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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Mission.6 ■ フェイトの受難







「……ねぇ、何でエルアナがここにいるのさ……」
「ハーイ、フェイト。来ちゃった」

 テヘッ、とウインク混じりに告げるエルアナに向かって唖然とするフェイト。そんな二人のやり取りをフェイトの後方から見つめていた凛と百合の反応はまさに三者三様といった具合だ。

 凛はフェイトの目の前に現れた新たな女性の影にムッと眉間に皺を寄せ、百合は「やっぱりね」と言わんばかりに肩を竦め、同行していた他のIO2職員らに状況報告をしにスタスタと離れていく。

 しかしながら、この状況に待ったをかけたいのは誰であろう、他のエージェント達である。

 IO2一級エージェント。
 《神気》と《祓魔》の力に長けた由緒ある巫女の血を受け継いだ、クールビューティーと密かに呼ばれる凛。

 同じく。
 《空間接続》とそれを影宮憂の協力を得て“進化”させ、犯人検挙率100%を誇る無口な女性、冷徹な執行人として犯罪者から恐れられつつある百合。


 ――そんな彼女らと肩を並べられる唯一の存在、フェイトこと工藤勇太の三人が、あの虚無の境界の事件以来、初めて表舞台に肩を並べて登場したのだ。
 数年前の激しいテロ事件をきっかけに表舞台に出た“能力者”の存在。そんな時代のターニングポイントで、日本を救ったと言える三人が相見えたのだ。


 しかし、そんな周囲の困惑と期待の入り混じった視線を意に介さない三人は、アメリカはニューヨーク本部から来たサポーター、エルアナと談笑しているのだ。
 彼らは知らない。
 ホームであるアメリカではなく、アウェイと言える日本での信用の勝ち取というエルアナの作戦によって舞台は整えられたのだ。
 これによって、エルアナも只者ではないと理解させられる他の面々である。

「それで、フェイト。ハグしてくれないの?」
「はぁ!? ちょ、ちょっと待って! 何でそれが当たり前みたいに言うかな!? って、痛い、痛いよ凛! 脇腹抓るって意外と痛いよ!?」

 エルアナの爆弾投下によって、見事に凛はエルアナを新たなる敵として捕捉した瞬間であった。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆





 凛と勇太は凛の車に乗り込み、エルアナ達はIO2の作戦指揮車輌に乗り込んで東京本部へと戻った一行は、今回の作戦の報告に再び合流を果たした。
 作戦の報告は直属の指揮官という立場に当たった鬼鮫に対して行われる事になったのだが、会議室で待つ様に告げられたフェイト達は和やかとは程遠い剣呑とした空気に包まれていた。

 ちなみにこれは、凛と百合、エルアナ。そしてそこに新規参入した萌によって作り出された空気である。

(……成程ね。やっぱりフェイトの事を待っていたリンやユリって子達は、そういう気持ちを持っているって訳ね)

 この状況を冷静に分析して納得したエルアナは、ちらりと部屋の隅に立つ萌へと視線を移した。

(気配が消える。意識してないと存在を忘れてしまう程の静けさを持ったあの少女も、かしら。はぁ、やっぱりフェイトは天然たらしの性質でも持ってるのかしらね)

 改めてフェイトの性質を確信したエルアナが、小さく嘆息した。

「待たせたな」

 一触即発の睨み合いにすら似た状況を切り裂いたのは、部屋に入ってきた鬼鮫だ。
 スタスタと部屋の中へ入ると、テーブルの上に取り付けられたタッチパネルを操作する。すると、部屋の中央部に立体映像が浮かび上がった。

「今日の報告はさっき聞いてきた。わざわざ残ってまでお前らに説明させるつもりはなかったからな」
「……? ならどうして私達がここに集まる必要があったのかしら?」

 せっかくのオフタイムなのに。
 そう言わんばかりに鬼鮫に噛み付いたエルアナに、鬼鮫は一瞥をくれてタッチパネルを操った。

「フェアリーダンス。その成分解析が終了した。おい、チミッコ」
「はいはーい! やってきました憂ちゃんでーす!」

 部屋の扉を開けて入って来たのは、『ロリは至高』と書かれた黒地の上から赤い筆の様なタッチで書かれたシャツに白衣を着た少女――否、少女の様な容姿をしている影宮憂その人である。
 その後ろから、楓と馨の二人が苦笑を浮かべて後について来ている。

