コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


奮闘編.15 ■ 非凡な少女―B






 不良少年らのイキがる様子というのは、狭量な人間でさえなければそれが可愛げすらあるように感じられると言う。飛鳥ほどの女性ならばもしかしてうまく扱えるのかもしれないが、いくら水商売から風俗業に身を落とした美香とて、さすがにそういった相手に遠慮をするつもりはない。

 とは言え、この状況ではあまりに人目が多い。
 仕方なく美香は抵抗を弱め、生徒らに連れられて学校の敷地内へと進む事にしたのであった。

 学校の中は一見すれば実に綺麗な学校だと言えるだろう。
 さすがに昭和を代表する様な不良生徒とは違い、育ちが良い生徒が多いおかげか学校内にスプレーで落書きをしたり、バイクで走り回る程のレベルにまでは落ちぶれてはいないようである。
 だからこそ、と言うべきか。不気味な静けさとはりぼての様な嘘臭い雰囲気の良さが、この学校の真実を語っているかの様にも思える。


「部外者が校内に入っても良いんですか?」

「いーのいーの。俺達の知り合いって事にしちゃうからさ」


 綺麗に染められた金髪の、いかにもチャラいと言った風体の少年が美香に告げる。付き添っているのはボウズ頭で唇にピアスをした、何がしたいのかよく解らない少年だが、そちらは付き添っているだけであまり言葉を口にしようとはしない。

 そもそも女性を学校の中に連れて行くなど、かえって不自由しそうなものだと美香は考えるが、どうやらこの二人にそんな思考回路は存在していないらしい。

 学校内は外観と同じく、綺麗な建物ではあった。
 真新しいその造りなどから、生徒の質を見なければ優等生の通う小洒落た学校といった所だろうか。
 そんな雰囲気が狙って作られている様だ。

 恐らくこれらはこの少年らの親に向けて見せる為の措置であり、通っている生徒らにとってはさほど気にはならないのだろう。
 かつての自分――つまりは借金を肩に落ちる所まで落ちる前の自分であったならば、この学校内を羨ましいと思ったかもしれないが、汚い部分を見て人の裏を見る力を養ってきた美香からすれば、この学校の歪さばかりが先程からやたらと浮き彫りになって目についていた。



 学校内に入って3階へと進んだ所で、金髪の男とボウズ頭の男に空き教室と思しき教室内に連れ込まれた美香は、ようやく腕を解放されて少年らと向き合った。


「勘違いしている様で申し訳ないんだけど、別に貴方達自身に用事があった訳じゃないの。人を探しているのよ」


 美香の堂々とした物言いに、少年ら二人は思わず目を瞠った。
 先ほどまでの弱々しい態度は何処に消えたのかと、思わず目を擦ってしまいそうになる二人に向かって、美香ははっきりとした口調で続ける。


「学校の中に連れて来てくれた事には感謝しているけど、お遊びに付き合っていられる程、私も暇じゃないのよ」

「な、なんだよ、アンタ……。つか、何その強気な――」

「――こっちはね、貴方達が頑張っても知っている程度の暴走族とか、そういうのを取り仕切る様な人達を相手に仕事をする事もあるのよ。遊び盛りの貴方達が一歩間違えたら、存在が消える様な、ね」


 サーッと顔から血の気が引いていく二人を前に、美香は内心で盛大な溜息を漏らした。

 ちょっとした脅しになればと思いながら口にしている言葉ではあるが、効果は絶大だった様だ。
 二人の顔からは明らかな恐怖の色が窺い知れる。

 こうなってしまえば、荒事を起こす必要もなく情報を探れる相手として扱えるのではないだろうか。
 一度怯えさせてしまえば、世間を知らない子供など従順なものである。

 奇しくも、今日は自分が嫌になった水商売の知識と経験がずいぶんとモノを言う日だ。そんな事を考えると失笑してしまいたくもなる程だ。


「協力してくれるなら、別に私も何かをどうこうしようなんて言うつもりはないわ。ただし、このまま逃げたり何かしようとするなら、身体の一部が切れてなくなる可能性は否めないわね。どうする?」


 張子の虎とはよく言ったものだ。
 この場合は方便とも言うべきだろう。あくまでもどうこうするとは言っていない、というのが美香の本音である。

 しかし一度そんな言葉を告げられ、得体の知れない恐怖を抱いてしまえばそれを克服するのは難しい。世間への視野の狭さが仇となったと言うべきか、少年ら二人は何も言えないまま首を縦に振った。


