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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.24 ■ 第三勢力





「では、まずは腰を降ろせる空間に移動しましょう」

 シンがパチンと指で軽快な音を鳴らすと、その周囲の光景が一瞬にして個室の会議室の様な場所へと切り替わった。唐突な変化にそれぞれが思わず困惑しながら辺りを見回した。
 そんな全員に椅子に座る様に促したシンがにっこりと微笑む。それぞれの目の前にある椅子に腰を降ろし、それを確認するとシンがゆっくりと口を開いた。

「皆さんの実力を見せて頂いた結果、こうして強行手段を取ってお集まりしてもらいましたが、唐突に話しを始めてしまった事について、皆さんには申し訳ないと思っています」

 シンが静かに頭を下げる。
 ―やはり敵意はないらしい。無防備なその姿を見て、美香は少し安堵しながら周囲を見回した。百合に武彦、翔馬にスノー。そしてユリカもまた、毒気を抜かれた様にシンを見つめている。

「ウチらのリーダーは百合っぺだからな。話し合いは百合っぺとしてくれ」
「ちょっと、何で私がリーダーなのよ」
「まぁこうして俺達が協力しているのは実際、柴村が引鉄になったのは確かだからな。それに関しては俺も異論はないな」
「ディテクターまで…」

 翔馬と武彦が推薦する様に百合に告げると、百合は観念したかの様に小さく溜息を吐いてシンを見つめた。「解りました」とシンが静かに返事を返した。
 途中、ヘゲルがつまらなそうに悪態をついていたが、他の全員はともかくスノーにすら取り合ってもらう事もなく、そのままヘゲルは押し黙る事になったらしい。

「埒があかないわね。良いわ、私が代表として色々質問させてもらうわ」
「では、まずは先程の話しをもう少し細かくお話ししましょう」

 シンがそう言うと、少しばかり雰囲気が張り詰めた。

「我々魔族は本来、こちらの人間の世界には一切の干渉を行わない様に生きているのです。人間の世界と並行して生まれている異界。それは、貴方達のいるこの人間の世界を軸に考えるなら、幾重にも折り重なった時間と時空の歪みによって生まれた、一つの隣接している別世界とでも言うべきでしょうか」
「隣接している別世界…?」
「えぇ、そうです。パラレルワールド、という表現に近しいものがあるのかもしれません」
「それは人間が知らない世界として、存在しているという事よね?」
「一概に全員が知らない、という訳ではありません。そもそも、人間に“能力”が生まれたのは、我々魔族との契約が始まりだったと云われています。つまり、異能を管理する組織である、IO2の上層部には異界が実在している事を知られているのです」

 シンの言葉に、思わずスノーを除いた全員が唾を飲む。どうやらスノーはあまり興味を持っていないらしい。
 この状況の中でもマイペースなのは大物の器というか何と言うか、と少々美香が複雑な気分を胸に抱いた。

「IO2と“虚無の境界”が手を組んでこの世界を牛耳ろうとしている理由として、我々の見解では彼らは魔族の力を欲し、いずれは我々の世界をも統べようとしているのではないか、との声が上がっているのです」
「成る程ね。確かにそれは人間の次なる進化への道。つまりは巫浄 霧絵の思想に近しい訳ね」
「その通りです。今回の大規模な世界への粛清行為は、能力を持たない人間を一掃し、生き残れる者だけを選別する為の作戦かと思われています」
「でも、もしもそれが行われた所で、肉体的強度で劣る私達人間が、魔族とわざわざ戦う理由にはならないわ」
「その読みはごもっともです。が、IO2の上層部が何かしらの手立てを考えている事。そして、虚無の境界がその思想に懐柔されている可能性がある事から、人間世界に私達複数名の魔族が紛れ込み、それらの企みを打ち砕こうとしているのです」

 もっともらしい話に聴こえるが、どうにも理解し難い部分がある。
 ―確認する必要があると判断した美香が、静かに手をあげた。

「あの、私が百合ちゃんに連れられる前に私に声をかけてくれた事がありました、よね?」

 美香の言葉に、武彦以外の人間が一瞬ザワつく。

「えぇ。貴方に白羽の矢が向けられた理由は二つありました。一つはそこにいるディテクター、つまり草間 武彦氏の懐柔。そしてもう一つは、贄となって頂けないかと」
「どういう事ですか?」
「深沢 美香さん。貴方はどうやら、特別なタイプの人間の様です。異界の住人であるユリカの魂を身体に入れ、それと共存する事。更にはその力に溺れず、飲み込まれずに能力を使役出来るという点。後者に関しては後日談としての成果ですが、前者の部分に関しては、私の見立てが正しかったという事です」
「でも、そんな事解らないんじゃ…――」
「―いえ、それを判断する材料があったのですよ。初めて貴方を見たあの日に。貴方は人間でありながら、ガルムを受け入れ、ガルムもまたその心に魅了されました。人間を受け入れるなど、魔獣には到底叶わぬ事なのです」
「…あの廃工場での出来事か」

