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<東京怪談・PCゲームノベル>


海の家【マドモアゼル・アクア】 − 虹色の扉 −

1.
「夏よ!」
「海だよ!」
「お兄ちゃんいるかな?」

『いるかも!』
 
 夏の浜辺に来た山丹花(さんたんか)と山茶花(さざんか)。双子の姉妹である。
 彼女たちの目的は『基本的に兄を探すこと』と『できればこの世界を楽しみたい』。
 浜辺を行き交う人ごみに、兄の姿を探す。茶髪の‥‥男の人‥‥。
 夏の太陽は厳しくて、濃い茶髪は金色に、薄い茶髪は銀色に見えたりと幻を見せる。
 目移りしてしまう。どれもこれも兄に見えてくる夏の不思議。
「あ! お兄ちゃんじゃない?」
「お兄ちゃんかも!」
 双子レーダー照射! 何となく一致! 突撃!!
「おにいちゃーん!」
 という呼び声と共に、山丹花と山茶花は兄の手にしがみついた。
 しかし‥‥
「お兄ちゃん?」
「あら、お兄ちゃんじゃないよ」
 近くで見たら銀髪だ。夏の太陽に騙された。完全に人違いだ。
「‥‥俺は八瀬葵(やせ・あおい)。お兄さんは知らない」
「後姿が何となく似ていたのですが‥‥」
 山茶花が葵に謝罪をしたので、山丹花も慌てて謝った。
「山茶花です。間違えてごめんなさい」
「山丹花だよ。お兄ちゃんを探しているの」
 葵はきょろきょろと視線を動かす。もしかしたら兄の知り合いだろうか?
 葵は何かを見つけたのか、ある人の肩に手をかけた。
「‥‥あれ? 人‥‥違い?」
 『ある人』は振り向いた。少年だ。兄とは似ても似つかない。なによりお兄ちゃんより背が小っちゃい‥‥気がする。
「お兄ちゃんじゃないですね〜」
「うん、お兄ちゃんじゃないよね〜」
 山茶花と山丹花が残念そうに言った。やっぱりここにはいないのかもしれない。
「‥‥音が似てるんだけどなぁ」
「??」
 考え込んでしまった葵に山丹花は、少年に挨拶をする。
「このお兄さんは八瀬葵っていう名前だよ。私は山丹花っていうの」
「山茶花です。姉とお兄ちゃんを探しています」
 でも、何かこのお兄さんどこかで見たような気が‥‥?
 気のせいかなぁ‥‥お兄ちゃんに似ている気がする。
 少年の顔を見ていると、少年の知り合いらしき女性と男性が話しかけてきた。
 山茶花とこそっといなくなってしまおうかと思っていたら、ピンクの髪の長い人がやってきた。
「オゥ!? 団体様ですカ? 団体様ですネ!?」
 ワイワイと話し込んでいた山丹花たちの集団に海の家の呼び込みが顔を輝かせて近寄ってきた。
「団体様なら個室にご案内いたしまショー! 虹色の扉にご案内デース♪」
「え!?」
 多勢に無勢‥‥という言葉が全く通じない呼び込みに背中を押され、山丹花たちは虹色の扉に押し込まれたのだった‥‥。


2.
「あれ?」
 押し込まれた先は‥‥先ほどと同じ浜辺だった。
「勇太君?」
 少年と一緒にいた少女が少年を探している。少年は‥‥どこにもいない。
「何が起きたんだ?」
 男の人は不思議そうにあたりを見回している。女の人もだ。
「静ちゃん? 山茶花ちゃん? どこ?」
 山丹花も山茶花がいないことに気が付いた。さっきまで一緒にいたのに‥‥!
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「山丹花だよ」
 ツインテールの山丹花は少し不安そうだったが、すぐに笑顔を作った。
「そっか。ほな、山丹花ちゃん。なんか変なことに巻き込まれてしもうたみたいやけど、すぐに山茶花ちゃんに会えるようにするから我慢してな」
 セレシュ・ウィーラーと名乗った女性がそう言うと、山丹花はコクリと頷く。不安だったけれど、探すにも隠れるような場所もない。
「さて、草間さん。この状況、どう見る?」
 セレシュは『草間』と呼んだ男の人に向き直るとそう訊いた。
「‥‥十中八九、アイツだな。マドモアゼルのせいだな」
「とにかく、原因に訊いてみよか。それが手っ取り早いやろ」
「だな」
 セレシュと草間はマドモアゼルがいるであろう海の家へと駆けて行った。

 残された少女と山丹花。きょろきょろと辺りを見回し、山茶花の姿を探すがやっぱりいない。
「無事かな‥‥静ちゃん」
 そう呟いた山丹花の耳に、どこからか山茶花の声が聞こえる。
『無事かな‥‥巴ちゃん』
 私は大丈夫だよ。絶対すぐに会えるから‥‥。
「? あれはなぁに?」
 山茶花は店の前に横たわる、謎の魚を見つけた。魚は陸に上がっても大丈夫‥‥なんだろうか?
「大丈夫かな?」
 魚にそう訊くと、魚はちょっと体を動かして言った。
「‥‥尾ひれ、借りるかい?」

 借りる?

