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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


邂逅の意味







「――ふむ……。成る程ね」

 赤い髪にくりっとした大きな目。それでいて小柄な少女は一言で言うならば愛くるしいという表現が似合うだろう。そんな少女の口から紡がれた言葉は、その印象とは幾分かかけ離れた落ち着いた口調である。

「犯人は二十代前半から中盤。過度のコンプレックスの持ち主。自分に自信がなく、見た目は大人しく人畜無害なタイプ。内向的な性格から、視線を下げて歩く事が癖になっているでしょう」

 “プロファイリング”……犯罪の性質や特徴から、行動科学的に分析し、犯人の特徴を推論する事である。

「ボクの様な者の力を借りなければいけない程に、証拠や手がかりを残していない事から几帳面な性格だというのは一目瞭然。虫も殺さない様な顔をしながら、人を殺しておいて“キリングショック”を受けていないタイプです。自分の過去や嫌な事から目を逸らし、客観的に受け止められる。これは厄介な傾向でしょう」

 人を殺した際に現れる、犯罪行為への動揺などを“キリングショック”と称する少女の言葉に、聞き慣れない単語だと感じた面々は眉を僅かに動かした。

「あぁ、失礼。造語の一種です」

 そう付け加えて説明した少女に、先程までの可愛らしい少女の印象は吹き飛んでいた。


 風はこの日、警察署へと足を運んでいた。専門家への捜査協力という体で呼び出された彼女は、現場写真とその状況を見ただけでそう告げたのであった。


「失礼、先生。質問させてもらっても?」
「先生、と呼ばれる事には慣れてませんが……。何でしょう?」

 風に対して僅かに挙手をして尋ねた刑事の男は、壮年の男性であった。幾つもの事件を担当してきた彼には、相応の自信と鋭い眼光を持っている。そんな表情を見ただけで、風はどういった質問が来るのかと幾つかの質問を頭の中でシミュレートした。

「ホシの性格ってのは多分間違いないたぁ思うんですがねぇ。どうして――」
「――年齢まで特定出来たのか、ですね?」

 言葉を遮る様に告げた風の言葉に、壮年の刑事は思わず息を呑んだ。
 対する風は、得意気な表情を浮かべるでもなく、むしろ苦虫を噛み潰した様に僅かに顔を顰めた。「またやってしまった」と軽い後悔の念が浮かび、風の表情を僅かに歪めたのであった。

「失礼。言葉を遮って申し訳ありません」

 風のその言葉は、敢えて選ばれた“見当違い”な言葉であった。言われるべくもなく、刑事は「何故言おうとした事が分かったのか」と抱いた疑問を押し潰す為に、敢えてその言葉を選んだのである。

「被害者の女性は二十代前半。他人からの怨恨によって殺されるには、社会的責任を伴う程の経験は重ねていないでしょう。そう考えるのであれば、痴情のもつれ。それに、この写真です」

 そう言って風が机の上に広げたのは、誰もがそれを見ただけで凄惨さを理解出来る様なナイフの跡である。腹部に数回と、顔にまで突き立てられたであろう傷跡である。
 それを前にして刑事ですら顔を顰めるのだが、風はそれすらも判断材料としたのである。

「幾度も同じ人間を“殺す”行為です。これは激情に身を任せたままに殺人を犯し、ある程度の想いの発散を示します。つまり、募り募った感情が爆発したのでしょう。精神的に大人として成熟しているのであれば、ここまではしません」
「だとしたら、もしや犯人は十代である可能性も……」
「それはないでしょう」

 壮年の刑事についていた若い刑事の言葉を、風は一言で断じた。

「彼女の傷跡は身体の前面にのみ集中しています。激昂のままに殺すのであれば、背後から一度。その後に身体に幾度も、といった所でしょう。ですが、つまり彼女は犯人に対して背を向ける事はなかった、という事になります。

 ――勿論、これだけでは十代の顔見知りという線は否定出来ません。

 ですが、生前の彼女の写真を見る限り、年下を相手にする様な派手派手しい傾向は一切見られません。特に十代後半が好みそうな、軽い雰囲気は特に、です」

「だが、それだけでは……――」

「そうです。可能性は消えません。ですが彼女の交友関係に、年下がいるとは思えません」
「……職場の問題、か?」
「その通りです」

 風の指摘した通りだと、壮年の男性は納得した。
 被害者の女性は介護士であり、彼女の職場において年下と交流する事はほぼあり得ない。何せ彼女が働いている場所にいる男性職員は、たったの三名である。その上彼女はこの春まで福岡に住んでいたのだ。単身東京に来て年下の相手と知り合う様な機会はないだろう。

 遊び回る様な性格ではないという評判であった被害者の女性。そして犯人の性格。
 風のプロファイリングを鑑みて、職場の男性の中で唯一歳が近く、そのプロファイリングが合っている男性がいる。

「協力感謝する! 行くぞ!」





◆◇◆◇◆◇





「……そういえば、あの時以来だな」

 警察署内を堂々と闊歩する、小柄な風は独りごちる。

 以前ここに来た時は、山石からの捜査協力要請。そして、神谷という男と出会った。
 この平和な日本という島国に似つかわしくないテロ組織、“陽炎”。その捜査がその後どうなったのか、風は何も報告を受けていないのである。

