コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.33 ■ 箱庭






 夜の帳に包まれた、村雲邸。
 久しぶりに一同に介した翔馬とスノー、そして武彦と百合がそれぞれに事態を話し合っていた。

「美香と離れて既に一ヶ月以上。虚無の境界とIO2のエージェントが組んで動いている連中が増えてるわ。そっちはどう?」

 口を開いた百合に対して、翔馬が頷く。

「こっちも似た様なもんだ。幹部連中も動いてはいるみたいだが、膠着状態ってのはイライラするぜ……」
「エヴァとの交戦も、逃げられてしまったものね……」
「美香はどうなんだ?」

 翔馬の問いに、今度は百合が首を横に振って答えた。

「シンと接触して状況を聞いたけど、どうやら独自に動いているみたいね。しばらく連絡は控える様に言われてるわ」
「シンに?」
「あぁ、その件は俺から話そう」

 沈黙していた武彦が口を開いた。

「IO2の上層部にいる連中と探り合いが始まったらしい。俺達――つまりは外部からの連絡があっても、信用しきれない可能性が高い。今後の連絡はシンを介する事になりそうだ」
「そういう事かよ……。見事に分断されちまったなぁ」
「まぁ仕方ないだろう。それに、“こんな外の状況”を知らせるのは、美香の精神面に負担をかける可能性もある」

 美香が外界との繋がりを断ってから、虚無の境界は再び悪霊を解き放ち、人間を喰わせている。それを止める為に武彦達が動いてはいるものの、全てを食い止められている訳ではない。

「……まぁ、そうだな」
「私は伝えても構わないと思います」

 同意する翔馬に対し、スノーは淡々と告げた。

「彼女は芯が通ってます……。問題はないでしょう」

 スノーがそこまで人を評価する事は珍しい。そう感じた百合や武彦、翔馬は思わず目をむいてスノーを見つめた。

「……シンに相談してみよう。悠長に構えている場合ではなさそうだしな」

 武彦の言葉に、その場にいた全員が小さく頷いて答えた。






◆◇◆◇◆◇◆◇






 ――翌朝、約束の時間になると同時に美香の部屋のインターホンが鳴り響いた。
 相変わらずのゴシック&ロリータ基調の服装に身を包んだ銀髪の少女アンジェリータ。彼女は美香に招かれる様に部屋に入ると、箱庭の説明を開始した。

「箱庭に入るのは九時半からにします。制限時間はこちらの世界で十二時間。箱庭の中だと、二十四時間です」
「時間の感覚に差がある、という事?」
「そうです。途中、ギブアップする事も可能です」

 美香が用意した紅茶を、何の警戒もなく口に運ぶアンジェリータ。美香が毒薬を混ぜる事はしないものの、もし混ざっていたらどうするのだろう、と無駄な事に思考を巡らせた美香はそんな事を思っていた。

 カチャっと音を立て、カップを置いたアンジェリータが再び口を開いた。

「箱庭は今回、十階層にまで連なる塔の形をしています。それぞれの階層ごとに鍵が置かれ、謎を解いて鍵を手に入れ、最上階に登ってくればクリアです」
「へぇー、なんかアトラクションみたいでちょっと楽しみ」

 命の危険がないという前提条件を知るだけに、美香は今回の箱庭が少々楽しみであった。
 もともと荒事に向いていない性格をしている為、頭を使う分にはそれなりに得意分野と言える。もちろん、今となっては戦闘に関しても十分過ぎる程に得意分野の領域に足を踏み入れているのだが、精神的には少々畑違いな部分も否めない。

「じゃあ、行ってらっしゃい」

 アンジェリータの抑揚のない声と共に光が発せられ、美香はその光に包み込まれた。







 ――光が収束し、次に目を開けた美香の眼前には灰色で無骨な円柱型の建物――およそアンジェリータの言う通りである塔が存在する森の中にいた。
 直径の計り知れない無骨な建物は、小さな口を開くかの様に門を構えており、一切窓は存在していない様だ。

「本当に塔そのものね……」
『でも、やっぱり現実の世界とは違うみたいね。シンの能力に連れられた時と似た感覚がするわ』
「ユリカ――」
『――見られてるわ。口には出さないで』

 不意にいつも通りにユリカに話しかけようとして、美香はユリカの警告を促されて我に返った。
 そう、ここはまさに敵の掌握している世界。何処で見られているのかも解らないのだ。

 ――ごめんね、ユリカ。もう大丈夫。

 美香の心の声に、ユリカはため息を漏らしていた。

 ユリカの言葉から多少の危機感こそ生まれたものの、美香にとっては眼前に広がる光景が本当に能力によって作られた産物なのかと疑いたくなるものであった。
 空には悠々と広がる空に、周囲には青々とした木々。それはまさに、何処かにワープしたと考えるのに相応しいものだろう。

 もしもこれら全てが、本当に能力のみで造られた場所だとするならば、それはまさに箱庭であり、世界を創り出す事と同義なのでは、と美香は考えた。

 様々な能力者と出会ってきた美香だからこそ、シンやアンジェリータの様な『世界を創り出す』能力に対しては、もはや次元が違う気すらするのであった。

 そんな美香の心境を察したのか、ユリカが口を開く。

『能力は本来、心の中にある願望や本質が具現化した物と言われているわ』

 ユリカは続けた。

『アンタの場合は特例だけどね。そもそもこっちの世界はどうだか知らないけど、アタシの世界ではそれが本質よ。望んだ想いに力が呼応し、能力が生まれる。こっちの世界じゃどうだかは解らないけど、ね』

