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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.26 ■ 潜入、IO2





 ――東京都某所。
 ここは本当に東京なのだろうか、というぐらいに穏やかな景色が広がる。

 点在する工場のような建物。広がる畦道。
 どこか遠くへ来てしまったのではないかと錯覚する程、一面田畑が広がっていた。

 ホテルで二日程待つように命じられ、美香はようやく迎えが来てIO2東京本部へと向かっていた。

「……東京都にこんな場所が……?」
「えぇ。一般人の立ち入りは出来ないよう、能力者によって道は封鎖されています。今ではインターネットで上空からの写真なども撮られる事もありますが、上空にも同じように能力で景色を歪ませていますからね」

 美香の質問に、IO2から派遣されてきていたドライバーが説明する。
 要するに、地図上ではただ一面に森が広がっているという事らしい。

「しかし、驚きました」
「何がですか?」
「シンさんが“優秀な助手を迎えに行って欲しい”と仰った事ですよ。あの方は基本的に一匹狼ですからね。それが貴女のような若い女性だとは……。あぁ、気を悪くしないで下さいね」
「いえいえ、私なんかで役に立てるかどうかは……」

 そう言いながらも、車の窓から外を見つめて美香は小さくため息を漏らした。



 IO2の他者の介入は、一般的に不可能とされている。
 しかし、虚無の境界との戦闘が続いた最近、IO2としても即戦力と呼べる人材は喉から手が出る程に欲しい所だ。

 本来ならばシンとは言え、突然連れて行けば怪しまれる事もあっただろうが、シンは敢えて正式な手順を踏んだ上で美香をIO2に連れて行く事にした。

 勿論、以前出された美香のデータは一切塗り替えられてはいるが。



 ――ようやく着いたIO2東京本部。
 一際大きな高層ビルに、突如舗装された風景。さらにその先には演習場のようなスペースや、飛行機の格納庫のような場所が設けられていた。

 敷地内に入る、美香の連れられた黒塗りの車はそのまま地下の駐車場へと向かって走りだした。
 地下へ降りていくと、車載エレベーターに固定され、地下深くへと降りていく。
 点在している光に照らされては消えてと繰り返される中、運転手の男がシートベルトを外した。

「IDカードは必ず見える位置に下げていて下さい。混乱しているとは言え、中のセキュリティは厳重です」
「あ、はい」

 首からストラップをかけて胸元にあるIDカード。そこには、堂々と本名と顔写真が載っている。
 潜入捜査と聞いて、帽子や眼鏡を想像していた美香はどうにもそわそわと落ち着かない。とりあえずは、と手に持っていた伊達メガネを装着する。

「そういえば、白衣は自前の物を?」
「え……?」

 白衣、と言われて美香は困惑した。
 シンには迎えが来るとしか言われていない。

「あぁ、支給品でしたか。すみません、変な事を聞いてしまって。研究者の方はどうにも白衣にも拘る方が多くて」
「い、いえいえ」

 急な質問が事無きを得た事にホッとした美香が安堵しながらIDカードを見つめる。

(……はぁ、第二医療研究室……なんて聞いてないよ〜……)

 奇しくも、懐かしい顔を思い浮かべる。それは父や母だった。

 あの頃、もしも私が家を飛び出さず、父や母の言う通りに生活をしていれば、いずれはこんな大企業で、医療の研究に携わっていたのだろうか。
 そんな考えが小さく浮かぶ。

『……帰りたくなった?』
「……ううん、良かったって思ったよ」

 エレベーターの稼動音を聞きながら、運転手に聞こえないように小声でユリカの言葉に答える。





 車から降りた私は早速IO2の内部を案内される。
 運転手と思っていたこの無骨な男性は、IO2のエージェントだそうで、シンの下で働いているらしい。

「IDカードを」

 彼に言われて、美香はIDカードを駅の自動改札のような認証機に押し当てる。
 こんな所でIDカードが無効だったらどうしようかとすら感じた美香だったが、正常に動いた機械に私は小さく安堵した。

 真っ白な通路。およそ十メートル感覚で天井から吊り下げられた監視カメラ。
 厳重さをまざまざと見せつけるそれらに、美香は少し緊張している。

「緊張なさらなくても大丈夫ですよ。それに、シンさんが一階のロビーに来ているそうですから」
「あはは……、緊張してるってバレちゃいました?」
「えぇ。こう見えても私もエージェント。人の仕草などには少々敏感でして。あぁ、それでも、やはり女性を勘ぐるような真似は失礼でしたね」
「いえ、御心遣い有難うございます」

 エレベーターの中でそんな会話をしてみるものの、やはりこの緊張は拭いきれない。何せIO2の上層部は、虚無の境界と手を組んでいる。ここは敵地なのだ、と自分の中で気持ちが逸る。



 一階に着いた美香達を迎えるように、シンが美香に向かって軽く手を挙げた。
 運転手としてついていてくれたエージェントが胸に手を当てて挨拶すると、シンは手を下げて「有難うございます」と声をかけた。美香を迎えに行った事に対する礼だったらしい。

「お待ちしてました、美香さん。今日から宜しくお願いします」
「えぇ、こちらこそ」
「それでは、自分は報告に戻らせて頂きます」
「えぇ。有難うございました、鏑捜査官」

