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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


異界食べ歩きツアー・2nd





「出流、そういう訳やから。レッツゴーや」
「お、おい。瑞希、引っ張るな」

 マイペースに出流を引っ張りながら、瑞希はさっさと歩き出す。

 黒い髪に茶色い瞳。背も高く、整った顔立ちをしている瑞希の姿。
 親しみやすい大阪弁で喋る彼は、かの有名なアイドルグループ、『Mist』のリーダー、バーミリオンその人である。

 そんな瑞希が腕を引っ張っている相手は、同じく『Mist』のメンバーである、“桐生 出流”だ。
 
 整った顔立ちで腰まで長い金髪。そして優しげな青目。
 儚げな印象を持たれる事や、その洗練された佇まいから女性に間違えられる事もある。
 公私混同をあまり好かない彼は、ファンにも礼儀正しく、まさに他のメンバーとは違った由緒正しい貴族。もしくは王子と言った表現が相応しい。

 プライベートでは眼鏡をかけ、髪を纏めている為、ファンにバレる事もない。

 あまりそんな事を気にしない瑞希とは、まるで火と水。そんな二人の印象ではあるが、実に仲が良い『Mist』の面々。多少の違いなどは何処吹く風とばかりに、お互いの性格を知り、互いに好感を持てている。

 もちろん、瑞希は分け隔てなく交流をするが、互いに歳が近い事もあり、今回はスケジュールの都合上も重なり、異界食べ歩きツアーに出流を巻き込もうという心算であった。






◇ ◇ ◇ ◇






 異界食べ歩きツアーの第二弾。
 今回瑞希が選んだのは、異国情緒豊かな、中世イタリアの佇まいを再現しているかの様な街だった。

 タイル張りの地面に、レンガ造りの建物が建ち並ぶ街。
 マンションタイプの家々が建ち並ぶその風景は、さながら洞窟の左右に家を掘ったかの様に隙間なく埋め尽くされている。

 そんな街の中を、瑞希と出流は歩いていた。

「でな、そのラーメンがめっちゃ美味かったんやって。なんや変なナレーションみたいな声とか聞こえてきよった気したけどな」

 以前一人で行った食べ歩きツアー。その時の話を嬉しそうに話す瑞希の言葉を聞きながら、出流もその隣りを歩く。

「相変わらず食にはこだわるな、瑞希。たまには作ってみたらどうだ?」
「あかんってー。うちは作るより食べる方が好きやし」
「それはそうかもしれないが……」
「出流は料理作るからなぁ。いつでも食べに行くで」
「食べる専門だな……。手伝おうとは思わないのか……」
「手伝っとったら腹減ってつまみ食いしたくなるやろ?」

 ニヒッと笑みを浮かべる瑞希を、出流は小さくため息を漏らしながら見つめていた。

 瑞希は出流とは違い、いわゆる『食い専』という立場だ。
 料理を作ろうと試みても、味にはこだわりはあるものの、どうにもそれを作れるには至らない。それが瑞希の性格であり、特徴である。

 対する出流は料理をする。

 二人共、料理に対する方向性は違えど、様々な料理を口にする食べ歩きツアーはそれなりに魅力があるものだ。





 しばらく歩いた先にある、一件の店。
 そこで匂いにつられて立ち止まった瑞希は、表に出ていた看板を見つめる。

「『ピッッアニーニ』。ピザの専門店やな。よし、ここにするで」
「なんだ、目的地があった訳じゃないのか?」
「それが醍醐味なんやって。出流、入るでー」

 カランカランと音を立てて扉を開ける。

 店内はどこか家庭的で、こじんまりとしている造りだった。
 卓数はせいぜい五つ程度で、あとはカウンター席。
 柔らかで温かい家庭的な店の内装には、温かみのある木々で作られた椅子やテーブルに、クリーム色の天井や壁。

 テーブルの上にはチェック柄の小さなテーブルクロスが敷かれている。

 店内は満席とまではいかず、瑞希と出流以外にカウンターに三名、円卓になっているテーブルに一組のカップルが座ってピザを味わっていた。

「いらっしゃいませ、『ピッッアニーニ』へようこそ」
「邪魔するで。出流、何処に座る?」
「カウンターが良いな」
「ほな、あそこの円卓で」
「……任せるよ」

 聞いてきた意味があったのかと首を傾げる出流を背に、瑞希はさっさと円卓に向かって歩み寄り、座り込んだ。

 向かい合う様に座った出流を他所に、瑞希はメニューを早速見つめている。

「ここやったら留守番組のお土産も買えるやろ。えぇ店選んだわー」
「そうかい」

 ちゃっかりと告げた瑞希に、出流は小さく笑って返事を返した。



 注文したのは、オーソドックスなピザを一枚と、二種類に分けられたピザ。そして、何処から選んだのか、甘いピザを一枚。
 オーソドックスなピザを除いてSサイズで、せいぜい四キレ程度にするピザだ。