 だとすれば、世界を創り出すというのはどういう事だろうか。美香はそこに行き着くのであった。
 そんな美香の想いに、ユリカはしれっと答えた。

『……よっぽど妄想が好きなんでしょ――』

 嘲笑する内容ではぐらかしたのかと思えば、ユリカはその口調を真剣そのものに変えて言葉を続けた。

『――現実がどうしようもなくて、能力で世界を創り出す程に、ね』

 ユリカのそんな言葉を聞いた美香は、いたたまれない気分になった。
 アンジェリータはおっとりとしていて、悪意を感じられるタイプではない。そんな彼女が、憂の言う通りに“異能の子供達”の一人だとするならば、この能力が生まれたのはきっと、そうでもしたい程に現実が辛かったからなのかもしれない。

 それはきっと、自分が感じてきた孤独や辛さなど比較にならないものなのだろう。

『今はアンタには関係のない事よ。ここを攻略する事だけを考えなさい』

 ユリカの言葉に、美香は小さく頷いて門を潜った。







◆◇第一階層・洋館一階◇◆






 美香が塔の中へと足を踏み入れると、門は静かに閉ざされた。
 大きな広間だ。シックな濃い茶色で統一された重厚感のある色合い。シャンデリアが垂れ下がり、壁にかけられたランプが小さな炎で薄暗い室内を染めあげている。

 真正面に位置する階段を昇り、踊り場に出た。そこには縦に三メートル、横に二メートル程の肖像画がかけられている。
 男性の立っている胸から上、バストアップの肖像画。そしてその左右には、同じぐらいの大きさ、縦五十センチ、横三十センチ程度の四角い空洞が用意されている。

『栄光の刃と、名誉の盾』

 そう書かれた題名を表す銀のプレート。その下には追加の説明文が書かれている。

『彼の者は栄華を極めた地を導いた先駆者。右手には栄光の刃。左手には名誉の盾を授けよ。没年、1421年』

 シンプルに考えて、これは左右にそれを記す絵をはめ込むものだろう、と美香は推測する。どちらにせよ、これは後回しにするべきだろう。
 美香はまず、その踊場から左手に階段を登り、三つ並んだ扉を手前から順に開けていく。

 最初の部屋は寝室になっている様だ。これも洋風な屋敷といった雰囲気に忠実なものであり、ベッドが置かれ、タンスと化粧台。それにテーブルとイスがワンセットずつ置かれている。
 テーブルの上には小さな鍵つきの金庫が置かれているが、どうやらこの部屋の中には鍵は置かれていないらしい。
 一通り調べた美香は次の部屋へと足を向けた。

 次の部屋も、どうやら造りは同じらしい。こちらはテーブルの上に、小さな知恵の輪が置かれており、それに鍵がつけられている様だ。知恵の輪を解けば、鍵が手に入るらしい。
 他に目ぼしい物はないかと思いながら散策を続けるが、この部屋は知恵の輪以外にそれらしい物は見当たらない。
 知恵の輪をポケットに入れ、美香は次の部屋へと向かった。

 次の部屋は書斎になっていた。
 焦げ茶色の机の上には一枚の羊皮紙が置かれ、そこには文が書かれている。

《知恵を使い、鍵を手に入れよ。鍵は三つ、順序を間違えれば使えない》

 そう書かれた羊皮紙を見つめ、美香はまず知恵の輪に取り付けられた鍵を思い浮かべながら残りの二つを探す。

 ――鍵は三つ。順序が関係ある……?

 美香はそう考えながらも、とりあえずの情報は頭の片隅に追いやる。まずは何処に何があるのかを把握するべきだと考えたのだ。
 そんな美香の前に、もう一つの鍵が必要となる要素――金庫を見つけた。

 ――先に他の部屋を見て回った方が良さそう、だね。

 美香の言葉に、ユリカは退屈そうに頭の中で返事をする。
 どうやらユリカは頭を使うという事が苦手な様だ。


 踊り場から右手側の部屋には、扉が一つしかなく、テーブルが置かれていた。美香はテーブルの引き出しを開け、その中から簡素な鍵を手に入れ、これで二つ目の鍵を手に入れた事となった。とは言え、まだ知恵の輪を解いてはいないが。

 部屋の中に入った美香の目の前に、大きな金庫が目についた。その横には、数字を操作する操作板が置かれている。どうやら鍵を使わずに、操作板の数字四つを操作して鍵を開けるタイプの様だ。

 美香はこれまでに入った情報から、まずは何処を片付けるべきかと思考を巡らせた。







                   to be countinued...




■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

ご依頼有難うございます、白神 怜司です。

さて、ついに始まりました、脱出ゲーム。
第一階層は洋館を舞台にした場所です。

文字数の都合上、まずは大雑把に一階を調べた美香さん。
今の所、特別な見落としはない状態です。

知恵の輪・鍵・操作板。
どれから順に片付けるか、あるいはもう少し細かく調べるか、など
ご自由に操作してみて下さい。

それでは、今後ともよろしくお願い致します。

白神 怜司