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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Mission.4 ■ Session






「――今回の出動要請は、現在開発中のジオフロント。“能力開発都市”に関係している模様です。ただいま詳細データ読み込み中……、完了しました。
 ジオフロント上で、IO2未確認能力者を発見した模様です。能力ランクはB'(ビーダッシュ)。人数は……13名……!?」

 隣でフェイトに報告していた凛が、思わずといった具合に声を荒らげた。

「B’が13名か。あんまり大した事なさそうだね」
「え……?」

 そんな凛に向かって告げられた、フェイトの悠長な一言に、凛はさらに愕然とさせられる事となったのだが、フェイトはそれに気付いていないようである。

「凛、その通信回線俺にも教えてもらえる?」
「え、えぇ、通信回線の同期でデータを送るわね」

 スマホを改良した端末を操り、データを受け取ったフェイトは、さっそく通信を開始する。

「こちらIO2ニューヨーク本部、特級エージェント、フェイト。サポーター、応答を」
《こ、こちらサポーターの“水無月 流子”です》
「水無月さんね、よろしく。早速だけど、ジオフロントの見取り図と、現在の対応状況を送ってもらえる?」
《りょ、了解しました!》

 特級エージェントのサポーターという大役を任された流子にとって、フェイトとは雲の上の存在である。その辺りを理解していないフェイトは、ついエルアナと組んでいる時と同じスピードで指示を与え続ける。

「銃火器使用申請、武器ランクはAランクかな。銃弾、銃器の準備をお願い。それと、能力使用制限なんだけど、これは日本だとどうなるのかな?」

《じゅ、銃火器はAランクです! 準備は既にされていますので、格納ポットで端末を近付けて下さい! の、能力使用制限は……、えっと、少々お待ち下さい》

「了解。現地に向かうので、それまでによろしく。それと、さっきのデータはどう?」

《あわわ、すいません、すぐ送りますーッ!》

 その指示の速度に、凛は真横に立っていながら唖然としていた。
 本来、こちらのやり方であれば、それらは一つずつ確認を取り、手順を踏む。しかし今のフェイトは、きっちりと必要な情報を全て把握するという方向で対処させているのだ。
 ニューヨークでの仕事の苛烈さを、まざまざと突き付けられるような気分であった。

《お、送りました!》
「確認完了。現在対処に当たっているこちらの戦力は?」
《そ、それが、現在まだ一組。一級エージェントの、柴村 百合さんのみです!》
「……は? 百合……!?」







◆ ◆ ◆ ◆ ◆







 東京湾、ジオフロント。
 スーツを着た一人の女性エージェントが周囲を確認し、サポーターに向かって声をかけようと端末に口を近付ける。

《通信状況問題なし、視覚情報も特に問題はないわ。敵影は3時に4名。その奥に集団が隠れているみたいね。サーモグラフィーの情報を見る限り、事前情報の全13名が確認出来ているわ》

 百合が確認しようとしていた内容を的確に告げるサポーター、エルアナ。
 百合もまた、この指示のスピードには思わず感心していた。

「……さすがに、指示が早いのね」
《そうかしら。彼と組んでいる時より仕事が減って、楽させてもらっているけど?》
「……言うわね」

 エルアナの挑発じみた言葉に、百合は口角を吊り上げた。
 百合は既に、エルアナが自分が知っている男と組んでいるだろう事は目星がついていた。その実力を試すように、百合は挑発する。

「能力使用に関してだけど――」
《――こちらに一任されているわ。相手の能力は大した事もないみたいだし、使う必要があれば事後報告で構わないわ》
「……フフ、そう」

 余計な茶々を入れる必要はなさそうだ。
 百合は改めてエルアナの実力をそう評価する。

「相手は全員能力者である可能性が高いわ。好きにやらせてもらうわよ」
《えぇ、お任せするわ》

 ――やりやすい。
 百合は改めて実感していた。

 先の戦い、虚無の境界とIO2の戦闘以降導入されたこのサポーターシステムは、能力者であるエージェントにとっては無意味と言えるものだった。
 それは、サポーターが能力者ではない場合、能力の生かし方を理解していないのが大きな原因の一つと言えるだろう。

 しかし――否、だからこそ、エルアナのこの判断は正しい。
 エージェントの能力を自分で掌握出来ないなら、フォローに回り、それを把握する。これまで、様々なサポーターと組まされた百合だからこそ、それを実感する。

 凛と違い、百合は現場を飛ぶ事が多い。それはひとえに、彼女の能力――《空間接続》のメリットを活かす為だ。
 その為に、サポーターももちろん相応のレベルを求められてしまう。

(……勇太。アンタがどんな世界に足を踏み入れてるのかなんて知らないけど……――)

 百合は《空間接続》を行い、ジオフロント上空へ舞い上がる。

(――こっちだって、この数年間。アンタの隣に立つ為に腕をあげてきたのよ!)

