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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


激しい戦いの後で






 ――死闘。そう呼ばれても過言ではない。
 あの隔離空間での死闘から、既に数日が過ぎた。マスコミを抱え込んだIO2による未曾有の災害と称され、周辺住民の記憶を操作。今では騒がれる事もなくなったというのだ。
 さすがにこれ程までに堂々とした情報操作はどうだか、と事情を知る人間は一様に鼻で笑ったという。


(相変わらず、何処となく寂れたビルだな)

 たかだか数日顔を見せなかっただけで、感慨深いものがある。翼はそんな事を考えながら、薄汚れた雑居ビルを見上げた。


「――よう」
「やぁ」

 簡単な挨拶。
 眼鏡をかけた男に「入れよ」と促され、小さく頷いて中へと入る翼。

 似合わず整然としているその事務所内。翼を中へ入れと促した男に、そんな細やかさがない事は翼も理解している。

「悪いな。零のヤツ、今出てるんだ。お茶で良いか?」
「あぁ、構わないよ」

 彼に紅茶を要求してもコーヒーを要求しても、自分が目指しているそれが出て来るとは思えない。

(そういう男だからな、キミは)

 何処か呆れにも似た、親しい男に向ける翼の小さな笑顔。
 今回の一連の事件で自分を巻き込んだ男、草間 武彦を見つめながら、翼は小さくその笑顔を向けた。

「――さて、色々積もる話をしようかね」





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「――成る程なぁ。それでお前と潤が戦ってたって訳か……」

 立ち上る湯気も、話が続いていた中ですっかり消え去っていた。
 コップに注がれた緑茶をずずっと音を立てながら飲み込んだ武彦は、話が始まってから何本目かの煙草に火を点けた。

「兄さんから話は聞かなかったのかい? 確か手伝ってくれたんじゃ?」
「馬鹿言うな。俺は必死に潤の手伝いするだけで精一杯だったよ。細かい事情を聞こうにも、あの後の事後処理でてんてこ舞いだったんでな」

 翼の言葉に武彦が力なく愚痴る。

「……迷惑をかけてすまなかったね、武彦」
「いや、俺は何もしちゃいねぇよ。虚無を倒したのも潤だったみたいだしな」
「……それでも、だよ」

 翼の言葉に武彦が所在なさげに頬をポリポリと掻く。

「あぁ、そうそう。虚無の核なんだけどな」
「核?」

 話を逸らそうとした武彦の気持ちを察した翼。武彦の言葉に耳を傾ける。

「潤が虚無から取り出して封印したんだよ、虚無の核ってのを。それの保管はIO2に任せる事になった」
「IO2に、か。でもそんな事をすれば、虚無の境界がまたそれを狙って動き出すんじゃないか?」
「あぁ。まぁ、今回の衝突はお互いにタダじゃすまなかったって所だ。痛み分けでIO2に軍配があがったが、虚無の境界もしばらくは大人しくするだろうよ」
「虚無の境界はほぼ捕らえられたのかい?」
「いや、そうはいかなかった」

 武彦が天井に向かって吐き出した紫煙を見上げて言葉を続けた。

「盟主、巫浄 霧絵やら虚無の境界の主力メンバーは姿を消した。捕らえられたのは末端の虚無の境界のメンバーだけだ。それでも数十、数百っていう人数が削られ、主力メンバーも傷を負ったはずだ」
「成る程ね。それでしばらくは様子見が続く、って事か」
「まぁそうなるな。IO2もかなりのメンバーが傷を負ったり、殺されたりだ。痛み分けだよ、本当にな」

 あれだけの大規模な衝突があったのだから無理もない、と武彦は付け加えていたが、翼は何処か浮かない顔をしていた。

「まぁいずれにせよ、お前と潤がいたからその程度で済んだんだ。俺達としては助かったって所だけどな」
「……それでも、虚無はまた生き返るかもしれない、だろ?」
「まぁな。IO2としても対応はまだまだ考えている最中だ。これから先、どうなっていくかは解らないがな」

 武彦はそう言うと煙草を灰皿に押し付けて消した。腕をぐっと天井へと向かって掲げ、身体を伸ばす。

「しっかし、あの廃工場での一件から、こんな大事件になるとはな」
「まったくだね」

 武彦の言葉に翼は思い返す。
 工場での一件から明るみになったIO2と虚無の境界の戦い。続いた連戦もまるで遠い昔の出来事のようだった。

「それにしても、気になるのはあの二人組みだ」
「……エヴァ・ペルマネントと柴村 百合、だったかな」

 翼と武彦の前に幾度か現れた二人の少女。
 武彦と翼も彼女達の行動には随分と振り回される結果になったが、あの争いの中でその動きを確認出来ていなかった。

「囮だった、と考えるべきか……?」
「それとも、本当に別の目的を持っていたか、だね」
「まぁ虚無の境界が動けなくなったんだ。これからどう動こうとしてくるのかは解らないが、少なくともしばらくは平和だろうよ」
「そうだと良いけどね」

 大きな戦いが終わったばかりなのに演技でもない。それが武彦の本心だった。

 そういう点では翼も同じような心境ではあったが、今回の騒動に関して百合やエヴァが本当に別の目的を持っていたのなら、それを見逃しておく事は極力するべきではないと感じていた。
 いずれにせよ、現状では何も動きも報告もIO2には入っていないのだ。無理に情報を探ろうとしても、それは徒労で終わるだろう。
 翼はそんな事を考えながら、武彦に渡されたお茶を口に流し込んだ。

「翼、今回の件でIO2はお前と潤を少なからず注目したはずだ」
「だろうね」

 武彦の言葉に翼は小さく笑いながら答えた。

「何かしら協力を請われるか、或いは支配下に置こうと考えてきてもおかしくない。警戒しろよ」
「あぁ、分かってるよ」

 翼はそう言ってコップを机に置き、立ち上がった。

「心配されなくても、僕はそんな連中に使われるつもりはないよ」
「そりゃ結構だ。かと言って、IO2と揉めるようなのも面倒になるから――」
「――大丈夫だよ。わきまえてる」
「……そりゃ余計なお世話でしたね、っと」

 フザけて見せる武彦に、翼は笑った。
 こうして、今回の虚無の境界との戦いは幕を下ろそうとしていた。






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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

今回のお話で一応の一段落、という所を迎えました。
連載有難う御座いました。

それにしても、年齢すいませんっ!
キャッチフレーズからてっきり長年の経験談なのかと……;
リテイクで直す必要あるトコはいつでも
お申し付け下さいませ。

それでは、今後とも機会がありましたら、
是非よろしくお願いいたします。

白神 怜司