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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


夏祭りをしましょう

 夕方から、あやかし荘を会場とした夏祭りが始まった。
 管理人の因幡恵美が作ったポスターには『人間・妖怪・魑魅魍魎、大歓迎! 夏祭りに参加しませんか?』と書いてあるせいか、人外以外のモノもたくさん参加している。
 氷の女王を先祖に持つと言われている娘のアリア・ジェラーティもまた、そんな人外の参加者の一人であった。
「柚葉ちゃん…。…どこにいるんだろう?」
 会場にはお化け提灯が数多くぶら下がり、明かりになっている。様々な屋台が軒を連ね、いろいろなモノ達が浴衣姿で祭りを楽しんでいた。
「あら、アリアちゃん。誰かを探しているの?」
 キョロキョロしていたところ、藍色の生地に白いウサギ柄の浴衣を着た恵美に声をかけられた。
「恵美ちゃん…、こんばんは。柚葉ちゃんを探しているんだけど……」
「ああ、柚葉ちゃんならいなり寿司の屋台をしているの。案内するわね」
 恵美の案内で、アリアは柚葉の屋台へ行く。
 柚葉は屋台で働いているせいか、着ているものは浴衣ではなく甚平だ。黒い生地に茶色の狐の柄があり、白い生地に緑色の木の葉柄のエプロンをかけている。
 忙しそうに動き回る柚葉は、それでも楽しそうだ。
 しかしアリアは屋台に並ぶ人達を見て、スっと眼を細める。
「…あの屋台に来ている人達って、狐関係かな?」
「そっそうかもね。でもホラ、柚葉ちゃんは可愛いから。人気があるのよ」
 恵美は苦笑いを浮かべながら柚葉に近付き、アリアが来ていることを知らせた。すると恵美が屋台に残り、柚葉はアリアに向かって走って来る。
「アリアちゃん、こんばんは! 浴衣、よく似合っているね」
「…当然」
 フッと得意げに笑ったアリアを見て、柚葉は止まった。
 確かに白い生地に青い雪模様の浴衣は、アリアにとても良く似合っている。いつもは結んでいない髪も、今日は雪柄の簪で頭の上でまとめられていた。
 いつもとは違い、妖艶でありながらどこか色っぽさも出ており、時折男性達がチラチラとアリアに視線を向けるほどである。
「アリアちゃんって、結構……」
「なぁに?」
 氷柱のような冷たく突き刺す視線を向けられ、柚葉は慌てて顔をそらす。
「いえ、何でもありません。そっそうだ! 恵美ちゃんが店番をしててくれるって言うから、屋台を見に行こうよ」
「…そうだね。かき氷屋さん…、どこにあるのか知ってる?」
「もっちろん! じゃあちょっと待ってて」
 柚葉はエプロンを脱いで店に置くと、財布を持って戻って来た。
「じゃあ行こうか!」
 二人はゆっくり歩きながら、屋台をいろいろと見て回る。
 途中でかき氷屋を見つけるとアリアは一目散に駆け寄り、器たっぷりのかき氷にシロップはレインボーを注文した。
「…あのかき氷屋さん、雪女なのかな?」
 かき氷屋は儚い雰囲気を持つ美女が働いており、どことなくアリアと雰囲気が似ている。
「アリアちゃん、どうかした? かき氷屋さんをじっと見て」
 アリアの呟きを聞き逃した柚葉は、宇治金時のかき氷を食べながら首を傾げた。
「ううん…。レインボー、美味しいなって…」
「ぎゃっ!? 舌がスゴイ色になってるよ!」
 アリアは色とりどりの舌を出して見せ、柚葉を驚かせる。
 その後は射的にて狐の形をした貯金箱を得たアリアはふと、こんなことを呟く。
「葉っぱを入れたら……本物のお金にならないかな?」
「ならないよ!」
「じゃあ逆に、お金を入れたら葉っぱに……」
「それもならないよ!」
 と柚葉をからかった。
 焼きそばとたこ焼きを買った時は二人で半分こしながら食べて、その後は綿菓子を買って、お面屋ではアリアは白い猫、柚葉は黒い猫の面を買ってつけたところで、あやかし荘から会場案内放送が流れる。
「あっ…、いけない。そろそろ…行かなきゃ」
「アリアちゃんは会場に特設されたお化け屋敷に出るんだっけ?」
「そう…。でも正確に言うと出るんじゃなくて…、お化け屋敷の演出を手伝うようなものだけど…」
「そうなんだ。ボクは時間ができたら、お化け屋敷に行くね」
「うん…。でもスゴイね…。あやかし荘の敷地は広いけど…、まさかお化け屋敷が作れるなんて……」
「あやかし荘に住んでいる天王寺・綾ちゃんちはお金持ちだから。特にこういうイベントが大好きで、はりきって作ったらしいよ」
 今回の祭りの目玉はまさに、そのお化け屋敷だ。離れているここにも、悲鳴がかすかに聞こえてくる。
「じゃあ…」
「あっ、うん。頑張ってね!」
 柚葉に見送られながら、アリアはお化け屋敷に向かう。