 当然、日本でテロ行為など起きれば自分も関係ないとは言い切れない。
 要するに、その後がどうなったのか気になっているのだ。

「山石さん」
「おぉ、風ちゃん」
「あ、はは……、相変わらず『ちゃん』ですか……」

 風が立ち寄ったのは、彼女の父親の旧知の刑事である山石の元であった。

「今日はどうしたんだい?」
「通り魔事件のプロファイリングで」
「あぁ、そういやプロファイリングするって言ってたなぁ……」

 凄惨な事件だったせいか、その報告は課が違う山石の耳にも届いていた様であった。

「神谷さんは?」
「あぁ、アイツならあそこだよ」

 そう言って山石が親指で背中越しに指さしたのは喫煙所であった。ちょうど山石の指から視線を移した先から姿を現した神谷が風と山石の元へと歩み寄ってくる。

「ん、お前あん時の……」
「久しぶりだね。ちょっと話さないか?」
「……は?」





◆◇◆◇◆◇





 終わらない冬が続いている様な日々であったが、それもようやく落ち着き、吹き抜ける風も心地よい。神谷を連れて近くの公園に神谷を連れて来て、そんな事を感じながら風はベンチに腰掛けた。
 連れ出し際に冗談めいて茶化した山石の言葉のせいか、神谷もどこか気まずそうにしている様だ。微妙に距離を空けて座り込んだ神谷が口を開いた。

「それで、話ってのは?」
「あ〜……、うん……」

 どこかきまり悪そうに言葉を濁した風に、神谷は「まさか」と山石の言葉を一瞬本気に捕らえる。
 出会い頭の印象は最悪だったと言える両者ではあるが、風の容姿は可愛らしい。それでいて有能であり、自分とは正反対だ。改めて風を見た神谷が僅かにそんな事に思考を巡らせた所で、風はそれを読み取ったのかジト目で神谷を見つめた。

「そういう事じゃないぞ」
「……そうッスか」

 対峙している相手の実力を知るだけに、見抜かれた事にいまさら驚くつもりもない神谷である。

「……その、だな。この間はすまなかった。君の態度が気に障ったのは確かだが、ボクも少し機嫌が悪かったんだ」

 ポツリと呟く様に告げられた言葉に、神谷は思わず驚きのあまりに口を開いた。
 自分の態度に対して怒る、というのなら風の印象らしい対応だったと神谷は考えていた。まさか風が謝って来るとは思わなかったというのが神谷の心情である。

「ね、猫に……その、逃げられてだな……。どれだけ追いかけても追いつけなかったんだ。まったく、どうして猫はボクからいつも逃げるんだ……? 理不尽だ! こんなに猫が大好きだと言うのに!」

 訊かれてもいない理由を告げ、更に普段の鬱憤が溜まっていた風の心の叫びである。いつの間にやら声を上げ、ぶんぶんと小さな手を振りながらそう何かに向かって抗議する風であった。
 そんなヒートアップぶりを見せる風に対し、隣りにいた神谷が「ぶっ」と吹き出す音を聞いて風が我に返って神谷を見つめた。

「ククク……ッ、アッハハハ!」
「むっ、し、失礼なやつだな。これはボクにとっては死活問題なんだぞ!」
「いや〜、悪い悪い」
「と、とにかくだ! それを謝ろうと思っただけだ。時間を取らせて悪かったな」

 立ち上がり、そっぽを向いていた風。そんな風も、神谷がその後の言葉を口にしないのが気になり振り返ると、神谷の表情が真剣になり、そしてそれが驚きに満ちたかの様に目を大きくむき、前方を見つめていた。その視線を追う様に風が振り返った先に立っていた人物に、思わず風も目を見開いた。

「……“和弥”……?」

 神谷の言葉が指す様に、その視線の先にいたのは“陽炎”のトップと思われる男であり、神谷の旧知の友人、“橘 和弥”の姿であった。

「な、何故ここに……? 偶然――否、それはないか……。神谷、どうする? 追うか? それとも救援を頼んで周辺の警戒を――」
「――和弥!」

 風の質問など聞こえていないかの様に走り出した神谷に、橘 和弥はゆっくりと振り返り、その場から歩いて行く。人混みを挟んだ位置にいるせいか、神谷とそれを慌てて追いかける風は足止めを食らう。そのまま消えるかと思われた橘 和弥が不意に振り返り、僅かに口を動かした。

「……なんだ?」
「――『ついて来い』だそうだ。どうやら招かれた様だな」
「……ハッ、上等だ。俺も聞きたい事があるんだよ、和弥!」

 神谷の荒々しい言葉が聞こえたのかは定かではないが、橘 和弥は小さく口角を吊り上げたかの様にゆっくりと歩き出す。人混みがようやく途切れ、神谷と共に駆け出す風は冷静に思考を巡らせていた。

(偶然じゃない。神谷に何か用があった、としか感じられない……。一体アイツの目的は何だ……?)

 突然の邂逅に踊らされているかの様な錯覚に陥る風であったが、今はただ神谷と共に橘 和弥を追いかける風であった。







to be countinued...





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いつもご依頼有難うございます、白神 伶司です。

今回は前回からの派生という事で、
引き続きのご依頼有難う御座いました。

プロファイリングが日本にどの程度馴染みがあるのかは
分かりませんが、半信半疑の人間でさえ納得出来るだけの実力を
見せた風さんの勝ちでしたね←

そして和弥が姿を現した真意とは……!←
少年マンガの次号への煽り文句みたいですw

お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、今後とも宜しくお願いいたします。

白神 伶司