 楽しそうな言葉に山丹花の心が躍る。思わず頷いた山丹花に魚は尾ひれを貸してくれ、つけ方をレクチャーしてくれた。
 それは意外と簡単に引っ付いた。そして、その姿を見た少女が悲鳴を上げた。
「きゃーーーーー!!!! うをぉぉぉぉっ! すごいですよ!」
 びちびちびちびちびちっ!!!
 なにこれ! 楽しい!!
 

3.
 少女は呆けたように山丹花の泳ぐ姿を見ていた。
 一緒に泳ぎたいならお魚に尾ひれを借りたらいいのに。すっごく楽しい!!
「どないしたん?」
 海の家から飛び出してきたセレシュが少女に訊く。少女は山丹花を指差した。

 そこには、先ほどまで足で立っていたはずの山丹花が人魚になって海で泳いでいた。

「おとぎの世界みたいで素敵ー!」
 なぜか海の中でも息ができる。尾ひれは足で泳ぐより何十倍も速い。
 これはすごい。この時代にこんなものがあったなんて!
 山茶花が一緒だったらもっともっと楽しかったのに。
 少しの罪悪感が湧き出て来たけれど、それでもこの楽しさをめいいっぱい楽しむ。
 ぐんぐん泳いで、スイスイ潜って、ざっぱーんとジャンプしたところでセレシュに捕まった。
「山丹花ちゃん、大丈夫か?」
 連れ戻された山丹花は山丹花の足と尾ひれを交換させられた。山丹花は少し不満そうだった。
「おとぎの国みたいだったのに‥‥」
「いやいや、人間、足があってこそやで? 山茶花ちゃんが見たら腰抜かしてしまうわ」
 セレシュが苦笑いすると、山丹花は足を一撫でして「それもそうだよね」と納得した。
 またあとで2人で借りればいいものね。
「一緒に遊ばへん?」
 大きなフロートを持ったセレシュが、山丹花と少女を海に誘った。
 先ほどのようなスイスイとした動きはできなかったけれど、なじみのある足で遊泳する海も楽しかった。
 プカプカと浮いていると、浜辺から声が聞こえた。

「セレシュさん! SHIZUKU!」
 少年と葵と‥‥山茶花だ!
「山丹花ちゃん!」
「山茶花ちゃん!」
 やっぱり2人でいる方が楽しい。山茶花と一緒にいたい。
 そうはっきりと山丹花は思った。


4.
「ソーリーソーリー! お詫びにこちらのBBQをご提供いたしマース!」
 あくまでも『不慮の事故』と言い張った海の家の呼子・マドモアゼル都井は、魚の肉がたっぷりのBBQセットを用意してくれた。
 店に戻っていくマドモアゼルを背に火の番を買って出た少年。
「‥‥あんま食べる気せんけどな」
 セレシュが苦笑いをしている。
「なにかあったの? 山丹花ちゃん」
「人魚になったんだよ」
「えー! ずるい! 私も人魚姫になりたかった!」
「‥‥でも胸は小さいままだったよ」
「‥‥そ、そっか‥‥」
 思わずお互いの胸を見てふぅっとため息をついてしまう。どうやら山茶花も人魚になったら胸が大きくなる物だと思っていたようで安心した。
 波打ち際で2人で遊べば、沖合に人魚が戯れている。
「お兄ちゃん、いなかったね」
「2人で探そうね。山丹花ちゃんと私と」
 黙ってうなずいて、元気に飛び跳ねる人魚を見つめる。
 あとで山茶花を誘ってもう一度人魚になってこよう。
 いつの間にか、葵が後ろに立っていた。葵は遠い海を見つめたまま呟いた。
「‥‥山茶花と山丹花‥‥この世界に、お兄さんはいないよ」
 葵の言葉に、山茶花と山丹花はにっこりと笑う。

「見つかるまで探すだけよ」

 山茶花といれば何でもできるもん。
 葵の言葉がそう言う意味ではないことに気が付かず、山丹花は笑った‥‥。



■□  登場人物(この物語に登場した人物の一覧) □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生

 8538 / セレシュ・ウィーラー / 女性 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師

 8757 / 八瀬・葵 (やせ・あおい) / 男性 / 20歳 / フリーター

 8721 / ―・山丹花 (ー・さんたんか) / 女性 / 14歳 / 学生

 8722 / ―・山茶花 (ー・さざんか) / 女性 / 14歳 / 学生


■□        ライター通信         □■
 山丹花 様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度は『海の家【マドモアゼル・アクア】 − 虹色の扉 −』へのご参加ありがとうございます。
 仲の良いお2人を引き裂いてのノベル‥‥。
 姉妹の絆の再確認ということで楽しんでいただければ嬉しいなと思います。
 ご参加ありがとうございました!