コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 仮想世界の中で ――

「……ふぅ」
 松本・太一は小さなため息を吐く。
 ここ1週間ほど、松本はLOSTにログインするだけの生活が続いていた。彼の中に秘められた魔女の力を駆使して『仮想現実』のようにして、LOSTの中を歩いていく。
 酒場で情報収集をしたり、教会でスキルの修練をしたり、松本は出来る限りの事をしている。
(こういうファンタジーな雰囲気は現実世界や魔女の世界にはないので、少々癒されますね)
 中世風の街の中を歩きながら、松本は心の中で呟く。
「姉ちゃん! 寄ってかないかい!」
 酒場の店主から呼び止められ、松本は少しだけ酒場に立ち寄る事にした。
「何か面白い情報はありますか?」
 松本が店主に問い掛けると「おいおい、情報も売り物だぜ?」と言われ、幾らかのお金を渡すと店主はにっこりと笑顔になってぺらぺらと話し始めた。
「隣の国がちょっとヤバイって話を聞いたな、どうやら国王が死にそうなもんで第一王子と第二王子が跡目争いをしてるって話だ」
 どうやら店主の情報は松本の役に立ちそうなものではなく、お金を損したかな、と松本は心の中で呟いていた。
「お、そういえばあんたは僧侶だな。教会に行ってみな、司祭が魔法の継承者を探してるって話だぜ?」
「……魔法の継承者、ですか?」
 松本が首を傾げながら問いかけると「聖なる光で攻撃をする、だったか。詳しくは知らねぇ」と店主は答え、松本は酒の代金を置いて教会に向かうことにした。
 魔法を覚えるのは容易いが、一般売りされているのはあまり実用的な物じゃない。特に僧侶となれば回復魔法や治療魔法が主で、攻撃魔法は滅多に見かけなかったりする。
(……確実に魔法を譲って頂ける保証はないですが、行ってみるだけ行ってみましょうか)と松本は心の中で呟き、教会へ向けて足を動かし始めたのだった。

※※※

「ほぅ、あなたが魔法を継承したいと……? レベルは足りているようですが、あなたにこの魔法を継承する資格がありますかな」
 司祭らしき老人NPCは松本を見てニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
「魔法の継承、あなたにしてあげても良いのですが……寄付金はいくらほど頂けますかな」
「……なるほど。酒場の店主とグルということですか」
 松本はため息を吐く。
 恐らく相手の職業など何でもいいのだろう。酒場の店主が情報を巻き、それをアテにした冒険者達から金を巻き上げる――というのが、この教会のやり口なのだろう。
(……目先の力につられたわけではないのですが、さすがにがっかりですね、これは)
 松本は心の中で呟きながら、小さなため息を零す。
 そんな時、松本の持っているログイン・キーが激しく輝き始めた。
「うわっ、な、なんだ……!?」
 教会にいた司祭とは名ばかりの盗賊はログイン・キーの輝きに一時的に目が見えなくなり、松本はその隙に教会から逃げることが出来た。
(……まるで私を助けるように輝いた気が……いえ、やはり気のせいでしょうか)
 ログイン・キーを見つめながら、松本は(今まで選ばれた人達はどうやって過ごしていたのでしょうか)と心の中で呟く。
 選ばれた勇者のようにはしゃぐ者もいれば、松本のように争いを好まない性格の者もいたはず。
 松本の取っている現状維持作戦を行った者はいたのだろうか、とどうしても考えてしまう。
(今の所ペナルティなどはなさそうですね、LOSTから逃げる者には容赦がないけど、ログインしている以上ペナルティはない……と思ってもいいのでしょうか)
 確実な保証はない。
 けど、今までの犠牲者達の事を知ることが出来ない以上は探りながら進むしか方法がない。
(……今はまだ動きませんが、いつか私も動かなければならなくなるのでしょうね)
 松本の想いに賛同するかのように、ログイン・キーが淡く輝く。
「ですが、当分はこのままでいきます。それは逃げているからではなく、未来を見るためです。どんな行動にも無駄はない、他に選ばれた者より歩みが遅くても……これが、私のやり方ですから」
 松本はまるでログイン・キーに言い聞かせるようにして呟いたのだった――……。

―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一 様

こんにちは、いつもご発注頂き、ありがとうございます。
今回の内容はいかがだったでしょうか?
のんびりした中にもかっこよさを描写してみたつもりなのですが……!
それでは、また機会がありましたら、ご発注頂けますと嬉しいです。
今回も書かせて頂き、ありがとうございました!

2015/3/9