「やあやあ、皆さん。待たせたね!」
「……おい、チミッコ」
「なんだろうにゃー、鬼鮫ちゃん」
「…………俺の膝の上から降りろ。斬るぞ」

 フェイトとエルアナは憂の行動に唖然とし、百合は嘆息。そして凛はクスクスと笑い、萌は一貫して無表情を貫くという室内の特殊な空気の中、クイーンオブマイペースの異名を欲しいままにしている憂は鬼鮫にブーブー文句を言いながら降りると、つかつかとフェイトに歩み寄った。
 疑問符を浮かべたフェイトの膝をポンポンと二回叩くと、満足気に頷いた憂は「よいしょっと」と言いながらフェイトの膝に腰掛ける。

「さて、説明しようかな!」
「ちょっと待とうね!? 何その「あ、こんな所に良い椅子があった」みたいな満足気な顔して乗ってるのかな!?」
「じゃー始めるよー。楓ちゃん達はさっきの成分データをこの端末に転送してー」
「聞いてないッ!?」

 羨ましげに憂を見つめる凛を他所に、他の者達は既に何かを諦めたようだ。
 それ以上憂に対してツッコミを入れる気にはならなかった。

「フェアリーダンス。これは重度の麻薬って考えてもらって間違いないね。
 主成分はアルカロイドを合成したオピオイド系の薬物。この辺りは一般的な麻薬とは何ら変わりないみたいだよ。マリファナ――つまりは大麻にある影響の中に、遺伝子へと悪影響を与えるっていうのはみんな知ってるよね?」

 フェイトのツッコミすら意に介さなかった憂は、淡々と麻薬の事前知識について確認を取る。本来ならフェイトもこんな知識は持ちあわせていないのだが、フェアリーダンスの介入。バグとの交戦などから、エルアナによって勉強させられた為、それにはなんとかついていける。
 憂は特に質問もなさそうな全員の表情を見て――フェイトの顔は真後ろなので見てすらいなかったが――説明を続けた。

「こういった麻薬を改良したもの。分子構成なんかを変えて作るのを“デザイナードラッグ”って言うんだけどね。多分そこから派生したものが、フェアリーダンスの正体だね。もともとは合法ドラッグとして市場に出回ったんだと思う。
 でもね。これは本当に奇跡的な調合比率によって、特殊な遺伝子影響を及ぼす事が判明した。それが、フェアリーダンスの正体」

「……まさか、とは思うけど。能力の覚醒?」

「その通りなんだよね、百合ちゃん。特に百合ちゃんならその可能性に辿り着けるだろうね。能力を後天的に後付けされた事もあるし、近い体験をしてたんだから」

 憂の言葉に事態の深刻さが突き付けられた。
 未だに状況が飲み込めてないフェイトの腹部に、憂がドカッと体重を預けて続けた。

「あの虚無の境界との戦争から既に4年近い月日が流れてる。東京は、世界は“能力者”の存在を隠せなくなって、ついにはその能力者を監視、調整するべく、陸路で他国とは繋がっていないこの国、日本にジオフロントを作りあげ、そこに住まわせるという処置を取った。これは世界同盟国家間で決まった決定事項であって、日本の独断なんかではなかったよね。
 フェアリーダンスの厄介な所は、使用者の遺伝子染色体との互換性によって、効果を発揮するかしないかも異なる点にあるんだよ。
 そこで一番厄介なのが、このフェアリーダンスがばら撒かれた事。そのせいで、先天的な能力者と後天的な能力者の二通りの人種が生まれた」

「ちょっと良いかしら?」

 憂の説明にエルアナが言葉を挟み込んだ。

「だからと言って、世界中のIO2エージェントが日本に集まった理由には少し弱いんじゃないかしら?」

 エルアナの言葉に、フェイトも同意していた。

 確かに能力者が増えたとなれば、それだけ危険性が増すというのも事実だ。
 しかしながら、この状況で能力者がわざわざ日本に集められたという理由が説明されていない。
 これがアメリカのエージェントであるフェイトやエルアナだけならいざ知らず、先日のアリアという少女を連れたフランスのエージェントや、イギリスのエージェント、ネルシャの存在もあったのだ。いくら何でも大掛かり過ぎる。

 しかし憂は小さく嘆息すると、鬼鮫を見つめた。
 憂に説明の許可を与える様に鬼鮫が頷くと、憂は改めて口を開いた。

「ジオフロントの設立はね。能力者の監視と、その能力の性質向上を目的にした計画が基板になっているんだよね」
「それってつまり……?」

 凛の問いかけに、憂は頷く。

「能力者の育成方法。IO2でこれまで秘密裏に研究されてきた内容が今、この日本に集結してしまっているんだよ。それを狙った連中が、この狭い島国に跋扈しているって事」

 憂の答えに、全員が息を呑んだ。






 しかし、そんな中でフェイトだけが。
 膝の上で寛いでいる憂のせいで、微妙に足が痺れて渋い顔をしているのであった。







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