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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


依頼主は元恋人―U






「依頼人から得た名前は“柏木 明人《かしわぎ あきと》”。恐らくは偽名でしょうけどね」
「まぁそうだろうな。本人の前で身分証明書を提示するような機会があれば良かったんだが――」
「――それについては、俺も聞きました。二ヶ月程前に利用したマンガ喫茶。いわゆるネットカフェで会員カードを作る際に身分証を提示したそうです」

 ソファーに向かい合うように座っている武彦が、祐樹の言葉に重いため息を漏らした。無理もないか、と祐樹は手に持っていた依頼人からの聞き込みをメモ書きした自分のメモ帳を見つめる。
 身分証を偽造している可能性が高いのなら、それこそ個人での犯罪ではなく、裏に何かがいると考えるのは妥当だろう。

「聞き込みに向かってその男の記録か、他の被害者の存在を探す必要がありそうだな」
「そうですね……。正直、今のままでは犯人の情報が著しく少ないですしね」
「……祐樹。お前は何処から調べるべきだと思う?」
「俺ですか?」

 武彦の突然の問いかけに祐樹が眉間に皺を寄せて尋ね返す。頷く武彦から視線を逸らし、祐樹が俯いた。

「そうですね……。まずはデートした場所や、時間帯。それに、両親を紹介したと言っていたホテルですかね」
「その理由は?」
「自分の所在地を隠そうとしたりと何らかの意識が働くほど、行動範囲はランダムではなく意図性をもつでしょうから」
「……良い答えだ」

 武彦が祐樹の言葉に頷き、小さく笑って答えた。

「確かにお前が言う通り、この柏木って男がクロなら行動やその動きが自然とランダムではなく、それなりの意図を持つだろうな」
「それに、この犯人の男は車を持っていないそうで、デートは電車とタクシーを利用する事が多かったそうです」
「タクシー……?」
「えぇ。待ち合わせ場所はデートの目的の場所ばかりだったそうで、一緒に移動する事はあまりなかったようですね。帰りは一緒に帰る事もあったそうですが、依頼人の家に上がる事はあっても、会社の寮に住んでいるから自分の家には行けない、と言っていたそうですね」
「……本物の詐欺師か。久々に情報屋を使ってみるしかなさそうだな」

 武彦が立ち上がり、上着を羽織りながら呟いた。





―――。




 個人経営の喫茶店、『After』と書かれた看板の古臭い店内に武彦と祐樹は足を踏み入れた。ドアに取り付けられた古臭い鈴の音が鈍い音を鳴らすと、カウンターに立っていた中年の男性が顔をしかめて武彦を見つめた。

「相変わらずの寂れっぷりだな、マスター」
「なぁに、細々とやれるなら問題はねぇよ」

 ガランとした店内は古い喫茶店の雰囲気を醸し出し、祐樹は思わず小さく心を躍らせてしまった。まるでマンガの中の喫茶店、といった雰囲気に魅了され、古臭い木で出来た椅子や壁に目を向ける。そして鼻につくコーヒーの豆を挽いた匂いを嗅ぎ、カウンターへと再び視線を戻した。

「そっちの坊やは?」
「ウチのアルバイトだ。それなりにキレる」
「へぇ。じゃあ俺にとっての新しい客にはなれそうだな」
「武彦さん、情報屋って――」
「――あぁ、このマスターだ。この店に来るのはそういった客ばっかりだからな。そっちが本業、だろ?」
「どっちも本業だ。座りな」

 マスターに促されて武彦と祐樹がカウンターに腰をかけた。

「草間のダンナはいつもので良いな。坊やは何にする?」
「あぁ」
「坊やって……。ホットコーヒー下さい」
「はいよ」

 武彦にはブラックのホットコーヒーが手渡され、祐樹の前にもホットコーヒーが出される。豆を挽いて本格的な匂いを含んだ湯気が立ち上るコーヒーを見つめて、祐樹はブラックのまま口に含んだ。

「……美味しい」
「イケるな、坊や」
「椎名 祐樹、です」

 マスターの言葉に祐樹が訂正を求めるように言い返すと、マスターが目を閉じて小さく笑った。

「マスター、この男なんだが何か情報はあるかい?」

 武彦の差し出した、プリントされた柏木の写真。マスターがそれを手に取ると、足元を何やらガサゴソと漁り出し、トランシーバーのような物を取り出してスイッチを入れた。

「これは?」
「盗聴防止の発信機だ。共鳴させて盗聴者に音を拾わせなくするのさ。それにしたって、ダンナもこいつを追う事になるとはねぇ」
「やっぱり何か裏があるのか?」
「……“真川 章吉(まかわ しょうきち)”。最近この辺りに顔を出してる詐欺集団の“ルアー”だ」
「ルアー?」
「詐欺集団の疑似餌って事だ。女を引っ掛ける役回りをする男の俗称だ」