 アリアは仕掛け人の為、入口ではなく裏口の方から入った。中にはお化けの格好をしている人間や、本当の姿に戻ったお化け達が入りまじっている。
「…ここだけ和風のハロウィンみたい」
 今回のお化け屋敷は和風のボロ屋敷になっているので、和風のお化けが多い。
「アリア、来たな」
「あっ、嬉璃ちゃん…。今夜は大人の姿なんだ…」
「まあの。こっちの方が迫力があるぢゃろう?」
 イタズラ大好きの座敷わらしである嬉璃は、意地悪く笑う。
「…嬉璃ちゃんは男性ばっかり、怖がらせそう…」
「分かるか? 楽しいのぢゃ。生意気な男達が、恐怖に泣き叫ぶ姿はのぉ」
 クスクスと笑う姿は、数多くの男達を泣かせてきた証だろう。
 アリアはため息を吐くと、自分の持ち場へと向かった。
 お化け役の待機場所はそれぞれ決まっており、アリアは屋敷の中心辺りを担当することになっている。
 コースとしては屋敷の入口から客達は入り、廊下を歩きながら一つ一つ部屋に入って行く。
 アリアは調理場に特別に作ってもらった氷室が担当場所だ。
「…本当は家の中に氷室はないんだけどね」
 しかし屋敷を出たり入ったりするのもアレだからという理由で、中に作られた。
 木の戸を引いた先がひんやりした氷室の中になり、奥には進む為の戸がある。壁に使われた木の板一枚が特殊なマジックミラーになっていた。客達から見れば木の板にしか見えないのだが、アリアがいる裏の方からでは向こうが透けて見える仕掛けになっている。
 先に仕掛けをしていた雪女と交代し、アリアは椅子に座って客が来るのを待つ。
 その間、氷室の中を冷たくするのも忘れない。
 やがて女の子三人組が氷室に入ってきた。するとアリアの眼に、怪しい光が宿る。
 女の子達は怖々とした様子で、固まりながら前に進む。が、突然後ろから物音がして振り返ると、自分達の表情が恐ろしく歪んだ氷の像があるのを見て、絶叫を上げた。
 泣き叫びながら奥の戸へ向かうも、像から氷が勢いよく伸びて、ついには彼女達の前に回り込む。すると伸びた氷は形を成し、再び恐怖の表情を浮かべた三体の氷像が現れる。
 女の子達は氷像を避けて走り、戸を開けて氷室から出て行った。
「ふう…。こんなものかな? ……本当はもっと怖がらせること、考えていたんだけどな」
 しかし恵美から、事前にこういう注意を受けていた。
「お客様にケガをさせてしまう行為は絶対にダメよ。お化け役は基本的に、お客様には触っちゃいけないの。アリアちゃんは特にお気に入りを凍らせてしまうクセがあるけど、お客様を凍らせることはNG。万が一にでもケガをさせる行為も認められないからね」
 と強く言われていたので、アリアにしてみればおとなしめの脅かし方になったのだ。
 アリアは少し残念そうな表情を浮かべながらも、氷室に訪れる客達を次々と驚かせていく。


 そして数時間後、交代の時間になった。
 アリアは別の雪女に場所と役目を譲って、外に出る。
「ふう…。結構、疲れた…」
「おーいっ! アリアちゃん!」
 背伸びをしていると、柚葉が駆け寄って来た。
「もう終わっちゃった?」
「うん…。お仕事、おしまい」
「あ〜…。間に合わなかったか」
 柚葉はがっくりと項垂れる。
「お店が忙しくて、なかなか抜けられなかったんだよ」
「まあ恵美ちゃんに任せっぱなしというわけにはいかないからね…」
 悲しそうな顔をする柚葉の頭を、アリアはよしよしと撫でた。
「はあ…。まあ終わっちゃったものはしょうがないね。これからあやかし荘に行かない? 歌姫ちゃんが恵美ちゃんの部屋に冷えたスイカを切って置いておくって言ってたし、今から打ち上げ花火が始まるから見るならあやかし荘の中の方がいいよ。人がいないから、静かに見られるよ」
「じゃあ…行こうか」
 二人は手をつなぎながら、あやかし荘に向かって歩く。
 その間、アリアはお化け屋敷のことを話して聞かせる。するとどんどん柚葉の顔色が悪くなった。
「……ボク、行かなくて正解だったかも」
「…そう?」
 話をしているうちにあやかし荘に到着し、管理人室へ行く。部屋の中には聞いていた通り切ったスイカが置かれており、柚葉は中庭に面した戸を開けた。
 するとタイミングよく、打ち上げ花火が夜空に上がる。
 二人は縁台に座り、スイカを食べながら花火を見た。一時間ほどで花火は終わり、スイカも食べ終わる。
「花火…、すっごくキレイだった…。でも花火は凍らせられないから、ちょっと残念…」
「アハハ…。はっ花火は終わっちゃったし、次は会場の中心で盆踊りが始まっているから参加しようよ。踊り終わったら、お菓子が貰えるんだって」
「お菓子っ…! 参加、する…!」
 眼を輝かせたアリアと柚葉は管理人室から出て、会場の中心に建てられたやぐらの周りで盆踊りをする。
 盆踊りには人間や、人間でないモノも楽しそうに参加していた。
 ――今日、この時ばかりは種族関係なく、楽しげな笑顔がたくさんこの場にはあった。


<終わり>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8537/アリア・ジェラーティ/女性/13歳/アイス屋さん】

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■         ライター通信          ■
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 再びご依頼していただき、ありがとうございました(ぺこり)。
 浴衣の柄は、似合いそうだな〜と想像しながら書かせていただきました。
 夏の日の良い思い出になれればと思います。