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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


sinfonia.8 ■ 接触―U






「……失敗作……?」
「そうよ。あの子は能力を持っただけで何も変われず、身体を蝕まれただけの失敗作。薬がなければすぐに自我を崩壊する、憐れな存在よ」

 クスっと小さく笑ったエヴァが口を開いた。勇太がその言葉に歯を食い縛る。

「……人の身体を弄んで、そんな事言うのかよ……ッ!」
「同情のつもり?」
「――ッ!」
「ユリは自ら望んであの身体を得たのよ? それを同情するのはお門違い。ユーは利用されただけじゃない」
「それでも! それでもアイツはアイツで……!」
「笑わせるな、A001」

 エヴァが勇太に冷たく突き放すように声をかけ、大鎌を構えた。

「私もユリも、少なからず自分の意志で力を求めた。その結果が今のこれよ。それを同情して救ってやりたいなんて思っているんだとしたら、それは驕りよ」
「――違う! 俺は……――!」
「――それとも、自分の過去を重ねているのかしら? 良いわね、ユリは。ユーの力を真似て、そのオリジナルであるユーから心配されて……」
「な、何が言いたい!?」
「……あんな失敗作、壊してあげるわよ」

 エヴァの言葉に、勇太が手をギュっと強く握り締めた。

「……なんだって……?」
「もうあの子に価値はない。ユーもそう思うでしょ?」
「フザけんな!」

 勇太がテレポートを使ってエヴァの目の前へと飛び、サイコキネシスを放つ。
 エヴァの身体が吹き飛ばされるが、エヴァがそのまま身体を回転させて大鎌を投げた。クルクルと回転しながら襲い掛かる大鎌を、勇太の作った念の槍が地面から突き出て大鎌を粉砕する。

「はや――!」
「――喰らえぇぇ!」

 驚くエヴァに向かって勇太が念の槍を何本も一斉に飛ばす。

「そうそう同じ技ばかり――!」
「――同じに見えるでしょ?」
「なっ!?」

 エヴァが相変わらずの必要最低限の動きで攻撃をかわそうと身体を捻るが、何も触れていない筈の身体に衝撃が走り、地面を抉りながら吹き飛ばされた。

「くっ……! 何を……!」
「念の槍の隙間に念動力を混ぜた。そして――」
「――ぐ……! か、身体が……!」
「重力球でアンタの身体を縛らせてもらった」

 膝をつき、エヴァが地面に手をつきながら勇太を見つめた。ググっと身体を押し潰すように重力に襲われながら、エヴァが小さく笑う。

「さすがはオリジナル……! 強いわね……!」
「強気な発言はそこまでだ……。アンタを逃がす訳にはいかない……」
「あら、デートのお誘い? 見た目によらず強引ね」
「なっ!」

 勇太が慌てて否定しようとした瞬間、真横にあったコンテナが爆発し、勇太がテレポートで瞬時にそれを避けた。それと同時に捕縛が解けたエヴァが遠くへと飛ぶ。

「しまった……! 今の一瞬で……!」
「A001、実力は見させてもらったわ」
「逃げるのか!?」
「そうね。お遊びはここまでにしましょう。本気のユーの力は侮れない。次会った時は、確実に殺しにかかるわ」
「――ッ!」

 真っ黒な怨霊がエヴァの身体を飲み込み、その場から消え去るとエヴァも姿を消していた。勇太がため息を漏らしながらその場にへたり込む。

「……百合……。俺達の味方になってくれれば良いのにな……」

 勇太は考えていた。
 ――百合はもう虚無の境界に“仲間”はいない。それは昔、武彦と自分が会う前の自分と同じような状態なのかもしれない。

 勇太が夜空を見つめて唸る。

「……あ、興信所に行かなくちゃ」

 我に返ったかのように勇太が立ち上がり、興信所に向かって歩き出した。

 そんな勇太を見つめていた一人の影に、勇太は気付かなかった。

「……工藤 勇太。虚無の境界の狙い……」






―――

――






 時間はその日の夕刻に遡る。

「……お待たせしました」
「相変わらず音もなく現れるのね、萌」

 楓が室内の暗闇を見つめると、一人の少女が闇の中から姿を現した。
 光学迷彩機能を装備した潜入用パワードプロテクター「NINJA」を装備したIO2捜査官。髪は短めで、肩口で切り揃えられていて整ってはいるが、その表情には感情を感じさせない。

「珍しいですね。直接電話をかけてくるなんて」
「そうね。同じIO2でも、アナタと私は管轄が違う。本来なら部署を通すべきなのかもしれないけど、そんな悠長な事は言ってられないわ」

 楓が勇太の写真と凛の写真。そして、武彦の写真を机の上に並べた。

「ディテクター……。それに、鬼鮫さんの部下と……」
「五年前の虚無の境界との衝突事件の中心人物だった少年、工藤 勇太よ」
「……この方が、ですか」
「特殊な能力者、というだけではないわ。そのポテンシャルは高い上に、暴走すればシルバールークも粉砕される可能性がある程よ」
「……虚無の境界が欲しがる訳ですね……」

