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<東京怪談・PCゲームノベル>


とある仕事場の風景
 〜 ペンネームは『MI3』 〜

1.
 カシャッ
 古いカメラは小気味よい音を立てた。
「上手く撮れとるといいなぁ」
 祖父から貰った一眼レフカメラはアナログで、フィルムを現像するまで写真の出来はわからない。
 街角の何気ない風景。高校の帰り道。いつもの風景。
 定点観測のように、それらの時間を切り取って写真に収める。
 写真は自ら暗室にこもって現像する。それくらいはお手の物だ。
 その写真を現像した後は、愛読書の月刊アトラスに投稿する。それもいつものことだ。
「これでよしっと」
 パンパンと音をたてないように柏手打って、いるかいないかの神頼み。
「‥‥うん、今回も採用されそな気ぃするなぁ」
 そよ風に長い髪がくるんと揺れた。
 彼女はただの高校生。ちょっと幼く見えるがれっきとした高校生。
 名前は井宮・美魅々(いのみや・みみみ)。
 今日も美魅々は何気ない日常の風景を撮る。


2.
 月刊アトラス編集部、一編集員・三下忠雄(みのした・ただお)。
 今、彼の机には『親展 編集長』と赤い文字で書かれた封筒が鎮座している。
「‥‥あの、編集長は‥‥?」
 室内にいた他の編集員に訊ねると、苦笑いで教えてくれた。
「急なでかいスクープが入ったって、その封筒置いて出てったぜ」
 封筒の中身は見るまでもなく、取材に関してだ。しかもなんだか猛烈に嫌な予感がする。
「封筒見て固まっていてもしょうがないですよね」
 仕方がないので封筒を開けると、中からメッセージの書かれた紙が1枚。編集長直々のお言葉が書かれている。
『都内心霊スポットの写真が足りないので、至急取材せよ。締切厳守』
 ‥‥知ってます。命令ですよね。拒否権などないですよね。
 三下はカバンを持つと「取材に行ってきます」と肩を落として編集部を後にした。

 月刊アトラスのWEBには読者投稿ページがある。
 『都内のみんなよく行く場所が実は心霊スポットだった!』という読者投稿ページの受付である。
 割と評判が良いので、近々別冊のムックを‥‥なんて企画も上がっている。
 だが、それは読者投稿だけではまかなえず、少しずつではあるが編集部の人間もそれらを負担しなければならなかった。
「はぁ‥‥怖いですね、心霊スポットだなんて」
 ‥‥オカルト雑誌の編集員とは思えないひとことを溜息混じりに言った時、ふわりとそよ風が吹いた。こんなに天気はいいのに、三下の心はそよ風くらいでは晴れない。
 諦めて、あたりの店に聞き込みを始める。広い街道に沿って車の流れの激しい道路。その脇にはたくさんの店が並んでいる。
「この辺りで怪現象が起こったというお話は‥‥?」
「? そんな話は聞かないねぇ」
 手ごたえのない答えばかりで、10軒ほど同じ答えばかりで少々やる気をなくす。いや、元々ないのかもしれない。
「あぁ、早く帰りたいなぁ」
 ガードレールに腰かけて、目を瞑って空を仰ぐ。風が気持ちいいなぁ‥‥。
「どうしたん?」
 突然可愛らしい声が、三下に声を掛けた。ハッとその声に目を開けて声の方を見た。
「何かこまっとるん? 美魅々でよければ、力になるよ?」
 風に揺れる白いリボンも可愛らしい少女・美魅々との遭遇であった。


3.
「あ、あの、写真を撮らないといけなくて‥‥」
 突然声を掛けられて、三下はあわあわと慌てながら説明する。
 すると美魅々が顔を輝かせる。
「お兄さんも写真撮るん? 美魅々も撮るんよ。今も撮ってたとこ。景色が良かったもんやからねぇ」
 嬉しそうにカメラを見せる美魅々に三下はつられて笑顔になる。
「美魅々は風景の写真を撮るのが好きなんよ。お兄さんは何を撮るん?」
 興味津々な美魅々に三下はデジカメを取り出して、苦笑いする。
「え、えっとボクもまぁ‥‥風景ですかね」
 その風景の中に写りこむものが本来撮るべきものなのだが、そこまで言ってしまったらなんとなく引かれるような気がしたので黙っていた。
「そうなん!? 気が合いそう。よかったら美魅々の今日のおすすめスポットに一緒にどう?」
 美魅々は嬉しそうにそう言った。
「今日の‥‥おすすめですか?」
「そうなんよ、なんとな〜くおすすめな場所」
 にこにこと美魅々は屈託なく笑う。そんな美魅々を見て、三下は少し考えた後で「じゃあ、お願いします」と答えた。

