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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


―It's show TIME―






「――クリスマスショーて、あいっかわらず唐突やなぁ……」

 夕闇に染まる商店街に面した、鍼灸院。まばらになった雑踏を見つめながら、肩肘ついて手に頬を寄せる、見たままでは十五歳程度の少女。金色の髪と、透明な眼鏡越しに見える青色の瞳は大きく、見たままでは精巧なフランス人形のような美しさをまとっている。
 その姿が鍼灸院で、しかもその口からは流暢なフランス語が紡がれる訳ではなく、軽快な大阪弁だと言うのだ。初めて見た人は何かの間違いかと二度見しては通り過ぎ、また初めて声を聞いた人はその予想外な口調に、何故か妙な親近感をもたらす。

 周囲の予想や想像。或いは妄想を打ち砕くギャップを持つ彼女は、そんなギャップとは全く違う、相変わらず唐突な男、“草間 武彦”からの電話によって頭を悩ませていた。その上で出て来た言葉こそが、先程の一言なのだ。


 “セレシュ・ウィーラー”は絶賛思考を巡らせている、という訳である。


 “迷っていても仕方がない”等と言うのは、行動を起こす為に自分に言う言い訳ではないだろうか。セレシュはそんな所に思考を外し、我に返った。

「クリスマスショーなぁ」

 セレシュは再び、幾度めかのため息を漏らした。とは言え、彼女は決して否定的な考えを抱いている訳ではない。参加するのもやぶさかではない。
 そこに至るには、セレシュの息子とも取れる存在、“陽”が起因している。

 生まれて未だ一年にも満たない付喪神である陽。
 セレシュにとっては、今回の『孤児院』という空間は、陽にとっても成長の一端を担ってくれる事は期待している。
 陽に似たような精神年齢。つまり、孤児院にいる幼い子供達と一緒に楽しむ機会は、今までに陽にとっては訪れなかった状況だ。そんな場を提供してあげたいというセレシュの思いは、まさに母親のような感覚である。

 愛を注ぐ、慈愛に満ちた母親像だった。

「せやな。こういう機会は、ある意味うちにとっては大助かりやわ」

 ようやく、セレシュはその華奢な身体を椅子から立たせる。






◆◇◆◇





 クリスマスムードに染まった街並みは、青と白の美しいイルミネーションを主流に色鮮やかに飾られていた。
 セレシュの隣を歩いている陽は、セレシュにもらった手袋と、可愛らしい茶色くてふわふわとした手触りの耳当てを耳につけ、白い吐息に反射しそうな程に瞳を輝かせてそれらを見つめていた。

 そう、世間はもう、クリスマスという一種の伝統行事に興じている。

 いつも以上に明るい街並みを見つめていた陽。しかし、セレシュと一緒に出掛ける際の『約束』を破ったりする事はない。
 その一つが、迷子防止という名目で繋がれた手だったりもする。浮かれる街の空気に拐かされた陽だが、その『約束』を破ろうとはしない。


 孤児院についた陽は、いつもよりも何処か緊張していた。
 陽は今でこそ会話に不自由もなく、対大人に関しては多少の慣れが生まれている。しかし、今日目の前に現れるのは、容姿だけなら自分と全く変わらない程の年頃の少年少女である。
 緊張している、という表現ではなく、不安で強張っていると言うべきか。

 柔らかな笑顔が特徴的な院長に挨拶を済ませる。

「おやおや、その歳でずいぶんしっかりした少年だねぇ」

 そう言われて頭を撫でられた陽は、その不安が多少は拭えたらしい。素直に喜び、はにかむ笑顔を浮かべる陽を見て、セレシュはほっと胸を撫で下ろした。と同時に、子供に対しての院長の扱いの百戦錬磨ぶりに、誰にも知られないように顔を取り繕いながらも賞賛していた。


「それで、セレシュさん。演し物は決まってますかな?」
「もちろんです。マジックショーを、この子とやろうかと思うとります」
「ほう、陽クンも一緒にですか。いやいや、同じぐらいの子供が多いですからね。陽クンがうまくやってくれたら、子供達は大喜びするでしょうねぇ」
「陽はしっかりしてるから、大丈夫です」

