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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


異界食べ歩きツアー with 瑞希





 


「出流、そういう訳やから。レッツゴーや」
「お、おい。瑞希、引っ張るな」

 どういう訳だ、と言いたい気持ちを胸に、出流は瑞希に手を引かれて歩いていた。

 以前瑞希から話を聞かされた、異界食べ歩きツアー。
 今回はそれに自分も連れて行くと言い出したのだ。

 他のメンバーはスケジュールの都合上、折り合いがつかず、今回は出流も仕方ないとばかりに折れ、瑞希に付きそう形となった。

 瑞希とは対象的な容姿をしている出流は、金色の長く美しい髪を後ろにまとめ、眼鏡をかける。
 これは出流にとってのプライベートスタイルであり、その変装ぶりから、私生活でファンに見つかる事はない。

 そう、ファンがいる存在。

 出流もまた、瑞希と同じく『Mist』のメンバーである。

 ファンと親しく接する、今まさに出流の手を引いている瑞希こと、『Mist』のリーダーであるバーミリオン。
 そんな彼と出流は歳も近く、対照的なその性格に、出流は理解出来ない部分を感じながらも、好感を抱いている。

 それこそまさに、火と水。

 混じり合おうとすれば打ち消しあう関係でも、互いに魅力を感じながら、友として接するには好感を得る関係。

 そんな不思議な関係であった。






◇ ◇ ◇ ◇






 瑞希に連れられた出流の目に映ったのは、さながら中世イタリアにも似た町並みであった。

 現代のミラノにもよく似た、レンガ造りの建物が建ち並ぶ風景。
 街の一角には元気に走り回る幼い子供達の姿。

 古き良き町並みをそのままに体現している。
 出流にとっても、何処か心が温かくなる町並みである。

「でな、そのラーメンがめっちゃ美味かったんやって。なんや変なナレーションみたいな声とか聞こえてきよった気したけどな」

 以前一人で瑞希が行ったとされる食べ歩きツアー。
 その時の事がどれだけ楽しかったのかと言わんばかりに、瑞希が手振りを混じえて出流に向かって説明を続ける。

 食べる事が好きな瑞希の話に、作り方などは出て来ないのが残念である出流ではあったが。

「相変わらず食にはこだわるな、瑞希。たまには作ってみたらどうだ?」
「あかんってー。うちは作るより食べる方が好きやし」
「それはそうかもしれないが……」
「出流は料理作るからなぁ。いつでも食べに行くで」
「食べる専門だな……。手伝おうとは思わないのか……」
「手伝っとったら腹減ってつまみ食いしたくなるやろ?」

 ニヒッと笑みを浮かべる瑞希を、出流は小さくため息を漏らしながら見つめていた。

 出流はどちらかと言えば、作って楽しむタイプである。
 食へのこだわりは強く、良い食材を手にしたいと考える出流は、よく食材を求めて町を歩く。
 食べ歩きツアーに快く参加したのも、新たな味との出逢いを大事にするが故と言える。

 二人共、料理に対する方向性は違えど、様々な料理を口にする食べ歩きツアーはそれなりに魅力があるものだ。





 しばらく歩いた先にある、一件の店。
 突如立ち止まった瑞希の後ろで、出流は表に出ている看板を見つめる。

「『ピッッアニーニ』。ピザの専門店やな。よし、ここにするで」
「なんだ、目的地があった訳じゃないのか?」
「それが醍醐味なんやって。出流、入るでー」

 てっきり店を調べていたのかとも考えていたが、今の方が瑞希らしくもある。そんな事を考えながら、軽快な音を立てて開かれた店内へと、出流も足を踏み入れた。

 店内はどこか家庭的で、こじんまりとしている造りだったが、既に店内には香ばしい香りが漂い、その店の味を出しているとすら出流は感じていた。

 卓数はせいぜい五つ程度で、あとはカウンター席。
 柔らかで温かい家庭的な店の内装には、温かみのある木々で作られた椅子やテーブルに、クリーム色の天井や壁。

 テーブルの上にはチェック柄の小さなテーブルクロスが敷かれている。

 店内は満席とまではいかず、瑞希と出流以外にカウンターに三名、円卓になっているテーブルに一組のカップルが座ってピザを味わっていた。

「いらっしゃいませ、『ピッッアニーニ』へようこそ」
「邪魔するで。出流、何処に座る?」
「カウンターが良いな」
「ほな、あそこの円卓で」
「……任せるよ」

 これはいつもの通りだが、料理をしている工程に興味がある出流と、食べる事に興味を注ぐ瑞希。この二人の席の配置は、だいたいこう分かれてしまう事がある。

 今回は誘ってくれた瑞希の提案に乗る事にして、出流は瑞希と向かい合う様に椅子に腰を下ろした。

 対する瑞希は、既にメニュー表を覗き込んで唸り出している。

「ここやったら留守番組のお土産も買えるやろ。えぇ店選んだわー」
「そうかい」

 偶然を自分の手柄の様に話すのは、さながら少年の様な振る舞いだ。瑞希のそんな姿を見ながら、出流は小さく笑って返事を返した。



 注文したのは、オーソドックスなピザを一枚と、二種類に分けられたピザ。そして、何処から選んだのか、甘いピザを一枚。
 オーソドックスなピザを除いてSサイズで、せいぜい四キレ程度にするピザだ。

