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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


三角関係は災いを呼ぶ

 旗艦の甲板の上で鬼鮫(NPCA018)が、船首の手すりの向こうに立つ女性乗組員に声をかける。
「おい、おまえっ! いい加減にしろよ! 自殺なんかしても何の得にもなんねぇぞ!」
「近寄らないで! もうダメなの! 私、死んで償わなくちゃいけないのよ!」
 涙を流しながら叫ぶ女性は、そのまま飛び降りた。


「彼女は結局飛び降り自殺した上に、体が我が連合艦隊旗艦USSウォースパイト号に当たって破損したわ! 環境局からの命令で、被災地で苦しんでいる人達へ医療薬を届ける任務の途中なのよ? ゆっくりしている暇はないというのに……! とにかく修理を急いで! 後、何で彼女が自殺したのか、その理由を調べるわよ!」
 艦長の藤田・あやこ(7061)はギリっと歯を食いしばりながら、彼女の部屋へと向かう。
 彼女は機関を担当していて、上司である女性主任と二人で一部屋に住んでいた。
 あやこは部屋にいた主任と共に、彼女の私物を片付けながらも遺書がないか調べる。
 そこへ彼女と婚約をしていた男性乗組員が、慌てた様子で部屋の中に入って来た。
「急に呼び出して悪かったわね。事情は聞いていると思うけど……、彼女は自殺したわ」
「どっどうして……! 俺達、もうすぐ結婚する予定で、しかも新婚旅行の計画も話し合っていた途中だったのに……」
 男性は膝から崩れ落ち、頭を抱えて泣き出してしまう。
「私も不思議ですね。彼女は前向きで明るく、努力家でした。……まあ少し自分の意見を押し付けるようなところもありましたけど、頭の回転が早く、将来は私のポジションを任せても良いとさえ思っておりました」
 主任も辛そうに、顔を歪ませる。
 二人が嘘を言っている様子はなく、あやこは唸りながら頭をかく。
 しばらくは無言のまま片付けを続けたものの、終わると同時にあやこは戸惑いの表情を浮かべる。
 遺書らしきものはなく、日記にも悩みはあまり書かれていない。つまり自殺する理由が、全く見つからなかったのだ。
「遺品はとりあえず、ここに置いておきましょう。後は……」
「あっあの、艦長。一つだけ、思い出したことがあるのですが……」
 今まで泣き崩れていた男性が顔を上げて、言いづらそうにあやこに近付いてくる。
「彼女は昔、造船所で働いていたんですけど、仕事仲間が行方不明になる事件があったらしいんです。どうやら主任も一緒に働いていたみたいで……」
「えっ? それ、本当?」
 二人は主任に聞こえないように、コソコソ話す。
「造船所で働いていた時のことを聞くと暗い顔になって……、それが気になっていました」
「そう……だったの。ありがとう。もう戻ってもいいわ」
 男性は軽く頭を下げると、部屋から出て行った。
 その後、あやこは主任に声をかける。
「ねぇ、あなたは彼女と個人的に何もなかったの?」
「あっあるわけないでしょう? ……確かに彼女はこの旗艦を製造する時に、自分よりも功績を上げたことが気になっていましたが……でもそのぐらいですよ」
 そう言って主任は、あやこに背を向けてしまう。
 あやこはため息を吐くと、部屋から出て廊下を歩く。
「……つまり彼女が自分よりも上の立場になることを、主任は本当は嫌がっていたのね。二人が働いていた場所に行ってみようかな? 何か見つかるかも」
 あやこは機関室に足を向ける。
 二人が担当していた場所は、今は誰もいなかった。
「彼女と主任がこの旗艦の乗組員になったのは、八年ぐらい前のことだったわね。でもその頃に何かあったとしても、今頃になって彼女が自殺する理由になるのかな?」
 腕を組み、首を傾げながら奥へ進むと扉があり、思わずあやこは立ち止まる。
 扉の前に、体が青白く透けて、薄ら笑いを浮かべている男女がいたのだ。二人から少し離れた壁際には、同じく青白い体の女が怒りの表情を浮かべて立っている。
「きっぎやあああっ!」
 絶叫を上げながら走り出したあやこは、そのまま甲板に出た。
「何悲鳴を上げていやがる……って、おいっ!」
 鬼鮫の目の前で、あやこはバッタリ倒れる。


 あやこは先程目にした、三人の幽霊の夢を見ていた。
 薄ら笑いを浮かべていた女が、怒りの表情を浮かべていた女に、造船所で追いかけられている。追いかける女に、男は怒鳴っているようだった。
「うっ……ん。……あれ、何で私、自分の部屋にいるの?」
「目が覚めたかよ?」
 あやこは起きてすぐ、自分のベッドで寝ていたことに気付く。
 そして傍には、心配そうな顔をしている鬼鮫がいた。
「もしかして看病してくれたの?」
「目の前で倒れられたら、徹夜してでも看病するしかないだろうが」
 そう言って鬼鮫は、あやこの頭をグシャグシャと撫でる。
「乗組員が突然死んで、参っているんだろう。特性の鎮静剤を作っておくから、しばらくは大人しく休んでいろ」
「ふふっ、ありがとう」
 二人の間に和やかな空気が流れるものの、扉の向こう側では憎しみに満ちた顔をする副艦長の綾鷹・郁(8646)が立っていた。