 手元に現れた鉄の針を、一斉に投げ飛ばす。
 ――同時に、百合はそれらを《空間接続》によって移動させると、自分も同時に《空間接続》によって最初に指示された4人の前に現れた。

「こんばんは」

 唐突な来訪者に、その能力者達は慌てて振り返る。
 百合はそんな彼らに向かって口角を吊り上げた笑みを浮かべると、再び口を開いた。

「動かない方が良いわよ。動いたら、ちょっと痛い思いするわ」
「何を――ッ!」

 ――カカカカッ、と乾いた音が鳴り響く。
 先程百合が投げた鉄釘が、時間差によって現れたのだ。

「だから言ったでしょ?」

 その場に立っていた能力者達の服の袖に突き刺さったそれらを見つめ、百合は冷たく言い放つ。

「さて、抵抗したら、次はそれが皮膚を斬り裂くわよ」






(――……日本。本当に、おかしな実力者がいるものね)

 モニター越しにそれを見つめていたエルアナは、紫煙を巻き上げながらそうしみじみと実感する。

 虚無の境界と直接ぶつかった国。そして、その中にいたフェイト。その他にもいた二人の少女。
 その内の一人である、柴村百合という存在を、正直な所侮っていたのだ。

 だがその戦闘技術と、無力化までの所要時間。
 それらは、フェイトなんら遜色のないものであると判断出来る内容だった。

 言うなれば、今エルアナが見た限りでは、百合もまた、特級を名乗っても良いと言える程度であると考える。
 なのにそれが許されない理由。それに行き着いたエルアナは、呟いた。

「……detector」

 伝説のエージェント。そんなものと比較される彼女達は、少しばかり気の毒であるとエルアナは小さく嘆息する。

(それに加えて、フェイトだもの)

 そして笑みを浮かべるエルアナであった。

 ちなみに、エルアナの横では、規則に厳しいサポーター達が、エルアナの煙草に注意を促そうか迷っているのだが、エルアナがそれを知る由もない。







◆ ◆ ◆ ◆ ◆






「チィッ、外との連絡が途絶えた!」
「どうなってやがる!」

 一箇所の研究施設内を占拠しに来た数名の能力者達。彼らもまた、外での異変に気付き、混乱を招いていた。

「おい、データは手に入ったか?」
「いや、まだだ! クソッ、“電脳読取《データリーダー》”の能力でも入りきれねぇなんて、一体どんなセキュリティしてやがる!」

 悪態をつく一人の男。

 遠い所で、『ロリ最強』と書かれているシャツの上に白衣を着た、見た目だけなら幼女である女がその犯人だとは男も気付くはずがない。


 ちょうどそのデータへの侵入は、そのシャツを着た憂によって、リアルタイムでトラップを連続で仕掛けられている最中であった。

「にししッ♪ まだまだ青い、青いよぉー」

 そんな言葉を楽しげに言いながら、キーボードをおよそ常人とは言い難いスピードで操っている憂に、楓と馨は苦笑していた。

 憂はフェイトが呼び出された場所などから、データが狙われていると判断。そして現在、リアルタイムでそのデータにトラップを仕掛けているのだ。もともと仕掛けてあるトラップスペースに入り込んでいる能力者がそれに気付くはずもなく、あくまでも憂のお遊びの範疇である。




 ――閑話休題。




 男達のいた制御室の扉が、プシュッとエアーによって動く扉が開かれた。

「――ッ!? が、ガキ……?」

 振り返った男達が目にしたのは、真っ白なロングヘアをした、10際程度の少女。前髪は眉にかかるぐらいで真っ直ぐ切り揃えられ、入院患者が着るような貫頭衣に身を包んだ、青い瞳の少女の姿があった。
 眠たげな瞳を男達に向けると、少女は静かに口を開いた。


「Perdez……」

 少女の言葉と共に、男達の身体が一瞬にして消え去った。

 誰もいなくなった室内に佇んだ少女は、まるで何事もなかったかのように真っ白な髪を靡かせ、その部屋を後にするのであった。






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