 デキャンタに入れられた赤ワインが運ばれ、早速二人はグラスをあげる。

「うん、香りが柔らかいな」
「せやなー。ピザとも相性良さそうや」
「本当にそう思ってるのか?」
「失礼やなぁ。うちは食べるモンと飲むモンの相性にもうるさいんやで?」
「まぁそうだろうな」

 出流なりのからかいに、瑞希も小さく笑って答える。これが二人のやり取りにはよく見られる光景である。

 そんな二人を前に、早速ピザが次々と運ばれてきた。

 香ばしいチーズの匂いが鼻をくすぐり、食欲を促す。焼かれたばかりのピザに手を伸ばして切り分ける瑞希の表情は、今まさに宝の山に手を出したトレジャーハンターさながらの煌めきを見せている。

「よっしゃ、切れたで。出流もはよ食べや」
「あぁ。いただきます」
「いただきまーす」

 早速二人はピザに手を伸ばし、口に運んだ。





◇ ◇ ◇ ◇





 ほのかに焦げた焼き目。そして、とろける様なチーズ。
 口に入れた瞬間、瑞希は恍惚感を味わっていた。

 まずはオーソドックスな、チーズを乗せただけのピザ。生地の甘みとチーズの旨味が見事に口の中に広がり、その後でワインを呷る。
 ワインから口の中に広がった濃厚な香りが、チーズの後味を押し流し、余韻を楽しませるだけの風味だけが残った。

「はぁー、幸せやなぁー……」

 恍惚な表情を浮かべた後で、もう一枚に手を伸ばす瑞希。

 二種類のピザがそれぞれの具を乗せ、一枚はシーフードをふんだんに使ったピザだ。
 海鮮の香りが口の中に広がり、独特な臭みをチーズが中和する。その旨味もまた格別である。

 もぎゅもぎゅと口の中に頬張りながら瑞希は出流を見つめた。

 自分が誘った手前、出流が楽しんでくれなかったらどうしようかと思うのは、リーダーとしてではなく、瑞希の人柄が成す心配であると言える。

 出流はもともと、表情をそんなにころころと変えるタイプではない。しかし、瑞希の目に映った出流の表情は柔らかく、満足気だ。

「美味いな、出流」
「あぁ……。具材とチーズの組み合わせは見事だな。ワインも、銘柄を任せて頼んだが問題はなさそうだ。しっかりとバランスを考えて出されているな」
「ふーん……? 細かい事はさっぱりや。うちは美味しく食べれたら全て良しや」
「フフ、まったくもって瑞希らしいな。しかし、あの石窯で焼いてるのか……」
「ん、あぁ、あれか。テレビとかでもたまに見るわ」

 壁に取り付けられた石窯を見つめながら、出流がワインを口に流した。

「あれは欲しいな」
「あかんやろ」
「しかし、このチーズの焦げ目をつける独特な焼き方。それ故に引き立つチーズの香ばしさこそが……」

 ブツブツと言葉を続ける出流に、瑞希はこれ以上は聞こうとはしない。

 瑞希にとって、食事は楽しむもの。出流はよく考え込む事があるが、それは瑞希にとってはもったいない時間だとも感じる。

 それでも美味しく食べているならそれで良いのだが。

 瑞希は小さくそんな事を考えながら、甘いピザに手を伸ばした。
 これはまるでクレープの様な印象を受けた。

「お、これもなかなか……」
「聞いているのか?」
「ん? 何が?」
「……何でもない。それもらおうかな」
「おぉ、食え食え」



 食後、瑞希は手を合わせていつもの挨拶をする。

「ごちそうさま」







◆ ◇ ◆ ◇






「いやー、食ったなぁ」
「あぁ。あの子達のお土産も買ったし、満足だ」
「せやなぁ。石窯置くのは諦めたんか?」

 帰路につきながら、瑞希は出流に尋ねた。

「うん……、どうにも諦めきれないのが本音ではあるけどな」
「難儀なやっちゃなぁ……。それでもまぁ、良かったわ。出流も楽しんでくれたみたいでな」

 瑞希が笑みを浮かべながら、出流に向かって告げた。

「あぁ。ありがとう、瑞希」

 出流の言葉に、瑞希はニヒっと口を開いて笑って応えた。





                         FIN




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ご依頼有難うございます、白神 怜司です。

今回は瑞希さんと、出流さんのペアツアーでしたね。
せっかく同じ依頼を頂いたので、瑞希さんは瑞希さんの
主観に近い形で書かせて頂きました。

出流さんも同じく、出流さん寄りに書かせて頂いてます。

ピザ食べたくなりましたけど、これは作戦ですね?←

お楽しみいただければ幸いですw

それでは今後とも、よろしくお願い致します。

白神 怜司