 丸一日ゆっくりと休んだあやこの部屋に、朝、鬼鮫と郁が訪れる。
「ほら、これでも飲んで落ち着けよ」
「お水もどうぞ」
「あっありがとう……」
 あやこは鬼鮫からは白い錠剤を二つ貰い、恐ろしいほど無表情の郁からは水が入ったコップを受け取り、薬を飲む。
「……ふう。実はね、機関室でその……幽霊を見たのよ。二人は見たことない?」
「俺はないな」
「あたしもないわ。でも艦長が気になるなら、確かめてみます?」
 こうして三人は、機関室へ行くことになった。
 しかし幽霊を見た場所で、あやこは灰色に染まっている壁に頭蓋骨のような白い模様が浮かんでいるのを発見する。
「こっ今度は骸骨がいるーっ!」
「落ち着けよ! アレは機関室に満ちている煙で、壁にできた模様だろう?」
 鬼鮫は抱き着いてきたあやこを、必死になって宥める。
「でもアレは……」
 だが郁は模様を見て、眼をつり上げた。そして床に置いてあった工具箱からハンマーを取り出すと、壁の模様を殴りつける。
 驚くあやこと鬼鮫の前で、壁が崩れ落ちた所から本物の頭蓋骨が出てきた。
「……壁は新しい物じゃないから、恐らくこの旗艦を作っている途中で埋められたんだと思うわ」
 鬼鮫は郁の言葉を聞いて、ふとあることを思い出す。
「じゃああの女が最期に、『死んで償う』と言ってた意味は……」
 そこであやこも婚約者から聞いた話を思い出し、自分の考えを語る。
「恐らくその遺体は八年前、行方不明になった彼女の仕事仲間でしょう。ここに埋められたことを知っていて、きっと主任と彼女はこの旗艦の乗組員になったのね。でも働いているこの場所にあんな模様が浮かんだ上に、幽霊も見たのかもしれないわ。それが原因で自殺を……と考えると、辻褄が合うわね。とりあえず主任には、いろいろと聞きたいことがあるわ。鬼鮫、主任を食堂に連れてきてくれる?」
「分かった。それじゃあ郁、あやこを頼む」
「ええ……」


「んもぅ。鬼鮫と主任、一体どこにいるのよ」
 食堂であやこは二人を待っていたが一時間以上経っても来ないので、探しに出ていた。
 しかし温室の扉の窓に視線を向けた時、中で抱き合ってキスをしている鬼鮫と郁の姿を見てしまう。
「なっ何であの二人が……! 鬼鮫の恋人は私なのにっ!」
 二人の仲を知らなかったあやこは、頭の中が熱くなった。無意識のうちに腰に下げていた銃を手にして、扉を開けるのと同時に二発の銃弾を放つ。
「あっ……!」
 正気に戻ったあやこの目に映ったのは、銃弾を胸に受けて血まみれで倒れる二人の姿。鬼鮫は驚愕の表情を浮かべるものの、郁は何故か嘲笑うような顔をしている。
「いっ……イヤあああ!」
 あやこは叫びながら、駆け出す。そして甲板に出たあやこは手すりを乗り越えようとするも、後ろから何者かに腕を掴まれた。
「落ち着けっ! 自殺なんかしても何の得にもなんねぇぞ!」
「離して! もうダメなの! 私、死んで償わなくちゃ……って、えっ? この声、鬼鮫?」
「艦長! いきなり機関室から飛び出てきたと思ったら、何をしようとしているんですか!」
「郁まで……どういうこと?」
 死んだはずの二人は慌ててあやこを引っ張り、艦中に入れる。
 呆然とするあやこの頭の中で、女の声が聞こえてきた。
『くすくす……。ざんねーん! アンタをこっちの世界に、引っ張りこもうとしたのに』
(この声……主任っ!?)
『ええ、そしてあの壁の中に埋まっている女よ。真相を話すとね、女が自殺する時からアンタに幻を見せていたの』
(じゃああなたも彼女も、はじめからいない存在だったの?)
『……昔話だけど、八年前、一組のカップルがいたの。でも男は他の若い女とも良い仲になってね。だから男と浮気相手が誰もいない造船所でイチャついている時に、文句を言う為に女は現れたの。でも浮気相手の女は、怒り狂っている女の姿を見て笑ったのよ!』
 あやこの頭の中に、先程殺された郁の嘲笑いが浮かぶ。
『だから女は二人を殺して、まだ固まっていなかった壁の中に死体を入れたの。女も自殺して、壁の中に身を入れた……。アンタは二人を殺した女に取り憑かれていたのよ』
(その【女】はあなただったのね? でも何で私に取り憑いたの?)
『アンタがアタシと同じ道を歩もうとしているからよ!』
 女の言葉で、あやこはがっくりと項垂れる。
 あやこと鬼鮫が恋人であることを知っているのに、郁はその間に割り込もうとしているのだ。しかも鬼鮫は満更でもなさそうだった。
 二人への激しい憎悪を鎮めようと人気の少ない機関室に行き、そしてあの模様を発見して、怨霊と化した女に幻を見せられていたのだ。
 あやこは涙ぐみながら、鬼鮫と郁を睨み付ける。
「男に振られた女の恨みは怖いんだからね! 覚悟しなさいよ!」
 青ざめる二人から、あやこは顔を背けた。
『ふふっ。まあそれだけハッキリ言えたんなら、もう銃を二人に向けることはないでしょう。陸地に到着したら、壁から出してね』
 そしてあやこの中から、女の気配が消える。
(……とりあえず、ありがとう)