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奮闘編.14 ■ 非凡な少女―A
――「さて、問題だ。お前は何が出来て、何をしようと考える?」
あまりにも唐突な質問をぶつけられて、美香は逡巡する。
質問の意味やその意図を汲もうと試みた。
正直に答えるのであれば、自分は探偵業に関してはずぶの素人だ。
それは別に自分を卑下しているのではなく、至極当然な評価であり、現実である。
美香は改めて『深沢美香』という少女の特技を考える。
幼い頃から様々な習い事をしてきた。
大人と接する機会が多かった少女は自然と大人ぶる事を学んでしまったが、この際それは置いておこう。
そんな中、美香が学び、かつ美香の抱いた『これが探偵』というイメージを思い浮かべて、美香は一つの結論に至る。
「……ご、護衛なら自信ありますっ!」
「は……?」
幼い頃から習っていて、且つ探偵業に利用出来そうな特技を思い浮かべて美香は答えた。
「私、こう見えても合気道有段者なんですよ! どんな相手でもばっちりです!」
「……それは知らなかったな」
「はいっ」
得意げに答える美香とは対照的に、武彦は嘆息する。
先程も言ったが、今回は確かに「危険な連中と付き合っている可能性がある」と示唆したが、何も彼を捕まえ、何者かから守るという予定は今の所ない。
それが生じる可能性も高いが、まさか見つけた後に関係する考えを口にしてくるとは思っていなかった、というのが武彦の本音である。
あの飛鳥から受けた依頼の際は、その実力を持っていても手を出さずに我慢していたのかと思うと、性根の強い少女だとは思わされるが、武彦とて荒事に関してはプロである。
もちろん、美香にそれをわざわざ伝えるつもりはないが。
「んじゃ、別々に探すか」
「え、困ります……! 私に出来るのはあくまでも護衛ですし、捜査なんて何すれば良いのか分からないですし……」
「……ま、そりゃそうか」
美香の提案に一先ずは協力。
最初は街中の捜索から始まろうとしていた。
◆
「俺達が探しているのは〈上八木 省吾〉、歳は17歳の高校2年生だ。
父親は警視庁の一角。役職なんかは守秘義務があるし、探偵業は基本的に守秘義務に縛られる。依頼者の名前や立場はなるべく表に出すな」
「ふむふむ」
「少年の通っていた学校は、『私立凪砂高等学校』。正直言ってこの学校がちょっと特殊なんだよ」
「特殊、というと?」
「いわゆる、金持ちのボンボンが通う所ではあるんだが……、優等生の学校というそれとは違う。一言で言うなら、あそこは隔離施設みたいなもんだ」
武彦の物騒な物言いに、美香が小首を傾げた。
武彦が咳払いをして続ける。
「権力に物言わせたがるガキを放り込んで、一般社会とは隔絶した学校って所だ。成績なんてのは金で買うような学校だ」
「え……? どうしてそんな学校に……」
「そんな学校じゃなきゃ、受け入れてくれないガキだったりもするのさ。
権力に物言わせる生徒を飼い殺し、とりあえず3年間の面倒を見るだけの学校だ。少年はそういった問題を中学生の頃にも起こしている問題児だ」
「……たち悪いですね……」
そうこう話している内に、二人はその話題となっている学校――『私立凪砂高等学校』の前へと辿り着いた。
「…………なるほど、ですね」
美香がその外観に対して抱いた感想は、まさにその一言であった。
通常の高校は、せいぜい2メートル程度のフェンスや外壁に覆われ、その中に学校の敷地が広がっているという所だ。
しかしながら、美香と武彦の前には、さながら刑務所を彷彿とさせる――とは言えそこまで高さはないが、体感的にはそれと同等にすら感じさせる白塗りの外壁が目の前に続いている。
対外的には「お金持ちが通う学校だから、その身を守る安全面に考慮した」と言えば聞こえは良いが、実情を知っている武彦やその話を聞かされた美香からしてみれば、「外から内情が見られてしまうのは困ります」という本音が見え隠れしている。
むしろいっそ、『猛犬注意』のシールでも貼っておけば良いんじゃないかと思って小さく笑う美香の視線の先には、まさにそのシールが何の嫌がらせか貼られていた。
これには美香も武彦も敢えて触れようとはせずに校門へと向かって歩いて行く事にした。
「この学校の生徒からの聞き込みは、お前がやれ」
「っ!? え、な、何でですか!?」
「お前ならまだだいたい同い年ぐらいでも通るからな。昔の知り合いだとでも言って話を聞いて来い」