 祐樹の言葉に武彦が補足説明をしてマスターを見つめた。

「……最近派手に暴れ回ってる詐欺集団でな。オレオレ詐欺や振り込め詐欺なんかの素人集団とは比較にならねぇ厄介な一味だ。だが、派手にやり過ぎてる」
「派手にやり過ぎてる?」
「裏の業界の女を引っ掛けようとしたり、シマを荒らされたりでな。色々な連中が血眼になって追いかけてんのさ」
「って事は、やはり俺達以外の連中にも追われてるって事か」
「あぁ。コイツの情報を買いに来る連中は増えてるからな。あまり綺麗じゃないやり方をしてる連中もいるって噂だぜ」
「そっちの連中に先を越されたら、無事では済まないだろうな」

 マスターの言葉に武彦がそう呟くと、マスターは小さくため息を漏らした。

「警察にヤクザ。どっちからも追われる身になっている事ぐらい、本人達も解っているだろうけどな。だが、どうにもそこまで馬鹿な連中ではないと思うんだがな」
「俺もそう思います、武彦さん。派手に暴れるだけなら、偽造した身分証明書まで手に入れられる程のコネはないと思いますし」
「へぇ、坊やは“坊や”じゃないらしいな」
「だから俺は――」
「――祐樹、だろ?」

 マスターが小さく笑って祐樹を見つめてそう告げると、祐樹は思わず言葉を失ってしまった。

「確かに、祐樹の言う通りだぜ、草間のダンナ。詐欺集団のバックにもそれなりの集団がいると考えるのが妥当だ」
「……面倒な事態の可能性が高まってきたな」
「クックックッ、草間のダンナぐらいの腕前なら、その面倒な事態も何とかなるだろうけどな」
「とにかく、俺達が誰よりも先に見つければ良いですよね」

 祐樹がそう言ってコーヒーを飲みきり、立ち上がった。

「やれやれ……。マスター、男の住所もくれ」
「はいよ」

 メモ用紙にサラサラとペンを走らせ、マスターが武彦にそれを渡した。武彦がポケットから茶色い紙幣を手渡してそれを受け取ると、マスターが「まいど」と返事をしてそれをポケットに乱暴に突っ込んだ。







―――。






「出来ましたよ、武彦さん」
「これは?」
「地図にデートで行ったと聞いた場所をマーキングしてペンで囲んだんです。都内を無作為にデートしている様にも見えたんですが、全部をマーキングして線で囲むと、ここだけは避けてますね」

 祐樹が地図で円を作り出す。それを見つめながら武彦がマスターからもらった紙を見つめた。

「住所とは違う場所だな……」
「隠したい何かがある場所か、あるいは……」
「この円の中に他のターゲットがいたか、って所か」

 武彦が紫煙を吐きながら地図を見つめる。

「……聞き込みに出るしかないか」
「そうですね。公共機関を使っているか、目撃者を割り出せれば何かしらの情報を得られるかもしれませんしね」
「あぁ。そうだな」

 祐樹の視線が武彦の顔に移る。武彦がそれに気付き、祐樹に「どうした?」と尋ねるが、祐樹はしばらく黙ったまま考え込むように俯き、意を決して武彦に向かって口を開いた。

「面倒な事態って、ヤクザ同士の抗争とかですか?」
「――ッ! ったく、頭が回る男だな……」

 武彦が頭を掻きながら呟いた。

「シマを荒らさせて、他の組を叩く為の大義名分を作りたがる連中はいる。それがあるからこそ、詐欺集団に裏で力を貸してる連中もいる。そういう事ですよね?」
「多分、な。さすがに確証はまだ出来ないが、どっちにしてもその手の連中と会ったら厄介だ。早いトコ動くぞ」
「えぇ、解りました」
「聞き込みに動いてくれ。俺は公共機関を利用した形跡がないかの痕跡を辿る」
「解りました。一時間おきに連絡いれます」
「解った」





 ――こうして、祐樹と武彦はそれぞれに聞き込みと公共機関の利用形跡を調べる事にしたのだった。

 そして、間もなく陽も落ち掛けてきた頃。
 祐樹と武彦は、互いに得た情報を一度興信所に持ち帰り、話し合う事になった。





                                             to be countinued...




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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

第二話のご依頼有難う御座いました。
とりあえずはお互いに犯人についての情報や行動を
武彦と共に確認しました。

プレ上では聞き込みをするところで終わっていたので、
今回はその成果については書かれていませんので、
その辺りもご自由に踏まえて、次回お楽しみ下さい。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司