 慌てて謙遜な姿勢を取る陽を他所に、セレシュと院長は会話を続けていた。

 会話も一段落した所で、二人はシンプルな着替えを済ませた。コスチュームはシンプルで、セレシュは赤と白を基調にした、露出の少ないサンタコスチュームに身を包む。着ぐるみを見た時は「やっぱツカミはこれや!」とも思ったのだが、子供相手にそれをするのはリスクが大き過ぎると判断し、それを断念した。子供の歯に衣着せぬ物言いは、なかなかどうして鋭い凶器である。

 その近くで着替えていた陽は、何処か恥ずかしそうに着替え終わった服装をセレシュに披露する。子供向けの簡素な黒い燕尾服。そして何故か用意されているシルクハットだ。

「えぇやんか、陽」
「えへへ……」

 褒められて上機嫌な陽を見つめて、セレシュは笑顔で頷いた。

「ほな、いっちょやるで、陽」
「うん!」

 ――二人のマジックショーが始まる。





 ショーを行う広めの部屋。そこは普段、院長達と子供達が一緒に食事をする憩いの場だそうだ。広さは二十五畳程度で、長方形に伸びている。
 今日はこのクリスマスショーの為だけに子供達は部屋から追い出されていたのだが、パーティーが始まると知っていた子供達はそれに不平不満を募らせる事はなく、むしろ一目見てやりたくてウズウズしていたそうだ。

 閑話休題。

 その場所に、しっかりと準備を済ませた陽とセレシュが現れると、子供達は一斉に二人に向かって拍手した。

「メリークリスマース!」

 先手必勝と言わんばかりのセレシュの魔道具が炸裂する。パーンという軽快で小気味いい音を鳴らせ、リボンと紙吹雪が子供達に向かって舞う。それだけではただのクラッカーと代わり映えしないが、光の粒子がキラキラと舞い、金色の筆記体でMerry Christmasと書かれた文字が浮かび上がる。
 このセレシュの作戦は見事に子供達から歓声を上げさせ、目をキラキラと輝かせる事になった。

 セレシュはその後もマジックと称して改造していた魔道具を使い、光や音を駆使して場を盛り上げた。黒くて長いステッキを鳩に変身させる姿は、子供達が今までに見たマジックとは変わらないと思われるが、誰も魔法で本当に変化させた事には気づかない。タネを考えたがる院長達が一番感動していた。

 次に陽の番が訪れる。

 陽は付喪神としての能力を使い、子供達にランダムにカードを引かせるカード当てを行う。それもまた普通のマジックと同じかと思えば、その当て方に子供達も院長も感動する。本来何かに書いている、と言ってみたり、それを重ねて一番上にしたり、というのがオーソドックスではあるが、陽は子供達に五枚選ばせ、それを更にシャッフル。端から順に当てていくという離れ業をやってみせた。
 自分達と同じ子供なのに、という想いがあったのか、孤児院の子供達は陽に対して尊敬すらしている子さえいた。






◆◇◆◇






 マジックショーが終わった後で、子供達と一緒になってクリスマスパーティーに参加する事になった陽とセレシュ。
 陽は子供達に囲まれて楽しそうに会話してみたり、子供達にもう一回見せて欲しいとせがまれ、得意気な顔でそれをやってみせたりと、何処となく子供らしさを見せていた。

(心配、する必要もなさそうやったな)

 陽と子供達のやり取りを見ながら、セレシュは小さく心の中で呟いた。

(マジックは成功やけど、あっちは失敗かもしれへんな)

 セレシュはそう思いながらも、陽から目を逸らした。
 セレシュが陽を参加させたのは、何も母親らしい慈愛の精神からに依るものだけではない。

 仲良くなっても自分の正体や特殊能については話せない、老化や成長でばれるので仲良くなったからといって一緒にいる事は難しいという現実を知って貰いたい、という思いがあったからこそ、セレシュは今回の出会いを陽にも経験させたのだった。

(まっ、えぇな。時間が経てば、きっとうちが言おうとしている事も分かるようになる)

 楽しげな明るい陽を見つめながら、一年に一度のクリスマスパーティーは静かに終わりを告げようとしていた。





                                   FIN



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ご依頼有難うございます、白神 怜司です。

クリスマスに間に合わずに申し訳ありません;
なんとか間に合わせるつもりだったのですが、
予定外な事故が起きてしまいまして;

何はともあれ、今回は二人での参加、なかなかの
盛況ぶりを見せてくれました。

お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、今年も残り僅かとなりました。
来年も是非とも宜しくお願いいたします。

良いお年を。

白神 怜司