怖夜・肝試し
『その日、貴方の身に何かが起こる』
ありきたりなキャッチフレーズと共に描かれているのは、不気味に描かれた廃病院。
元々は大きな病院だったが、時代と共に廃れていき潰れてしまったのだとか‥‥。
あまり評判の良い病院ではなかったらしく、周りの住人達も「いつかは‥‥」と言う者も少なくはなかったらしい。
それから十数年、とある企画会社が病院を借りて『お化け屋敷』を夏の間に開催する事になった。
「病院だから結構な雰囲気が出るぞぉ」
企画者は何処か嬉々として呟くが、彼には見えていない。
自分の周りを取り巻く数多の幽霊達に。
そんないわくつきの廃病院で開催される肝試し――‥‥。
夕方以降はまた別の顔を見せるお化け屋敷で貴方達は何を見ますか?」
視点→レイン・シュトラウド
「お化け屋敷、ですか?」
ここはクイーンズ記者達が自宅兼編集室として使っている場所。そこへレイン・シュトラウドは一枚の広告を持って来ていた。目的は室生・舞と一緒に『怖い』と評判のお化け屋敷へ行こうと誘う為だった。
「怖いのが苦手なら別にいいんですが、ボクと一緒に肝試しに参加して見ませんか?」
レインの言葉に舞は何処か複雑そうな表情をした。彼女が好意を抱いているレインからの誘いは凄く嬉しい、だけど舞は心霊関係が大の苦手だった。
「え、えぇと‥‥行きます、大丈夫です。ボク、お化け怖くないです、怖くない」
舞はレインに言葉を返している――というよりも自分に言い聞かせるような口調で言葉を返しレインは苦笑する。
「それじゃ、ボクも準備があるので夜に迎えに来ますね」
「はい、ボクもそれまでに準備してますから。また夜に会いましょう」
二人は時間だけを決めて、それぞれ自分の用事を済ませるために行動を開始し始める。
そして、約束の時間――‥‥。
「ごめんなさい、ちょっと色々とばたばたしてて準備を始めるのが遅くなっちゃって‥‥」
舞はしょんぼりとしながらレインに謝る。レインは約束していた時間ぴったりにやってきたのだが、舞は用事を頼まれていて、それを終わらせるのに時間が掛かってしまい、レインが来る少し前に準備を始め、約束の時間を20分ほど過ぎてしまったのだ。
「別に構いませんよ、ゆっくり準備してくれても良かったんですけど‥‥」
レインが言葉を返すと「いえ、大丈夫です。後は仕上げだけなので帰ってから直ぐに終わらせられますから」と舞はにっこりと笑って言葉を返した。
「それじゃ、行きましょうか」
レインが手を差し出すと、舞は少し驚いたような、でも何処か嬉しそうな表情でレインの手を取って二人仲良く歩いてお化け屋敷となっている廃病院へと向かったのだった。
「うわぁ‥‥」
廃病院に到着して数秒後、舞が廃病院を見上げながら小さく呟いた。レインと舞の目の前に聳え立つのは――ひゅーどろどろ、という効果音が素敵に似合いそうな廃病院だった。
「いかにもありきたりな感じですね、どんなものか、少し興味はあったんですけど」
レインは広告を見ながら小さく呟き、隣で顔色を真っ青にしている舞に気づく。
「本当に怖かったら言って下さいね? もし本物の幽霊が出ても、ボクが守りますから」
呟くと同時にレインは舞の手をキュッと強く握り締めながら廃病院の中へと入っていく。
昼間ならば係員でもいるのだろう『受付』と書かれた場所には誰もおらず、紙がはたはたと靡いているだけ。一応夜も監視カメラのようなものは作動しており、何かあったらすぐに警備員が駆けつけれくれるのだと広告には書いてあった。
――バタンッ
「ひっ」
突然開けっ放しにしていた扉が勢いよく閉まり、カチリと鍵が閉められる音が静かな廃病院内に響いた。
「か、係員の人が隠れているんでしょうか‥‥」
恐らく舞の心臓はバクバクと今にも破裂しそうなほどに鼓動しているのだろう、彼女はレインの手を強く握り締めながらレインから逸れないように歩いていく。
「くすくすくすくす‥‥可愛いお客さんたちだこと――‥‥生きて帰れないなんて思いもしないだろうねぇ」
廃病院内に若い女性の声が響き渡り「きゃあああっ!」と舞が大きな声で叫ぶ。
