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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


危険な放課後の過ごし方

「永輝、今日の放課後も一人で過ごすつもりですか?」
「そうッスよ。一人で学校をパトロールするッス。この季節は運動部の助っ人を頼まれることが少ないッスからね〜。一人ででも体を動かさないとなまっちゃうッス」
 若命・永夜(8714)は兄の若命・永輝(8713)が腕を回す姿を見て、深いため息を吐く。
「今は姉さんも一人で夢中になってやっていることがあるようですし、何をするのも構いませんけどね。……ほどほどにしてくださいよ?」
「分かっているッス!」
 永輝は良い返事をしながら輝く笑顔を浮かべるものの、何か含みを感じてしまう。
 永夜は二度目のため息を吐きながら、カバンを持って教室を出た。
「三つ子として生まれてきたはずなのに、兄の永輝の考えがよく理解できません……。まあ姉さん相手なら、多少なりと分かるんですけどね」
 永夜は伊達メガネのブリッジを指で上げながら、頭の中で自分とそっくりな二人を思い浮かべる。
 顔はそっくりでも性格はそれぞれ個性的で違っており、似ている部分を探す方が苦労するほどだ。
「そもそも永輝が暴走するのを止める役が、いつも僕というのも……ハッ! アレは!」
 家へ帰る途中、永夜の金色の眼に駄菓子屋が映った。しかも店頭ではハバネロスナックの安売りをしており、永夜は引き寄せられるように体の向きを変える。
「……放課後はお腹が空くものですし、まだ夕飯までには時間があります。僕は成長期ですし、駄菓子程度なら食べても問題はありませんね」
 ブツブツと言い訳をしながら、永夜の足は駄菓子屋に向かうのであった。


 一方で、学校に残った永輝は手ぶらで校内を歩いている。
 しかし部活動や勉強で残っている生徒達は大人しく、特に騒ぎは起きていない。
「ん〜。平和って良いもんッスけど、暇でもあるんスよね」
 永輝は廊下の壁に寄りかかり、窓越しに外を見る。ここからは裏門付近が見えるのだが、ふと焼却炉の近くで数人の男子生徒が集まっているのが永輝の眼に映った。
「……ようやく退屈から抜け出せそうッス」
 ニヤっと笑った永輝は、早速裏門へ向かう。


「学校という存在は、平和そのものである必要があるっスよ。けれどこの世の中、表の顔と裏の顔が両方存在するように、この学校にも闇の部分があるのは当たり前ッスよね」
 突然、永輝から声をかけられた男子生徒達は、ギョッとして振り返る。
「焼却炉が使われている時に裏側でタバコを吸っても、煙と匂いは消される――という考え方は良かったと思うッスよ? けれど窓から丸見えじゃあ意味がないッスよ」
 ケラケラと笑いながら、永輝は彼らに近付く。
 彼らの手には火がついたタバコがあり、焼却炉の後ろでコソコソと吸っていたのだ。
 この学校の焼却炉は裏門の近くにあり、更に焼却炉はレンガの壁に囲まれているように置かれているので、壁の裏側にいれば見つからないはずだった。
 しかし彼らの不運は、永輝という存在がこの学校にいたことだ。
「ブレザーの衿についているバッチを見ると、三年生ッスか。受験ストレスがたまっていても、喫煙はいけないッスよ」
 図星だったようで、冬なのに顔を真っ赤にした彼らはタバコを地面に投げ捨てると、永輝に襲いかかってきた。
「久し振りの運動ッス!」
 唇をペロッと舐めた永輝の眼には、獲物を見つけた時の獣のような鋭い光が宿る。


「永輝、こんな所にいましたか。探しましたよ……って、何をしているんですか?」
「ああ、永夜ッスか。証拠を隠滅中ッス。……まあいろんな証拠があるんスけどね」
 永輝は焼却炉の扉を開けて、男子生徒達が投げ捨てたタバコを入れて燃やしていた。
 永夜はレンガの壁の後ろを見て、倒れている男子生徒達を見て重いため息を吐く。
「また僕や姉さんに迷惑をかけるようなことは止めてくださいよ? ただでさえ僕と永輝の顔が瓜二つのせいで、僕がとばっちりを受けることが多いんですから」
 勘弁してくれと言いたそうに、永夜は永輝を軽く睨み付ける。
「そりゃあ三つ子で同性なら、間違われてもしょうがないッスよ。俺も時々、永夜に間違われることがあるッスもん。でもまあ永夜はともかく、姉ちゃんは俺が守るッスから大丈夫ッス!」
「……その前に危険を呼び込むなと言いたいんですが、聞くようなあなたではありませんでしたね」
 永夜が軽く皮肉を込めて言うも、永輝はヘラヘラと笑うだけ。
 何だかんだ言っても、自分の欲望を第一とするのが永輝なのである。
「いつも不思議に思っていたんスけど、永夜はどうやってとばっちりを避けているんスか? 永夜の体力で、逃げきれるもんスか?」
「僕は永輝と違って、世渡りが上手いんですよ」
「あ〜、つまり相手の弱みを……」
「永輝の弱みも、この場で言ってあげましょうか?」
「止めてくださいッス! 永夜はシャレにならないッスよ!」
 永夜の眼に危険な光が宿るのを見て、永輝は慌てて視線をそらす。
「でもいざって時の為に、ケンカの仕方を覚えるッスか? 俺、教えるッスよ」
「結構です。永輝に教わるぐらいなら、格闘技の教室に通った方がまだマシです。永輝の獣のような動きは、僕にはできませんので」
「そうッスか?」
 永輝は本能のままに動くことができるが、永夜は頭で考えなければ体は上手く動かせない。
 タイプが違うからこそ、同じ戦い方はできないだろうと永夜は思っているのだ。
「ところで永輝、カバンはまだ教室に置いてあるんですよね? 暗くなってきましたし、今日はもう帰りましょう」
「あっ、そうッスね。……そういえば、永夜は何でここにいるッスか? 先に帰ったはずじゃあ……」
「それが帰り道の途中、駄菓子屋で僕の好きなハバネロスナックが安売りしているのを見かけまして、駄菓子と共に買った後に学校に戻って食堂で食べていたんです。永輝もお一つどうぞ」
「サンキューッス。運動をした後だったんで、腹が減ってたんスよ」
 永夜からふ菓子を貰った永輝は、その場で食べ始める。
「……けど永夜、家に持ち帰って食べなかったってことは、姉ちゃんに怒られるほど買って食べたんスね?」
「だから口止め料ですよ」
「ぶほっ!?」
 永輝がふ菓子を口に入れてから教えたのだから、永夜の計算通りだった。
「と言うのはまあ半分冗談で。学校のゴミを片付けた褒美でもあります」
「はっ半分は本気なんスね。……まあ良いっスけど」
 そう言いながらも永輝は少し不満そうな表情で、ふ菓子のゴミを焼却炉に入れる。
「さて、と。それじゃあ姉ちゃんが家につく前に、帰るッスか」
「走って帰るのはイヤですからね。早足で行きましょう」
 ある意味、似たモノ同士の二人は急いで教室に向かう。


 ――その後、見回りをしていた教師が、焼却炉の近くで倒れている男子生徒達を発見した。
 しかし彼らは『ただ転んだだけ』と言って、怪我をして倒れていた理由を詳しく話そうとしない。
 だが目立つ容姿の永輝&永夜兄弟がその日、焼却炉方面に行ったことを知った教師達はそれ以上の詮索をすることを止めた。
 そして学校には、何事もなかったかのような平和な日々が続いたのであった。


<終わり>