「な、ななな何を訊けば良いですか……!?」
「そうだな。ここ最近省吾を見なかったか、とか、いつも何処かでたむろしている場所がないか、とかだな。まぁこの辺は適当に、会話の流れで聞いておけ」
「ま、丸投げ……」
「さっきも言ったが、この学校はちょっとした動物園だ。飼育員の監視が強いからな、俺みたいのが下手に関わるとすぐに飼育員が動き出すのさ」
「飼育員って……、教員ですか?」
「ま、そんなトコだ」
言い得て妙であると言えるだろう。
こうして、半ば強引に校門の前へと一人で立ち尽くしながら下校の時間が近付くまでうろうろとしていた美香の前に、早速女子生徒達が帰って行く姿を見て声をかけた。
◆
「――上八木ィ? あぁ、あのチャラ男かー。そういや最近見てないけどー、お姉さんもしかして上八木のコレ? え? 違うの? なーんだ。
んー、アイツは色々と問題多いから、関わらない方が良いよ。何かってーとすぐに親の名前出すし、そのクセにイキがってんから手に負えないっつーか。
私の友達なんて、コクられたのフッただけでマジギレしてたからね、アイツー」
「――上八木クン、ですか。あの人は少々面倒な連中と付き合ってるみたいですね。……あぁ、そういえば、駅前のゲームセンター近くの公園に、彼が付き合ってる連中がよくたむろしているとか……。まぁ汚物は汚物同士で、せいぜいお互いの欠点を慰め合っていれば良いんですよ。想像するだけで不愉快な光景ですが」
「――ショーゴかよ。あの野郎、一度ブッコロス」
「……はぁ、こんなんばっかり……」
何人めかの事情聴取を終えた所で、美香は嘆息する。
ここまでに得た情報と言えば、次の事ぐらいだろう。
まず持ち上がった一つ目の情報は【学校内の交友関係は最悪】である事だ。
誰に聞いてみても彼を擁護する証言は出て来ないし、すでに探す前から印象はマイナス値スタートをしている、という事だろう。
次に、【付き合いのある不良グループが、駅前のゲームセンター近くにたむろしている】という点だ。
これは行ってみる必要性がありそうだが、あまり行きたくないというのが本音である。
あとは【女遊びが激しい、というよりもフラれ続けている】という点や、【学校はサボるが、学校に来たら一応授業は受けている】などという情報が飛び交っているという所だろう。
事前情報で得られたのは今の所そんな程度である。
得られる情報がそういった程度で固まって来た以上、もうそろそろ情報収集は頭打ちだろうか。
美香は人の出がまばらになり始めた校門を眺めてそんな事を考えながら、最後にやって来た二人組の少年に声をかけた。
二人組は、いかにも不良といった体をしているが、美香にとっては子供である。
伊達に水商売に身を落としていないと言うべきだろうか、彼女が目の当たりにする人々は不良を行き過ぎた連中である。
「すいません、ちょっと聞きたい事があるんですけど」
「お、なになに? 逆ナン?」
「マジか。つかこの子可愛いな。いやー、春きたわ、春」
美香は面倒臭そうに溜め息を漏らした。
正直に言ってしまえば、この手のリアクションはさっきからだいたい同じである。その度に適当にあしらっているのだが、所謂テンプレと言えるものだろう。
「じゃあさ、あっちで話そうよ」
「え……?」
「そうそう、いこうよ、お姉さん」
「い、いや、話を聞きたいだけなんで、放して下さい」
「良いじゃんかー。ほらほら、行こうよ」
さすがに強引に引っ張られるこの状況には美香も苛立ちを隠せずにいた。
(どうしよう。手首極めて投げちゃおっかな……)
冷静にその掴んだ手を見て考える美香。
しかし周囲には徐々に野次馬の様に状況を見ている生徒達もいる。
そこで美香が選んだ行動は――――。
to be countinued...
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いつもご依頼有難うございます、白神怜司です。
マルチエンディング始動です。
一応ここが最初の分岐点ですね。
次の3つから選んで下さい。
@・周囲の目をはばからず、投げ飛ばす。
A・もう少し静観しながら、説得を試みる。
B・これ幸いと学校の中に入り、情報を探る。
以上です。
この3つの展開からお選び下さい。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
白神 怜司
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