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<東京怪談ノベル(シングル)>


 機動鎮圧

 指揮官が顔の前で手を組み、眼前で敬礼をする水嶋・琴美(8036)を見つめる。
 規律ある軍服を着ているのだが、下は支給されるものよりもタイトなミニスカート。
 通常であれば服装も指摘しなければならないが、彼女の実力を高く評価する者たちは、その服装において黙認していた。
「――特務統合機動課 水嶋・琴美。君に特殊任務を言い渡す」
「お安いご用ですわ。私が呼ばれるというのは……魑魅魍魎相手ですの?」
「いいや。テロ組織殲滅だ……君ひとりで十分かね」
 それに対して、ふっと余裕の表情を浮かべる琴美。
「この場に誰もいらっしゃらないのが、その答えではありませんか? 私のみで十分です」
 通達書類を受け取り、それでは、と慇懃に頭を下げて琴美は豊満な胸を揺らしながら退室した。

■某所のビル内。

 反対の廃墟ビルより、およそ400メートル先のテロ組織が選挙するビルを眺める琴美。
 編み上げブーツの踵を鳴らし、はちきれんばかりの胸を、黒のラバースーツに押し込んでいる。
 しかし、下は白いミニのプリーツスカート。すらりと伸びる足は惜しげもなく晒されていた。
「さて……私をどのように楽しませてくださるのか……あまり期待せずに参りましょうか」
 フックショットで一番近いビルへ飛び移り、再びまた違うビルへ……というのを二度ほど繰り返し――琴美は、テロ組織のビルへとガラスを突き破って侵入した。

「侵入者だ!!」
 ガラスの割れる派手な音と、きらきらと僅かな光を反射して輝く破片のなかに、
 悩ましい美女が突如として現れたことで、テロリストたちは驚きを禁じ得ない。
 この場違いな女性は、一体何なのか。そんなことが頭をよぎった瞬間、琴美はにっこりと柔らかに微笑んだ。
「ごきげんよう。素敵な夜ですわね。もっとも――」
 歌うような声に耳を傾けていると、瞬時に琴美の姿は影も残さず消えてしまった。
 彼女の場所をテロリストの一人が気付いた時には……全身を駆け巡る痛みがやってきた後だった。
 肘をがら空きの腹部にめり込ませつつ、にんまりと口角を吊り上げた。グロスを塗った艶やかな唇が動く。
「――貴方がたは、私の記憶に残るようなものではないでしょうけれど?」
 男を蹴り飛ばし、ようやく我に返ったテロリストらに銃口を向けられても琴美は全く怯まない。
 トリガーが引かれた瞬間、琴美はクナイを男めがけて投げつけ、身を低くし猫のようなしなやかさで正面の男の顎を、ハイキックで蹴り上げた。
 足に伝わる明確な手ごたえに、あら失礼、と微笑む。
「痛みを感じる前で良かったではありませんの」
 スカートがめくれ、露わになった丸く柔らかそうな尻を隠すでもなく、男たちに妖艶な笑みを向ける。
「私にかすり傷でもつけることができましたら、お好きにされても良くてよ?」
 その言葉は男たちの精神を逆なでするに十分だった。もっとも、別の精神も熱くさせたかもしれないが、
 琴美にとっては男たちがどう思おうと興味もないし、触れられるはずはないのだから同じことである。
 銃弾の雨が降ろうとも軌道を予測し、常人離れ……いや、人間離れした身体・戦闘能力で蹴散らしていく琴美。
「あれは人間と思うな! 殺せ! 政府の犬だ!」
 小銃擲弾を構え、琴美の歩幅に合わせて的確な位置を狙い、射出。
 爆発の衝撃にビルの窓ガラスは砕け散り、鼓膜を轟音が揺らす。
「やったか!?」
 着弾地域には、何も残っていない。良い女だったが、木っ端みじんに砕けたのだろう、とテロリスト達の顔に安堵が浮かびかけたときのこと。

「どこを狙って撃っていらっしゃるのかしら?」
 後方から、涼やかかつ呆れたような声音が聞こえた。
 長い黒髪をかきあげ、はあ、と大きなため息をついた、落胆気味の琴美の姿があるではないか。
 しかも、細かい埃や塵にまみれてはいるものの、傷一つない。
「……重火器まで持ち出してきたから期待してはみましたが。
ええ、狙い所も悪くなかったのですけれど、やっぱり駄目でしたわね」
 埃を軽く払い落としながらころころ笑っていると、
「クソアマッ!!」
 逆上した男が琴美にナイフで斬りかかろうとするが、そのような愚行に動揺もない。男の手首を片手で握り、くるりと返して床に転がす。
 防弾チョッキを着込んだ胸を琴美は強くブーツで踏みつけ、男の呼吸を圧迫させた。
 スカートをふわりと翻しながら両膝を突き込み、男を気絶させると、自身のむっちりとしている白い太股の上へ手を置きつつ優雅に立ち上がった。
「……次は、どなた?」
 その表情は穏やかだというのに、男たちにとっては――氷の仮面を張り付けた、地獄からの死者のように思えたのだ。
「化け物め!」
 男達も決して弱いわけではない。
 むしろ、そこいらの小隊では、果敢に攻めたところで返り討ちに遭うであろう訓練された手練が集まっている。
 だというのに、彼らはこの、謎の美少女に翻弄されている。
「よく言われますけれど、本当に心外ですわ」
 きょとんとした、年相応の表情を浮かべた後。琴美は、背後から襲いかかろうとする男の顔面に裏拳を叩きこんだ。
 仲間の作りだしてくれた、標的の隙に合わせて銃撃を敢行したテロリストらだったが、
 射出するまえに恐ろしいほどの敏捷さで懐に潜り込み、クナイを振るって一人一人を沈めていく琴美。
 彼女は徒手空拳で、常人では反応すら出来ぬ銃弾の雨を瞬きの間にかいくぐると、弾けんばかりの肢体をくねらせ、
 細い足にスピードと膂力を乗せて蹴りを放つ。
 スカートが遅れて揺れ、彼女の純白の下着を露わにしたが、琴美は気に留めない。
「冥土の土産を差し上げていると思えば、この程度安いものですわ」
 そして足を降ろし、最後の一人に向き直る。
「……ここまで出来るやつが単身乗り込んでくるとは、予想外だったぜ」
 そうして男は、同じように身構える。
「その力がありゃ、国家転覆でも何でも出来んだろうによ」
「私、そのようなことに興味ございませんの」
 どちらともなく床を蹴り、肉薄する瞬間――琴美は男の手に手榴弾が握られていることに気が付いた。
「……黄泉への旅路は、お先にどうぞ」
 とっさに身を捻り、遠心力を乗せた回し蹴りで相手を吹き飛ばす。
 すぐに後方へ飛び、柱の陰に身を隠した瞬間。
 空気を震わせるほどに大きな爆発と熱風が、琴美の鼻先をかすめて行った。
「ふん……。相討ちに持ち込もうとしたわけですのね。隠すのであればもう少し、マシに隠していただきたかったですわ」
 だが、彼女は相変わらず笑っていた。

「ま、これで任務完了、といったところでしょう。相変わらず……楽な任務ですこと」
 口元に指を置き、くすりと笑った後……彼女は本部へと帰還するのであった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8036 / 水嶋・琴美/ 女性 / 19 / 自衛隊 特務統合機動課】