「今日のおすすめというのは、どういう風に決めるのですか?」
 美魅々と歩く途中、三下は何気なく訊いてみた。すると美魅々はうーんと首を傾げる。
「なんとなく? あえて言うんなら、風の噂っていうんかな?」
 ちょっち悪戯っぽく笑った美魅々に、三下は納得した。見るところ学生のようだし、友人などから噂話で聞くのだろうと思ったのだ。
 ‥‥まぁ、実際は風が教えてくれる、という言葉通りであったのだが。
 向かう途中、そよ風が吹く。
 美魅々は立ち止まり、辺りを見回した。
「‥‥今日はこのへんがいいみたいやね。お兄さんの望む物が撮れると思うわ」
「へ?」
 辺りを見回せば、何の変哲もない道路の真ん中で2人ぽつんと立っている。
「こ、ここですか?」
「そーや」
 やっぱりにこにこ笑顔の美魅々に三下は戸惑いながらもカメラを向ける。しかし、何の変哲もない道の上をどうファインダーに収めればよいのかわからない。
「‥‥撮らんの?」
「あ、いえ‥‥あなたならどこを撮りますか?」
 三下はデジカメを渡しながら問う。美魅々はまた笑う。
「『美魅々』って呼んでえぇよ。‥‥そうやね、美魅々やったら‥‥」
 風が吹く。空に吹き抜けていくその風に、美魅々は耳を傾ける。
「こことか‥‥そことか‥‥このへんかなぁ‥‥」
 3枚ほど写真を撮ると、はいっと三下にデジカメを返す。
「なるほど。空かぁ‥‥電線が夕焼雲に映えますね」
 三下は感心したように、美魅々の真似をして写真を撮った。
「きっとええ写真になるよ」
 美魅々がそう言うと、三下はぺこりとお辞儀をした。


4.
 三下が撮ったデジカメ写真には3枚ほどの心霊写真が撮れていた。
「三下君が‥‥珍しいわね」
 編集長の言葉に、三下も目を丸くする。あの子のおかげかな。
「あぁ、そうだわ。例のムック本の話で常連の投稿者に正式に協力を要請したの。今日打ち合わせにうちに来るはずだから三下君担当して」
「え!? ぼ、僕ですか?」
 突然担当を任された三下だったが、断れるはずもなく‥‥。資料に目を通すとどうやら毎週のように投稿してくる常連のようだった。
「三下さん、【MI3】さんが来ましたので対応をお願いします」
「は、はい!!」
 えむ‥‥あい‥‥さん? 不思議なPNだなぁと思いながら三下は編集部の入り口で待つ【MI3】にお辞儀をした。
「この度担当になりました三下です。よろしくお願いしま‥‥」
「あれぇ? こないだの?」
 聞き覚えのある声がして、三下が顔を上げるとにこにこ笑顔の美魅々の姿が。
「え? えぇ!?」
 資料と美魅々の顔を見比べる。心霊写真と美魅々の顔が頭の中でつながらなくて三下は混乱する。
「何やぁ‥‥三下さん、アトラスの人やったんやねぇ」
 嬉しそうに笑う美魅々に三下は、どう答えたらいいのかわからない。
「そうや。今日も写真現像して持ってきたんよ。ええの撮れとるといいんやけどね」
 美魅々は封筒を手に持っている。この間持っていたカメラも。
「井宮美魅々。PNは【MI3】で【美魅々】っていうんよ。よろしゅうね」
 あぁ、本当にこの子が‥‥。
 何となく貧血に襲われた気がしたが、何とか踏ん張った。
 そんな三下を見た美魅々の髪をどこからともなく風が撫でる。

「美魅々‥‥これから三下さんのお役にたてると思うわ。仲よくしてこね」

 にひひっと歯を見せて笑った美魅々に、三下は少し驚いたようだが「こちらこそ、よろしくお願いします」と笑った。
 

■□  登場人物(この物語に登場した人物の一覧) □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 8727 / 井宮・美魅々 (いのみや・みみみ) / 女性 / 16歳 / 高校生

 NPC / 三下・忠雄 (みのした・ただお) / 男性 / 23歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員


■□        ライター通信         □■
 井宮・美魅々様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度はご依頼いただきましてありがとうございます。
 納品物を拝見いたしまして、人懐っこい感じがしたのと、風が教えてくれる&風と共にという設定に惹かれましてその辺を強調する感じで書かせていただきました。
 少しでもお気に召していただければ幸いです。