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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.35 ■ イレギュラーな存在






 美香とユリカが『箱庭』の中で謎解きに精を出している頃、天才科学者こと影宮 憂は、自身の研究室の中に一人の招かれざる客人を招いていた。

 憂と程近い背丈をした、どこかパンク気質な服装に身を包んだ少女。厚手のエンジニアブーツにも似た靴を履いた、華奢な脚には赤と黒のボーダー柄のタイツが覗き、その上にはホットパンツ。上着は黒いパーカーで、大小様々なサイズの缶バッヂ。ふわりと自由に動く黒髪はくせ毛という印象よりも、そうしてセットしたかの様なウェーブがかった髪をしている。

 そして口調は、関西弁。

 そんな少女を前に、憂はいつもの飄々とした雰囲気を崩す事もなく、ただ真っ直ぐにその少女を見つめている。飲み物を用意したメイドちゃんを自身の横に控えさせ、ティーカップに注がれた紅茶を口にする少女――アイの言葉を待つ。

 芳醇な香りを堪能したアイは、しばらく閉口した後でゆっくりと目を開き、ようやく静まり続けていたその場所の沈黙を打ち破った。

「……そんなに緊張せんでもえぇで。何も戦いに来た訳と違うんやし」

 まだ幼い、甲高い声。しかしその抑揚は大人と話している時と同じ、落ち着いたものである。子供の声には少々似つかわしくない。むしろ憂の方が見た目と声とテンションがマッチしている、と言えるだろう。

「何を言ってるのかな?」
「とぼけんでもえぇって。自分ら、大きな勘違いをしてるんとちゃう?」

 アイの言葉に、憂は動揺を見せる事もなく静かに紅茶を口に含む。そんな憂に、アイは言葉を続ける。

「影宮さん。うちらはアンタに恩を感じとる。知られてるとは思うけど、うちらは“異能の子供達”の生き残りや。あの苦痛の時代を終わらせてくれた事に感謝しとるんや」

「科学の発展に犠牲はつきもの。どんなにキレイ事を並べたってそれはいつの時代も付き纏う真理だよ。それでも私は、子供をそんな犠牲にする事は許せなかった。それだけの事だよ」

 アイの言葉に憂は淡々とそう告げた。

「それはうちも同感や。当時は何で自分がこないな目に合わなあかんのか、何度も恨んだもんや」

 カカカっと笑うアイ。少女とは到底思えない振る舞いに、憂は僅かながらに緊張すら感じていた。

「私は研究で忙しいから。わざわざ感謝を告げに来ただけなら、そんなの必要ないよ」

 遠回しに、本題に入るつもりがないならば早く帰れと要求する憂。そんな裏の言葉をしっかりと把握した上で、アイは静かに口を開く。

「――『七天の神託』は既に虚無の境界によって洗脳されとるよ」
「――ッ!?」

 不意に告げられたアイの言葉に、さすがの憂も動揺を隠せず目を大きくむいた。そんな僅かな変化を見て、アイはまた口角を吊り上げ、愉しげに笑う。

「既にあの老害共には自我なんてない。全ては虚無の境界――いや、巫浄 霧絵の手のひらの中って状態や。うちらはそんな老害に付き合わされとるただの駒っちゅー訳や」

 アイの言葉は憂の予想を遥かに超えたものであった。

 憂やシン、そして美香にとって、アイ達は『七天の神託』の従順な手駒であるという認識が強く、少なくとも敵対関係であると考えていた。

 しかし、ならば何故アイが敢えてこんな事を憂に告げるのか。

 僅かな沈黙の中で、憂はかつて得た全ての情報や記憶、状況から判断し、その答えを推測する。その頭の回転の早さは、アイにも、そして美香にも負けない。

 そしてその僅か数秒の沈黙の後で、憂が行き着いた結論に口を開いた。

「……断り、反抗すればあなた達の命が落ちる。そんな切り札を、『七天の神託』は握ってる。それをあなた達が口にすれば、それは発動する。そういう事だね」

 ――鋭い答えが返ってきた事に、アイは思わずクツクツと込み上がる笑みを噛み殺した。

「続けてくれへん? うちが口にするのは限界があるんや」

 アイの言葉に、憂はあらゆる仮説の中から立ち上げた情報を整理し、その仮説を唱える。

「“異能の子供達”の洗脳項目の中に、どうしても何かを削った様な違和感があった。かつて私が手にしたデータの中からは、人為的に情報が削られている様な、そんなものを感じた。

