|
―― オフ会に参加しよう! ――
「……はぁ」
松本・太一は手帳を見ながら、小さなため息を吐く。
今度の日曜日には『オフ会』と書かれていて、松本にとっては憂鬱なものでしかなかった。
※※※
「松本、今度の日曜日に『LOST』のオフ会があるんだけど、お前も一緒に行かないか?」
松本に話しかけてきたのは、松本自身に『LOST』を勧めた同僚。
簡単に言ってしまえば、この不可思議な現象に巻き込まれることになった原因とも言える人物。
「……オフ会、ですか?」
松本自身は断りたいと思っているが、松本の中の女悪魔がこういったイベントを好んでいて、松本に断る隙を与えてくれない。
結局、松本は行きたくもないオフ会に半ば無理矢理参加させられることになってしまった。
「あ、PCの職業コスプレをすることになっているからさ。お前もコスプレ衣装用意しろよ?」
「えっ……コ、コスプレですか?」
オフ会に参加するのも憂鬱なのに、まさかコスプレまで強制されるとは思わず、松本は何度目になるか分からないため息をつくことになった。
※※※
そして、オフ会当日――……。
「へぇ、そういえばお前って僧侶だったっけ? その衣装、似合ってんじゃん」
戦士系のコスプレをしている同僚を見ながら、松本は複雑そうな表情を見せた。
「その人があなたの同僚ですか? あなたが言っていた通り、綺麗な女性ですねー」
他のオフ会参加者が同僚に話しかけているのを聞き、松本はこっそりため息をついた。
(分かってはいたことですが、やっぱり私は『女性』として認識されているのですね)
『LOST』の異変のせいか、松本の姿は女性同然になっていて、この姿を見せて『自分は男だ』と言っても笑われるばかりだろう。
(会社での扱いも『女性』だし、私は本当に『男性』に戻ることが出来るんでしょうか……)
そんなことを考えていると、どうしても気分が沈んでしまって仕方ない。
「あなた、オフ会のご新規さんだね! あたし、瀬名・雫! よろしくー!」
(瀬名・雫って、確かネット上ですごく有名な……)
松本自身も、彼女の情報などを頼ったこともあり、実際の人物を見て、少し驚いた。
「そうそう、ご挨拶としてそれをあげるよ」
瀬名はそう言って、バッグから小さなデータチップを取り出した。
「これは……?」
「んー、まぁ、簡単に言えば改造データかな?」
「改造データ!?」
「とは言っても、強くなったりとかじゃなくてキャラクターのグラフィックを変えるくらいだよ」
瀬名はけらけらと笑っているけど、松本は渡されたデータチップを見て、使っても大丈夫なのだろうか、という不安に駆られる。
ただでさえ、松本は他のプレイヤーとは違う。
改造データなんて使ったら、どんなペナルティを与えられるか……という恐怖がある。
「お、松本! 俺もやるよ――って言っても、女のお前には面白くないかもしれないけどな」
同僚が渡してきたデータチップを見て、松本は首を傾げる。
「それ、男性向けのすっげぇ露出の多いグラフィックになるんだよ。それに入ってんのは確か……妹系だったかな?」
とりあえず、同僚が『妹系』が好きなことだけは分かり、松本は苦笑する。
「そういえば、消える洞窟――ってそろそろじゃないか?」
「……消える洞窟?」
聞きなれない言葉に、松本は首を傾げる。
「そっか、ご新規さんだから知らないのかな、半年に1回くらい『消える洞窟』ってイベントが始まるんだよ。洞窟の中を延々と進んで、適当な場所で出る――って単純なやつがね」
瀬名はピッと人差し指をたてながら、松本に教えてくれる。
「もちろん階層が深くなればなるほど、お宝もいい物がある。最終階層まで行った人は、まだ一人もいないんだよねー。おまけに1日限定のイベントだから、洞窟から出るタイミングを逃すと次のイベント開催までログイン出来なくなるってリスクもあるんだよ」
まさか、そんなリスクまであるとは思わず、松本は少し驚いてしまう。
「そろそろ開催だから、強い武器とか防具とか、魔法とか狙うなら参加してみるのもいいと思うよ。最初は……そうだなぁ、20階くらいまで行ければ良い方じゃない?」
瀬名の言葉に(消える洞窟、イベント……か)と松本は心の中で呟く。
それからも有意義な話を聞けたりなどして、今回のオフ会は松本にとって参加する意味のあるものとなったのだった……。
―― 登場人物 ――
8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女
――――――――――
松本・太一 様
こんにちは、いつもご発注ありがとうございます。
今回はオフ会の話でしたが、いかがだったでしょうか?
気に入って頂けるものに仕上がっていましたら幸いです。
それでは、また機会がありましたら宜しくお願い致します。
今回も書かせて頂き、ありがとうございました!
2015/6/12
|
|
|