コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Mission.7 ■ エージェントチーム







『それで、何で日本に来たのさ?』
『あら、相棒が仕事で日本に行っているのに私が日本にいる訳にはいかないでしょ?』
『あー……、確かにそうか』

 作戦会議を終えて自動販売機の置かれた喫煙所へとやって来たエルアナとフェイト。

 今回の作戦で中心となって動く事になる日本のIO2に所属している百合と凛は、鬼鮫と共に、今回の騒動の中心とも呼べるクスリ――フェアリーダンスについて改めて憂から説明を受けている。

『日本のエージェント、ユリと言ったかしら。あの子もずいぶん面白い能力を持っているみたいね』
『“空間接続《コネクト》”の能力だよ。俺の空間転移と似てるんだ』
『ふーん。それで、アナタと一緒にいたもう一人のナデシコは?』
『あぁ、凛だ。神気って呼ばれる力を持ってる。えっと、そっち風に言うとエクソシスト的な感じかな』
『……ホント、さすが日本って感じね。東洋の神秘って所かしら』

 エルアナの言葉にフェイトが小首を傾げる。

 海外の能力者はどちらかと言えば攻撃的な能力が多い。
 空間を操る様な能力者や、神気を操る術――いわゆる神仙力や神通力と呼ばれる力などはこれまでに見つかっていないのだ。

『ねぇ、フェイト。ジャッシュからこれを預かってきたわ』

 USB型のフラッシュメモリをポケットから取り出し、エルアナがフェイトへと差し出した。

『これは?』
『さぁ。アナタに会うなら渡す様にって頼まれただけだから、中身については知らないわ。D-Fileって言っていたけど』
『D-File? 何だろう』

 そんなエルアナとフェイトのやり取りを見つめていた凛の後ろから、百合が声をかけた。

「不思議な光景ね」
「……百合」
「あの勇太が英語で会話してるなんてね」

 エルアナとフェイトの会話する姿にそんな感想を抱いたのは百合であった。

「なんだか、4年の間にずいぶんと遠くに行ってしまった様な、そんな気がします」
「そうかしら? まぁ特級エージェントなんて立場になってるんだから、そう感じるのも無理はないと思うけど」

 大して動揺する事もなく百合がフェイトとエルアナに向かって歩み寄って行く。凛もその後に続いて二人のもとへと歩みを進めると、フェイトとエルアナが二人に振り返った。

「もう終わったの?」
「えぇ、当面はあのジオフロントの警備と、独自の調査を任命されたわ。ただ……」

 フェイトの問いかけに言葉を濁した百合の横へ、凛が立ち並ぶ。

「フランスのエージェント。彼らについては少し注意するように言われました」
「……フランス。あの小さい女の子を連れてた男か」

 思い返したフェイトが呟く。
 先のジオフロントでの戦闘で姿を現した、異様な雰囲気を放った二人組。
 ルーシェと名乗った男と、アリアと呼ばれた少女だ。

 そんなフェイトの呟きに頷いた百合が説明を続ける。

「なんでも、日本のIO2側からは情報を送ってはいなかったらしいわ。それなのに現場に現れた。さっきその事も兼ねて話を聞いてみたらしいけど、どうにも胡散臭いらしいわ」
「胡散臭いって?」
「あの鬼鮫がそう言ってるの」
「……鬼鮫さんは誰でも胡散臭そうに接する節がある気がするけどね……」

 思わず鬼鮫の過去の姿を思い返して呟くフェイトであった。















 巡達に迎えられ、慣れない自室へと帰って来たフェイトは早速自分の部屋にあったパソコンで『D-File』と呼ばれたUSBのフラッシュメモリの中身を開く事にした。

「――……『能力者覚醒計画』……?」

 主題となるのか、メモリの中に入っていたファイルフォルダにはそう書かれている。早速フェイトは中身を確認しようとそれをクリックして中身を開いた。
 『計画概要』と書かれたファイルを開く。




―――――――――――――――――――――――――――――――



 ――――『能力者覚醒計画』




 本計画は、日本に建設されているジオフロントを利用し、そこで能力者達に次のステップを踏ませるべく創り出されたプロジェクトである。

 現在、能力者には3つの段階があると考えられている。



 能力の初期段階――“兆候段階”。
 能力の具現化を意のままに操れない状態の能力者。
 先天的に能力を持って生まれた能力者では、この症状が必ず見られる。主に思春期の子供などがそれに当たる。