 そして今さっき、あなたが言った言葉から、私は一つの仮説が有力だと考えた。それが、あなた達に埋め込んだ、何かしらの制御能力、もしくはあなた達を破棄する時に使おうと用意した、薄汚い保険。

 ――つまりは、命を刈り取る仕掛け、といった所だね。

 それを除去していないあなた達は、今まで『七天の神託』に付き従ってきた。自我を持ちながら、あなた達が彼らを恨んでいないはずはないものね」

 憂の仮説を聞いたアイは、ついに笑いを噛み殺す事が出来ずに笑い声をあげた。しばらく声をあげた後、ようやくアイは落ち着きを取り戻し、憂を見つめた。

「やっぱおもろい。影宮さんも、あの美香っちゅー女もそうや。僅かな情報から、そこまで的確に物事を読めるんなら、うちらにとっても有難いわ」
「……つまり、私の仮説は正しいって事なのかな?」
「最期の一つだけ間違うてるけどな」

 アイは小さく笑った。

「うちらは恨みなんてもんには突き動かされてない。それよりも、自由が欲しいだけや。せやから、ジジイどもが洗脳されたんはうちらにとっては僥倖なんよ」
「僥倖……?」

「せや。うちらはあのジジイ共さえおらんくなったら自由になれる。なのに反目する事は出来へん。手詰まりやった。せやけど、今はあのジジイ達に対抗する人間がおる。それが自分らや」

「……つまり、私達とは立場は敵同士であれ、本音は『七天の神託』を消したい、という事?」

「せやな。それをする為に手を組める程の連中か試したい所やったんやけど、影宮さんがあの美香って女と繋がってる確証がなかった。それに、あの女が使えるかどうかを試したかったっちゅーのもあるんやけどな」

 これは予想外な事態であった。
 つまり、アイは敵ではなく味方である、という事だ。しかしながら、自分達は本当にアイ達にとって味方と成り得るのかどうか。それらを探る為に、美香を試すという行為に走ったとアイは告げたのだ。

「今、ジジイどもはあの美香って女だけが敵であると踏んでる。うちらもそうとしか報告してへん。今日『箱庭』に入ってる事も、ジジイどもには報告してる。つまり、あのジジイどもの注意はあの美香って女だけに向いてるんや」
「……それはつまり、私に動いて欲しいって事?」
「頼みがあるんや。このままやったら、確実に虚無の境界は世界を終わらせるやろうしな」
「頼み……?」

 ニヤリと笑ったアイの顔に、憂は訝しげに尋ね返したのであった。






◆◇◆◇






 現実世界でアイと憂がそんな話をしていることなど知らない、美香達。順調に箱庭に仕掛けられた脱出ゲームを踏破し、ついには五階層へと足を踏み入れていた。
 箱庭の中ではまだたったの六時間。つまり、現実でも三時間程度しかかかっていない。順調に進んでいると言っても過言ではない。

「……何、これ……」

 ようやくの五階層。そこは真っ白な部屋の中に、巨大なモニターが設置されただけの実にシンプルな空間であった。

 階段を登り切った後で、美香はその不思議な部屋の中で呆然としていた。

『さぁ、本日の挑戦者は見目麗しい、大人の女性がやって来たぁぁッ! スタイルも良く、ここに来るまで僅か六時間ちょっと! 容姿端麗、頭脳明晰! そんな彼女はこの部屋を乗りきれるのかッ!?』

 さながらラジオのDJの様な太く渋い声で流れたアナウンスに、思わずビクッと驚きから身体を震えさせた美香である。

『なお、この階で失敗したら一階から全てやり直しとなるので要注意。さぁ、心の準備は良いかな!?』
「全然良くないよ!?」

 思わずツッコミを入れてしまったのは仕方のない事だろう。

『オーケー! 挑戦者の熱いハートを受け取ったぜ!』
「キャッチボールになってないよッ!?」

 思わず二度目のツッコミである。

『では問題』

 もはやキャッチボールどころか一方的な投げっぱなしである。

『下のアルファベットはある法則に従って正しく並んでいます。「?」に入るアルファベットは何?

M M C M M ? M

さぁ、答えは!?』

 唐突に始まったクイズ。どうやらこれが、この階層の脱出ルートとなる様である。







                  to be countinued...




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いつもご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

今回は裏側のお話と、クイズ形式の提出という形に
なりましたw

この問題、ちょっとした考え方で解るといった所なんですが、
さて、どうでしょうか?
ちなみにアナウンスの声は、ラジオパーソナリティの、
外国人男性の様な渋い声を意識してましたw

お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司