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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.25 ■ 一時の別れ






――「明日の夜、返事を聞きに覗います」




 別れ際にシンに言われた言葉を再び夢で見て、美香は目を覚ました。まだ障子の向こうの外は朝陽も遠い空を染めている程度。陽は昇っていない。邸内は静寂に包まれている。

『ずいぶんと早いのね』
「ユリカ。ごめん、起こしちゃった?」
『構わないわ』

 ゆっくりと布団の上で身体を起こし、腕を上げて身体を伸ばす。昨日の激しい戦闘と、シンの登場で正直身体も心も疲弊している。

「ユリカはどう思う? シンさん達と組む事について」
『どうも何も、アンタの好きなようにすれば良いんじゃない?』
「むぅ、そんな事言われたら判断しにくいよ〜」
『今日百合達と話すんでしょ? そこで決めれば良いんじゃないの?』
「……うん」

 着替え終わった美香が顔を洗う。鏡に映った自分の顔を見つめながら、「よし」と小さく気合いを入れるように呟いて、美香は顔をタオルで拭いた。




「――それで、魔族の件だけど」

 食事を終えた所で百合が口を開いた。全員の視線が一斉に百合へと集まる。

「ユリカ、アナタはどう思うの?」
「アタシか……」

 ユリカが美香の隣で姿を具現化させる。

「同じ魔族として、どう考えているのか教えて欲しいのよ」
「生きた時代も、今生きているアイツの考えも私には解らないわ。私は美香と共に在る。それだけよ」
「ハッキリと言い切りやがった……」
「百合っぺはどうなんだ?」
「どうって?」
『あの魔族っちゅー胡散臭い兄ちゃんを信じるんか?』

 周囲から集中した質問に、百合が静かに俯いた。

「私は正直、信じても良いと思うわ。理由も幾つかある」
「理由……?」

 スノーの言葉に百合が頷いて答えた。

「まず一つは、もしも魔族が私達と敵対しているのなら、あの出口のない世界に私達を取り残すか、その場で殺せば良いだけの事。魔族と私達の潜在能力の差はユリカと美香の戦い方を見ていれば解るはずよね?」
「確かに……。言われてみればその通りだな」

 武彦と同様に全員がその言葉に納得して頷いた。

「次に、何故あのタイミングで私達を攫ったのか、よ。聞いた所だと、美香とユリカ以外のペアはそれぞれに幹部を倒せる状況にいた。なのに、魔族は何故そのタイミングで私達を攫う必要があったと思う?」
「虚無の境界を助ける為、とか?」
「結果としてはそれを選んだと思うの。でも、その理由は仲間だからなんて単純なものではないと思う」
「と言うと?」
「……恐らく、魔族は私達なんかよりももっと信頼出来る情報網がある。だけど、IO2の上層部で虚無の境界に手を貸している人物はまだ特定出来ていないんじゃないかしら?」

 百合の言葉に、全員が押し黙って考え込んだ。
 美香もまた、その言葉を聞いてしばらくの間考え込む。
 例えば、IO2にとって虚無の境界は目的を達成する為の駒だとすれば、戦力を削がれる状況は頂けない。思想や実力を考えて、今IO2が虚無の境界と手を組んでいる事はそれだけのメリットがあるという事だ。
 つまり、虚無の境界の幹部が倒れてしまって、戦力が削がれた場合はIO2は虚無の境界をあっさりと切り捨てる可能性もある。そうなってしまっては首謀者が姿を出す事もないのかもしれない。

「魔族はIO2の首謀者を表に出す為に私達の決着を先延ばしにさせた?」
「私はそう考えているわ。実際、虚無の境界もIO2も潰すって目的になるんだとすれば、魔族は間違いなく形勢の有利だった私達に力を貸したはず。でも、それが困る状況だと踏んだ、とすれば説明の辻褄が合うのよ」
「百合っぺと言い美香と言い、そこまで考えたのか」
『翔馬殿はどちらかと言えば軍師タイプではないでござるからな』
「うるせぇよ」