 能力の第二段階――“使用段階”。
 能力を利用出来る者の多くはこの段階で成長を止め、力を振るう事が多い。
 IO2によって保護されたエージェント、並びに現在でも行方をくらましている能力者などはこの段階まで能力を引き上げている。



 能力の第三段階――“特異段階”。
 能力を意のままに操り、実質的な上限のない力を有している特異者とよばれる者達。
 自身の能力を利用し、本来なら発生させられない程の能力を有した者。
 現在のIO2においては、ニューヨーク本部にいるエージェント、フェイト以外には確認されていない。





―――――――――――――――――――――――――――――――





「……俺の名前……?」

 思わずフェイトはその一文を見て小さな声で呟いた。
 自分の名前が書かれているとは思いもしなかったのだ。

 再びフェイトはそこに書かれた文面を見つめる。



―――――――――――――――――――――――――――――――




 本計画は、この第二段階における“使用段階”の対象者に対して行う薬物による覚醒を促し、“特異者”を作り上げる計画。
 そして、無能力者に対して薬物を投与し、兆候段階から使用段階へと強制的に能力を付与させる“覚醒計画”の二つの側面を有した計画である。

 これは、かつて天才と呼ばれた男、宗と名乗る日本人が着手し、以降凍結していた計画である。


―――――――――――――――――――――――――――――――





 そこに書かれていた名前に、フェイトは思わず目を見開いた。

「……また、アンタかよ……」

 愕然としながら、悪い夢を見た様な気分でフェイトは呟いた。
 フェイトは――否、勇太はそれを知っている。



 ――自分の父が名乗っていた名なのだから。








◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 








『――フェイトに渡したわよ』
《そうか。中身に関しては見てもらっても構わなかったんだが、どうせお前も見たのだろう、エルアナ》

 眼下に広がる夜景を見つめながら、自身で予約していたホテルの一室でエルアナは苦笑する。

『……ねぇ、ジャッシュ。アナタ、あんなものを何処から手に入れたの?』
《D-File。DはディテクターのDだ。あれはかつてのディテクターによって送られてきた代物でな》
『タケヒコ・クサマね。今はIO2でも行方を追っている存在よ?』
《それはそうだろう。何せそのD-Fileこそが、IO2の極秘ファイルなのだからな》

 ジャッシュの言葉にエルアナの目が僅かに見開かれる。

『……どういう事よ。フェアリーダンスにはIO2が一枚噛んでいるって言うつもり?』
《いいや、あれに書かれていた通り、凍結されていた計画だ。IO2は噛んでなどいないだろう。でなければ、わざわざ国外から招集してまで解決には乗り出さないさ》

 的を得たジャッシュの言葉に、エルアナが嘆息する。

 いずれにしても、重要なファイルであるのは変わらないのだ。
 そんなものをわざわざ運ばせられたとなると、エルアナとて良い気分はしない。

 その上、中身を見てしまった以上、知らぬ存ぜぬで通用する状況はとうに越えてしまったのだと安易に推測出来る。

『……高くつけるわよ』
《それだけの成果が得られれば、いくらでも受けてやる。わざわざお前が中身を見る事を前提にしていたんだからな》
『ロクでもないわね……。それで、わざわざ高い通話料金払って電話してるんだから、そろそろ本題に入らない? この通話料も請求させてもらうけど』

 エルアナがジャッシュを急かす様に告げる。

 現在エルアナは、わざわざ香港に電話をかけてそこから回線を飛ばしているのだ。盗聴の危険を考えれば安いものだが、ポケットマネーで払うとなるとそうもいかない。
 1分間に100ドル札が消えるなど、願い下げな通話料である。

《あぁ、分かってる。本題だが、日本のIO2で情報を得たら、お前には一度こっちに戻って来てもらいたい》
『……どういうつもり?』
《詳しくは言えないが、そうだな。一つ忠告しておく。フランスのエージェントには気を付けろ》
『……会話になっていない気がするんだけど?』
《それはそうだろう。盗聴の危険性はなくても、用心に越した事はない》

 わざわざ答えをぼかす様な言い方を続けるジャッシュに、エルアナは再び嘆息した。

『……単純なドラッグに纏わる事件じゃないってのは解っていたつもりだけど、そこまでする必要があるの?』
《そこまでしなくちゃ、割り出せないって事だ》

 笑えない断言に、エルアナの表情は僅かに強張っていた。









to be countinued...