 萌が勇太の写真を手に取って見つめる。

「ディテクター、草間 武彦が彼とこの護凰 凛を使ってIO2に反乱を企てている可能性があるわ」
「――ッ! ディテクターが……?」
「えぇ。だからこそ、アナタにはこの三人を内密に見張ってもらいたいの。願わくば、工藤 勇太を捕まえて欲しいけど、それはリスクが高いでしょうからね」
「私には重荷になる、と?」
「いいえ、表沙汰にする時期ではない、という事よ。ヴィルドカッツェのアナタにそんな事言うつもりはないものね」
「……解りました」
「決してバレないようにね。三時間おきに定時連絡を」
「はっ」

 暗闇の中に萌が姿を消した。
 楓が小さく口を歪ませた事には、誰も気付く事はなかった。






――

―――




 某所、離島の研究施設。

「……宗、珍しいわね。貴方がここに顔を出すなんて」
「そうでもないだろう。今日は気を利かせてやったつもりだが?」

 黒髪黒眼の見た目は三十歳前後ぐらいの男、宗が黒いズボンと黒いワイシャツ姿で馨の元へと歩み寄った。

「古い友人との再会はどうだった? いや、古い恋人、か?」
「――ッ! 知っていたの?」

 馨が机から銃を取り出して宗へと向けた。

「そんな玩具で俺を殺せると思ってるのか?」

 クスっと小さく笑って宗が馨を見つめた。

「……私を殺すつもり?」
「質問の意味が解らないな」
「貴方に救われ、洗脳が解かれた私を隠した貴方が、虚無の境界に手を貸している事は知っているわ。もうエヴァも完成して、私は実質貴方にとっては用済み。消しに来る事もあるわ」
「……くだらない。お前がどう生きようが、何をしようが俺には瑣末な事だ」

 宗が小さく笑って馨を見つめた。

「……見て見ぬフリをするの?」
「お前のデータは俺の頭にも入っている。お前がいなくなった所で、今更俺にはどうという痛手もない。だがお前は違う」
「……ッ!」
「お前はその身体を改善し、自由を手に入れる事が目的。俺はそのお前の研究のデータが目的。互いの利害関係なんてのはその程度の繋がりで十分だ」
「……ずいぶんな言い草ね」
「虚無の境界は俺の駒だからな。俺にとっては実験体と研究成果。それに、“アイツ”の変化さえデータに出来れば、虚無の境界だろうが警察だろうがIO2だろうが、そもそも関係ないのさ」

 ククッと笑って手に持っていたリンゴを皮も剥かずに宗が噛み付いた。

「……歪んだ興味でも持っているの?」
「“アイツ”は俺のモノだからな。一時は壊れちまうかと思ったが、持つべきものは出来の良い弟だ……、ククッ」
「……?」
「好きに動け。データさえ変わらずに送り続けるなら、自由にやれ。虚無の境界とはそろそろ手を切る頃合だからな」

 宗がそれだけを告げて馨に背を向けて歩き出した。

「……相変わらず謎な男ね……」






―――

――








 ――草間興信所。

「よう、来たな」
「草間さん! もう戻ってたの!?」
「あぁ、ついさっきな。零にも文句を言われっぱなしだが、色々と動きがあっただけマシだったがな……」

 草間興信所に着いた勇太を待っていたかのように武彦がソファーに座って紫煙を吐き出していた。

「草間さん、色々あり過ぎて……俺……――!」
「――何だらしない顔してんのよ、工藤 勇太」
「……え……?」

 勇太が振り返ると、零に背を押されて明らかに風呂上がりと思われる百合の姿が勇太の目に映り込んだ。
 思わず勇太が飛び上がって身構える。

「なっ、なななんでお前がここにいるんだよ!」
「勇太、落ち着け」

 武彦が再び煙草を吸って紫煙を吐き出し、勇太を見つめた。

「落ち着いてらんないんですけど!?」
「柴村は今回、俺達の味方として動いてくれる」
「は……?」
「そういう事だから」
「……はぁ!?」




 ――混乱する勇太に武彦と百合が馨の存在と、そこであったやり取りを説明した。勇太の頭が爆発しそうな勢いではあるが、そんな事を気にもせず、勇太が時折武彦と勇太の間、テーブルの横に座った百合を見つめる。
 驚きながらも武彦に勇太がIO2で何をされたかなどの情報交換を開始する。

「……じ、事情は解ったけど……」
「見事に両方敵に回したわね」
「しょうがねぇだろ。柴村は元々虚無の人間。それに、IO2で楓がやろうとしている事はクローン開発。どっちも味方とは呼べる状況じゃねぇ」
「――でも、IO2は敵って訳じゃ――」
「――アンタのおかげで敵になったわよ。ここに来た瞬間に、ね」

 百合が目の前に空間を作り上げ、その中に勇太を引きずり込む。慌てて武彦もその勇太の腕を引っ張り、その空間転移に巻き込まれた。

「――ッ!」
「だ、誰……?」
「……ヴィルドカッツェ……! 何故お前が……!」
「どうやら本当に虚無の境界と手を組んだようですね、ディテクター」

 興信所近くの公園で、監視を続けていた少女と三人が睨み合う。

「IO2のNINJA、茂枝 萌ね」
「虚無の境界の柴村 百合……!」

 激動の急展開に、勇太だけが頭を抱えていた……――。






                                         to be countinued...