「舞さん、大丈夫ですよ。ボクが守りますから」
舞を安心させるようにレインが優しく言葉を投げかけると、涙がうっすらと滲んだ瞳で舞は首を縦に振る。
「大丈夫? 今大きな声で叫んでいたのはキミやろ?」
奥から若い男性がやってきて舞に話しかける。
「あ、ご、ごめんなさい」
係員だと思ったのか舞はホッとした様子で言葉を返す。
しかし、レインだけはじっと男性を見つめている。
「どうしたんですか?」
舞が首を傾げながらレインに問いかける――男性の手はレインと繋いでいない舞の手と繋がれている。
「一応訊きますけど、貴方‥‥本物の幽霊ですよね?」
「え?」
レインの言葉に舞が目を瞬かせながら聞き返す、それと同時に男性と繋いでいた舞の手にズシリと重みは加わる。
「え」
突然の重みに舞が手へ視線を落とすと――‥‥自分の手と繋いでいる切断された手首があり「きゃああああああ」と先ほどよりも舞は大きく叫んで手首を捨てて、レインにしがみつく。
「大丈夫ですよ。舞さんの事はボクが守りますから」
しがみついてきた舞を安心させるようにレインが舞の背中をさすりながら優しく言葉を掛ける。何度も言われている言葉だけど、舞にとって自分が好きな人が自分を守ると言ってくれるだけで凄く安心できる。
「ああ、わいの腕をあんまり乱暴にせんといて」
男性は舞によってポイッと投げられた手首を拾ってきたのか、自分の腕にくっつけながら苦笑気味に呟く。
「それにしても、アンタ、わいの正体が見えるんやなぁ。この先はまだまだグロいんが多いから大変やでぇ」
男性がけらけらと笑ってレインに話しかけると「オカルトに興味ありましたし、グロテスクな場面にも耐性がありますよ」とレインは言葉を返した。
能力者としてキメラやバグアと戦う傭兵業に就いている以上、そのような場面は何度も目にしたからだろう。
「は、早く出ちゃいましょう。こんな病院怖いです」
ぐいぐいとレインの服の袖を引っ張りながら舞が呟くと「そっちの嬢ちゃんみたいな反応はええなぁ、可愛くて」と男性が軽く手を振って二人を見送る。
「うう、本物の幽霊が出るなんて知りませんでした‥‥」
ぐす、と涙混じりの声で舞が呟くと「すみません」とレインが申し訳なさそうに言葉を返してくる。
「いいんです。今回はお化け屋敷だったけど、この前はお祭に連れていってもらいましたし‥‥レインさんとお出かけ出来るって凄く嬉しいですから」
ぐ、とレインの手を強く握り締めながら舞が小さな声で言葉を返す。
その後も幾つもの幽霊の妨害を受けて舞が泣き出した頃に漸く出口が見えて、お化け屋敷での肝試しは終了したのだった。
「怖い思いをさせてすみませんでした」
廃病院から出た後、近くの自販機でジュースを買って舞に渡しながらレインが話しかける。
「いいえ、レインさんが守ってくれるって信じてたから楽しかったです」
舞はジュースを受け取りながら言葉を返す。
「心配ですから、家の近くまで送っていきますよ」
「え、大丈夫ですよ?」
レインの言葉に舞が驚いたように目を瞬かせながら言葉を返す。
「いえ、ボクが心配ですから」
レインの言葉に「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらいます」と舞は言葉を返し、彼女の自宅までレインは送っていったのだった。
END
――出演者――
ga9279/レイン・シュトラウド/15歳/男性/スナイパー
――特別出演――
gz0140/室生・舞/15歳/女性/週刊記者
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レイン・シュトラウド様>
こんにちは、水貴です。
前回の祭シナリオに続き、今回もご発注ありがとうございました!
今回は夏の定番の肝試しでしたが、内容の方はいかがだったでしょうか?
少しでもお気に召していただけるものに仕上がっていれば幸いです。
それでは、今回は書かせて頂きありがとうございましたっ!
2009/8/7
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