 デキャンタに入れられた赤ワインが運ばれ、早速二人はグラスをあげる。

「うん、香りが柔らかいな」
「せやなー。ピザとも相性良さそうや」
「本当にそう思ってるのか?」
「失礼やなぁ。うちは食べるモンと飲むモンの相性にもうるさいんやで?」
「まぁそうだろうな」

 こんなやり取りをしてはいるが、出流も瑞希がこだわりを持っている事は理解している。
 料理作りこそしないが、瑞希の舌は明らかに常人よりも肥えている。

 それを知ってる上でのからかい、というものだ。

 そんな二人を前に、早速ピザが次々と運ばれてきた。

 香ばしいチーズの匂いが鼻をくすぐり、食欲を促す。
 瑞希が早速焼かれたばかりのピザに手を伸ばして切り分ける。ピザのチーズはふんだんに使われており、分厚さすら感じる程に贅沢な切り口。

 瑞希が早速手を伸ばし、切ったピザを見つめる。

「よっしゃ、切れたで。出流もはよ食べや」
「あぁ。いただきます」
「いただきまーす」

 早速二人はピザに手を伸ばし、口に運んだ。





◇ ◇ ◇ ◇





 ほのかに焦げた焼き目。そして、とろける様なチーズ。
 まずはオーソドックスな、チーズを乗せただけのピザ。

 瑞希にならって出流もそれを口に含む。

 生地の甘みとチーズの旨味が見事に口の中に広がる。僅かに残った口の中の刺激。恐らくは塩の味わいだろう。
 味に深みを与えている事がよく判るものだ。

 飲み込んだあと、ワインを呷る。

 ワインから口の中に広がった濃厚な香りが、チーズの後味を押し流し、余韻を楽しませるだけの風味だけが残った。
 ワインはデキャンタで注がれた、店主の選んだワインだそうだ。

「はぁー、幸せやなぁー……」

 恍惚な表情を浮かべた後で呟く瑞希に、思わず出流が小さく笑う。

 二種類のピザがそれぞれの具を乗せ、一枚はシーフードをふんだんに使ったピザだ。
 海鮮の香りが口の中に広がり、独特な臭みをチーズが中和する。
 その旨味も然ることながら、何か隠し味を引き立たせる一手間を感じる。

 自分でも作れないだろうか。

 そんな事を考えながら、どこか難しい表情を浮かべて出流は食べていたが、口にピザを頬張った瑞希の視線に気づき、小さく肩の力を抜いた。

 せっかく連れて来てくれたのに、難しい顔をするべきではないか。
 そんな事を考えながら、一度その表情を緩め、味を楽しむ事にした出流だった。

 そんな出流の気遣いに気付いたのか、瑞希が口を開いた。

「美味いな、出流」
「あぁ……。具材とチーズの組み合わせは見事だな。ワインも、銘柄を任せて頼んだが問題はなさそうだ。しっかりとバランスを考えて出されているな」
「ふーん……? 細かい事はさっぱりや。うちは美味しく食べれたら全て良しや」
「フフ、まったくもって瑞希らしいな。しかし、あの石窯で焼いてるのか……」
「ん、あぁ、あれか。テレビとかでもたまに見るわ」

 壁に取り付けられた石窯を見つめながら、出流がワインを口に流した。

「あれは欲しいな」
「あかんやろ」
「しかし、このチーズの焦げ目をつける独特な焼き方。それ故に引き立つチーズの香ばしさこそが引き立つというものだ。それに、表面を高熱で焼くからこそ、チーズを分厚く敷いてもその熱が通る。ましてや、ああいった釜には風味がつく可能性もあるし、何より自分の調整が利くから――」
「――お、これもなかなか……」
「聞いているのか?」
「ん? 何が?」
「……何でもない。それもらおうかな」
「おぉ、食え食え」

 瑞希を相手に出流の料理考察が通じるはずもない。
 何処か呆れた様な、それでいて笑えてしまう瑞希との食事。

 二人にとってのいつものお約束ともいえる。



「ごちそうさま」

 瑞希にならい、出流も手を合わせてそう呟いた。





◆ ◇ ◆ ◇






「いやー、食ったなぁ」
「あぁ。あの子達のお土産も買ったし、満足だ」
「せやなぁ。石窯置くのは諦めたんか?」

 帰路につきながら、瑞希が出流に尋ねた。

「うん……、どうにも諦めきれないのが本音ではあるけどな」

 石窯の魅力に囚われた、とでも言うべきだろうか。
 出流の頭の中では、既に石窯を取り付けて出来る料理を考えている。

 ピザ・グラタンだけではなく、もしかしたらスモークにも使えるかもしれない。それに、パイを焼くにも良い。

 時間はかかるが、間違いなく一つ上のこだわりを見せるだろう、と。

「難儀なやっちゃなぁ……。それでもまぁ、良かったわ。出流も楽しんでくれたみたいでな」
「あぁ。ありがとう、瑞希」

 出流の言葉に、瑞希はニヒっと口を開いて笑って応えた。

「是非また誘ってくれ」
「おう」

 二人のツアーはまだ始まったばかりかもしれない。





                         FIN




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ご依頼有難うございます、白神 怜司です。

せっかく同じ依頼を頂いたので、瑞希さんは瑞希さんの
出流さんは出流さんの視点に近い形で書かせてもらいました。

ピザ食べたくなりましたけど、これは作戦ですね?←

パイの部分は、魔女の○急便を思い出しました。
あれは良い。良い、映画だった←

お楽しみいただければ幸いですw

それでは今後とも、よろしくお願い致します。

白神 怜司