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<東京怪談・PCゲームノベル>


海の家【マドモアゼル・アクア】 − 虹色の扉 −

1.
 水難事故多発。海に入って行方不明になるという案件が多数。
「‥‥ってことで、調査を頼まれた」
 草間興信所所長・草間武彦は水着にパーカーを着たラフな姿で煙草をふかしながら、海岸を歩きつつそう説明した。
「アバウトやなぁ。何か手がかりはないん?」
「しいて言えば、この夏に限っての出来事であり、過去に同様の事件、事故があったという記録はないそうだ」
 草間の言葉を聞きながら、セレシュ・ウィーラーはフムと考え込む。
 草間が頼まれているとなれば、怪奇の類であることも視野に入れなければならない。
 しかし‥‥この夏の海を少しぐらい堪能しても罰は当たらないのではないだろうか?
「にしても、おまえ白いな。少しぐらい日焼けした方が健康的なんじゃないか?」
 考え込んでいたセレシュに草間がそう言った。『白い』というのはどうやらセレシュの肌の話らしい。
「仕事柄外出が少ないから仕方ないやん」
 笑って誤魔化したセレシュだったが、実際は日焼けしてもすぐに再生してしまうためである。けして日焼けが嫌いなわけでも、ましてや家の中に閉じこもっているわけでもない。
「とりあえず、腹ごしらえでもするか。海の家もあるみたいだし」
「草間さんのおごりやな」
 そんなことを言いながら、2人は海の家へと歩を進める。が‥‥。
 【海の家 マドモアゼル・アクア】
「イエス! 海の家デ〜ス♪」
 暑苦しいピンクの長い髪を揺らしながら、バカでかい麦藁帽をかぶった謎の人は大きな声で客を呼び込む。
「よってらっしゃ〜イ、見てらっしゃ〜イ! 海の家においでヤす〜♪」
 店の手前にあるのはお馴染みレンタルアクア用品。浮き輪に足ヒレ‥‥それはいい。それよりも気になるのはそれに紛れてなぜか大きな人間ほどの魚が横たわっている。さらに奥に行くと普通の桟敷席。更衣室、シャワールームとあって、さらに奥に謎の色とりどりな扉が‥‥?
 記憶が確かならば、あそこで呼び込みをしているのは露天商。
「マドモアゼル都井‥‥!?」
「草間さん、知り合いなん?」
 セレシュは露天商を見て顔色を変えた草間を見逃さなかった。が、それ以上に見慣れた顔を見つけて草間を引っ張った。
「あれ? 工藤さん?」
「勇太?」
 テレビで見たことのあるオカルトアイドル・SHIZUKUと工藤勇太(くどう・ゆうた)だ。あと、そのほかに青年と双子の少女が2人。
「セレシュさん、草間さん!?」
 驚いた顔をした勇太にピンときた。
「偶然やねぇ。デート?」
 セレシュはニコリと笑ってど直球ストレートをかます。
「ち、ちがっ!」
「違います!」
 否定する勇太の隣、SHIZUKUからも強い否定の言葉が出た。
 なんや、すこーし工藤さんに悪いことしてしもたかな‥‥?
「オゥ!? 団体様ですカ? 団体様ですネ!?」
 ワイワイと話し込んでいたセレシュたちにマドモアゼルが顔を輝かせて近寄ってきた。
「団体様なら個室にご案内いたしまショー! 虹色の扉にご案内デース♪」
「え!?」
 多勢に無勢‥‥という言葉が全く通じないマドモアゼルに背中を押され、セレシュたちは虹色の扉に押し込まれたのだった‥‥。


2.
「あれ?」
 押し込まれた先は‥‥先ほどと同じ浜辺だった。
「勇太君?」
 SHIZUKUが勇太を探している。見れば、一緒にいた筈の勇太の姿はない。
「何が起きたんだ?」
 草間は不思議そうにあたりを見回している。セレシュも辺りを見回したが、先ほどと大きな違いは勇太や青年、双子の片割れがいないことだ。
「静ちゃん? 山茶花(さざんか)ちゃん? どこ?」
 双子の片割れがきょろきょろともう1人を探しているようだった。
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「山丹花(さんたんか)だよ」
 ツインテールの山丹花は少し不安そうだったが、すぐに笑顔を作った。
「そっか。ほな、山丹花ちゃん。なんか変なことに巻き込まれてしもうたみたいやけど、すぐに山茶花ちゃんに会えるようにするから我慢してな」
 セレシュがそう言うと、山丹花はコクリと頷いた。聞き分けの良い少女だ。
「さて、草間さん。この状況、どう見る?」
 セレシュは草間に向き直るとそう訊いた。
「‥‥十中八九、アイツだな。マドモアゼルのせいだな」
 苦虫を潰したような顔で草間はそう言った。セレシュもその意見に同意だ。
「とにかく、原因に訊いてみよか。それが手っ取り早いやろ」
「だな」
 セレシュと草間はマドモアゼルがいるであろう海の家へと入っていく。奥には長い髪を揺らして、へらへらと笑うマドモアゼルの姿。
「おぅ? お客サーン、どうしましタ〜?」
「どうしたもこうしたもあるかいな! あの扉に入った後、連れがいなくなったんよ。どこに隠したん?」
 セレシュが詰め寄ると、マドモアゼルはカクリと首を傾げる。
「? 扉に? 誰が入ったのですカ〜??」
「お前が押し込んだんだろが!」
 しらを切るマドモアゼルに草間がブチ切れた。
「暴力はあかん!」
 慌てて止めたセレシュに、ハッとした草間はその拳を収めた。
「‥‥よくわかりませんガ〜、アタクシが悪いみたいなので謝っておきマ〜ス。申し訳ありまセ〜ン‥‥」
 意外と素直に頭を下げたが、あくまでもしらを切っている。
 と、その時、SHIZUKUの悲鳴が上がった。
「さ、山丹花ちゃん!? SHIZUKUさん!?」
 

