませながら俯く。金色の髪が根元からじわじわと黒く染まり、更に激しい魔力の奔流が生まれる。髪が黒く染まりきった所で、翼は虚無を睨み付けた。その瞳の色も黒く染まり、潤と似た姿に変わる。

「我らと同じ神祖の力か。面白い…。その力、見せてもらおう!」

 虚無がそう声をあげた次の瞬間、翼が神剣を構えて駆け出した。先程までとは比にならない速度で虚無へと距離を詰める。思わず先手を取られ、虚無の態勢が整う前に翼の剣撃が虚無の身体を吹き飛ばす。激しい砂塵を巻き上げながら、虚無の身体が投げだされた。
 追撃はすぐに虚無へと襲い掛かる。本来なら魔力を練り込むには相応の時間を費やさなければ術者の身体にも負担がかかる。だと言うのに、目の前の翼はあっと言う間に先程虚無が放った魔力の塊よりも濃密で強烈な負の魔力をひねり出し、雷撃を帯びたそれが虚無の身体を捉えた。強烈な攻撃が虚無の身体を傷付ける。

「ぐ…ッ! フ…フハハハ! 愉快、実に愉快だ!」

 虚無が地面に降り立ち、傷付いた身体を修復しながら叫び声をあげた。狂気に満ちた魔力が再び膨れ上がる。対する翼は冷徹の一言に尽きる冷たい表情と目つきのまま、虚無と対峙していた。
 一瞬を狙ったかの様に虚無が翼目掛けてレーザー状の魔法を放つ。翼に向かって放たれたそれは強烈な爆発を起こし、更に何発も連続して翼の立っていた場所を攻撃する。爆風によって砂塵が舞い上がり、翼の位置を把握出来ないが、虚無はそれすら構わずに左手に魔力を凝縮させ、逃げ延びた所へと追い討ちをかける準備をしているかの様に、虚無が身構えていた。
 ――が、翼がかかって来る様子も、何処かへ逃げようとする様子さえも見れない。
 痺れを切らした様に虚無が半径で一メートルぐらいはあるだろう黒い球体が虚無の掲げた左手の前で具現化し、その大きさのまま翼の立っていた場所へと放った。

「滅せよ」

 直撃すればこの結界もろとも消失し得る様な虚無の攻撃が地面を抉る。が、球体に幾つもの光りの線が刻まれ、魔力が霧散する。砂塵を吹き飛ばしたおかげで翼が神剣でそれらを切り裂き、あまつさえその霧散した魔力が神剣の中へと吸い込まれる。
 これには虚無も思わず言葉を失った。遺失された神の使う魔法が、あっさりと切り裂かれて吸い込まれる事態。圧倒的な力の差がなければ、リスクが高すぎる戦い方だ。つまりそれは、翼の魔力が虚無を上回っている事を示している。

 翼の攻撃が始まったのは、その事実を虚無が認識する僅かな間だった。気が付けばその距離を詰め、虚無の身体を一閃、神剣が襲いかかる。虚無が避けようと動き出すが、肩を抉る様に翼の強烈な突きが虚無を突き刺し、そのまま後ろへと身体を吹き飛ばす。虚無が態勢を立て直す間もなく、翼が吹き飛んだ虚無へと再び距離を詰め、今度は飛び上がって神剣を頭上に持ち上げ、真っ直ぐ振り下ろす。身体を両断するかの様な一撃が虚無を捉える。
 翼が再び虚無を睨むと、虚無の身体が魔力によって修復され始めた。魔力によって実体を造り上げている虚無はどうやら消滅させる以外に方法はないらしい。翼はその事に気付くと、口元を歪ませ嘲笑した。

「ぐっ…!」

 修復段階の虚無の身体を更に斬り付け、両腕を斬り落とす。そのまま顔を右手で握り締めると、虚無の身体に宿っていた魔力がみるみる翼の腕から吸収され始めた。

「ヤ…メロ…! ハナセ…!」

 煙の様な魔力が音を立てながら吸い込まれていく。徐々に虚無の身体の力が抜け、その身体から力を奪い続ける。
 抵抗すら難しくなり、虚無の身体がだらしなく立ち尽くす。



                   ――全てを喰らえ


 翼の中の衝動が強くなり、激しい頭痛と共に更に虚無の身体から魔力を吸い上げる。その瞬間、翼の身体は横から衝撃が襲い掛かり、虚無もろとも何かが翼を突き飛ばした。

「……」
「やめるんだ、翼…」

 そこに立っていたのは、先程まで倒れていた潤だった。




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ご依頼有難う御座いました、白神 怜司です。

翼さん覚醒キター!的な気分で書いてましたが、
今回のお話いかがでしたでしょうか?

お楽しみ頂ければ幸いです。

潤さんの方と併せてお送りさせて頂きます。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司