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<東京怪談ノベル(シングル)>


ライオンテングだ玲奈

1.
 豊かな大地ソソリカ。たくさんの動物たちが住む、まさに野生の王国である。
 そんなソソリカに黒々と屹立筒する『漢岩』の頂上、そこで王位継承の儀式が行われていた。
 王位を継承されるのは剛毛ジャングルを総べる天狗鼻のライオン・ライオン天狗。
 本日、この良き日に三島玲奈(みしま・れいな)と瀬名雫(せな・しずく)はこの王位継承の儀式に参列していた。
「皆の者、今日はよく集まってくれた!」
 ライオン天狗の王はジャングルを眺望しファサ〜っとコートを翻して脱ぎ捨てる。
「え!? 履いてないの? はい蔵倫モザイク〜w」
 雫がどこからともなく取り出した棒のついた黒い丸で、ライオン天狗の王子の顔面を隠す。
「??」
 玲奈が首を傾げると同時に、ライオン天狗の王は雫に言う。
「王子に掛けてどうするw 余の倅はこっちじゃ。それに野生の動物が裸なのは当たり前じゃ」
「それもそっかwww」
 あっはっはと和やかな雰囲気のまま、儀式は滞りなく終了した。
「新しき王の誕生だ!」
「おー!」
「…王だけに…てか?」
「え!? いや、そこまでは…」
 皆が祝福する中で、ただ1人、それをよく思わぬ者がいた。
 それは妬みの塊。嫉みの執念。
 ただ欲するのは1つだけ。

 その王の座を…この手に!

 秋葉原。そこは萌え豚の群れがブヒブヒと犇めき、真夏の暑さをさらにヒートアップさせ、ヒートアイランド現象を助長し、さらにはオゾン層の破壊さえも…されていないか。
 まぁ、とにかく熱気あふれるこの街で、ひときわ目立つ人物がいた。
 それは、身の丈2メートルほどあるライオン天狗の妹・スカートである。…本当に女か? いや、それ以上に妖怪か何かじゃないのか?
 忌まわしき王の息子。あいつさえいなければ…。
 スカートは萌え豚たちに囁く。薄い本が恋しくないか? 18禁の本が欲しくないか?
 ごくりと息をのむ萌え豚たちに、スカートはさらに囁く。
「王子をヤレば、本を手配してやろう」
 萌え豚たちはその要求を飲んだ。私利私欲と言われようが欲しい物は欲しいのである。
 王子をそそのかし、秋葉原にポツンと迷子にさせる。
 そこを…ヤル!
 しかし、事はそううまくいかなかった。
 王子が迷子と聞いたライオン天狗の王が、王子を庇ったのだ!
「お父さん!」
 …哀れ、ライオン天狗の王は萌え豚たちに踏まれて轢かれて天に召された。正直、その死に方は嫌だ。
「王を殺すとは…王子といえど、何たる事! この国から出ていくがいい!」
 王殺しの汚名を着せられ、王子は去る。ソソリカの大地を。

 そして、この大地は王の妹であるスカートの物となったのであった…。


2.
「お願いです、どこかできっと生きているはずの王子を探し出して、現王であるスカートの悪政を排してください」
 そんな依頼が玲奈と雫の元へやってきたのはつい先日。
 そして今2人は王子の目撃情報を頼りに不毛の地・パー・i・パーンへと辿り着いた。
「来たわね…玲奈ちゃん」
「来たけど…雫? なんでミニスカ卓球ウェアなん?」
「それはこの後のお楽しみだよ、玲奈ちゃん」
 何がお楽しみなんだか?
 王子は追放されてから月日が経って、今は青年になっているはず。
 …なんだか嫌な予感が玲奈の胸をよぎっていく。

