コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 失うもの、得られるもの ――

「……」
 松本・太一は悩んでいた。
 先日、同僚の見舞いに行った時、松本は自分の中の『女性らしさ』を自覚してしまったから。
(……今まで、あまり気にしないようにしていましたが、かなり不味い状況なのでは……?)
 自覚のないうちに『女性化』が進んでいることから、松本の心には焦りが出始める。
(私は、男だ……)
 女性らしく扱われることと、完全に女性になってしまうのでは、まったく意味が違ってくる。
 男性であることは、松本自身も大切で、決して失いたくないものだ。
 男性として生まれたのだから、当然と言えば当然なのだろう。
「……私は、これからどうなってしまうのでしょうか」
 ポツリ、と呟くけれど、松本の問いに答える者はいない。
(口調や仕草は、意識すれば男性的に出来ますけど……)
 逆を言えば、意識しないと『女性らしさ』が無意識のうちに出てしまうことになる。
「なぜ、このようなことになってしまったのでしょうか……」
 松本は深いため息をつきながら、ソファに腰掛ける。
 しかし、松本は気づいていない。
 LOSTで得た日常スキル――『化粧』や『身だしなみ』、そして『礼儀作法』などを、現実でも無意識のうちに発動させており、侵蝕化を進ませているということだ。
「けれど、どうすればいいんでしょう……自分でも無自覚だとすると、気をつけていても女性らしさが出てしまうし……」
 小さくため息を吐く姿すら、女性らしさがにじみ出ていることを松本は気づいていない。
 気をつけたくても、出来ない――まるで悪循環のような出来事に松本は表情を歪める。
「そうだ。日常スキルのレベルはどのくらいになっているか見てみましょうか……」
 常時発動型の日常スキルのスキルレベルは毎回レベルアップのメッセージが出ないため、プレイヤーが確認するしかレベルを知る方法はない。
 松本はパソコンを立ち上げ、LOSTを起動させて、自分のレベルを見てみる。
「……え?」
 松本は表示されたレベルに愕然とした表情を見せる。
「……スキルレベル、76? ど、どうしてこんな高レベルに――!?」
 常時発動型のため、それなりにレベルが高いことは分かっていたが、ここまで高いとは松本自身も予想していなかったのだろう。
「どうして、こんな……!?」
 ぐるぐる、と松本は色んなことを考えるが、まったく理由が思いつかない。
 けれど、その真相としては松本が『LOST』の異変に巻き込まれたせいでもある。
 現実世界でも日常スキルを発動させていることから、普通のプレイヤーの倍以上の速度でスキルレベルもあがっていくのだ。
 もちろん、スキルレベルがあがる上でその補正効果も強くなっていく。
 けれど、松本自身は、その事実に気づくことが出来ない。
「……私は、これからどうなるのでしょうか」
 考えれば考えるほど、ネガティブな考えに囚われ、カタカタと身体が小刻みに震え始める。
 そんな時、松本の携帯電話がメール受信を知らせてきた。
「……あ」
 メールを送って来たのは、先日お見舞いに行った同僚。
「『この前は助かった、また何かあったら頼むわ』――……ですか」
 同僚からは感謝されているけど、それ以上に松本は知りたくないことを知ってしまい、気持ちがどんどん沈んでいってしまう。
(……このまま『LOST』にから逃げれば、大丈夫なのでしょうか?)
 逃げられないことは分かった上で、松本は心の中で呟く。
 日常スキルがリアルの世界でも作用していることから、松本は『LOST』から逃げることなど出来ない、それは本人も分かっているけれど思わずにはいられなかった。
(私が完全に女性化したら、どうなるのでしょうか。名もないNPCのひとりとして、LOSTをうろつくことに……? そんなのは、嫌です……)
 松本は拳を強く握り締め、心の中で強く願う。
 女性化を解除して、本来の自分に戻りたい、と――……。
 その願いに呼応するように、彼のログイン・キーは静かな光をたたえていた。


―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一 様

こんにちは、いつもご発注頂き、ありがとうございます。
今回は怯える姿を書かせて頂いたのですが、
いかがだったでしょうか?
気に入っていただける内容に仕上がっていますと幸いです。

今回も書かせて頂き、ありがとうございました……!
また、機会がありましたら宜しくお願い致します!

2015/10/30