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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


舞い込んだ依頼





「あうぅ〜〜……」

 言うならば古い雑居ビル。大地震でも来たものなら、倒壊する方が可能性が高そうな雰囲気を醸し出すその一室を借りた、草間興信所。
 いつも通りに出勤してきた佑樹の耳に飛び込んで来たのは、何とも言い難い情けない声をした少女の唸り声だった。

 季節は初夏。
 梅雨のじめじめとした空気の中で、うだる様に唸りたくもなるだろう。
 そんな事を考えながら、佑樹はそれに触れる事はせずに、その情けない声を漏らした少女――零に声をかけた。

「おはよう、零。コーヒーお願い」
「あうぅ〜〜……、ふあぁーい……」

 実に情けない声を漏らしているものである。

 佑樹はそんな零に、梅雨のせいだという一方的な理由を用いて相手をしない方向で納得している。と言うよりも、明らかにそうではないのだろうが、何だか面倒そうなので気にしないという立ち位置を取る事にしたのだ。

 ――しかし、それを零が気付いていないはずもない。

「佑樹さぁん……。どうした、とか聞いてくれないんですかぁ〜?」

 僅かに涙目を浮かべつつも恨みがましく佑樹を見つめる零。しかし手にはしっかりコーヒーが握られ、佑樹の前にそっと置かれた。生真面目な性格である。

 対する佑樹は、手に渡されたコーヒーをそっと口に含み、それを机の上に置いた。

「聞かないよ」
「どうしてですかー!」
「だって、必要なら言って来るだろ?」

 正にその通りである。
 零の性格を考えれば、自分で判断出来る事は判断し、指示を仰ぐ必要性がある問題なら質問する。理路整然としている性格故に、その辺りの判断は容易なのだ。

 ――で、あれば。

 どうしてそんなに悩んでいるのかと言えば、自分が関与した所で意味がないだろう。それが佑樹の下した判断である。
 面倒そうだという本音を前に、そんな大義名分を構築してみたりもするのだ。

「実は依頼なんですよ〜」
「依頼? 小さく目立たない仕事でも大歓迎、なんじゃないの?」
「それはそうなんですけど、お兄さんが遠方に出ちゃってるので、“私達”でやるしかなさそうなんですよね〜……」

 チラチラと視線を送りながら、自分の手元と佑樹の顔を交互に見合わせる零。そんな零の仕草を見ている限り、お世辞にも普通の依頼とは少々質が違うのだろうと推測するのは容易い。

「……それってどんな仕事?」

 佑樹の言葉に、零は依頼書を手渡す。
 A4サイズの紙にテンプレートが印刷され、その上には零の丁寧かつ綺麗な字が走っている。


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依頼者名:
 遠山 真司 42歳 男性

依頼内容:
 妻が最近ハマり出した、宗教団体『新光月舎』についての捜査。
 不倫をしている可能性もある為、その宗教が一体どんな宗教なのかも含めて調査をお願いしたい。

備考:
 外部からの質問をするには、講習会に参加しなくてはいけないらしい為、自分は行けない。




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「……浮気調査、ってだけじゃなさそうだ……」
「そうなんですよ〜……。それに私、宗教っていまいちよく解らなくて……」

 そう言って再びため息を漏らした零である。

「日本のオーソドックスで言うなら、盆は仏教、冬にはキリスト教、正月は神教ってね。まぁ多種多様な宗教が入り交じってるからな。だけど、聞いた事もない宗教に関しての一般人の印象は良くないだろうね」

「どうしてです?」

「1995年、3月20日。
 オウム真理教が起こした神経ガスのサリンを使用した同時多発テロ事件で、死者を含む多数の被害者を出したってのは知ってる?」

 佑樹の問いに、零は頷いて答える。

「宗教団体にハマっている人間というのは、得てしてそういった宗教にハマっていない人間から見れば、どこか妄信的なんだ。『善』の定義が異なる事も多いからね。もちろん俺は、一概に宗教が悪いだなんて思ってはいないけどね。