「あんたら、なに? 俺今深夜アニメ溜まってるから忙しいんだけど?」
 ジャングルを追われ、どこをどう間違った不貞腐れ王子様?
 普段からゴロゴロ寝ていると感じとれるその言動、その姿。まさにプリンス・オブ・ニート!
「えーっとぉ…」
 玲奈が言い淀んでいると、雫は王子の目の前で正座をしてポンポンと膝を叩く。
「はい、ここ! はい、ここ!」
「!? あっ! ピンポンでブルマー!?」
 王子はスライディングするかのように雫の膝枕に酔いしれる。発奮! 発奮!
「いや、ニートに発奮とか必要!? 必要なの!?」
「玲奈ちゃん…王子だって忙しいって言ってるんだし…」
「それは違う! そんなの認めない! 認めたら負けだし!!」
 不毛の大地に不毛の会話が吹き荒れる。まさに不毛!!
「あー、ところでさ。なんで玲奈ちゃん、スカート履かへんの?」
 雫は急に会話の流れを変えた。きっと少しでも不毛な会話を避けたかったに違いない。
 しかし、その雫の思いは脆くも砕け散る。
「履くなまだだ! って言うやん? 愛の言葉だよ!」
 履くなまだだ? …ハク…ナ…マ…タ…タ…????
「繋げるな、危険――――――!!!」
 玲奈の寒いギャグに雫の叫び声が不毛の地に響き渡る。それは大地をかけ、ソソリカへも届く。
 そして…

 グワッシャーーーーン!! ガラガラ〜…

 閉店。


3.
 漢岩、崩壊。
 その勢いに乗って、ライオン天狗の王の妹の圧政に苦しむ動物たちが一斉に暴動を起こした。
 準備いいな、おい。
「帰るなら今よ!」
「お、おう!」
 ついでに王子をそそのかして、玲奈と雫は王子をライオン天狗の王の妹の元へと連れて行く。
「ていうか、自分で走れ!」
「自宅警備員に走れとか、無理ポ」
 ライオン天狗の王の妹、スカートは目の前に現れた王子に驚きを隠せなかった。
「王殺しじゃ! 王殺しの王子が現れたぞ! 今度は余を狙っておるのじゃ!」
「ん〜…これは名パンティ玲奈ンの出番ね」
 きらりと光る眼光に、スカートは怯んだ。そして、その隙を玲奈ンは見逃さなかった。
「あなた…萌え豚を使い、王子を暗殺しようとしましたね?」
「な、何を根拠に!?」
「証人は…ここにいます」
 玲奈ンが指差す方向には最新の薄い本を手に喜ぶ萌え豚たち。
「な、お前たち!! 裏切るのか!」
「悪いな、俺たちだって新しいエサが欲しいのさ。ブヒブヒ」
「だが、そこに誤算が生じた。そう、王の出現です。王が王子を助け、王が死んでしまった。…でも、アナタのさすがというところはそこで機転を効かせて王子を追いだしたところです…。いかがですか? 申し開きはないのですか!?」
 ばんっと手近な気を殴りつけた玲奈ンに、現王・スカートは最後の抵抗を試みる。玲奈ンに襲いかかったのだ!
 しかし、それを阻んだのは…ニート王子だった!
「父さんを…よくも!!」
 自宅警備員だったとは思えぬ俊敏な動きで、ライオン天狗の真の戦いが始まる。
「あんたみたいなガキんちょに、余を倒せると思うてか!」
 ひらひらとマントを翻しながら、スカートは突っ込んでいく王子をひらりとかわす。完全に弄ばれている。王子不利か!?
 しかし、それは雫の一言によって均衡が崩れた。

「…ていうか、闘牛やん」
 

4.
「と、闘牛…ぶほぉっ!!」
 ニート王子、この時赤いジャージを着ていた。そして…デブだった。
 ムチムチの体に肉の皺がくっきりと見えているのに…牛? これが?
 いや、これは牛でもなければライオン天狗でもない。ニートだ。ニートなのだ!
「あ、あかん…笑いが…とまらっ…ふひひひ」
 ツボった現王に、王子は果敢に挑む。
 現王の爪を噛みちぎり、マントを引き裂き、額に『ニク』の字を刻み付けた。
「な、なんてことを…!」
 見るも無残な現王に、王子は高らかに宣言する。
「今日よりこの国は正統なる後継者のこの俺が王となる! 父もそっと見守っている!」
 こうして、剛毛ジャングルに平和が戻ってきたのであった…。

「…ていうかさ? あたし、あんまり活躍してなくない? 出番少なくない?」
「玲奈ちゃん…そんな悲しいこと言わないで。この物語は玲奈ちゃん無くしては語れない物語なのよ!?」
「ホント〜? ホントにそう思ってる〜??」
「あ、当たりまえ…だ…タイソ…ん…。なんちゃって」
「…さむっ! 酷暑なのにさむ!!」
 めでたし・めでたし…♪