 武彦が小さく呟いた。
 確かにあの時、シンは自らを魔族だとほのめかす発言をして二人の前に現われた。だが、激動の日々が訪れ、更には何かのニュアンスかとすら思っていた美香はあまりシンの存在を気に留めていなかった。

「…確かに、美香の身体は特別なのかもしれない。でも気に喰わないわね」
「ユリカ?」
「アンタ達がこの世界に来れるのなら、アンタ達自身の手でこの戦いを終わらせれば良い。言っておくけど、人間の身体なんて脆弱よ。わざわざ人間の身体を借りて力を得ても、失敗するケースもある」
「その通りです。ですが、ユリカ。貴方も解っているのではありませんか?」
「――ッ!」
「異界からこの世界へと渡れる能力と、そのリスク。それらを考えれば、我々が無理にこちらに来るよりも、異界に来た人間を捻り潰す方が遥かに簡単です」
「矛盾してるわね」百合が口を開いた。「だったら、その通りでも良かった筈よ? 少なくとも、多くの人間を救うなんて大義名分がある訳ではないでしょう?」
「確かにその通りです。この話を皆さんにした所で、私を信じて頂けるのかは疑わしいのですが、正直な所を申し上げましょう」

 シンの言葉に、全員が息を呑む。

「私は、人間が好きなのです」

 ――…は?

 一同が一斉に声をあげてシンを見つめる。シンは恥ずかしい事を言ったかの様に俯いて言葉を続けた。

「人間の世界を幼い頃から覗き、異界とこの世界を行き来していたのです。人間と友達になり、遊んだ事もありました。ですが、我々に比べて人間は非常に短命な生き物です。今ではその方も亡くなっている事でしょう」

 全員がぽかんとした表情で口を開け、シンを見つめていた。

「それは個人的な意見ですが、実はもう一つ。我々が少し危惧している事態もあるのです。それは、この世界と異界の均衡の崩壊による、世界の消失です」

 思わずシリアス度が増した発言に、調子を崩されたかの様に眉間に皺を寄せる。百合に至っては溜息を吐いて呆れている始末だった。

「――普通、先にそっちを言うだろうが!」と、その直後に全員からシンに向かって文句が飛び交ったのは言うまでもない。



――。



 ――結局、その日はあまりにも多くの出来事に見舞われた事もあり、一度全員が翔馬の分家へと送り届けられたのだった。
 決断は明日の夜。
 そう告げられた全員が、それぞれに休みながら明日の昼に意見を交換するという事で、それぞれが寝室へと向かっていた。

 真っ暗になった天井を見つめながら、美香がユリカに向かって声をかけた。

「ユリカの仲間もいたんだね」
『仲間って言っても、パラレルワールドを通した世界じゃ時間の流れが違い過ぎるわ。それに、私が生きた時代に、そんな魔族の統制はなかったわ』
「統制?」
『そうよ。生きるか死ぬかの世界で、互いに気に喰わなければ襲い合う様な、野蛮な世界。私が生きた時代は、そういう時代だったのよ。今では随分変わったのかもしれないわね』
「…寂しい?」
『フフ、バカね。時代が変われば人の魔族も変わる。今から戻ったとしても、肉体もない私には関係も居場所もないわ』
「そっか…」
『アンタが何を信じて戦うのか、それはアンタ自身が決めなさい。私はアンタと共に在る。それは変わらないわ。シンを信じて手を貸すか、それとも別行動のまま動くのか。好きにしなさい』
「…うん」


 
 決断を迫られた夜、戦いの疲れもあってその日は美香はあっさりと眠りに就いた。





                                         to be countinued...




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いつもご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

プレでの返信有難う御座いました。
結局、今回の様な書き方が主流になると思われますw

さてはて、シンの思惑が全て露見された訳ですが、
美香さんがどうするつもりなのか、舞台はまた動き出します…!

お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司