「で、何を知りたい……ッスか?」

「……別にそんな変な敬語使わなくて良いわよ、かえって馬鹿にされてる様にすら見えてしまうわ」

「そ、そうじゃないッスよ! ホント、馬鹿にしてなんていないッスから!」

「……はぁ。まぁ良いわ。貴方達、上八木 省吾が今どこで何してるか知ってる?」


 呆れつつも美香が質問をぶつけると、二人の少年が僅かに視線を交錯させた。


「……何か知ってるみたいね」

「い、いや、そうじゃなくて――」

「――くだらない言い訳をして、寿命を縮めたいの?」

「……わッ、分かった! 言うッスよ!」


 時間を無駄にしたいのか、という言葉も言い回し一つで脅し文句にもなりかねない。そんな事を改めて実感した美香であった。


「っていうか、お姉さん。ソッチ系の人って事はあの〈噂〉、マジだったんッスか?」

「……噂?」

「アイツ、【ヤクの売人やってるって噂】ッスよ。最近ウチの学校じゃショーゴの噂はマジなんじゃないかって話だし、お姉さんソッチ系って事はやっぱりマジって事ッスよね」


 ソッチ系、とやらではなく探偵助手なのだが、そんな情報を与えるつもりもない美香は「まぁ、貴方達が首を突っ込んで良い問題じゃないわね」と意味深な言葉だけを告げて再びはぐらかす。
 先ほどから美香の一字一句にビクビクしている二人を見て、何だか可愛げがあるという言葉に少しだけ同意したくなる美香であったが、今はこの役を貫き通すと決めたのか、眉間に僅かに皺を寄せた。


「……で、何処にいるの? 隠すとロクな事にならないわよ」

「そ、それは……――」

「――お前達、何をしている」


 金髪の少年が口を開こうとした瞬間、教室の扉から一人の成人男性が姿を現した。
 年の頃は三十前後といった所だろうか。目つきも鋭く、街中で見かければ明らかにカタギの人間ではないと思われるだろうスーツ姿の男性だ。


(……これが草間さんの言っていた〈飼育員〉、かな……?)


 美香はその姿に言葉の意味を理解する。
 そんな美香の横で、「何でもないッスよ!」と言いながら二人の少年が慌てて教室を駆けて逃げていく姿を見送り、美香は嘆息した。


「……見た所部外者の様ですが、あの二人に何かされましたか?」


 頭が痛いと言わんばかりに嘆息した男の声に、美香はそちらに姿勢を向けて口を開いた。


「……そうですね、私が売女に見えるかの様な発言をされてこの場所へと腕を引っ張られて連れて来られました」

「……申し訳ありません……。ここは少々問題児が多くてですね。まぁ、大事には至っていない様で何よりですが。
 宜しければ職員室までご同行願えますか? 責任者にもしっかりと話をつけてもらいますので」


 謝罪する男の姿に、美香は「なるほど」と改めて視線を送る。

 口止めしようとするのであれば理解出来るが、それをしない。恐らくは美香に対して何かしらのお詫びを渡し、有耶無耶にしようという心算なのだろう。
 事実、男の態度にはあまり悪びれる様子も見えない。


「そうですね。でしたら――――――」







◆ ◆ ◆








 学校の敷地内へと連れて行かれた美香の姿を見ていた一人の男が、その状況を見て歯噛みした。
 ここで問題の一つでも起こしてさえくれれば、彼にとって都合が良かったのだが、よりにもよって学校の中へと進んでしまったのだ。

 学校関係者ではない以上、堂々と学校の中へと入る事は出来ない。
 こうなれば、生徒に金を渡して中の様子を探ってもらうのが無難ではないだろうか。
 そんな事を思案していた男の肩が不意に叩かれた。

 慌てて振り返った男の前には、メガネをかけた三十前後の男性が紫煙をゆらゆらとまきあげながら立っている。


「お前も同業者か?」


 眼鏡をかけた男が尋ねる。
 その言葉に、男は安堵したかの様に胸を撫で下ろした。


「あぁ、なんだ。アンタもか。驚かせないでくれよ」

「悪いな」

「それで、省吾の周りを嗅ぎ回ってるあの女、警察だと思うか?」


 眼鏡をかけた男がその言葉を聞いて眉を寄せた。


「……いくら何でも警察なら一人じゃこんな所には来ねぇだろ。問題はねぇよ。遊んで捨てたんじゃねぇか?」

「……かもしれねぇな。だったら問題ねぇが」

「省吾の方にも捜査の手が回ってんのか?」

「最近な。アイツと同じ仕事してるヤツも何人も捕まってる」


 眼鏡をかけた男――武彦はその言葉にピクリと反応すると、咥えていたタバコを携帯灰皿に突っ込んで男を見つめた。


「ちょっと詳しく聞かせてもらえるか? こっちには細かい情報が回って来てないんでな」


 武彦もまた、密かに接触を開始しようとしていた。






to be countinued...




■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

ご依頼有難うございます、白神です。

さて、選択分岐第二弾に入ります。
今回も美香さん無双が火を噴いてました。笑

さて、次回選択式の続きです。

@・大人しく職員室について行く。
A・後日連絡します、と告げて一度武彦と合流する。

今回は二択となります。

選ぶマルチエンディング式なので、
お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、今後ともよろしくお願い致します。

白神 怜司