 ただ、そういった宗教団体が除霊と称して強姦を行ったり、邪気を祓うと称して暴行を加えたり。そういったニュースが世間を騒がせるんだよ。

 そういったニュースで人々の主観は、どうしても『何処の宗教がこういう事件を起こした』というニュースに対して、『またよく解らない宗教が変な事件を起こした』って解釈する事が多いんだ」

 佑樹は依頼書を机の上に置いて、再びコーヒーを啜る。

「じゃあ、この『新光月舎』っていう宗教団体は……?」

「それは解らない。だからこそ、この依頼人は宗教の内部に関しても調査依頼を出して来たんだろうけどね。
 ただ難しいのは、こういった宗教は階級が存在していたりもするんだ。新しく入ったばかりの人間に、何処まで裏を探れるか、そこが問題だ」

「中に入って聞き込みとかはどうでしょう?」

「難しいと思うよ。さっきも言ったけど、信者達はその宗教を裏切る行為はしない。言うなれば神様を裏切る様なものだからね。俺達が色々と探っていると知られれば、まず間違いなく怪しむ。時間とお金がかかりそうな依頼だ」

 佑樹の頭の中に描かれた幾つかのプラン。
 最も有効なのは熱心な信者を装い、早い段階で警戒心を解いて内部を探る事だろう。しかしこれには恐らく、相当な金額的負担がかかる。

 宗教団体において、その信頼度をあげて上の階級に上るには大きく二つの方法がある。

 一つは、信者を増やす事だ。
 新しい人間を増やしていく事でポイント制にして、それによって階級を上げていく。これはよく聞く方法だろう。

 もう一つは、そんな上層部の資金源を潤わせるだけの財力――つまりは寄付金額だ。
 もしもおかしな宗教団体であっても、まったくそういった危険性がないにしても、資金源の確保という現実的な問題は付き纏う。

 ――どちらの方法を取ったとしても、佑樹や零、草間興信所の財布は痛まないのが利点だ。その部分を依頼人に話し、金額の上乗せが可能であれば潜入。それが不可能だと言うならば、せいぜい尾行しながら調べて行く程度といった所だろう。

「金額についての話はもう済んでるの?」
「いえ、細かい金額はまだ。とりあえずは話を聞いただけだったので……」

 零にとっても、今回の一件は判断に困ったのだろう。容易に受けるとは判断しにくい依頼ではある。

「それと、もう一つ。今回の依頼は文字通り、俺達二人共潜入する必要があるかもしれない」
「男女で扱いや待遇が変わる場合もあるから。俺は良いとして、零にとってはやりにくいとは思うけど――」

 佑樹にとっての危惧は、女性という立場に対するものだ。

 もちろん、佑樹も零が“普通”とは違う事を理解しているつもりだ。言いなりになる可能性は低いだろうし、いざとなれば逃げる事も出来るだろう。

 しかし、それが許されない状況になってしまったら。
 卑劣な手を取ってきた場合――つまり、抵抗すれば他の信者に手を出す、などと脅迫してきた場合だ。

 そういった事態を考えれば、零を巻き込むのは辞めておくべきなのかもしれない。

「――やめておこう。潜入捜査は俺だけでやった方が良いかもしれない」
「え?」
「零に何かあったら、武彦さんに俺が怒られるだろうからさ」

 おどけてそうは言ってみるものの、佑樹自身、この捜査に巻き込む事はあまり良い気はしない。
 何かしら手伝ってもらう事はあるかもしれないが、潜入するのは自分だけでも良いだろう。そう判断したのであった。



 後日、改めて依頼人に依頼料の確認をした所「金額に糸目はつけない」との事。

 何処と無く違和感を感じる発言ではあったものの、こうして佑樹は潜入捜査に対して綿密に計画を練る事にするのであった。





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ご依頼有難う御座います、白神 伶司です。

今回は連作OKということでしたので、
具体的なオープニング形式で書かせて頂きました。

作中の流れでは零の参加をどうするか悩んでいる佑樹くんですが、
必要とあれば参加させる、という意気込みは持っています。

お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 伶司