 男が再び敬礼の合図をした後で振り返り、エレベーターに向かって歩き出す。

「では早速行きましょう、貴女だけの研究室へ」
「え……?」

 困惑する美香に笑顔で背を向け、シンが歩き出す。







―――
――






「これ……って……」

 エレベーターで再び地下へと潜ると、幾つもの部屋が左右に広がっている、まるでホテルのような廊下に出た。
 シンに連れられるまま『第二医療研究室』と書かれた扉を開けると、そこは純粋な広めのワンルームが広がっているだけだった。
 ベッドが置かれ、パソコンが備え付けられている。キッチンもあり、ソファーにテーブル。トイレ・風呂。
 テレビがあれば一般的な良いマンションの一室、といった空間が広がっている。

「この部屋のドアノブには視覚を操る能力が施されてます。普通の人ならば、家具や家財すら研究材料に見えてしまうでしょう」
「そんな事が出来るんですか……」

 早速靴を脱ごうとする美香だったが、「研究室で靴を脱ぐ人はいませんよ」とシンに注意されて土足のまま中へと進む。

「それで、美香さん。今後の予定ですが」
「はい」
「これから、私達は情報を探りながらIO2の上層部を炙り出す事になるでしょう。しばらくはここを根城に行動すると考えて下さい」
「分かりました」
「それと、幾つかやって頂きたい事があります。まずは、このIO2の全ての開発研究でトップにいる、“影宮”さんに会って欲しいのです」
「影宮さん、ですか?」
「はい。彼女は容姿こそ幼い女性ですが、天才と呼ばれています。彼女なら、今回のIO2と虚無の境界の動きに対して何かしら考えを持っているでしょう」

 シンがそれを尋ねた時は、うまくはぐらかされたそうだ。
 どうやら影宮という女性は、シンをIO2上層部の刺客だと考えたらしく、知らぬ存ぜぬを押し通すと判断したらしい。

「そ、その方は何処にいるんですか?」
「この真下の階です」
「真下……?」






―――。






 着任の挨拶という建前でも構わない、とシンに言われた美香は、何はともあれ、早速白衣を着て伊達眼鏡をかけた。
 影宮という女性に挨拶に向かう事にしてエレベーターに乗り込み、下の階へと降りた。

 エレベーターのドアが開き、真正面にある分厚いガラスの扉。その先には、まさに研究所といったフロア全体を使っているであろう研究スペースが広がっていた。

「すご……い」
『ずいぶんと広いわね……』

 ガラスの扉の横には何やら認証機械のような物があるが、静脈や声紋を調べるものらしく、IDカードでは役に立たなそうだ。
 美香がその上に視線を移すと、『御用の方はこちらを』と丸字で書かれた紙が張られたインターホンを見つけ、美香が押す。

 ――瞬間、空襲の警報でも鳴っているかのようなけたたましいサイレン音と、赤灯が回りだした。

「わ、罠!?」
『こんな場所に!?』

 と、慌て出す美香とユリカだったが、突如それらは止み、インターホン越しに誰かが出たようなガチャリという音が鳴った。

『はいよー?』
「あ、あの……! 今のは……?」
『んにゃー、あれはインターホンだよ〜。もしかして、初めて見た?』

 インターホン越しに声を出したのは女性というよりも、ちょっと幼い子供のような喋り方をしている声だった。

「はい……」
『そりゃ驚くねぇ。待っててー、そっち行くー』

 なんとも間の抜けた声の後で、中から背の小さい小柄な少女が歩み寄り、ガラス越しにこちらを見つめた。
 少しの間止まっているかと思った矢先。

 ――んにぃぃ〜〜。

 ガラスに顔を押し付けて何とも言えない表情を作り上げた。
 突然何をし始めたのかと思いながら美香が笑ってしまい、それを見た影宮がドアを開けた。

「うん、固い人じゃなさそうで安心安心」
「あ、あの……?」
「影宮 憂、二十一歳独身、彼氏募集中〜」
「あ、えっと、深沢 美香、二十歳です。彼氏は……別に今は……」
「おぉ、そこまで答えるとは律儀だねぇー。ささ、入ってー」

 どうにもペースに乗せられている美香。
 憂はそんな美香を見て御機嫌らしく、何処か楽しそうに歩いている。

 白衣を着ているが小柄で、本当に十際前後ではないだろうかと錯覚するような立ち振舞い。本当にこの人が全ての研究開発のトップと呼ばれる人なのだろうか、と美香は少々疑問に感じていた。

「――ならばその疑問にお答えしよう」
「え……!?」

 自分の心の中の声に答えるかのように、憂は振り返ってフフンと得意げに鼻を鳴らした。

「何を隠そう、この研究室は私しかいないっ!」

 ドヤ顔も然り、その顔で憂は胸を張って答えた。
 が、美香がきょとんとした顔で憂を見つめ、予想していた「何で考えていた事が分かったんですか」的な驚きを見せない事に、憂がチラっと美香を見つめる。

「……はい?」
「あれ!? 違った!? 私しかいないのにこんなに広い造りって何でだろー、って考えてたんじゃないの!?」
「……いえ、全然」

 これが、憂と美香の最初の出会い。




to be countinued,,,


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ご依頼有難うございます、白神 怜司です。

さてはて、謎な新キャラを迎えつつ、
実は裏を知っているのではないかという憂。

まぁ、ご覧の通り、天才と天然という危険な組み合わせキャラですw

今後の終盤に向かって繋がる展開ですので、
このキャラをイジってあげて下さいねw

では、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司