 スサノオの突っ込みに翔馬が反論する。そんなやり取りを他所に、百合が再び口を開いた。

「今回の魔族の目的は、恐らくIO2と虚無の境界の首謀者を倒す事。戦力差を考えれば、正面衝突をするよりもよっぽどリスクは少ない戦いになると思うわ」
「確かにな。だったら、組んだ方が俺達の負担は減るな」
「えぇ。でも彼らと組んだ事が虚無の境界やIO2にバレたら面倒なのよね。そこで、美香。アナタにお願いしたいの」
「何を?」
「私達は虚無の境界の動きを追い続ける。その間、美香は魔族と一緒に動いて情報を提供して欲しい。つまり、一時的に別々に動く事になるわね」
「別々に?」
「……俺達が手を引いていない事をアピールするって事か」
「そうよ。私達が魔族と一緒に全員で行動したら、IO2と虚無の境界にとっては表立った敵が急に消えたという不信感を抱くわ。だから、私達は敢えてこの姿を表に出して牽制するのよ」
「成程な……」
『翔馬のアホンダラとは大違いやな。えぇ作戦や。スノー、乗るか?』
「えぇ、その方が良いと思う……」
「でも、それじゃ私だけ安全な所に――」
「――いいえ、悪いけど逆よ。私達は仲間同士だと分かり合っているけど、魔族はまだまだ何かを隠している気がする。頭の良さと戦闘能力を考えて、美香以外に頼めないのが正直な所よ」

 百合がそう告げると、武彦達が美香を見つめて頷いた。

「……うん、解った……!」

 美香は正直、シンを信じたかった。人が好きだと言う彼の言葉は、美香にとってユリカが好きだと言っている事に等しいのかもしれない。そんな事を考えていたからこそ、同じ魔族のシンを信じたい。それが美香の中の心情だった。






―――
――







「やはりそっちも、か」
「えぇ。ユーの言う通り、アイツらは姿を消したわ」

 東京某所。
 洋館の中でファングとエヴァが言葉を漏らした。

「どう思う?」
「さぁな。虚無の境界にそんな能力を持った者がいたとして、奴らを捕まえたのならこちらに報告が入るだろうが、今の所そんな連絡はない」
「そうね。かと言って、IO2が私達に助力をしたとは考えにくいわ」
「あぁ。IO2と我々は今回に限って停戦しているだけ。お互いに助力するとは考えにくいだろう」
「盟主様は?」
「今は自室にいらっしゃるらしい。しかし……――」




「――おのれ、深沢 美香……! 私が恐れを抱いているだと……!?」

 禍々しい妖気を身体中から巻き上げながら、霧絵が歯を食い縛って拳を強く握り締めた。

「……フ……アハハ……ハハハハハ! そうね……。その通りよ……。虚無に還る日は近い……!」

 歪んだ狂気を撒き散らしながら、霧絵が高らかに笑っていた。







――
―――





 虚無の境界の幹部であるファングとエヴァに傷を負わせた事で、少しの間は虚無の境界の攻撃や行動も制限されると考えた美香達はその日、ずいぶんと久しぶりにゆっくりとした一日を過ごす事が出来た。
 それでも、シンとの約束の時間が訪れた。

「――……成る程。確かにその考えが一番なのかもしれませんね」

 百合達の告げた言葉をしっかりと受け止めて、シンが小さく頷いた。

「では、美香さん。私達はこの場から離れましょう」
「はい」
「一日一回、出来るだけこまめにそっちに行って状況を確認するようにするわ」
「うん、解った」
「シン、美香は何処に連れて行くつもりだ?」
「そうですね、まずは……――」

 シンの言葉に、全員が目を大きく見開いた。

「――IO2の東京本部で情報を収集しましょうか」
「あ……!?」
「IO2!?」
「はい。彼女はIO2には顔が知られていませんからね。心配する必要はありません」
「成る程……。まぁ、美香とユリカなら大丈夫だろうな」
「えぇ。では、早速ですが、行きましょう」
「はい!」

 IO2東京本部への潜入捜査が始まる……――。





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いつもご依頼有難う御座います、白神 怜司です。
お久しぶりですー。

さてはて、いよいよ魔族との行動が始まるのですが、
今後の美香さん達は一度別行動という形になります。

核心へと迫る後編の開始、ですねーw

寒くなってきましたし、風邪にはお互い気をつけたい所ですね。
それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司