3.
 波に戯れるのは人魚。1体ではない。何十体もいる。SHIZUKUが呆けたように浜辺に座り込んでいた。
「どないしたん?」
 セレシュが訊くと、SHIZUKUは波間に泳ぐ1体の人魚を指差した。

 そこには、先ほどまで足で立っていたはずの山丹花が人魚になって海で泳いでいた。

「‥‥ど、どういうこと?」
 セレシュが誰に聞くともなくそう呟くと、後をついてきたらしいマドモアゼルが「アッ!」と声を出した。
「あれは当店名物・レンタル人魚なのですヨ〜。皆様大変楽しそうですネ〜♪」
 アハハハハッと笑うマドモアゼル。
 ‥‥いや待て。今『皆様』と言ったが、もしかしてあそこにいる人魚は‥‥すべて元々人間だったということか?
「イエスッ! レンタル期日は設けておりませんのデ〜!」
「おまえが行方不明者を作ってた原因か!!」
 草間は怒り心頭。マドモアゼルの首を締め上げるが、今度はセレシュも止める気はしない。
「これ、どないしたら元に戻るん?」
「か、下半身を連れて来ればダイジョウブデ〜ス‥‥ぐはっ」
 下半身? 辺りをよく見れば浜辺を走り回っている足の生えた魚たち。
「アレを捕まえるんや!!」
 セレシュとSHIZUKUと草間で浜辺を走り回り、人魚になった人々を1人ずつ元に戻していく。
「山丹花ちゃん、大丈夫か?」
 最後に連れ戻した山丹花の足を山丹花に戻すと、山丹花は少し不満そうだった。
「おとぎの国みたいだったのに‥‥」
「いやいや、人間、足があってこそやで? 山茶花ちゃんが見たら腰抜かしてしまうわ」
 セレシュが苦笑いすると、山丹花は足を一撫でして「それもそうね」と納得したようだった。
 とりあえず、依頼の調査は達成したようだ。
 ‥‥行方不明者たちは各々帰っていたようだし、海で遊んでも大丈夫だろう。
「フロート借りるで」
 海の家の前に並んでいた大きなフロートを1つ手に取ると、山丹花とSHIZUKUを誘って海に入った。
 プカプカと海に浮かぶと、穏やかでとても良い波だった。一件落着した後のバカンスはいいものだ。

「セレシュさん! SHIZUKU!」
 浜辺から聞き覚えのある声が聞こえた。
 どうやら勇太と山茶花、もう一人の青年が合流できたようだ。
 あぁ、これぞまさに大団円‥‥!


4.
「ソーリーソーリー! お詫びにこちらのBBQをご提供いたしマース!」
 あくまでも『不慮の事故』と言い張ったマドモアゼルは、魚の肉がたっぷりのBBQセットを用意してくれた。
 店に戻っていくマドモアゼルを背に火の番を買って出たのは勇太。
「‥‥あんま食べる気せんけどな」
 セレシュは苦笑いした。先ほどまで追っかけていた魚たちは、マドモアゼルが引き取っていったのだ。
 もしかしたら‥‥なんて思ってしまう。
 とりあえず、食事をしながらお互い扉に入った後の状況を交換してみたが‥‥どうも不可思議だった。
「じゃあ、そっちは真っ暗闇の中から強引に出てきたらここだったっちゅー訳やな?」
「そうです。セレシュさんたちもいないし‥‥」
「まぁ、とりあえず元に戻れてよかったじゃないか」
 草間が呑気にそう言う。
「‥‥草間さんは水難事故の依頼が解決したんで、気が大きゅうなっとるんよ」
 セレシュは勇太に耳打ちをした。勇太は納得顔で頷いた。
「八瀬さんも大変やったなぁ」
 海を眺めていた青年・八瀬葵(やせ・あおい)に話しかけると八瀬は少し考えた後で言った。
「‥‥多分、これからもっと大変になるね」
「え? それどういう‥‥」


 葵が海の家の方に視線を向けた。セレシュもそれを目で追った。
 そこにはマドモアゼルが魚を焼く勇太に話しかけていて‥‥

 その肩越しに、店の中に入っていくもう1人のマドモアゼルの姿が‥‥。

「‥‥なんや、うち頭痛くなってきたわ」
 セレシュは草間の首根っこを引っ付構えて、店の奥に消えていったマドモアゼルを追う。
「どうしましたカ〜?」
「‥‥どうしたもこうしたも‥‥」
 次の言葉がうまく出てこなくてもどかしい。
 大団円? そんなものは幻だった。

 夏の怪奇現象はまだ終わっていない‥‥。



■□  登場人物(この物語に登場した人物の一覧) □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生

 8538 / セレシュ・ウィーラー / 女性 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師

 8757 / 八瀬・葵 (やせ・あおい) / 男性 / 20歳 / フリーター

 8721 / ―・山丹花 (ー・さんたんか) / 女性 / 14歳 / 学生

 8722 / ―・山茶花 (ー・さざんか) / 女性 / 14歳 / 学生


■□        ライター通信         □■
 セレシュ・ウィーラー 様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度は『海の家【マドモアゼル・アクア】 − 虹色の扉 −』へのご参加ありがとうございます。
 真夏の水難事故調査。折角でしたので他の参加者様と絡ませていただきました。
 『俺たちの戦いはこれからだ!』的終わり方となっておりますが、きっとセレシュ様たちなら脱出できたはず!
 私、信じてますから!
 ご参加ありがとうございました。